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ぼくの家族

 概要としては、嫁に出した娘(ぼくの母)一家が、村を出た後連絡が取れず、所在が判明した時にはすでに娘夫婦は亡くなっており、子どもは養子に出されていたが、本人ぼくにその気があれば引き取りたい、という事だった。

「兄ちゃん、どこにもいかないで!」

 おとなしく話を聞いていたケインが真っ先に声を上げた。

「カイルはもう私たちの息子だと思っている。どこにもやりたくないけど、先方さんにとっても大事なお孫さんだから、きちんと話し合わなくてはいけないわ」

 ぼくは母さんの息子になれて幸せだ。

「私にとっても大事な孫だよ。先方さんはカイルが生まれてから一度も会ったことのない親戚なんだ。話し合いは必要だけど、いきなり引き取りたいと言われても応じられないよ」

 お婆の孫であることを誇りに思っている。

「そんな過激な話ではないようだよ。カイルがうちの養子になることは教会にも認められた事実があって、先方もそのことは十分に理解している。だからこそ、本人にその気があればと言ってきている。俺たちは、カイルはうちの長男だと思っている。よそにやる気はさらさらない。お前も俺たちが本当の家族になっていると思っていてくれたらとても嬉しい」

 父さんの言葉が胸にしみる。あの日、突然うちの子になれって言われたときは、正直言って戸惑いしかなかった。父方の親族に引き取りを拒否された時点で、もうなるようにしかならないと、ある意味自分で考えて判断することを放棄していた。

 だけど、みんな、この家に来た初日からぼくが居るのが当たり前のことのように優しく接してくれた。

 ひどい惨劇に巻き込まれた子、親を亡くしたかわいそうな子、行く当てのない子、こんな現実も、それに対する酷い憐憫も微塵も感じることなく日常をおくることができた。

 家族全員に本当の家族として扱ってもらっていることに疑いを持ったことはない。

 だから、わざわざ口に出していう事でもないから、今まで言わなかった。

「ぼくはね、この家の家族になれて本当によかった。父さんや母さん、お婆とケイン、みんながぼくを家族として受け入れてくれて嬉しかった。口に出して言うのは恥ずかしいけど、先方に誤解されないようにはっきり言うよ、ぼくはこの家族を愛しているって」

 ぼくは照れて赤面してしまった。でも、全然つっかえるようなこともなく自然に言えた。

 父さんは号泣し母さんやお婆まで泣き出すから、ケインまでつられて泣いちゃった。

「俺たち「「私たち「ぼくたちだって、愛してる」」」」

 みんなが代わる代わる抱きしめてくれる。温かくて優しい。

「兄ちゃんは、ずっとずっと、ぼくの兄ちゃんだ」

 嬉しくって、ぼくも泣いた。ケインはぼくの大切な弟だ、誰が何と言おうと。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんは両肩に乗って来るし、ぼくのスライムは頭の上を占拠した。

「みぃちゃんとみゃぁちゃん、スライムたちも大好きだよ」

 みんなに愛されている実感が改めて湧いてきた。ぼくはとても幸せな気分で、家族会議がおわった。


 ケインがぐっすり眠ってもぼくはまだ興奮していた。黒板のまえに佇むぼくの足元でみぃちゃんとみゃぁちゃんが体を擦り付けている。スライムたちも心配そうにベッドの縁からぼくを見ている、気がする。

 家族みんなに、愛してるって言われてとても嬉しかった。

 だけどね、もう一人、家族がいる。

 この家にぼくが来る前からずっと居た。家族を影で見守っている。不思議な存在。

『兄貴のことも愛しているよ』

 ぼくの書き込みに、黒い兄貴がぼくの手にまとわりついて、返事を書き込む。

『知っている。カイルはぼくを愛している。ぼくもカイルを愛している。君が居て嬉しい』

『本当は、ぼくの立ち位置に兄貴が居るべきなんだと思う』

 黒い兄貴は動きを止めた。

『家族に愛されるのは兄貴であるべきだ。ずっとそう思っていた』

『ぼくは、居ないはずの存在だ。精霊たちもそう言っている』

 黒い兄貴は見えないけど居る。ぼくだって気配でしかわからないけど、確かに存在している。

『居ないけど、居るよ。ここにいる』

『精霊たちの言うことはよくわからない。本当は居ない存在なんだって』

『…間違いなく、今ここに居るのに、存在しないものってこと?』

『わからない。ぼくはずっとここに居て、いつからいたのか、どこから湧いて出てきたのか、よくわからない』

『わからないことは、わからないでいいよ。兄貴はずっと家族を見守ってきた。これは事実で、兄貴はここに居る、それでいいじゃない』

 ぼくは、自分で判断できなかったことを、流れに任せて、いや、家族に任せて幸せに暮らせた。兄貴は家族を守って、家族が幸せに暮らしていて、今はそれでいい気がする。

『兄貴が居るから、みんな幸せに暮らしている。ありがとう』

『ぼくもみんなが居るから、存在している気がする。それでいいんだね』

『みんなで気配を探る練習をしているから、きっといつか、みんなも兄貴の存在に気がつくよ』

『ありがとう。精霊たちの言うことは気にしないよ』

『精霊たちは口が悪そうだから、話半分くらいにしておいた方がいいよ』

『そうだね』

 ぼくたちの気持ちが落ち着いたのを察したようで、みぃちゃんとみゃぁちゃんは子供部屋を出ていった。

 これから先は猫の時間だ。

連続不定期小説 ~真夜中は猫の時間~ 家政婦スライムは見た!深夜行われる、笑劇のダンス!!

 蛍光グリーンの体を揺らし、日夜働くあたいは家政婦スライム。

 日中は子どもたちと薬師の助手。深夜、人間たちが寝静まった後、あたいは家政婦スライムとして、日々増築して巨大化する家中の埃を掃除するの。とても有能なスライムなのよ。そんじょそこらの人間よりもとっても優秀で美しいのよ。

 美しさが必要かって?

 その辺にいる口汚い精霊に言われたの。”美しさは己の行動が決める”ってね。

 この家の仲間として誇り高く生きるために、あたい、最高の家政婦になるの。

 あたいのライバルは魔猫ども。

 真夜中に遊びながら家事をするの。遊びながらよ!神聖なる家事についての冒涜よ!!

 あいつらは洗濯機でイカレタ精霊たちと賭け事を始めるし、自走型掃除機で家中を走り回るのよ。

 今日、あたいは見たの!

 精霊たちに唆されて、クルクル回る掃除機の上でとある魔猫が踊っていたのを!!

 指示されるままに踊るもんだから、Y字バランスで立ち上がった時に掃除機が回転したもんだから、それはきれいに吹っ飛んだわ。そんなバカなことしてるからそうなるのね。

 あたいに口があったなら、大爆笑してやったのに。

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