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ロイヤルボックスでの観戦

 身体検査を受けたぼくとウィルとクリスと寮長は特別な通路を使用してロイヤルボックスに通された。

 最初にロイヤルボックスに通されたのが皇女殿下の側近ではなくぼくたちだったことに会場内は騒然となった。

 キュアが低めに飛びながら小さな手を振ると、可愛い飛竜!と観客席から声が上がった。

 みぃちゃんがすくっと二足立ちして手を振りスライムたちが跳びはねると、昨日の主役たちに大歓声が起こった。

 身体検査を嫌がったシロは実体を消している。

 ぼくたちはこれからやって来る皇族のために場が収まるように深々と一礼して拍手をした。

 皇族入場を察した観客たちが総立ちになって拍手をすると、着飾った軍服の美青年が二人並んで入場してきた。

 なぜ二人いる!

 どっちが第二皇子だろう?

 年齢も顔つきもどことなくオスカー殿下に似た二人が皇子なのは間違いないだろう。

「右が第一皇子殿下で左が第二皇子殿下」

 寮長は唇を動かさずにぼくたちだけに聞こえるような大きさの声で言った。

 皇子たちは輝く笑顔で観客たちに手を振って歓声に応えた。

 ぼくたちを招待したのは第二皇子だったはずなのに、と思いつつ鏡のように同じような行動をする二人の皇子を無表情で見つめた。

 寮長は和やかな笑みを浮かべながら、第二皇子に招待の礼をいい、第一皇子に丁寧なあいさつをして、予告なく登場した第一皇子に二番手で挨拶することで生まれ順での序列を気にしないことを示した。

「昨日の試合が素晴らしかったと聞いてぜひお会いしたく、急でしたが弟の試合にご招待いたしました」

 日頃から腹違いの弟のオスカー殿下に興味がないだろうことは、離宮に住んでいるから異母兄弟間の交流がほとんどない、と話したオスカー殿下の様子からもわかっていたので、可愛い弟の試合を見に来た兄を装ってもぼくたちには心証が悪い。

「私も昨日の試合の話を聞いて、お会いしたいと考えて競技会のロイヤルボックスを押さえようとしたら、弟が既に押さえていたので便乗させてもらいました」

 最初に押さえていたのは皇女殿下だっただろうに、二人の皇太子候補に遠慮して今日は辞退したのだろう。

 皇女殿下の側近にいいところを見せたかったであろうオスカー殿下が気の毒だ。

 クリスとウィルとぼくの順で寮長に倣って第二皇子から挨拶をすると、第一皇子は気を悪くすることなく、出遅れてしまった、と笑った。

 ぼくたちが魔獣たちを紹介すると二人の皇子は目を細めて、素晴らしい魔獣たちだ、と口々に褒めた。

 仲がいいのか牽制しあっているのか、二人の柔和な笑顔からは判断できなかった。

 舞台上では青チームの代表とオスカー殿下が自陣を決めるくじを引いていた。

 選手控え席でデイジーがロイヤルボックスにいるぼくたちを見つけてアーロンの耳元で何やら話し、ぼくたちに小さく手を振ろうとしてアーロンに止められていた。

 今日もマリアは選手控え席にもいない……いや、いた。

 アーロンの隣にいる控えっぽい小柄な選手はマルコになっているマリアだ。

 ぼくがマルコに気付いたように、ウィルもマルコを見て一瞬目を大きく見開いたからおそらく今気付いたのだろう。

 ロイヤルボックスでは大きなワゴン三台が持ち込まれ山盛りのポップコーンとフライドポテトと魔獣たちのクッキーが運ばれていた。

「美味しそうな匂いがするけれど……」

「……ずいぶんと量が多いですね」

 困惑するように笑った二人の皇子に、ぼくたちも思わず笑みがこぼれた。

「東方連合国混合チームのあの小さなお姫様が、昨日、ロイヤルボックスに招待されていたからでしょう。デイジー姫は小柄ですが誰よりもたくさんお召し上がりになるのですよ……ああ、うちのキュアが一番の大食漢でした」

 寮長の説明に首を伸ばしたキュアを見て二人の皇子も声を出して笑った。

 魔獣用のクッキーを人間が食べても問題ないが、塩分控えめで素材の味を重視したものだ、と寮長が説明して魔獣たちの前に置いた。

「フライドポテトは塩味が付いていますが、私はこのトマトケチャップをつけて食べるのをお勧めします。おしぼりを用意していますから、手で摘まんでお召し上がりください。子どもたちは薄めた果実水を用意していますが、大人はビールがよくあいます」

 二人の皇子はシンクロするように細長いフライドポテトを摘まんでケチャップに浸して一口食べると、ああ、これはビールだ、と同時に呟いた。

「これはトウモロコシという穀物を炒って爆裂させたもので、こっちが塩味、これはミルクとバターを煮詰めたキャラメルをかけたものです。キャラメルポップコーンは甘じょっぱく、塩味のものより食感もカリッとしているので、大変美味しいです。うちの寮生たちには特別な日の食べ物です」

 食堂のメニューになく、お祭りの屋台でしか食べられない、という意味で特別なのだが、二人の王子は特別という言葉に弱いようでキャラメルポップコーンの方に手を伸ばした。

「……これは実に美味しい。特別な食べ物だと納得がいく」

「見た目はともかくとして、味は高級菓子そのものだ」

 二人の皇子が異口同音でキャラメルポップコーンを絶賛している間に、舞台上では両チームの選手たちが位置について自陣のパネルと一枚染めていた。

「始まりますね」

 ぼくは塩味でウィルはキャラメルポップコーン、クリスはフライドポテトがたっぷり入った箱を抱えて寛いで観戦するモードに入ると、二人の皇子は面白そうにぼくたちを見た。

「「もしかしてだけど、三人で食べ比べしながら観戦するのかい?」」

「観戦中に席を立たずに全ての味を食べられるベストポジションですよ」

 笑顔の寮長はビールを片手に持った二人の皇子に塩味のポップコーンの箱を差し出した。

 試合開始のホーンが鳴ると、前衛の先頭にいるオスカー殿下に青チームの前衛の選手たちの風魔法が突風となって襲い掛かったが、オスカー殿下の直前で突風は真っ二つに割れた。

「「やるな!オスカー!!」」

 二つに分かれた風は寄宿舎生たちの合同魔法陣に当たり呆気なく霧散した。

「「おおー!オスカーの魔力量はなかなかなようだな」」

 合同魔法陣を大きく広げて黒の陣を広げていくオスカー殿下に、二人の皇子は観客同様に感嘆の声をあげた。

 オスカー寮長の横で、オスカー、オスカー、と連呼する二人の皇子の声を聞きながら、寮長が苦笑をかみ殺している気配を感じて、ぼくたち三人は笑いで背中を震わせないように思わず身体強化をかけた。

 二人の殿下の背後にいた護衛たちはぼくたちが魔力を使用している気配を察知して緊張が走ったところで、堪えきれなくなった魔獣たちがゲラゲラと笑い出した。

「失礼いたしました。私の名前もオスカーなので魔獣たちにはこの状況がちょっとした喜劇のように見えたのでしょう」

 自己紹介では名前より肩書が長かった寮長の名前を思い出したようで二人の皇子は同時に、これは失礼した、と寮長に謝罪した。

『ガンガイル王国前国王側室エリーゼ第三子、帝国魔法学校ガンガイル王国寮寮長にして、帝国在住ガンガイル王国国民代表団団長、ガンガイル王国親善大使、エル・ブーン・オスカー・ブライト・ガンガイル』なんて長い自己紹介で、公にはブライト卿と呼ばれる寮長の名前を即座に理解できないだろうし、寮生たちが親しみを込めて『うちの大きいオスカー』と呼んでオスカー殿下と区別していることを二人の皇子が把握しているとは思えない。

「「もしかして、寮内では寮生たちが気軽に貴殿の名を呼んでいるのですか!」」

「そうですね。大きいオスカー殿下と呼ばれることもありますよ」

 想像をした二人の殿下が堪らずに噴き出した。

 ぼくたちは笑いを堪えるためにかけていた身体強化を解くと、二人殿下の護衛たちの緊張も解けた。というか、護衛たちの肩が震える気配がした。

 ロイヤルボックスが和やかな雰囲気になったところで、舞台上では刺股を振り回して敵陣に突進するデイジーを追い抜く弓が放たれ、またもや光った刺股の魔法が発動することはなかった。

「ああ、デイジー姫の刺股の魔法が見たかったのに!」

 クリスはロイヤルボックスで観戦しているのにもかかわらず、まるで寮の談話室にいるかのように思わず本音をこぼした。

 放たれた矢が敵の防御の土魔法の壁に阻まれると矢じりからネットが放たれた。

「やられたね」

「やっぱり解明されていたね」

「この短期間にすっかり真似されてしまった、と考えるより、そもそも考え方が同じだったようだね」

 クリスとウィルとぼくは魔獣の村の帰路の崖の補強工事の魔術具からヒントを得たアーロンが魔力を吸収して成長する蔦を使用したネットを矢じりに仕込んだいたことで、ぼくたちが防御の手袋に蔦の繊維を使用したこともバレているだろうと推測して嘆いた。

「広域魔法魔術具までは解読されなかったようだね」

 追加の矢を何本も放ちネットを隙間なく張る東方連合国混合チームを見てウィルは呟いた。

「あれはジェイ叔父さんの魔法特許を使用しなければならないから、高額な費用がかかるうえ、使用したら即時にジェイ叔父さんにバレてしまうから、量を増やすことにしたんだろうね」

 舞台上の三分の二を黒く染めた東方連合国混合チームは、これ以上の虐殺はしないことを明確にするかのように敵の守りの土壁に魔力吸収の網を張り付けて局面を膠着させてしまったことで、勝負の行方が決定づけになった。

「素晴らしい試合運びですね。我が国のチームの戦略が浅ましく見えるほど、エレガントな試合展開です」

 寮長はガンガイル王国チームを下げるような言葉遣いで、オスカー殿下が参戦している東方連合国混合チームを持ち上げた。

 全ての試合で完全試合か屈辱的敗退に追い込んでいるガンガイル王国チームのことを、強すぎるだろう?と煽っているようにも聞こえた。

 舞台上では寄宿生たちが合同魔法陣を消したことで、防御のつもりで築いた土壁を足掛かりに固定され、その後の青チームの攻撃が封じられてしまったことに気付いた観客たちから、オスカー殿下万歳!と唱和が起こった。

「……私が競技会に参加した時は、勝てるチームを用意され、勝てる相手と戦った。それでもこんな圧倒的な魔力量を示すことができなかった……」

 第二皇子が呟くと、第一皇子も頷いた。

「オスカー殿下は自分から積極的に友人を作り、自分で探した勝てるチームに参加しました。誰もがオスカー殿下の行動を予測できなかったから、各チームの対応が後手後手になり、結果としてこういった面白い試合展開になったのでしょう」

 寮長の面白い試合展開という言葉に、第二皇子が反応した。

「……思い出しました!ガンガイル王国の留学生が製作した競技会用の魔術具を購入しました。翌年も当てにしていましたが、彼は緊急帰国されてしまったのです」

 ああ、と寮長が頷いた。

「カイル君の養父のジュエルですね。あの年はガンガイル王国で魔獣暴走が起こってしまい、王都にまで被害が出たのですよ。私も王国復興のため尽力をしました」

 寮長の言葉に、そうでしたか、同時に言った二人の皇子に、ぼくのスライムが精霊言語でツッコミを入れた。

 “……いやぁねぇ、招待した相手の下調べさえしていないのかしら!”

 お互いを牽制しあって二人ともすっとぼけている可能性もあるので、ハロハロタイプ皇子たちと決めつけるにはまだ早いだろう。


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