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白米!焼肉!食べ放題…!

 その後の我が家はてんやわんやだった。

 母方の親族が良い人たちだったら、領都に滞在中は家に招待して宿泊してもらおう、ということになってしまった。

 人がいいのはうちの家族だ。

 使っていない客間の掃除では、猫たちがなぜか掃除機の上で踊りながら寸劇をしたのだった。

 これには家族全員で大爆笑した。セリフはないのに浮気者の男が彼女に振られる小芝居なのがわかるんだ。

 スライムたちがモブ役をうまくこなしたからかもしれない。名バイプレーヤーだ。

 うちの働く魔獣ペットたちはいつの間にか芸達者になっている。今後、スライムにラインダンスでも教えてみよう。すごく可愛いに違いない。

 まだ見ぬ親族のためにいろいろと準備することは案外楽しかった。多めに食料を購入しても冬支度も兼ねているから問題もなく、おもてなし、という名目で贅沢品の購入もできた。

 羽振り良くうちが買い物をするので、商売っ気を出した店側からこの辺りでは珍しい食材を次々と提供してきた。そして、ぼくはとうとうあれを購入することができたのである。

 米、米、米!

 しかも、なんと、ジャポニカ米なのだ。

 白米が食べたいのはもちろんだが、米麹ができれば、味噌、醤油と夢が広がる。

 大豆は以前、餡子を作る際に商業ギルドのシムさんに頼んで、国内で栽培されているすべての種類の豆をかき集めてもらったときに発見していた。

 ありったけの玄米を購入できた。高かったのではと心配したが、みんなで美味しく食べるのだから気にするなと言われた。有り難い。

 うちで人気の食材はその後、騎士団の食堂で大量購入されるので、商人さんが慌てていた。ガンガイル王国で米はそれほど人気の食材ではなく南部出身者が少し消費するので流通はあるが在庫の確保が難しいらしい。是非とも大量流通させてほしい。

 王国は海まで続いているのだから魚や海藻の乾物をお願いした。海藻を食べる文化がないので流通していないと断られたが、漁師さんに直接、採取を依頼してくれる商会を探すと言ったら引き受けてくれた。数年後にうちの領で大流行すると思うから、頑張ってくれ。

 玄米を瓶に入れて棒で突っついて精米していたら、父さんが見かねて魔法で仕上げてくれた。

「お前に任せていたらいつ食べられるかわからんだろ」

 父さんが魔術具じゃなくて直接魔法を使うのは初めて見た。

 美味しいご飯を炊くのには時間がかかるんだよ。

 米ぬかにくず野菜を仕込んで、ぬか床を仕込む。

「こんなごみのような野菜を食べるのか?」

「これは発酵させるためで、明日これを捨てて漬け込む野菜を入れるんだよ」

「それなら、いつ食べられるんだ?」

「早くても明後日かな。白米にとてもあうんだよ。明後日もご飯炊こうね」

「それなら、精米機を作るか」

「今日のご飯炊く手間をみたら、きっと炊飯器も欲しくなるよ」

 先ずは米を研ぐ。たっぷりのお水を入れたら素早くかき混ぜる。そして、水を捨てたらシャキシャキと研いで、また水を入れてかき混ぜて捨てる。

「何回やるんだ」

「かき混ぜた水が透明になるまで」

「鶏ガラの始末を思い出すな。手間がかかってもそのほうが美味いんだな」

「全然違うから。次はうるおす。水を吸わせるために時間を置くよ」

「どのぐらい?」

「最低でも四半刻」

 教会の鐘は一日6回。夜間、早朝は音が小さくなる。30分ぐらいが適切なんだけど、時間の単位がどのくらいの差かわからないからここは実は適当だ。

 うちの竈は大きくて火加減がわからないので、庭に土魔法で簡易の竈を作ってもらった。

 冬場に鍋料理が食べたかったので土鍋は以前どんぶりを作ってもらったときについでに依頼してあった。鍋料理用だから底が浅いのが残念だ。

「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子が泣いても蓋取るな」

「なんだい?その呪文」

「ご飯が美味しく炊ける、火加減だよ」

 土鍋がパッパッと蒸気をあげると、父さんも喜んだ。

「歌のとおりだな」

 蒸気が止まった頃合いを見て父さんに土鍋を下ろしてもらう。

「まだ蓋を開けないで。少しだけそのまま置いておいて蒸らしてから全体をかき混ぜたら出来上がりだよ」

「本当に手間がかかるんだな」

「手間を惜しまないほうがおいしいから」

 ぼくは蓋を開けてかき混ぜるまで水加減と火加減に自信がなかったが、ふっくらつやつやに炊きあがった。おこげもばっちりある。

 炊いた人特権で、ぼくと父さんで味見をする。

「ふう、熱い、けど美味い!」

「よく噛むと後から甘くなるよ」

「ホントだ」

 つぎはおこげをいただく。

「これはまた、香ばしいな」

「ぼく、このおこげも好きなんだ」

 炊き立てご飯は小さな塩結びにして、家族に振舞う。手で持って食べるのはどら焼きで経験済みなので抵抗なく受け入れられた。

「おいしいね。塩だけなのに味わい豊かね」

「おそろしく手間をかけたかいがあるよ」

「もういっこ食べたい」

「ちょっと待って、今日のメインは親子丼にするから」

 鶏だしの親子丼は、ぼくとしては、醤油がないのがとても残念なのだ。だからこそ、火加減に注意して半熟トロトロ卵に仕上げた。

「ふわっとして、とろっとして、あっ、茸の出汁ね。これは美味しすぎだわ」

 母さんが大絶賛だ。

 ケインはどんぶりを抱え込んでスプーンで掻っ込んでいる。人前ではやらないでね。

「とても美味しいよ。でもカイルは『しょうゆ』が欲しいんだろ?」

「米から麹ができれば何とかなるはずなんだよ。麹菌が手に入ればねぇ…。発酵食品の神様とかいないのかな?」

「いないねぇ。料理の神様と酒の神様に祈ってみるかい?」

 そうだ!日本酒は米麹で発酵させる!!

「お酒の神様に祈ってみる!」



 調味料には興味が尽きないがおもてなしの日にはまにあわない。

 ぬか漬けとおにぎりの相性の良さを堪能しても、おにぎりの具が、ベーコンや、いり卵だと美味しいけど物足りない。梅干し、おかか、鮭、筋子……。だめだ、思考が贅沢になっている。

 現実的な具を色々試した。チーズ、かき揚げ、ソーセージ。結果、とり天むすがぼくのお気に入りになった。


 イシマールさんが炭焼きに成功したので、七輪を作ってもらった。

 ホットプレートを気に入ったイシマールさんが焼肉を希望した時に、炭焼きの方が美味しいと発言したら、炭の制作を請け負ってくれた。

 木材の種類を厳選して質の良い炭を作ってくれた。

 鉄琴みたいにいい音がするのもあった。

 お肉屋さんに部位を指定して切り分けて売ってもらった。カルビ、サガリ…いや、ハラミか、牛タン、塩ホルモン。内臓食の文化がちゃんとあってよかったと心の底から思えた。これでハラミだとかホルモンの注文の時に変な顔や対応をされたら…また面倒なことになるところだった。

 焼き鳥の串も用意して、茸に野菜、塩お結び、なんでも焼こう。

 その日はイシマールさんも呼んで庭で本格的に焼肉ができた。

 目の前で好みの加減に焼きながら食べるのに、全員感動してくれた。

 イシマールさん、父さん、ケイン、もちろん僕もカルビだとかハラミだとか肉々しい部位に夢中で、噛むたびあふれる肉汁と旨味をひたすら塩おにぎりで流し込んでいくループを楽しんだ。……至福!この組み合わせを食べられるだけで生を実感できそうだ。

 牛タンはサッと焼き塩ホルはカリカリになるまで待つ。ふっくらジューシーな焼き鳥に、鳥皮をカリカリになるまで焼くのがぼくの好みだ。ケインはぷりぷり派だった。

 ぼくはイシマールさんの炭が火力も安定して、長持ちすることに感激した。

 焼きおにぎりも食べたかったところだけど、子どもはお腹いっぱいになるのが早い。そうなると、気になるのはあのいい音のする炭だ。

 炭木琴でも作ってみよう。

 音程を取るため少しずつ削っていると、黒い兄貴によってストップがかかる。どうやら、音を外すと精霊たちからどやされているようだ。

 兄貴、いつもすまないね。

 こうして、調律の済んだ炭木琴でドレミ、ドレミと叩いていると、ぼくのスライムがバチをよこせとすり寄ってきた。試しに渡してみると、ぼくの真似してドレミ、ドレミと叩きだした。こうなると、全てのスライムが練習に参加してくる。

 イシマールさんのスライムも、お婆の薬の治験をしているので、練習についてこれる能力がある。

 面白くなって色々教えていたら焼肉が終わるころには、スライムたちは簡単な児童唱歌くらいなら、上手に演奏できるようになってしまった。

 恐るべし、うちのスライムたち。


 炭木琴にすぐに飽きるかと思っていたが、スライムたちは空き時間があると熱心に練習をしている。

 だんだんと難しい曲にしてやってもついてくる。トレモロまでできるようになった。

 炭木琴はスライムたちに任せて、ぼくとケインは『みどりみどり』と外国語で歌う曲を二部合唱することにした。

 ケインのボーイソプラノがいい声なのだ。

 誰にも歌詞がわからないように夢で見た外国の歌、として外国語のままケインに教えた。

 数日でかなり上手くなったので、家族に披露した。

 家族みんなが綺麗な曲だとほめてくれたのでコーラスパートを増やして全員で歌うことにした。

 みんな仕事の合間にも口ずさんで練習してくれたので、夕食後に合わせてみると日に日に上達していった。というか、曲を覚えたスライムたちが音程やリズムを外すと触手でぺしぺしと叩くのだ。否が応でも技術が向上していく。



 おもてなしの日は焼肉パーティーで、出し物まですることになった。

 そうして、歓迎のムードになっていたのに、面会日の前日にボリスのお父さんからタレコミがあった。正直、迷惑だ。

 当日ぼくたち一家はお城に招待されるとのことだった。

おまけ ~とあるスライムの目論見と破綻~

とあるスライムA: 炭木琴なら間違いなくあいつらに勝てる!

とあるスライムB: 肉球おててじゃ、バチが持てないもんな!!

とあるスライムAB: 俺たちが一番だ!!

とある精霊a: そこの糞スライム!リズムがずれてる!!

とあるスライムB: 糞じゃねぇよ。少し遅れただけだろ!

とある精霊b: 自分がずれている自覚があるのに、リズムに乗れないなんて、糞だろ。糞。

とあるスライムB: ぐぬぬぬぬぅ…。

とあるスライムA: 耐えろ、上達して見返してやれ!タタタ、タタタ、タタタタ……

とあるスライムAB: タタタタ、タタター、タタタター、タタタ……。

とある精霊abcd: おっ、いいねぇ

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