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勧誘は続く

 物欲し気にぼくのスライムを見つめるグレイ先生に、スライム飼育の初期に魔術具を使用することを話したら食いつかれるのは見え見えなので、ぼくたちは顔を見合わせて黙った。

 辺境伯領で管理している魔術具だから貸せないのに口に出す方がよくないだろう。

 スライムたちはそんなグレイ先生をからかうかのように自分たちの主人の頭の上から、みぃちゃんのスライムは兄貴の頭の上から、ジャンプしてからパラシュートに変化して地上に降り立つ遊びを繰り返した。

「可愛い、賢い、カッコいいねぇ」

 パラシュート隊と化したスライムたちをグレイ先生がべた褒めしていると、収納ポーチから飛び出したみぃちゃんがグレイ先生の前に歩み寄ると上級生たちが出てきた茂みに首を向けた。

 姿を隠している人が一人、魔力も漏らさず気配を消している人がもう一人隠れていることを知らせているのにグレイ先生も気付いた。

「かくれんぼじゃないんだから、ちゃんと出てきて挨拶してくださいよ。先生がそんなんだから生徒たちも物陰から出くるんじゃないですかぁ」

 グレイ先生がため息交じりに言うと。植木と茂みの蔭から二人の教員が姿を現した。

「飛行魔法学のノア先生と魔力阻害魔術具講座のロン先生じゃないですか。午後の講座はどうしたんですか?まさか、すっぽかしたのですか!?」

 グレイ先生に問い詰められた二人の教員は揉み手をしながら言い訳をした。

「課題を出して助手に任せてある!」

「ミニテストを出して助手に任せてきた!」

 二人とも助手に任せて講座を放り出してきているのに、正々堂々とサボったわけではないと言い張った。

「さすが魔力阻害魔術具講座の先生ですね。上手に気配を消されていました」

 お見逸れしました、とウィルが言うと、いやぁ、と照れたように頭を掻いた方がロン先生だろう。

「くぅ、ノア先生がいなければバレなかったのに」

 物陰に潜んで潜んで生徒たちの様子を窺っているなんて、ヘンタイ教師の要素を醸しながら見つからなければずっとこっちを観察しているつもりだったのだろうか?

「ダメですよ。気配は消していましたが、周辺の魔力から浮いていたので、かえって不自然でしたよ」

 兄貴が包み隠さず真実を言うと、引き合いに出されたノア先生がロン先生を指さして笑った。

「だから言ったじゃありませんか。ガンガイル王国の留学生たちは能力が高く、軍付属学校の優秀者たちにも劣らないんだって」

 ノア先生の言葉に笑ったグレイ先生はぼくたちに問いかけた。

「ロン先生が隠れていたのに気が付いていた生徒は挙手してください」

 ガンガイル王国の三人だけでなく、マリアやデイジーやアーロン、東方連合国の三人組でさえ挙手した。

 ちなみにスライムたちもみぃちゃんも鞄の中から腕だけ出したキュアも挙手した。

 逆を言えば挙手していないものが誰もいない状況に先生方が顎を引いて驚いた。

「ロン先生は魔力を遮断して存在自体は隠れていたんですよ。魔力の遮断という意味では完璧でしたが、森の中に緑の布を被って隠れているくらい不自然でしたよ」

 ため息交じりにウィルが言うと、魔獣たちを含むぼくたちは頷いた。

「……だから言わんこっちゃないねぇ」

「そこだけ魔力の流れが止まれば違和感が残るのは必然だよ」

 グレイ先生とノア先生はぼくたちが言いたかったことを直球でぶつけた。

「……ぐぬぬぬぬ!そこを改善したはずだったのに!!」

「そんなことできないから、こうして魔獣たちにも見つかっているんじゃないですか」

 呆れたようにウィルが言うとぼくたちも頷いた。

「通常は見つからないぐらい精度を上げたはずなんだけどな」

「競技会で通用するレベルなのですか?」

 容赦なく畳みかけるウィルにロン先生は、やってみなければ……と、たじたじになった。

「ええっと。ロン先生の言い訳はともかくとして、授業を放棄してまでここに来た理由は何でしょう?」

 どうせぼくたちのスカウトだろうと思いつつも話を先に促した。

「光と闇の貴公子が午後の講座も入っていない状態で初級魔法学校の中庭にいると聞いたから……」

 二人の先生の弁明は午後の授業に戻ったぼくたちを取り囲んだ先輩たちが興奮した状態で昼休みの経緯を各々の担当教員に漏らしたことで、助手に講座を任せた二人の先生が講座を中抜けして初級魔法学校の中庭に駆けつけたが、ぼくたちが重い話をしていたので声を掛け辛かったらしい。

 なんとなくそんな気がしたからスライムたちはパラシュート隊になって隠れていた二人を誘うかのように陽動していたのだ。

「共同研究をしようよ。君たちが来てくれたら私の魔術具は完璧になるんだ。完全に姿を隠せる魔術具が出来上がるまであと一歩なんだ」

「いや、そんな魔術具はどんな目的で使われるかわからないものより、飛行魔法学だよ。君たちが言う通り飛ぶだけなら各種飛行機が開発されているし、後は量産化できれば、というところまできているのもある。楽しい学問だよ」

 両先生はぼくやウィル以外もここにいる生徒たちは優秀だと気付いて懸命にみんなにアピールした。

「両先生の講座に魅力を感じませんの。姿を隠す魔術具は諜報活動には有益でしょうが、魔獣討伐にはむきません。飛行の魔術具はガンガイル王国では実用試験中のものがありますから、技術を供与するだけで新しい発見があるとは思えませんわ。帝都の魔法学校で基礎だけ学んでガンガイル王国に留学した方が楽しそうですわね」

 一番小さなデイジーが事実を羅列すると三人の先生が硬直した。

「いや、まって、何故そう考える?帝都は世界中の叡智が集まる学園都市だぞ!」

 帝都は王宮の敷地より魔法学校の敷地の方が大きく、軍事、医学、魔法学、芸術にまで専門校舎があり、世界で一番大きな魔法学校の集合体なのは事実だ。

「公開論文が似たり寄ったりで、ここ百年新しい概念の魔法技術を公開していないじゃありませんか。上級魔法学校の図書室の閲覧資格を得ましたが、どれもこれも似たり寄ったりで読むだけ時間の無駄かと思いましたわ」

 図書室から亜空間に資料を持ち込んで時間を気にせず論文を読めるデイジーは停滞している帝国の魔法学を容赦なく批判した。

「いや……ねぇ。特定の学閥の論文しか評価されないから資料が残っていないだけで、先生方は各自研鑽なさっているよぅ」

 グレイ先生が眉を寄せて擁護したが、デイジーは上目遣いで人差し指を立て横に振ると、そんな考え方だから駄目なんだ、と切り捨てた。

「完全に姿を消したら魔法が使えなくなる魔術具、撃墜されたら墜落して乗務員は死ぬしかない魔術具では魅力がないに決まっているでしょうに」

 魔法が使えない、というデイジーの言葉にロン先生の肩がビクッと動いた。

 完全に魔力が漏れないということは魔法陣に魔力が流せず魔法を発動できないのではないか?と疑っていたが、自身の妖精に太陽柱で確認させたであろうデイジーが言うのだから間違いないだろう。

 シロもそうだと精霊言語で伝えてきた。

「魔法が使えないということは、いるかいないかがわからないだけで本人は何もできないのか?」

「その辺にある物を掴んで投げるくらいはできるだろうけれど、それだと存在を消しても何かいることはバレバレだね」

 ウィルと兄貴は言いたい放題だ。

「封印の魔術具としてなら有効性があるだろうから無駄な研究じゃないでしょう」

 ぼくがフォローするとデイジーは首を横に振った。

「古代魔術具より劣るようでは革新的な魔術具とは言えないでしょう。魔力を抑えることに保存する物の魔力を使用するから保管庫としては製品を劣化させてしまうわ」

 確かにいいところがないので、庇い様がない。

「ガンガイル王国では無人飛行の魔術具の有益性の実証実験が進んでいて、ハロルド王太子殿下の緊急支援物資の運搬でも活躍していたわ」

 デイジーの狙いはそこか!

 やけに先生方に噛みつくと思ったら、魔法学校に飛竜の魔術具の着陸許可を取り付けて大量の食材を運び入れたいのだろう。

 眉を寄せたぼくに兄貴が頷いた。

 その様子を見たウィルもデイジーの意図に気付いたように頷いた。

「デイジー姫は、大量の食材を帝都に運び入れたいのですね」

 無人飛行の魔術具、という話の内容に驚いていた三人の先生は、食材?と首を傾げた。

「今年は豊作だったとはいえ、まだまだ帝国の食糧事情はよくありませんわ。大都市帝都の人口を十分に養うには近隣の村々からの仕入れでは全く足りていませんのよ!祠巡りをする子どもたちはお腹を空かせているし、どこの飲食店も食材が不足して売り切れ続出ではありませんか!」

 慈悲深い姫を装いながら、中央広場や魔法学校の中庭でのお弁当の購入個数を制限されたりベンさんの食堂でもおかわりの制限がかかったりしたから憤っているのに違いない。

 まあ、それは気の毒ですね、と言って口元を押さえたマリアは、デイジーの本音に気付いているのにしおらしい表情を保ったが、腹筋に身体強化をかけて笑いたいのを堪えている。

「その魔術具の実証実験を帝都で行えは、帝都の食糧事情も改善し、実用型の飛行の魔術具を間近で見ることができるのか!」

 ノア先生が鼻息荒く言うと、ウィルが即座に否定した。

「食料を大量に運搬することは帝都の食糧価格を暴落させてしまうことになります。相場の予想を立てて近隣から購入している商業ギルドに喧嘩を売ることになるでしょうね。相場が代われば税収も影響を及ぼすので認められるはずはありませんよ」

「帝都の食糧価格に影響しない食品なら問題ないでしょう?緑の一族に伝手があるから低所得者用の食料品としてトウモロコシの粉を融通してもらえば、小麦の相場は変わらないわ」

 三大穀物の中でこの世界で圧倒的に流通が少ないトウモロコシを利益度外視で低所得者用に仕入れたならば、そもそも小麦や米を購入できない層なので、相場荒らしにはならないだろう。

「貧困層への慈善事業として数回ならば申請可能だろうけれど、費用の面から考えても、恒常的に支援できないだろうね」

 ぼくが問題点を指摘すると、デイジーは優雅に微笑んだ。

「試験農場を増やせばよいのです。冬野菜の裏作としてトウモロコシを栽培すれば来年の夏には収穫できますわ!」

 魔術具の話から貧困層の食糧事情改善の話になるなんて高貴な姫は考え方が違う、と三人の先生はデイジーに尊敬の眼差しを向けたが、帝都で気兼ねなくご飯が食べたい、という副音声がぼくたちの脳内に浮かんだ。

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