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教会都市に行こう2!

 教会都市が近づくにつれ物価が安定していった。

 それでも検問所を通して商品が町に入るので帝都より高額だが、最初に立ち寄った町より野菜などの農産品の価格が落ちついている。

 徐々に街道沿いが牧草地や畑だらけになっていくのでぼくたちは教会都市からの恩恵の広がりを実感した。

 七つの町が全て違う領主の土地だったのは聖地巡礼の逗留地として毎年一定の税収が見込めるおいしい褒章の地として分割された歴史があったからだ。

 軍人上がりの領主が治める町なので、どの町も守りの結界は世界の理に繋がっておらず、教会の結界の影響だけで緑豊かな土地を支えていた。

 街道周辺に農村を見かけるようになると残りの六つの逗留地の町では子どもの姿を見かけるようになり、給湯の魔術具の魔力を注ぐアルバイトは洗礼式前の子どもたちも交えることになった。

 つまるところ、七つ全ての教会でぼくたちはお風呂場を増築したのだ。

 どの教会でもぼくたちは礼拝所を光らせて精霊たちが現れ、司祭たちの冷水沐浴を止めさせ、大きな浴場を作った。

 自分たちの生活環境改善に魔力を使用するのを渋る教会関係者たちに洗礼式前の子どもたちを教会のお手伝いに呼んだのにはぼくたちなりの理由があった。

 洗礼式前の年齢の魔力の多い子どもを把握するためだ。

 町長の親族や大店の子どもたちのような、小遣い稼ぎをしない、いなくなったら大騒ぎになる子どもたちはそもそも誘拐されないだろう。

 逗留地の町民たちは神々に祈ることを帝都の市民より日常的におこなっており、七大神の祠にもよく魔力奉納をしているから一般の町人の子どもたちも魔力が高くなっているだろうという推測の元、失踪する前の子どもたちを把握しマーキングを付けることにしたのだ。

 五歳児登録を終えて魔力奉納の許可を得た子どもたちに、教会で使用する魔術具への魔力供給のアルバイトとして募集し、給湯の魔術具に魔力供給をした子どもたちのその後の動向を探ることにしたのだ。

 最初に滞在した町の教会で三歳児登録を済ませた後、五歳児登録、洗礼式を迎えるまでの子どもたちの減少についての話題の際に、司祭が眉をひそめたことをぼくたち全員が違和感を覚え、次の町に移動する馬車の中で相談したのだ。

 寮長も帝都で中央教会から消えた子どもたちを追う最前線にいたこともあって、司祭の反応をあの町で子どもが生まれなくなる以前は洗礼式前の子どもたちいなくなっていることに心当たりがあるからでは、と疑っていた。

 中央教会の件も教会関係者が関与した犯行だったはずなのに、寮長は実行犯の上にいるはずの指示役を追跡できなかったことを悔やんでいた。

 教会内部に子どもを攫う組織があるのでは、という疑念をぼくたちは口にこそ出さなかったが共有していた。

 悪いことをする人間が悪人面をしているわけではない。

 そのことを念頭に置いて、魔力の集まる聖地巡礼の逗留地にも教会関係者の中に幼児誘拐犯がいるという仮定で行動した。

 子どもたちを保護するという視点でみると三歳児登録から洗礼式を迎える幼児を追うためには教会で張り込むが一番手っ取り早いのだ。

 教会内に子どもを攫う組織がありそうだということも、大聖堂の敷地内に邪神の欠片が集められていることも、隠語にされているのか、魔本は明確な証拠になるような文章を探し出せなかった。

 上級精霊は組織が魔本の存在を知っているので文章化していない可能性が高いと推測していた。

 教会は神々に祈る神聖な場所なのに、上級精霊は聖職者を信用していなかった。

 “……語り継がれるうちに物事の本質から乖離していくことはよくあることだ”

 教義を伝える聖典は神々が書き換えるものなので揺らぎないが、それを読んで解釈する人間側が自分たちに都合よく解釈し、歪んだ解釈を先代の教えとして語り継いだなら、本質から大きく外れていくだろう。

 “……何が正しくて何が間違っているのか判断ができないほど上層部が機能不全に陥っているから神の家で子どもが消えるなんてゆゆしき事態になっている”

 聖典から消された神の欠片を教会で保存しているなんて、神の教えに反しているだろうということは子どもにもわかるのにね。

 御者台に座っている上級精霊の肩が笑っているかのように揺れた。

 前世の知識がちょっぴりあるだけでぼくはまだ十一歳の子どもだし、ウィルたちだって気付いていることだ。

 “……ご主人様!あたいの分身を町に残してきたから、もう子どもたちを誘拐なんてさせないわ!”

 御者台の窓に張り付いたままのぼくのスライムが、優秀なスパイだから任せてくれ、と精霊言語で息巻いた。

 “……教会都市の検問所が目視できる距離になったぞ”

 ぼくも御者台の窓に張り付いて視力強化をして前方をみると、今までの規模とは違う街道を塞ぐほど大きな門付きの建物が見えた。

「八つ目の逗留先は教会都市のくくりに入る大きな町だ。検問所も大きいだろう?」

 はしゃいでいる小さな子どものように窓に張り付いたぼくに寮長が笑いながら言った。


「教会の総本山である大聖堂を囲むようにある五つの独立都市の一つだから、国境越えのような物々しさだね」

 ぼくの隣に入り込んでぼくのスライムをどけさせたウィルも視力強化で検問所を確認した。

 アリスが検問のために並ぶ馬車の最後尾に止まると、車内ではどのくらい待たされるのかな?という話題になった。

 日没前には町に入れるだろうとのんびり構えて魔獣カードを出して遊ぼうとしたところで、検問所の職員がわざわざ馬車までやって来た。

「ガンガイル王国留学生御一行様ですね。こちらは一般来訪者の列です。皆さんは特別招待者ですので入場口が別になります。このまま行列の脇を通り抜けてください。門前で別の係員がご案内いたします」

 特徴のある馬車だからわかりやすかった、と笑う職員に身分証の確認もなくVIP扱いされた。

「逗留のお礼としてそこそこの金額の寄付と付け届けを市長に送ったから、わかりやすく効いたようだ」

 動き出した馬車の中で寮長がふふっと笑った。

 最初の逗留先の町の司祭に領主への口利きを約束した寮長は、教会の支援のためにお使いください、と高額な寄付と乳牛の目録を領主に贈り、町のそばに牧場をつくることを約束させた。

 それから各逗留先の町の領主にも同様にしなければ、ということで、それなりの額の寄付金と供物を手配していたようだ。

「教会都市は一つ一つが独立都市で市民代表が市長になっていましたよね。そんな市長でも袖の下を受け取るんですね」

 前世の民主政治のイメージでぼくには首長が賄賂を受け取るのは悪いことだという倫理観を持ってしまうがこの世界では違うのだろうか?

「教会関係者の生活環境向上にお使いください、という紐付きの寄付だから問題ないのさ。まあ、具体的にどう使うか議会を通さずに決めれる予算を得たから気をよくしてくれたのだろう」

 教会都市は議会制民主主義で、個人的な贈賄は悪しきものとされているよ、と寮長の話をロブが補足した。

「それでも次の選挙で足を引っ張る醜聞になる程度で刑罰がないから、結構、鼻薬が効くんだよ」

 贈賄側に処罰がなければ使える手段の一つとして賄賂が横行するだろう。

「おっと、検問所の入り口につくようだな」

 アリスが追い抜いた馬車たちの列から大きくずれた方向に案内されたのでぼくたちは口を噤んだ。


 総大理石造りの立派な門の前で書類に目を通した検査員はぼくたちの人数を確認しただけでぼくたちは馬車から下ろされることもなく門を通過することができた。

 門を出るとまっ平らな舗装が施された綺麗な道が教会都市に向かって伸びていた。

「ここから先は一般来場者と道が違うということかな」

 先を通過する馬車が一台もなく、横目に込み合う道があるということは、ここはVIP専用道路なのだろう。

「市民に等級があるという話だったが、来訪者にも等級付けがあるようだな。まあ、一生に一度訪れるだけの都市でご贔屓されても二度と来ないだろうな」

 市民の等級は移住者に選挙権がない程度で暮らしに格差があるわけではなさそうな話を七つの村で聞いていたのに、入り口も全然違う道が存在しているなんてどういうことだろう。

「もしかしてだけど、この道は向こうから見えていないのかもしれないよ」

 近隣の町でVIP道路の話が一切なかったということはこの道が一般的に知られていないからかもしれない、と指摘すると寮長は頷いた。

「教会関係の偉い人専用の道かもしれないね」

「向こうから見えない道なんて、軍事目的で利用するとしか考えられないのは、為政者側の考え方かな?」

「それだったらぼくたちにも秘密にしないかな?」

 教会都市の入り口に着くまでぼくたちはこの道が何の目的で存在するのか、テキトーなことを言い合った。


 総大理石造りの街の入り口の門には左右に立派な制服を着用した門番がおり、アリスの馬車を止めることなく通過させた。

「教会都市へようこそお越しくださいました」

 門を抜けると教会の法衣を着た教会関係者と思われる人物がわざわざ迎えに来ていた。

「検問所までお迎えに行く予定でしたが、間に合わずに申し訳ありません」

 こちらの予想より早くおつきになられたので、と迎えに来た教会関係者がぼくたちに詫びた。

「魔力無効化通路にご案内されるとは思わずに遠回りしてしまいました。皆様は魔法学校生としてではなく王家に近い方々としてこの通路に案内されたのでしょう」

「魔力無効通路とは何でしょう?」

「この町は小さな独立都市ですから、本格的な武装攻撃を受けると簡単に陥落してしまいます。ですから、大きな魔力をお持ちの方を警戒するため、検問所から町までの区間に高魔力保持者の入場制限をするための緩衝地帯を設けているのです。皇族の方々が訪問される時くらいしか使用されません」

 VIP通路は外敵になりうるかもしれない人物を一旦留め置く場所だったのか。

 市長はオスカー寮長の身分を正確に把握しているか、ぼくたちの魔力量を皇族並みと判断したのかどちらかだろう。

「はて、私は一応王子だが、今回は王子の名前を使用しなかったはずだ。競技会でオスカー殿下が所属したチームに勝利したことでそう判断されたのだろうか」

 王子さまでしたか!寮長の言葉に動転した教会関係者が姿勢を正した。

 名前を使い分ける王子様なんて胡散臭いことをする方が人が悪いよ。

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