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常識外のパーティーの非常識な招待客

 立派な馬車で中央広場に乗り付けた皇族たちが会場内に入る前の白薔薇のゲートで警備員によって止められる事態が多発した。

「不適切なお持ち物があるようです。ご帰宅されて身支度を整えてからご来場ください」

 何が不適切かを説明せずに白薔薇の造花を黒く変色させた軍服の人物を身分にかかわらず警備員たちは一時帰宅するように促した。

 私を誰だと心得る!と反発する人物には寮長が直々に出向いて、詳しい検査をなさいますか?と唇を動かさずに耳元で囁けば、タイが汚れていた、などの言い訳を口にして連れと共に出直すことを選択した。

 数人くらいは入場できないこともあるだろう、と考えていたが、誰も中に入ってこないなんて毒物を持ち込もうとする人物が多すぎる!

「いつまでたっても次の招待客が現れないようだね」

 第二皇子は満面の笑みで夫人に囁いた。

 第二皇子は東方連合国の準決勝勝利の後、下剤を盛ったフライドポテトをオスカー殿下に差し入れして、いつも同じような行動をする第一皇子や他の皇子たちも翌日同様な行動に出ることを見越して、あえてやったのだろう。

 だとしたら、今回も事前に毒物を用意して邸内のスパイに見せつけたうえで、昼食会らしく軽めのパーティー衣装を着て早めに会場入りし、どうなるのかを見届けるつもりだったならなかなか(したた)かな皇子だ。

「両殿下のお召し物をご覧になって、もっと軽めのお衣装に着替えに戻られたのでしょう」

 警備上の都合で止められたことを知っているのにオーレンハイム卿はしれっとした顔でもっともらしい言い訳を帰宅した招待客の代弁を勝手にした。

 数人ならばいざ知らず、これほどたくさんの皇族たちが、出直す、と言い置いて居なくなり招待客が集まらなくては昼食会が始められない。

 先に来ていた招待客とあらかた挨拶が済んだ第二皇子夫妻は席を立って蓄音器を眺めて質問したり、ぼくたちの席まできて、キュアを触りたい、などと言い始めた。

 キュアは第二皇子夫人をじっと見つめたまま首を横に振って拒絶の意思をはっきりと示した。

「この子の母飛竜は帝国軍に所属すると思われる部隊に襲われて大怪我を負いました。その際にガンガイル王国所属の飛竜に保護されて、偶々お世話をしたぼくが懐かれたので預かっている形になっております。妃殿下が安全にお触りできるかはぼくには判断できません」

 シロが拒絶していることをやんわりと伝えると、第二皇子夫人はキュアから目をそらさずに甘ったるい声で言った。

「あなたの母竜を襲ったのは私の支持派閥の領の関係者ではありません。ですが、夫は軍事関係者です。飛竜部隊への対応がどのようなものだったのか私は聞き及んでいませんが、百年近く続いた派遣依頼ができる友好関係をガンガイル王国側から断る事態に陥ったことには、私も心を痛めております」

 帝国軍とガンガイル王国の飛竜たちとの間に何か由々しき事態があったのではと個人的に推測している、と第二皇子夫人が断りを入れたが、それは飛竜たちへの謝罪ではない。

 第二皇子夫人の話を聞いてもキュアはじっと夫人を見つめ続けた。

 “……あんたは、何も知らなかったって言うけど、あんたの旦那の襟章と同じ襟章を付けたやつが母さんを襲ったやつらの中にいたんだよ”

 精霊言語では伝わらないことを承知しているキュアはそれでも文句を言いたかったのだろう、精霊言語で言いながら第二皇子夫人を見つめ続けた。

 キュアの視線から先に目をそらしたのは夫人の方だった。

 “……キュア。あの女は……”

 “……知っているわ。その襟章を付けた軍服の男が言っていたんだもの。『成体はやつらに任せて、我らは飛竜の幼体をもらう。デボラ様がご所望だ』とね”

 シロの精霊言語をキュアが強い思念で遮った。

 第二皇子夫人の称号も長かったが、名前の部分は確かにデボラだったような気がする。

 キュアの母を襲った軍人の襟章とデボラ様という名前の二つしか符丁が合っていないが、シロは否定しないということは間違いないのだろう。

 夫人の言い訳にあった、襲った軍人の所属が第二皇子夫人の派閥ではなかった、と言葉は失敗した軍人を切り捨てたという意味合いなのだろう。

「キュアは嫌がっているようです。本来は人懐っこい性格ですので珍しいことです。以前お会いした時に殿下が軍服を着用なさっていましたから、まだ受け入れられない心境なのでしょう」

 キュアが夫人を拒否した理由を第二皇子のせいにして、キュアの母親の襲撃に夫人が関わっていることをキュアが知っていることを誤魔化した。

 キュアが第二皇子を拒否している、と言ったも同然なぼくの無礼な発言にもかかわらず、ガンガイル王国側の誰もが顔色を変えず無表情を貫き通した。

 帝国での飛竜たちの扱いを許していない、というガンガイル王国国民の気持ちを逆なでするような行為をする第二皇子夫妻に無言で抗議した。

「時に、帝国の聖獣は何でしたか?」

 不意にオスカー寮長が第二皇子に尋ねると、第二皇子は愉快そうに笑った。

「建国時はペガサスでしたね。現在では聖獣は指定されていません」

 帝国の前身の国にペガサス信仰があっただけで、帝国では現在ペガサスはいないとされている。

 少しだけ間違えた発言をして第二皇子はしれっとした顔で痴れ者のふりをする。

「うちの寮にいるポニーは時々ペガサスごっこをしますよ」

「「ペガサスごっこ!?」」

 皇族らしい態度をかなぐり捨てた第二皇子夫妻の声が裏返った。

「ええ、彼女はある条件下の元でペガサスのふりをします。でもどんなに条件が揃っていても彼女がとても機嫌のいい時しかごっご遊びはしないでしょう。魔獣を使役するということは魔獣の気持ちを理解できなくてはなりません。私たちが魔獣たちの意に沿わないことを強要する時は命にかかわる時だけです」

 寮長は笑顔できっぱりと言った。

「なるほど、私は無理な要求をしてしまったようだね」

 第二皇子が過ちを認めるとキュアは夫人から視線をそらせた。

 二人の背後にいた護衛たちが胸をなでおろしたかのように短い溜息を吐いた。

 寮長は着替えに戻っていた招待客を迎えに白薔薇のゲートに戻ったが、最後に遅れてやって来た第一皇子だったようで白薔薇のゲートが黒く染まり、第一皇子は耳元で囁かれた寮長の言葉に納得して帰った。

 第二皇子は愉快そうに笑うと夫人も微笑んだ。

「失礼にならない範囲で遅刻するまで私の馬車を待っていたのだな」

 いつも真似ばかりする第一皇子に一矢報いたことに喜んでいるようだ。

 キュアを襲った一味だったことでぼくの中では第二皇子の株が駄々下がりしており、毒を持参してやってきた第一皇子と五十歩百歩だ。

 それでも、顔に出さない分別があったのでぼくたちは終始無表情だった。

「お食事の時間が遅れそうですが何かご用意いたしましょうか?」

 自分の決めた席に戻れ、とオーレンハイム卿は言外に忠告したが、厚顔無恥の第二皇子はしれっとした顔で言った。

「やっぱりこっちの席にしよう」

 歓迎されていないことに気付いている夫人は左眉をグッと上げたが、第二皇子は、自由席だからかまわないだろう?と我を通した。

 席を移動した第二皇子夫妻たちのせいで彼らが先に座っていたテーブルセットを全て取り換えることになったのに彼らは全く気にしていなかった。

 久しぶりに我を押し通す上位貴族のやり方に内心うんざりしていたが、第二皇子が午前中からお忍びで会場周辺の屋台で買い食いした話を聞かされて、良かったですね、と愛想笑いを保ちながらぼくたちは相槌を打っていた。

 皇子たちは軍服からパーティー服に着替えるだけだったが、ご婦人方の衣装替えに時間がかかったようで全員が会場にやって来た時には午後のお茶会が迫っていた。

 会場から鳩の魔術具を飛ばしてお茶会の時間変更を招待客に知らせたり、提供する料理の調節をしたりと、準備する側は大変だったが皇族たちは誰も詫びを入れなかった。

 帝国の上位貴族はまるで謝ったら死ぬ病気にでも罹っているようだ。

 そんな苦労をおくびにも出さず寮長は丁寧に昼食会開始の挨拶をすると、熱々の料理を載せたたくさんのワゴンが各テーブルを回り、招待客が座ったまま好みの料理を選ぶ変則的なビュッフェスタイルの昼食会が始まった。

 伝統的な帝国料理とは一線を画す料理と、誰が一番先に提供されるのかを気にしなくていい上座の存在しない独特なスタイルに、初めは戸惑っていた皇族たちも気遣いのいらない気安さに朗らかに笑うようになった。

 いや、自分たちが毒を持ち込めなかったように誰も毒を持ち込んでいない安心感ゆえに、心から料理を楽しめているのかもしれない。

 午前中から食べっぱなしのぼくたちにはブッフェスタイルはありがたく食べる量を加減できた。

 第二皇子は第一皇子夫人たちとテーブルが離れたことを喜んで饒舌にぼくたちに話しかけてきた。

「東方連合国のデイジー姫は聞きしに勝る見事な健啖家だね」

 オスカー寮長は表情を崩さず、それだけ魔力消費の多い生活を送っておられるのでしょうね、とお前はいかほど魔力を消費しているのか?という副音声が聞こえてくる淡々とした口調で言った。

 精霊たちが溢れかえる会場で昼食会を開けば皇族ももっとまじめに魔力奉納に勤しむようになるかと一瞬でも期待した自分が馬鹿だったと思い知った。

 精霊たちが皇族たちを好んでいないから帝都は世界の理に繋がっていたのにもかかわらず、荒廃していたのじゃないか!

 ぼくの足元で小さくあくびをした犬型のシロは、そういうことです、と精霊言語で呆れたように言った。


 延長した予定時間を過ぎても帰ろうとしない皇族たちにうんざりしたが、優勝パーティーを一日で終わらせたかったぼくは寮長に相談することにした。

「皇族の会場の外側にお茶会の会場を広げましょうか?」

 ぼくはメモパッドに市民たちを追い出して余裕がある中央公園の絵を描き、皇族たちを取り囲むように白薔薇のゲートだけ共有したドーナッツ型の会場をもう一つ設営することを提案した。

 二回も時間変更の手紙を書きたくなかった寮長は会場増設案を即採用した。

 結界を張るための予備の魔術具を作成済みだったのでぼくたちは、手分けして広域魔法魔術具を設置しに行った。

 何が起こったのかと招待客たちが呆気に取られている間に、ドーナッツ型の結界が新たに張られ、ガンガイル王国寮生たちが手分けしてオーレンハイム卿のデザインを模したイスやテーブルを土魔法で作り出した。


 二度目の約束の時間にやって来た午後のお茶会の招待客の決勝トーナメント進出チームの選手と関係者たちは白薔薇のゲートを黒くする人は誰もおらず、招待されたパーティーに毒物を持ち込込もうとする非常識さを昼食会の参加者たちに知らしめた。

 もしかしたら皇族たちは派閥の長として毒を携帯するようにと指示を出していたかもしれないのに、無視されてしまっただけかもしれない。

 会場にやって来た午後のお茶会の招待客は時間変更になった原因は皇族たちのせいだ、ということは会場内の分かれた結界を一見しただけで理解したようで誰も口にしなかった。

 寮長は決勝トーナメントに出場した選手たちを労い、来年もいい大会にしましょう、と挨拶をすると皇族の会場に戻っていった。

 給仕が足りないことを言い訳に、ガンガイル王国と東方連合国混合チームの選手たちがワゴンを引いてスライムたちがお茶を振る舞う奇妙なお茶会に、趣向が凝らされていて面白いと招待客たちは喜んだ。

 王族たちが内側の会場からそんな奇妙なお茶会を楽しんで見ている非常識なパーティーになったのは、皇族たちのせいだということをお茶会の参加者たちは理解していたが誰も口にしなかった。

 それでも、ドーナッツ型の会場と皇族たちの会場の間が遮音されていることにお茶会の参加者たちが気付くと、次第に寛いで競技会の感想を語り合う和やかなお茶会になった。

 完全な別会場になっていたので皇族たちが帰らなくても招待客たちは時間がきたので帰り支度を始めていると、立場を思い出したのか皇族たちはようやく寮長に挨拶をして退席し始めた。

 第二皇子が席を立つそぶりを見せなかったから誰も帰らなかったのだ、と気付いたのは、申し訳なさそうに魔法学校所属の皇女殿下がぼくたちに会釈して退出した後も、第二皇子夫妻は居座っていたからだ。

 偉い人から先に退出するのが帝国の礼儀だが、第二皇子夫妻がそのままとどまるだろうと踏んだ真ん中の会場の大会関係者とOBたちは第二皇子夫妻に挨拶をして退出した。

 それからようやくドーナッツ型の会場にいたお茶会の招待客たちが退出することができた。

 “……常識外のパーティーで非常識な振る舞いをしているだけだね”

  通常の優勝パーティーならば派閥の違う皇族を招待しないので数回に分けて実施するところを一日で終わらせようとするガンガイル王国もどうかしているし、昼食会が終わっても居座る招待客もいかれている。

 精霊言語で伝えてきた兄貴の感想は、この場に居た全員の感想とそう違いがなかっただろう。

 晩餐会が控えているのにもう帰りたかったのはぼくだけじゃないはずだ。

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― 新着の感想 ―
ジェイ叔父さんとお婆は中央広場のパーティーには参加していないのですか? 例年のパーティーは皇族が参加しても派閥の皇族のみだったのでしょうか? そもそも派閥チームの優勝パーティーでも派閥の皇族は興味を…
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