カワイイは正義
あとがきにおまけがあります。
あれから幾日か過ぎ、我が家のルールはきちんと定着した。
『子どもとペットの魔力使用は、魔獣カードとお手伝いのみ』となった。
当初の問題はご褒美魔力の扱いだった。
スライムは働き者なうえ、最近は自分たちの容姿が綺麗であり、見せ方次第で可愛らしいということを学習してしまった。光に透けると宝石のように輝き、時折プルンと震えて見せれば、女性陣の心を鷲掴みできた。
それによって、ぼくとケインから上限付きではあるがご褒美の魔力をもらえることが認められた。
こうなると、みぃちゃんとみゃぁちゃんだって、負けじと可愛らしさをアピールしてくるが、子猫が可愛いのは当たり前なのである。だが二匹は貪欲に研究してきたかのような仕草を開発してきたのだ。
潤んだ瞳ポーズで見上げる角度は完ぺきだ。後足で立ち上がって前足でおねだりのポーズでは、しっぽをしなやかに床の上で左右にゆるやかに揺らすのだ。二匹は可愛いレベルを容赦なく、そして迅速に爆上げしてくる。
女性陣の篭絡も時間の問題かと思われたが、母親という生物は子の健康を第一に考える。
みぃちゃんとみゃぁちゃんは魔力をもらわなくても健康に育つが、ぼくとケインはこんなに魔力を使う子どもの事例がないため健康被害を考慮せねばならない。一度にたくさんの魔力を吸い取る二匹に譲渡することは、スライムのように簡単には認めることはできなかったのだ。
だが、みぃちゃんとみゃぁちゃんは諦めなかった。毎晩、洗濯機を稼働し、乾いた洗濯物を個人別に仕分けするという仕事で自らの存在価値を高めた。
これに気をよくした母さんが洗濯物カードを制作した。それぞれの衣服のたたみ方を魔方陣に書き込み、みぃちゃんとみゃぁちゃんに学習させたのだ。
朝起きた時には前日の洗濯物は個人別に仕分けされ、すでにたたまれた状態にまでなっているのだ。その上にドヤ顔のみぃちゃんとみゃぁちゃんが座っているのはご愛敬だ。女性陣はすっかり感動してしまった。まさに猫の手を借りる日々が完成しつつあるのだから。
ぼくも新たなるご褒美を開発すべく、新鮮な牛肉の赤身の煮込みを作り、猫まっしぐら的なご飯を用意した。みぃちゃんとみゃぁちゃんもお気に召してくれたのだが、スライムたちも『まっしぐら煮込み』を気に入ってしまったので、みぃちゃんとみゃぁちゃんの特別なご褒美感がなくなってしまった。
そんな時に頼もしいのは、父さんだった。
みぃちゃんとみゃぁちゃんが取ってくる魔昆虫から米粒サイズの魔石を取り出し、雑多な魔力を抜く魔術具を作ってくれた。ぼくとケインはそれを小袋に入れて首からぶら下げることで、ぼくたちの魔力をなじませることに成功した。
これでぼくたちは体に負担なく、みぃちゃんとみゃぁちゃんにも魔力のご褒美をあげることができるようになったのだ。
ちなみにスライムたちはこの『極小魔石金平糖もどき』より指先から直接魔力をもらう方を好んだ。
こうして、みぃちゃんみゃぁちゃんVSスライムたちの『ご褒美魔力は可愛い仕草で勝ち取る選手権』は終止符を打つこととなった。
その後も、父さんはみぃちゃんとみゃぁちゃんの活躍の場を増やすため、お掃除魔術具の開発に力を入れ始めた。
結果、我が家は全てのペット魔獣が猛烈に働く一家となった。
働くペット魔獣たちの中で一番頭角を現したのはお婆のスライムだった。
簡単な調合もこなせるようになり、すっかりぼくを抑えて一番助手のポジションを獲得してしまった。悔しい。
お婆の薬の人気はとどまることを知らず、とても忙しい日々が続いた。一番助手スライムも人気商品の調合の手伝いできる範囲を増やしていき、お婆の負担をどんどん減らしていった。ぼくやケインのスライムたちも負けじと頑張るので生産量は安定して、ぼくたちの負担は減っていった。
そうなるとお婆は光る苔を隠密に研究できる時間ができた。
光る苔の水槽は新たに二つ作り、もとからあった水槽は赤ちゃん苔用、新しい方の一つに光る苔一つと、もう一つの水槽に光る苔二つと分けて、広さによる成長の違いを観察することにしたのだ。
毎日、各水槽の光る苔の重さ体重を計測し手触り等の些細な違いも記録した。
水槽が増えた分、やはり掃除に手間がかかった。ケインには敷き詰めてある石の隙間を任せられない。水を瓶に回収する作業をケインの担当として、ぼくは細部のお掃除を受け持つことにした。
ぼくは思ったことが顔に出る性分だ。三つも掃除することが面倒だと思っていたことが、ぼくのスライムにはしっかりバレていたようだ。
察したスライムが気を利かせて、というか、決死の覚悟で、ぼくが掃除中の水槽に張り付いて自らの体で掃除をしたのだ!
水槽全体に薄く張り付いた体は苦しみに震えており、ケインやお婆のスライムでさえ心配そうに?二人?くっついて小刻みに震えていた。
お前たちは無理して掃除する必要はないよ!させないから!!
掃除を終えたスライムが震えながら床にポトリと落ちた。
ぼくのスライムが献身的過ぎて辛い。
ぼくは両手でスライムを包み込むといたわるように頬ずりした。
「もうこんな無茶をしたら駄目だよ。水槽掃除専用の魔術具を父さんに頼むから、それまではぼくが頑張るよ」
掌で震えていたスライムが発光しながら小玉の西瓜ぐらいの大きさに膨れ上がっていった。
そうだった。苦しそうな様子に心配することで忘れていたが、光る苔の雫は魔獣たちをパワーアップさせる!それを彼らは望んでいたんだった。
「とうとうやってしまったか。スライムたちに手伝いさせていたら、こういう事故が起こることを懸念していたんだ。カイルやスライムたちだけのせいではない。とりあえず様子を見よう」
「大きくなったから、強くなったかも」
ぼくのスライムはお婆のスライムより二回りほど大きくなっており、最近飼いはじめたハルトおじさんやイシマールさんのスライムと比べたらおそらく体積は二倍以上になってしまった。
みぃちゃんとみゃぁちゃんのように、日中は小さくなってもらえば誤魔化せるようなものではない。決定的な違いとして、体の色に現れてしまった。変身が終わってもほんのりと光っているのだ。
「これは、どうすればいいんだろう?体の光を抑えることができるかい?」
ぼくのスライムは光っているのが嬉しかったようで、フルフルと体を揺らせていたが、ぼくの質問で、動きを止めてしまった。
光を抑えろ、なんて言っちゃったけど、新しく獲得した能力を否定したみたいで申し訳ない。
だがしかし、光る苔のことは平穏な日常のために隠しておきたい。
ぼくのスライムは状況を理解したかのように水槽を掃除する前の形状に戻り、光を抑えることにも応じてくれた。
ぼくたちがこの状況に安堵した時には確信犯たちが犯行を終えていた。
お婆とケインのスライムがポトリ、ポトリと床に落ちて震えていたのだ。
お前たちはさっきまで恐怖に震えていただろう!
……うちのスライムたちはどうしてそんなにリスクを度外視してまで貪欲に能力を高めようとするのだろうか。
とある精霊a: いいね。もう少し顎をひいて!
とある精霊b: 瞬きを抑えて涙をためて!
とある精霊abcd: いいね!!!!
とあるスライムA: あいつら何やってんだ?
とある精霊c: *んこ喰いなんかに負けるな!
とあるスライムAB: あ゛あ゛ぁぁぁ!!
とあるスライムB: 幼少期の育成方法は己でどうこうできるもんじゃねえのに!畜生!!
とある精霊d: 己の出自を呪ったところで、糞食いなのは変えられぬわ。
とあるスライムAB: 今の俺たちは違う!!
とある精霊d: そうさ。己の在り方は、己の行動が決める。
とあるスライムAB: !!
とある精霊d: 美しさは己の行動から生まれる。
とある精霊b: しっぽの角度をさげて!
とある精霊a: 優しくゆらして!
とある精霊abcd: いいね!!!!
とある精霊d: カワイイは正義さ!
とあるスライムAB: ……いいこと言っていた気がするのに、わけわかんねえ。




