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辞退せざる得ないのです

「なお、舞台を作り直すため出場選手及びご観覧の皆様は一旦ご退場願います。再入場につきましては第四試合二位決定戦参加チーム関係者を優先にしますので、誠に勝手ながら第四試合の入場券の半券を観覧入場券とさせていただきます」

 審判長の言葉に会場のどよめきが再び強くなっている間に、あらかじめ発表内容を知らされていたのか皇族たちは困惑するような素振りもなくロイヤルボックスから退席し始めていた。

 選手たちが退場し始めると一位通過を果たした東方連合国混合チームに向けて惜しみない拍手が沸き起こった。

 一位二位通過の選手たちが会場を去るとぼくたちは係員の誘導に従って一旦退場した。

 会場を出ると待ち構えていたヨセフとイアンにダニーが状況を説明した。

「四日目予選の二位チームは青チームと談合しているのでは、という噂が本当だったなら、二位だった赤チームは青チームの顔色を窺って決勝進出を辞退したんだろうな」

「勝たせる予定だった領袖(りょうしゅう)を差し置いて決勝進出なんて決まってしまったなら選手たちは夜も眠れなかっただろうに」

 イアンとヨセフが気の毒そうに言った。

「第六試合もある予選会なんだから、談合した派閥のチームが同じ組みになるとは限らないだろうに」

 ボリスがそう言うと、だから出来るだけ大きな派閥にして場合によっては買収するんだよ、とヨセフは声を潜めて言った。

 予選会の日程によって対戦チームの数を変えているのは、不確定の要素を増やして談合による予選突破を阻止したい大会運営側の意図もあるようだ。

「残り三チームで二位決定戦をしたら青チームには支援してくれるチームがいない状態なのか!」

「その状態で二位決定戦に勝利できれば実力も備わっているが、敗北して明日行われる敗者復活戦に参加して勝利したなら、仕込んでいた派閥のチームの支援があったという疑惑が残るね」

 ボリスの発言にさらにウィルが深読みすると、ダニーとイアンもヨセフも、そういうことだ、と笑った。 

「ああ、いたいた。」

 アーロンがオスカー殿下と取り巻きを従えてぼくたちを見つけて駆け寄ってきた。

「次の二位決定戦にはぼくは観戦資格がないからオスカー殿下がロイヤルボックスに招待してくれたんだけど一緒に行かないかい?」

 オスカー殿下と取り巻きたちが苦手なアーロンは助けてくれ、と言わんばかりの困惑した表情でぼくたちに話しかけた。

「いえ、ガンガイル王国チームの選手控え席から観戦できるはずだから結構です」

 ボリスがきっぱりと断ると観戦資格のないダニーとイアンとヨセフの三人組は残念そうに眉を寄せた。

 オスカー殿下とご臨席してでも生で観戦したいようだ。

 中級貴族の子息をロイヤルボックスに招待することに殿下の取り巻きたちは眉をひそめたが、君たちも一緒に行こう!とよく知らないであろう三人を殿下は招待した。

「親友の友だちは友だちだろう?」

 初級魔法学校の親睦会以来、気さくになったと評判のオスカー殿下は三人に声を掛けた。

「君の父上は一時期、第四戦で赤チームだった地域を担当する税務官だったよね。君もあの地域の地理や力関係に詳しいだろう?解説を頼むよ」

 オスカー殿下の言葉にイアンは頷いた。

 在校生の両親を把握していたり、地方のことを知りたがったりするなんて、オスカー殿下は精神的には成長しているようだ。

 ダニーはオスカー殿下に三人娘の売るフライドポテトを勧めながら、予選で寄宿舎生たちが出した合同魔法陣を殿下が中央で維持し続けたことを大絶賛したので、取り巻きたちの頬が緩んだ。

「デイジー姫があれほどよく食べる理由がわかったよ。本気で魔力を使用したら空腹に襲われるものなんだな」

 魔猿の村で魔力奉納と身体強化を駆使して疲労困憊した経験を持つ三人はオスカー殿下の言葉に頷いた。

 この四人は存外気が合うようだ。

 ぼくとウィルとボリスはオスカー殿下とアーロンを三人組に任せて、ガンガイル王国チームの選手たちと合流して会場に入った。


 選手控え席に全選手が揃っているのは、第四戦白のガンガイル王国と二位を辞退した赤チームだけだった。

 各チームのチームカラーはそのままで、正三角形に変化した舞台を囲んだ三チームはその場で作戦を立てているのか口元を隠して話し込んでいる。

 ガンガイル王国チーム代表のクリスは、あの試合で唯一パネルを赤く染めた選手を見つけて褒めたたえていた。

「試合終了間際だったから、とにかくパネルを染めなければと行動しただけだったので、自分しか染めた選手がいなかったことに驚きました」

 謙遜する選手に、あの魔術具に耐えて舞台に残っていたのが凄いのに最後まで勝負を捨てなかったからカッコよかった、とガンガイル王国チームの選手たちが褒めると、赤チームの選手たちは無言でウィルを見遣った。

「魔術具開発の際に補欠の選手が被検体になったことはあるけれど、微調整はスライムが被検体になったんですよ。今回は一部魔術具に誤作動があって、連動した魔術具もあったようで申し訳なかったです」

「いえ、審査を通過した魔術具の被害を気にする必要はありませんよ。来年は必ず対策します!」

 クリスの謝罪に、赤チームの代表が来年リベンジをすることを宣言して握手した。

 クリスの横にいたぼくは魔法の杖をコッソリ出して両チームの代表に内緒話の結界を張っていいか目で尋ねた。

 両者が頷き、けが人はいませんでしたか?とクリスがデリケートな質問を始めたところで、ぼくは魔法の杖を振って内緒話の結界を張った。

 初めて間近に魔法の杖を見た赤チームの選手たちは、結界が一瞬で張られたことに、わーお、と歓声を上げた。

 その魔法の杖は競技会の魔術具として申請したのか?や、どのくらいの種類の魔法陣を仕込んであるのか?といった質問を赤チームの選手たちが矢継ぎ早に言った。

「競技会用の魔術具としては申請していません」

「たくさん魔法陣を仕込める杖としてガンガイル王国の魔法学校で公表しているけれど、実際に制作するとこんな小型化はできませんよ」

 手持ちの魔法陣を公開することになるのが嫌なのでぼくが競技会用じゃないというと、ウィルがもっともらしい理由付けをしてくれた。

「ガンガイル王国の魔術具は度肝を抜くものが多いから対戦が決まったときは、もう駄目だ、と思う反面何が飛び出すかとワクワクしていたんですよ」

「飛行魔法が出たらどうしようか?とまで考えていたのに、小技の魔術具をあんなに大量にぶつけられたんだよなぁ」

 赤チームの代表の言葉に選手たちは、きつかったけれど楽しかった、とどMの発言を口々に言った。

 全員M気質のチームだったのか、とぼくたちがドン引きすると、二度と喰らいたくない、と赤チームの選手たちは笑いながら否定した。

 和やかに試合の感想を語り合っていると、会場では自陣を決める抽選が行われていた。

 内緒話の結界を張ったままでいいのか?とクリスに尋ねると、選手控え席では作戦会議用の結界を張ることは認められているのでかまわない、とのことだった。

 二チームの控え席を覆う内緒話の結界は通常なら談合を疑われるのでしないが、今回は二位を辞退したチームと感想戦をしていることが明白なので、まったく問題ないようだ。

 敗退したチーム同士が感想戦を行うことはままあるが、決勝戦が残っている段階では感想戦でうっかりまだ披露していない手の内を暴露しかねないので決勝進出チームはしないらしい。

 うちのチームはあの作戦はもう二度としないので試合の感想を口にしても大丈夫だ。

 第四戦の話をしつつも二位決定戦が気になるので舞台に目をやると両チームの選手たちは戦いにくい舞台だ、と言った。

「正三角形の舞台ならどこが自陣になっても大差ないかな」

「そうだね。黒と黄色は青チームがうちと組んでいたと考えているだろうから、青チームにはこの舞台はきついね」

 クリスの言葉に赤チームの代表は青チームと組んでいた疑惑を自ら口にした。

 本当に組んでいたの!?とぼくたちが驚くと、うちの領が青チームの領から援助をしてもらっているのは事実だからね、と赤チームの選手たちは自嘲気味に笑った。

「しがらみも含めて競技会の醍醐味だよ。ブックメーカーのオッズも派閥を考慮したものになっているよ」

 赤チームの領の関係者が出場記念としてガンガイル王国チーム一位自領のチーム二位で一口買っていたようで寮で大騒ぎになったらしい。

「決勝進出しなかったらその賭けはどうなったのですか?」

 ウィルはみんなが気になったことを突っ込んで聞いた。

「予選二位になったことは事実なので覆らないらしいよ。うちのチームは元々記念参加のようなチームで、まあ、談合要員と言ってしまえばそれまでなんだけれど、決勝戦の日程にはチームの成績優秀者は帰領して、見習いとして領で働く予定があるから、決勝トーナメントには参加できないんだ」

 出場辞退は派閥による圧力ではなく出場選手の人数の問題で辞退したから、二位決定戦をすることが即日決定されたのか。

 みっともない話だよね、と恥ずかしがる赤チームの選手たちに、辺境伯領出身者たちは、魔法学校の履修を早めに済ませて領地に直帰するのはよくあることです、と口々に言った。

 それは辺境伯領の方が王都より楽しいからであって、未成年の生徒の魔力や労働力を領で求められているからではない。

 試合開始を告げるホーンが鳴ると、ぼくたちは無駄口を止めて舞台を注視した。

 最初から全力で魔力攻撃を仕掛ける今年の流れはこの試合でも同じだった。

 みんなの予想通り黒と黄色のチームは青チームだけを炎で攻撃し、青チームが風魔法で炎を押し返そうとした。

「黒と黄色のチームが同時に炎で攻撃したのは示し合わせがあったのかな?」

 だよね、とぼくたちは口々に言った。

 三つ巴戦なら二チームが共闘した方が効率的だ……。

 青チームが放った魔術具が黒チームに届く前に黒チームの選手が黄色チームに刀の柄で叩きこむと黄色チームの陣で爆発が起こり、黄色チームの選手たちが吹き飛ばされて多数舞台から落下した。

「あーあ。黒チームは買収されているかもしれないなぁ」

 青チームの領主は金融業で成功しているから潤沢な資金で魔術具から買収まで何でもできるんだよね、と赤チームの代表は内緒話の結界の内だから本音を漏らした。

「うちは買収されていなくても、青チームの代表に一睨みされたら一歩下がらざる得ないからね」

 因縁を付けられて借金の一括返金を迫られるようになったら領の家族が暮らしていけなくなる、とこぼす選手もいたので、辞退を強要されていない状態でも辞退せざるしかないというのが実情だったようだ。

 共闘が崩れた黒チームと黄色チームが互いを潰し合い、試合終盤で青チームの温存していた選手たちが大活躍して勝利する、というなんだか茶番な試合展開で、青チームの勝利が確定した。

「……根回しも実力のうちなんですよ」

 赤チームの代表者が寂しそうに言った。

「今年はそうはなりませんよ」

 ウィルはそう言ってロイヤルボックスを見上げた。

 ホットドックを買い占めたデイジーが満足そうにお腹を擦る横に、試合展開に不満を持ったのか眉を寄せるオスカー殿下と隅っこで存在感を消そうとしているアーロンがいた。

「……何の根回しもしていないだろうに存在しているだけで今大会最強な気がするよ」

「うちは負けませんよ」

 両チームの代表の言葉に両チームの選手全員が笑顔になったところで、ぼくは内緒話の結界を解いた。

 ぼくたちの笑顔は青チームの予選突破を祝福するかのように見えるだろうから、赤チームの対面を保つのに丁度いいタイミングだった。

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