表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/809

天下分け目の決勝戦

 満席の会場内はぼくたちが選手控え席に入っただけで大歓声が起こった。

 決勝戦ということで東方連合国混合チームと同時に入場したから、オスカー殿下を迎え入れる歓声だろう。

 いや、総立ちになった観客たちの大歓声はぼくたちの後から出迎えるロイヤルボックスに入った六人の皇子たちとオスカー寮長に向けてのものだった。

 どうして皇子たちだと断定できるかというと顔立ちが全員オスカー殿下に似ており、現皇帝の遺伝子の影響力の凄さを感じる顔つきなのだ。

 十二人いた皇子のうち生きのこった七人の皇子の全員がこの会場内にいるのだとしたら、警備が厳重だったことも頷ける。

 真似っ子が好きなのは第一皇子だけではなかったようだ。

 選手控え席で待たずに全員が舞台上に上がり、実行委員長と審判長と生徒会長を挟んで二列に並び、正々堂々と戦うことを武勇の神に誓う宣誓をした。

 神事の要素を含む形になったことで、両チームとも試合終盤に差し掛かれば精霊たちが現れるかもしれないと表情が引きつった。

 ガンガイル王国チームは精霊たちが楽しい場面では日常的に現れることを熟知しているし、東方連合国混合チームもオスカー殿下以外は精霊たちと何度も遭遇しているメンバーだった。

 精霊の生態を知る選手たちだけが、精霊たちは決勝戦までよく我慢していた、と考えている神妙な面持ちになった。

 選手代表のクリスとオスカー殿下がくじ引きをする間も、両チームの選手たちは向かい合い並んで見守っていた。

 控えの選手も並んでいるのでアーロンとマルコもいる。

 ぼくたちはお互いに、健闘しよう、と視線で会話を交わすと、両チームの選手たちはぼくたちがレギュラーメンバーになったことを察して興奮で顔が赤くなった。

 くじ引きの結果ロイヤルボックス側を引いた東方連合国混合チームが移動すると観客たちはそれだけで盛大な拍手をした。

 チーム名こそ留学生たちの混合チームだが、皇子が教会の寄宿舎生たちを率いる中、留学生数人というチーム構成では、純粋にガンガイル王国留学生だけで構成されているガンガイル王国チームにとっては完全なるアウェイ戦に他ならない。

 控えの選手になった上級生たちが舞台を降りてぼくたちが残ると、光と闇の貴公子たちの参戦!と観客席が騒然となった。

 東方連合国混合チームも寄宿舎生の二名が下がりアーロンとマルコが残った。

 今まで東方連合国混合チームの全の試合でオスカー殿下が前衛を担当していたのに、殿下は初めに染めた一枚のパネルを守るべく後方に下った。

 代わりに前衛の最先端に立ったのは刺股を構えたデイジーで両脇をアーロンとマルコが固めその後方に東方連合国のポー、ユン、ロンが控えており寄宿舎生たちがオスカー殿下の前を守っている。

 対するぼくたちは前衛真ん中にみぃちゃん、その両脇にスライムを引きつれたぼくとウィルが固め、その背後に上級生たちが並び、遊撃手として左右にボリスとアレックスが配置され、自陣のパネルを守るのはクリスが担当している。

 会場内は決勝戦で両チームが布陣を大きく変えたことにどよめきが起こり、前衛に小さい一匹と少女が立ったことにさらにざわついた。

 試合開始を告げるホーンが鳴ると、みぃちゃんが刺股を構えて突進するデイジーに向かい背中を丸めて毛を逆立てながら、やんのかステップで威嚇した。

 ウィルが魔術具の鞭でデイジーの刺股をからめとろうとすると、接触で凄まじい放電が起こり場内は閃光で真っ白になった。

 観客たちの目が見えるようになった頃、舞台上は大混戦になっており、何だ、何があったのだ、というどよめきが大きくなった。


 作戦ではみぃちゃんがデイジーを引きつけ、ウィルがデイジーの刺股を無効化し、ウィルの援護にスライム持ちの上級生たちが回り、アーロンや東方連合国三人の攻撃を防ぐ、というものだった。

 自分の魔力を行使する経験が少なかったとはいえ東の魔女のデイジーが大きな魔力を扱うのに長けているので真っ先にデイジーの動きを止める作戦に出たのだ。

 今までの試合でオスカー殿下と寄宿舎生たちの合同魔法陣が滑らかに拡張したのはデイジーが関与しているのではないかと疑っていたからだ。

 ぼくたちの作戦は敵に読まれていたようで、合同魔法陣を作る寄宿舎生たちを前衛から下げていたが、それでも、ぼくたちはデイジーを拘束することを優先した。

 試合開始早々、舞台上に広がったぼくのスライムはアーロンが撒き散らしている魔術具を舞台上から吹き飛ばし、ぼくは戦闘能力未知数なマルコと対峙しマルコの魔力の動きを探っていた時、ウィルの鞭がデイジーの刺股と接触してスパークが起こった。

 デイジーの刺股の魔力が使用された時にアーロンの魔術具が発動する仕掛けだったようで、舞台からはじき出された魔術具の発動する気配を察知したくスライムたちが一斉に魔術具に火炎砲を浴びせ燃やし尽くし、真っ白な舞台上に灰と煙が舞い上がった。

 その間にぼくたちの背後にいた上級生たちが舞台中央を突破して、敵陣近くで東方連合国三人衆と戦闘力のある寄宿舎生たちと肉弾戦になっていた。

 みぃちゃんとウィルとデイジーは驚異的な身体能力を発揮し、舞台中央で空中戦を展開するように飛び回って刺股や鞭を振り回した。

 槍や剣を手に突進してきたガンガイル王国チームの上級生たちと格闘している東方連合国三人衆を援護すべくアーロンは魔術具をバンバン投げながら、ひたすら舞台中を走り回った。

 アーロンは攻撃こそ魔術具の投擲しかしないのだが、とにかく足が速く、上級生たちの攻撃をキャーキャー言いながらすんでのところでかわし、適切な個所に魔術具を落としていた。

 スライムたちが魔術具の回収撤去を担当し、中央付近はほぼガンガイル王国チームが制圧する気配がした。

 気配でしか察せられないのは舞台中が煙に覆われているからだ。

 閃光の影響から視力が回復した観客たちがかすむ舞台を目にしたときには、ガンガイル王国チームがやや優勢かという状態で両チームが入り乱れての大混戦になっていた。

 観客たちの耳目を集めいるのは煙で淀む舞台からぴょんぴょんと跳びはねて空中戦をするみぃちゃんとウィルとデイジーたちの格闘で、行け!みいちゃん!!光の貴公子カッコいい!という声援や、小さい姫頑張れ!という声が多かった。

 ぼくはマルコを警戒しつつも舞台の全貌が明らかになるように風魔法で漂っている煙を一掃した。

 舞台上の煙が晴れてパネルの色が明らかになると、すでに三分の二ほど白に染まっていた。

 騒然とした観客席から、黒く染めろ、黒く染めろ、と観客たちが連呼した。

 その呼びかけに反応したのか舞台隅っこで存在感を消していたマルコの体に魔力が駆け回る気配がした。

 マルコは身体強化で舞台中央まで走り出ると、逃げ回っていたアーロンが剣を抜いて護衛に回った。

 アーロンはマルコを庇いつつ陽動していただけだったのか!

 ぼくもすかさず後を追うと、マルコが舞台中央で両手を舞台につけた途端、体中で魔力が揺らいだためか変装の魔法が解けていた。

 兜の隙間からはみ出ていた茶色の短髪はオレンジ色の長い髪になり、屈んだ甲冑越しにも太ももに少女らしい曲線があらわになった。

 マリア姫も参戦していたのか!と大歓声が沸く中、マリアは舞台に直接一気に魔力を流した。

 激流のようなマリアの魔力の流れに弾かれたぼくのスライムは、まるで舞台上に敷かれていた絨毯がズレるかのようにうねり、力任せに舞台から剥がされた。

 おおおおお!と観客たちがどよめく中、マリアがそのままパネルを一気に黒く染めていった……なんてことをぼくが許すわけもなく、ぼくも両手を舞台について引き剥がされたぼくのスライムに魔力を供給した。

 ぼくとぼくのスライムもマリアも相手の魔力を吸収して利用するアイテムを使用しているので、流した魔力は舞台上で混ざり合い、舞台上は激しく白と黒が切り替わっていたが、徐々に灰色になってしまった!

 まるで試合をリセットするかのように舞台中央から大きく灰色に戻っていく事態に、戦っていた選手たちの手が止まった。

 空中戦を止めたウィルとデイジーがぼくとマリアの肩を叩いて力比べを止める頃には、舞台上は試合開始時に自陣を染めた白と黒のパネル一枚ずつだけを残し、全てのパネルが灰色になってしまっていた。

「「舞台の魔術具を壊したかもしれない!」」

 ウィルとアーロンが同時に言うと二人揃って頭を抱えた。

「一時停戦して本当に壊れたか検証してみようよ!」

 ぼくは両手をあげて顔の横でひらひらと掌を振って魔力を使用しないことを伝えるジェスチャーをすると、中央に集まってきた両チームの選手たちも頷いて、自分たちの両方の掌を顔の横でひらひらさせた。

 試合を放棄したわけではないことは、自陣を守るクリスやオスカー殿下を守る後衛の選手たちが魔力使用放棄をしていないことで両チームの緊張感はかろうじて保っていた。

 観客たちは舞台中央で一時停戦のハンドサインを出したぼくたちにブーイングを浴びせたが、灰色に戻った舞台中央で両チームから指をさされた選手が一人ずつ舞台に手をついて何かをしている様子にブーイングは戸惑いのどよめきに変わった。

 指名されたのは魔力量が多い王族や上位貴族じゃない方がいいだろうということで、ガンガイル王国側からアレックス、東方連合国混合チームからロンが、二枚のパネルの魔力を抜いてから染めれば白と黒に染められるかを検証した。

 完全に魔力を抜いてしまわないと横のパネルから灰色の魔力が滲み出てくるので色が変わることがなく、魔力を一気に抜いてすぐ染め変えても手を離してしばらくすると灰色に戻ってしまうことがわかった。

「試合終了までに魔力を抜きながら染めて、そのまま魔力を注ぎ続けなくては色を保てないのか」

「それなら試合は続行できるわね」

 検証結果をまとめたウィルの言葉にデイジーがこの条件下で試合続行することを希望した。

「一旦、自陣に戻ってから試合再開ということでいいかな?」

 ウィルの提案に集まった選手たち全員が頷くと、両チームの選手たちはすぐさま自陣に駆け戻った。

「吸収した魔力を保持したままでいるのは気持ち悪い!吸収する選手と染め上げる選手に別れて吸収したら即攻撃に魔力を使用した方がいい!」

 アレックスは全力疾走で戻りながらも、検証した感想を報告した。

 自陣に戻ったぼくたちはスライムを使役する選手たちをパネルを染める役にし、使役していない上級生たちを自陣の防御役に回し、一枚一枚地道に魔力を抜いて敵陣営に魔法攻撃をする間スライムがパネルを染め替え維持していく作戦にした。

 ぼくとウィルは前衛に立ち、電撃刺股を振り回すデイジーと対峙しながら、アーロンとマリアが大量にパネルから魔力を抜いては繰り出してくる魔法攻撃を自陣に被害を出さないように無効化した。

 魔力量が多いオスカー殿下が直々にアーロンとマリアが抜いたパネルを黒く染めていくので、身体強化をしたみぃちゃんが物理的にオスカー殿下を殴りに行った。

 ポーとロンがみぃちゃんの前に立ちふさがったが、空中を跳びはねて二人の攻撃をことごとくかわしたみぃちゃんはどさくさに紛れてオスカー殿下に左フックを決めた。

 着地するたびにオスカー殿下が染め上げたパネルに魔力を注いで灰色にするみぃちゃんに、東方連合国混合チームは翻弄された。

 ぼくとウィルは本気で暴れまわるデイジーにてこずりつつも、ガンガイル王国チームにアーロンとマリアの攻撃が及ばないように、目まぐるしく体制を入れ替えながら対応した。

 試合終了間際まで地道にパネルを染め変えた白チームが優勢に見えたが、マリアの動きが鈍くなったのに不信感を持ったぼくは、デイジーの相手をウィルに任せマリアの動向を探った。

 舞台上に手をついたマリアは一気にパネルの魔力を抜くと立ち上がり、攻撃のため両手を前に突き出すと両手にうねるような細長い火竜が出現した。

 こんな場面で紅蓮魔法を使ってくるなんて!と考える間もなく、ぼくはマリアの前に走り出た。

 こんなこともあろうかとアルベルト殿下の水魔法を参考にして考案した魔法陣を発動し、雨雲をマリアの頭上に出現させ、火竜の口から放たれた炎を両掌で受け止めて、魔力を変換してマリアの上に雨を降らせた。

 試合終了のホーンが鳴るころにはマリアの火竜は消滅していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ