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スライムの奇策

 精霊言語を知らない父さんでもスライムと使役者は以心伝心だと考えているので、今後VR訓練にスライムが参加するためにはスライムの動きを仮想空間内に反映させなければ競技の進行がずれる、と嘆いた。

 本選に参加する気満々のみぃちゃんが父さんの足元にまとわりついて存在をアピールした。

「魔獣たちには魔力量や使用方法を決めておいて首輪にチャーム型の魔術具を作ってみたらいいかもね」

 ボリスのスライムの干渉は試合には影響なくボリスのダメージポイントになったが、作戦自体は成功して競技会登録選手たちが勝利して終了した。

 過去のデータを基にしているから相手の動きが読みやすい、とクリスたちから指摘を受け、父さんとジェイ叔父さんはもっと難易度を上げる、と息巻いた。

 見学していただけだったぼくとウィルとお婆とオーレンハイム卿で二対二で勝負することになった。

 体の大きさを変えられるスライムたちにヘッドセットを付けて参戦させてみたかったのだ。

 参戦するスライムはぼくとウィルとお婆とみぃちゃんのスライムの四匹で、みぃちゃんのスライムはオーレンハイム卿に協力することになった。

 オーレンハイム卿とみぃちゃんのスライムが触手で握手をし、姐さん相手にも手加減しない、とオーレンハイム卿に伝わらない精霊言語でみぃちゃんのスライムは意気込みを語った。

 精霊言語が伝わらないオーレンハイム卿にもみぃちゃんのスライムの本気度がわかったようで、よろしく頼むぞ、と卿はみぃちゃんのスライムの頭頂部を撫でた。

 ゴーグルの大きさに合わせて膨らんだスライムたちは嬉しそうに体を震わせた。

 カッコいいよ、と周囲に囃し立てられ、スライムたちもまんざらではなさそうにそれぞれがカッコいいと思うポーズを決めた。

 カッコいいかどうかはともかく、似合っている。

 とある年の決勝戦を再現した舞台は廊下のように細い長方形で、力任せに攻め込むしか自陣を広げられないものだった。

 ウィルとの作戦会議では、オーレンハイム卿が先陣を切って魔法攻撃をしてくることが明白だろうと考えて、スライムを飛ばして後方からお婆を場外に落とそう、という話になった。

 ただ、オーレンハイム卿がお婆を庇うためにどんな手を使うか予測がつかないうえ、使用できる魔術具の装備がしょぼいのが不安要素だった。

 ぼくのスライムがやりたいことがある、と強く主張したので試してみることにした。

 スライム用に特別ルールが設けられた。

 飛行はありだが、分裂はなし。

 あくまで人間とコンビを組むスライムの二組の二対二で競うことになった。

 ぼくのスライムの作戦はこのルールに抵触しないけれど、荒唐無稽な作戦だった。

 ぼくとウィルは即座に面白そうだと賛成した。

 作戦タイムが終わり、両者位置につくと開始の合図早々に、オーレンハイム卿が強烈な炎と風の魔法を十歳の少年二人に叩きつけた。

 容赦ない爺だ!と考える間もなく、ウィルのスライムが盾になり、ぼくのスライムはカメレオンが舌を出すような速さで体を伸ばし舞台端まで一気に到達すると、パンパンに膨らんでオーレンハイム卿とお婆を吹っ飛ばした。

 お婆のスライムがシャボン玉のように広がってお婆を包み込んだ。

 オーレンハイム卿は吹き飛ばされながらも風魔法で体制を整え、お婆のスライムに包まれたお婆をお姫様抱っこした。

 みぃちゃんのスライムはそんな二人が場外に落ちて失格にならないように、魔法の絨毯に変身して落下前に受け止めた。

 ヘッドセットで見える映像から舞台が消失した。

 想定外の試合運びにバグが起きたようだ。

「あー、これは無効試合だね」

 父さんが頭を抱えて宣言したことで試合終了となった。

「試合開始早々、カイルのスライムが舞台全面を魔力で染め上げ、対戦者が陣営は誰一人舞台上にいないのに場外に着地していないから試合終了ではないが、全陣地を染め上げてしまったら完全試合達成だ。公式戦でこの矛盾をどういった扱いにするかわからないから判定不能だよ」

 ヘッドセットを外すと、考えてもみなかったスライムたちの大活躍に選手たちは大喜びで歓声を上げていた。

 本番でもやろうと思えばやれるぼくのスライムの奇策に大興奮している。

「予選は魔術具メインでいかないと、本選までにスライム対策をたてられて、強力な薬品を散布する魔術具を申請されかねない。まだ鷹の爪は隠しておこう」

 予選で使用する魔術具の審査は終わったが、本選には予選を踏まえた魔術具を新たに申請することになるので、本選出場常連チームは予選で奥の手を出さないようにするらしい。

 ガンガイル王国チームも予選でよほどの窮地に立たされない限り、隠しておく手札を多く持ちたいのだろう。

 ぼくもスライムたちを害獣のように駆除されたくない。

「スライムの存在を隠して、試合開始早々に舞台全部を押さえてしまえば、予選も苦も無く突破できるな」

 お婆を優雅に下ろしてもなお、お婆の手を取ったままのオーレンハイム卿が、スライムを活躍させないのはもったいない、と主張した。

 選手たちのスライムたちも訓練室中央に進み出ると触手を振り上げて、活躍したい!と主張した。

「VRじゃなく階下の訓練所の舞台でどれだけ存在感を消して一瞬で舞台を染め上げられるか練習してみたら良いんじゃないかな?」

 ジェイ叔父さんの助言にスライムたちが体を震わせて触手を伸ばし賛成を表明した。

 選手たちはスライムたちを引き連れて下の訓練室に行ってしまうと、父さんとジェイ叔父さんがスライムに対応するVRについて検討し始めた。


「予選でびっくりさせるようなことはしないのなら、当面は参加使役魔獣の能力をある程度指定して規制し、守れないようならこの訓練から除外したらいいんじゃないかしら?」

 ぼくのスライムにぶっとばされたお婆は奇想天外のことをしなければいいのだ、と言うと、ぼくのスライムが、調子に乗って申し訳ない、とお婆に頭を下げた。

「ぶっとばしたことは良いのよ、気にしないで。仮想空間内の出来事だと思っていたのに実際に自分の体が宙を飛んだから驚いただけよ。うちの子が守ってくれると信じていたし、こんなに素敵な方法で守られたから楽しかったわ」

 シャボン玉スライムに包まれた時を思い出すようにうっとりと微笑んだお婆に、お婆が喜べばそれでいいとオーレンハイム卿は満面の笑みになった。

 飛んだお披露目になってしまったVR訓練室だったが、談話室では盛り上がっていたようで、寮に戻るとスライムたちの話でもちきりだった。

 VR訓練室がしばらく調整のため使用禁止になりそうだというのに、寮生たちは背中で気配を探れるようになるまで自分たちには分不相応だ、とまずは自己鍛錬に集中したいと口々に言った。

 個々の能力を上げるように努力することはいいことだ。

 寮長と寮監には満足の結果だったようで、そんな寮生たちを優しい目で見守っていた。


 魔獣学の野外実習の前に広域魔法魔術具講座の魔術具の改良を進めようと、ぼくたちは魔法学校より滑空場で過ごす時間の方が長くなっていた。

 飛行魔法学のグライダーに広域魔法魔術具講座の先輩が調子に乗って加速装置を取り付けてしまい、結界の外まで飛び出しそうなるのが明白だったので、ノア先生に直訴して結界を強化してもらった。


 魔法学校内でも植物学の畑にいるので校舎にはほとんど顔を出していなかったから、ぼくと兄貴とウィルに用がある人は植物学の畑に顔を出すようになっていた。

 畑の管理人に申し訳ない、と謝ると、植物学の教員が植物学未履修者の立ち入りを制限する結界を強化してくれたからそれ程煩わしくないと、いうことだった。

 植物学の教員たちにお礼のためのカフェで焼き菓子を購入しに行くと、さも当たり前のように上級精霊がいた。

 オーレンハイム卿夫人のご友人たちが更にご友人たちを連れてきており、カフェは繁盛していた。

 レースで顔を隠した高貴なご婦人と思しき人もいたので、ぼくたちは色とりどりのムースサンドマカロンを購入してそそくさと退散した。

 上級精霊は宮廷内の高貴なご婦人から直接何かを探る必要でも生じているのだろうか?

 兄貴もシロも心当たりがないようなので、魔法学校生活を楽しめ、と言ってくれた上級精霊の言葉を信じて、放課後の魔法学校に戻った。


「ご迷惑をおかけしました。こちらは、今話題のカフェの新作焼き菓子です。植物学の職員のみなさんでお召し上がりください」

 職員室で迷惑をかけた植物学の先生にぼくたちが頭を下げると、研究用の畑を守るのは自分たちの仕事だから気にしなくていい、と先生は笑顔でぼくの肩を叩いた。

「お菓子は差し入れとしていただくね。ありがとう。あのカフェは人気で席が空かないと聞いているよ」

 植物学の先生がお菓子の箱を受け取ると、周囲の職員が嬉しそうに頷いた。

「みなさんお菓子がお好きなようですので、広域魔法魔術具講座で植えたサツマイモを収穫したら、美味しいお菓子を作ってきますね」

 ぼくの言葉に気を良くした植物学の先生は、ぼくたちが不在時にやって来た人たちが誰でどんな様子だったかを詳しく話してくれた。

 生徒会長が何度か来ていたようだが、後は直接面識のない人ばかりだった。

 寮長に確認するために植物学の先生の話を、ポケットの中でボイスレコーダーに変身したぼくのスライムが録音した。

 無許可で録音してしまったが、ぼくのスライムは心得たもので、必要な個所だけしか録音していなかった。

 植物学の先生は魔獣学の実習で行く山岳地域に自生している植物を余裕があったらでいいから採取してほしい、と依頼した。

 どうやら部外者を受け入れない村を拠点にしなければ立ち入れない地域で、領主に申請してもなかなか許可が下りないことで有名らしい。

 魔獣学の先生もダメ元で申請したら期間限定で許可が下りたらしい。

 競技会の予選と魔獣学の実習の日程が被ったのは、新たに就任した魔獣学の先生の嫌がらせではなく、もっと偉い人の干渉があったようだ。

 ぼくたちは時間に余裕があったら探してみます、と植物学の先生に約束して寮に帰った。

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