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上映会 in 魔猿の村

 ふっくら艶々な毛並みになった魔猿たちはすっかり魔法学校一行を恐れなくなり、皆でリンゴチップスをあげると魔猿は目を輝かせた。

 “……バナナチップスとリンゴチップスならどっちが好き?”

 ぼくのスライムの質問にほとんどの魔猿たちは悩みに悩んだ末に両方という欲張りな選択をした。

 ぼくたちの魔獣も両方美味しいと思っていたので意気投合した。

 湯冷めするから中に入ろう、とキュアが誘うと魔猿も魔獣たちも揃って村長宅の大広間に移動した。

「異種魔獣交流が目の前で繰り広げられている!」

 興奮するラヴェル先生を宥めながら、雪見酒をきめている大人たちを放置してキュアたちの後について行った。

 大広間では食道楽を極めている村人も残っており魔猿たちの宴会への参加を喜んだ。

 “……あのね、ご主人様。競技会の予選を会場に居たスライムたちが撮影して編集した画像を貰ったんだけど大型スクリーンに変身して上映会をやりたいな”

 魔猿の村の村人たちは魔猿をお猿さんとしか呼ばないほど秘密保持に信頼が置けるが、先生方や実習生三人の口を塞ぐことができる気がしない。

 兄貴と犬型のシロがチラッとぼくを見ると精霊言語で、問題ない、と二人とも同時に言った。

「何かあったの?」

 ぼくたちのちょっとしたやり取りに反応したウィルに、スライムが競技会の上映会をしたがっていると伝えると、いいじゃないか、とあっけらかんと笑った。

 ぼくがカレーを食べようとする魔猿に、辛いから止めておけ、と忠告している実習生の三人を見遣ると、ウィルはぼくの肩をバシンと叩いた。

 “……三人とも露天風呂を掘った時点で落ちているよ”

 兄貴が含蓄を含んだ言い方を精霊言語でするとシロも頷いた。

「見せつけるなら完膚なきまでにやらなきゃね。楽しいことにオーレンハイム卿たちを誘わないと恨まれるから、呼んで来ようよ。きっと賛成するよ」

 ウィルがオーレンハイム卿とお婆を呼びに行く前に寒さに耐えかねたみんなが戻ってきた。

 ぼくたちが話し込んでいるのを見て近づいてきたオーレンハイム卿に、競技会の会場に居たスライムたちが撮影編集した映像をぼくのスライムの分身が受け取り鳩に変化して届けてくれたことをかいつまんで説明した

 伝書鳩ならぬ電信スライムがすっ飛んできてくれたのに上映会をしないなんて気の毒すぎる。

「今日の試合が見れるのかい?それは面白そうだ」

 今日は去年の準優勝のチームが出場する試合なので注目度が高かった。

 オーレンハイム卿が村長とスクリーンを設置する壁を相談し、魔猿たちと見れるように手前の床に座り、奥に椅子を寄せて観戦することにした。

 人払いしたスペースをスライムたちが床を磨き、ぼくたちが椅子を用意していると実習生三人も手伝ってくれた。

 村人たちは何が始まるのかと村長に詰め寄った。

「魔法学校の競技会の様子を見る魔術具を披露してくれるらしい」

 村長もよくわかっていないのでざっくりとした説明に、村人たちは、よくわからないが見ればわかる、と納得し、どこに座ろうか、とざわざわしていた。

「競技会の様子って、今日の試合なの!?」

 どうやって見るのか!と動揺したのは実習生三人だけで、先生たちは村人たちに競技会の基本的なルールを説明し始めた。

「見ればわかるから、落ち着きなよ」

 アリスの馬車で一緒に移動してきたアーロンはちょっとしたことでは驚かなくなっていたので、実習生三人を宥めてくれた。

 魔猿と一緒に見たい人が手前に座り、説明好きのノア先生の解説を聞きたい人がノア先生の周囲に座り、和気あいあいとした雰囲気で上映会の準備が整った。

 ぼくは頭の上にキュアが浮いているから後方の人に邪魔にならないようにお座りの席の端っこを確保すると、シロが背もたれになる位置に座ってくれたので一人だけフカフカだ。

 ウィルのスライムが対抗するように丸く膨らんでクッションのようになった。

 ぼくとウィルが膝にみぃちゃんと砂鼠を乗せると、魔猿たちは自分のパートナーの人間の膝の上に乗った。

 この可愛らしい光景に鼻息が荒くなった人物はきっとラヴェル先生だろう。

 全員席に着いたのを確認したぼくのスライムは壁に張り付いて長方形に大きく広がった。

 みぃちゃんのスライムはぼくのスライムのスクリーンの真下に細長く広がりスピーカーを担当するようだ。

 無声映画みたいに音無しだと思っていたのでぼくも驚いた。

 スライムスクリーンに競技会の会場が映し出されると、おおおおお、とどよめきが起こった。

 村長夫人が立ち上がって大広間の照明の魔術具の明かりを弱めてくれると、スクリーンの映像が見えやすくなった。

「今年の舞台は正方形ですか。ここで五チームが競うとなると一辺に二チーム配置される場所をどう攻略するかが勝負の鍵になりそうですね」

 パネルの色を自チームの色に染めて敵を舞台から落とす手法をあれこれと解説するノア先生の話を村人たちと魔猿たちが聞きいっている。

 競技会場に選手が出そろうと箱からくじを引いて自陣の場所が決まった。

 昨年の準優勝チームが一辺に二チームがいる場所に移動すると本会場が揺れるほど大きな声が上がった。

「ああ、これは赤と黒のチームが勝つな」

 試合が始まる前からオーレンハイム卿が決めてかかった。

 くわしい解説を求めて村人たちはノア先生を見た。

「登録選手の家柄から推測する総魔力量が赤と黒チームがダントツに多いですからね。まあ、試合前の談合次第でどうなるかはまだわかりませんよ」

 試合開始のホーンが鳴ると全員の視線がスクリーンに釘付けになった。

 オーレンハイム卿の予想とノア先生の予想は両方正解だった。

 去年の準優勝の赤チームが先陣を切って風魔法を舞台全体に展開して選手たちを吹き飛ばし、他チームの戦力を一気に半減させると、白と黄色と青のチームが一斉に黒チームを攻撃した。

 談合していたのが見え見えの展開に村人たちは、汚い戦い方だ、と口々に呟いた。

「まあ、仕方ないですよ。魔力量で赤と黒が圧倒的に優っているのだから、予選の組み合わせの抽選が終われば、どのチームを落とすかの談合があるのは当然です。勝負の醍醐味は黒チームが壊滅的になった後、二位のポジションにどの色のチームがくるのかですよ」

 村人たちは四チームが黒チームを攻撃する中、どの色のチームが地道にパネルの色を自チームの色に染めているのかを、ワイワイ言いながら観戦した。

 最初から積極的に染めていたチームが試合終了時間を知らせる帯状のメモリが少なくなるにしたがって櫛の歯が欠けるように染め変えられていく。

 そんな中でも赤チームが三つの角を押さえており圧倒的に一位通過することは間違いない状況だった。

「赤も意外と弱いな。ここまで総魔力量が多いのなら、舞台を血の海のように真っ赤に染めればいいのに」

 オーレンハイム卿のえげつない要求に村人たちと魔猿たちに笑いが起こった。

 赤チームには所々に魔力量があっても要領の悪い選手がいて、守っているはずのパネルをちょこちょこ染め変えられて慌てて対処しているのだ。

 これが去年の準優勝チームなのか、と優勝できなかった理由が推測できた村人たちは納得した。

 試合終了の間際に、残りわずかだった黒チームの選手の一人が抜刀し走り抜けると、駆け抜けた場所のパネルの色が一気に変わった。

 大歓声の中、試合終了を告げるホーンが鳴り、数えなくても赤と黒の二チームが予選通過したことが明白な結果に終わった。

 面白いものが見れた、と村人たちは感謝してくれたが、村長が気まずそうな表情をした。

「こんな面白い大会をしている期間に村にお呼びしてしまって申し訳ありません」

 頭を下げる村長に、お気になさらなくてけっこうですよ、とオーレンハイム卿がきっぱりと言った。

「ガンガイル王国チームも、アーロン君が所属する東方連合国混合チームも、今日の赤チームより総魔力量も多く、策略もしっかりしています。予選通過は間違いないでしょうから問題ありません」

 村人たちと魔猿たちはオーレンハイム卿の話に、根拠もないのに力強く頷いた。


 大成功に終わった上映会の後片付けを済ませると、明日の早朝から山小屋まで行くことを村長に許可を取った。

「清浄な山なので死霊系魔獣の心配はありませんが、かなり寒いですよ」

 快く許可を出してくれた村長はぼくたちの装備を心配した。

「ぼくたちは世界の北の端と言われているガンガイル王国出身ですから大丈夫です!」

「冬山の装備は用意して来ました」

 ぼくの言葉に続けて、自分たちも大丈夫だ、と置いていかれないようにラヴェル先生が慌てて言うと実習生三人も頷いた。

 明日は早いということでぼくたちは自室に戻ると、明日の支度を点検した。

 実習生たちも魔法陣を施した毛皮のコートや手袋を用意してあり冬山を舐めてはいなかった。

「それじゃあ、寝る前に子どもの親睦会を少しだけするかい?」

 ウィルの提案にアーロンと実習生三人は、親睦会?と首を傾げた。

「せっかく二泊も同室になるのだから、仲良くなるためにちょっとした遊びをするだけだよ」

 枕を持ったウィルにぼくと兄貴は苦笑した。

 部屋の左右に二段ベッドが四台ある部屋で左右に分かれて枕投げをしたいらしい。

「ルールは簡単だよ。魔力を使わず、備品を壊さずただ枕を投げ合うだけだよ!」

 公爵子息からふざけた遊びを提案された実習生三人はキョトンとした顔をした。

「やるなら騒音防止の結界を張るよ」

「あー、三対三に別れるならぼくは審判がいいな。魔力感知が得意だからね」

 兄貴が審判を希望した。

 実習生三人はボコボコにされると顔色を青くしたが、チーム分けはくじで決める事、魔法は身体強化を含めて禁止することを説明すると、興味を持ってくれた。

「魔力持ちの人間はちょっとしたことでもすぐ魔法を使ってしまうから禁止にして遊ぶと面白いんだよね」

「同室にたくさんの子どもたちと泊まる機会はそうないでしょう?楽しもうよ」

 ウィルとぼくの言葉に実習生三人は頷いた。

 魔法の杖を一振りして騒音対策をすると、棒の先に色を付けたくじを引いてチーム分けをした。

 ぼくとウィルが離れたことに実習生たちが喜んだ。

 一回戦はぼくとアーロンと実習生一人対ウィルと実習生二人の対戦になった。

 開始早々、アーロンが身体強化を無意識にしてしまい失格になり、笑いを誘った。

 魔力を使わなければ、同じ講座を受講していても飛び級をしているから年齢の低いぼくたちより腕の長い実習生たちの方が落ちた枕を拾うのに有利なことに気付いたようで、三人は俄然張り切り出した。

 ムキになるとうっかり身体強化をしてしまうので反則で投げられた枕をスライムたちが回収するたび笑いが起こった。

 全員が一勝するまで組み合わせを変えて勝負したので、ぼくたち七人は仲良くなった。

 流した汗と部屋中にまき散らした埃取りを兼ねて部屋ごと清掃魔法をかけたら、魔法の使い方が大胆だ、と実習生三人に驚かれた。

「安全な場所でもう寝るだけなんだから、どうせぐっすり眠れば魔力は回復するわけだし、大胆に使った方が自分の魔力を高められるじゃないか」

 ウィルの言葉に三人は、フフ、と笑った。

「両親がこの実習に行くように勧めた理由がわかったよ。君たちから学ぶことが多いはずだから行って見てこい、ということだったんだ」

 三人は納得したように頷きあった。

 どうやら三人は反抗期に手を焼いた両親に、成績急上昇中のガンガイル王国寮生たちの爪の垢でも貰ってこい、と送り出されたのだろうか?

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