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寄宿舎侵入!

 祭壇で光ったことで自らに箔をつけたコッコの鶏舎の話はすんなりと認められた。

 “……成り上がる女は自力で自身を磨き上げるものよ”

 ぼくのスライムは教会の使者の馬車へ乗り込むコッコたちに餞の言葉を送った。

 みぃちゃんとキュアも頑張れよ、と手を振った。

 コッコはなんだかんだ言いあいながら、うちの魔獣たちと仲良くやっていたようだ。

 使者の膝の上に飛び乗り窓からぼくたちを見て離別に目を潤ませているコッコには悪いが、三日後に寄宿舎に行く予定だからすぐに会える。

 頑張ってたくさん卵を産んでくれ。

 コッコを乗せた馬車の後ろを、驢馬のクーが鶏舎と飼料を載せた車をけん引して教会に向かった。


「コッコのために美味しい飼料を持参いたしました」

「寄宿舎生の差し入れとしてアイスクリームを持参しました」

 デイジーとマリアは早朝礼拝で特設祭壇に奉納したのとは別にたくさんの差し入れを持参して、寄宿舎でのオムライス祭りの道具が転移して来る日に会場設営メンバーとして参加することになった。

 デイジーの視線はアイスクリームが入っているマリアの持っている魔術具に釘付けになっている。

「明日の準備が終われば皆さんで召し上がれるようにたくさん作ってきました」

 マリアの言葉にデイジーが早々、先にたくさん働かないと頂けませんね、と頷いた。

 集合場所はガンガイル王国寮で、参加メンバーは寮長、ぼく、ウィル、ジェイ叔父さん、マリア、デイジーで、馬車の中に待機しているメンバーとしてボリスとロブとエンリケさんとシンがいる。

 教会側はオムライス祭りのフライパンの大きさを理解していないだろうから、会場設営の人手を見越し待機していてもらうのだ。

「私たちまで押しかけて大丈夫でしょうか?」

「ガンガイル王国王家の秘宝の見学に二人の姫をお連れするだけです」

 教会側はぼくと寮長だけいれば十分と考えているのにもかかわらず、この人数で押し掛けることに気後れしているマリアに寮長はご機嫌な笑顔で言った。

 せっかく寄宿舎内に入れる機会を得たのに、ぼくたちガンガイル王国寮生の女生徒ではちょっとした我儘を通せる身分の生徒がおらず、マリアとデイジーに寄宿舎内の女子棟の探りを入れてもらうのだ。

 女子棟で体調不良の寄宿舎生を発見しても、デイジーは妖精が魔法を使えるが魔法学校にまだ入学していない設定なので、マリアをカモフラージュに利用してサッサと治癒魔法を使ってしまおうという作戦なのだ。

「私たちはカイルたちが飛竜の里の司祭の寄宿舎生時代の部屋を見学している間に女子棟の見学を申し出て、病人の匂いを嗅ぎ分けて回復薬を飲ませればいいだけですもの」

 デイジーは自身の妖精が病人を見つけられるので自信満々に胸を張ったが、聖魔法の基礎しか習得していないマリアは不安げな表情をしていた。

「病人の気配を見つけても部屋に入れてもらえなければ回復薬を飲ませられませんわ」

 みぃちゃんのスライムがぼくのポケットから飛び出してマリアの膝の上に乗ると体の一部を鍵の形に変化させた。

「今日はどのお部屋もうっかり鍵をかけ忘れている状態になっているだけですわ」

 デイジーがそういうとマリアも覚悟を決めたように頷いた。

 病気の女生徒の部屋にはぼくたちは入れないが、女生徒同士なら問題ないはずだ。

 軽症者はデイジーの治癒魔法をさり気なくかけて、見るからに重そうな場合のみ回復薬を使うことになっている。

「とっても美味しくない子ども用の回復薬なのでちゃんと飲めたらご褒美に飴玉をあげてください」

 一滴だけ味見をしたマリアが力強く頷いた。

 飴玉はデイジーには預けていない。

 預けたら教会に着く前にデイジーの口の中に全て消えてしまうからだ。

「デイジー姫へのお土産の飴玉はシンに預けてあります。今日の作戦が終了してからお召し上がりください」

 ウィルの言葉にデイジーは真面目に頷いた。

 入念な打合せが済むころ、アリスの馬車は教会の裏門に到着した。


 馬車から降りたぼくたちは駐車場の係員に挨拶して、厩舎の横に新設されたコッコたちの鶏舎に向かった。

 コッコは自ら鶏舎の扉を開けてコッコッコと鳴きながら足元にすり寄ってきた。

「鶏舎の扉をばね蝶番にしたのは正直反対だったんですが、馬や人間の邪魔にならないところを散歩して暑くなったら鶏舎に帰る、本当に賢い雌鶏たちで全く問題ありませんでした」

 厩舎の職員たちは優しい眼差しでコッコたちを見ている。

「私、この子たちに特別な餌を持参しています。お馬さんたちも気に入るようでしたら分けてあげてください」

 デイジーが収納の鞄から大きな麻袋を取り出すと、お姫様のお洒落な鞄には似つかわしくない飼料袋が出てきたことに厩舎の職員たちは腰を抜かしそうになるほど驚いた。

「世界中を転々とするとある一族の方に譲っていただいた特別な飼料です。雌鶏たちも馬さんたちもこれを食べれば元気いっぱいになることでしょう」

 洗礼式を迎えたばかりの幼い笑顔でお馬さん、と言うデイジーに厩舎の職員は優しいお姫様ありがとうございます、と終始笑顔で対応してくれた。

 “……カイル!孤児院の子どもたちに会ったわ。洗礼式を終えたけれど寄宿生になれなかった孤児たちが鶏舎の掃除やあたちたちのお世話をしてくれているわ。みんな元気だけど、栄養状態が良くないの。がりがりの瘦せぽっちでみすぼらしいから、あたちの卵をたくさん食べさせてあげたくて頑張ったわ!”

 コッコは胸を張って報告した。

 たくさん卵を産むコッコたちには、緑の一族のハナさん特製の飼料でたっぷり栄養と魔力を摂取してもらおう。

 寄宿舎に向かわず鶏舎を見学していたぼくたちのもとに、慌てた様子で寄宿舎の職員が走ってきた。

「……こちらに、おいででしたか……。本日……皆さまを……ご案内いたします、ペドロ、と申します……」

 振り回される予感がしていただろう挨拶した寄宿舎の職員のペドロさんは、寮長がぼくたちを紹介している間に何とか呼吸を整えた。

「今朝の早朝礼拝でも奉納しましたが、こちらの氷菓を寄宿舎生のみなさんで召し上がってください。ああ、孤児院の子どもたちの分はこちらになります」

 マリアが持参した手土産をペドロさんに手渡すと、困ったように眉を寄せた。

「お気遣いありがとうございます。ですが、孤児院への慰問は明日だとお伺いしておりましたが……」

「ええ、明日は明日でまた違う手土産を持参いたします。今日も暑くなりそうなので、特別なおやつを子どもたちに召し上がっていただきたかっただけですわ」

 フフフっと上品な笑い声を出してマリアが慈愛に満ちたお姫様の笑顔を浮かべた。

「本日はガンガイル王国王家の秘宝をお二人の姫に是非見ていただきたくてお連れ致しました。お二人の心優しきお姫様は、日々教会のお勤めを果たしながらも魔法学校へ通う寄宿舎生にとても感心されております」

「はい。本日はそんな寄宿舎の内部をご案内いただけると聞いて、無理を言ってご同行させていただきました」

 手土産を受け取ってしまってから二人の姫に寄宿舎内部を案内しろと言われてしまい、決定権を持っていないペドロさんが乾いた笑顔になった。

「どうにも連絡に行き違いがあったようですね」

「いや、行き違いはない。お姫様方がここにいることには意味がある。早く案内しなさい」

 寮長はペドロさんに有無を言わさず寄宿舎の方角に歩き出した。


「寄宿舎は資格がない人間は立ち入れないので、急遽人数が変更になりますと来客受付をし直さなければならないのです」

 寄宿舎の玄関で揉み手をしながらペドロさんは、全員は入れない、と言った。

「何を言っておるか。大丈夫だぞ。大司祭から許可をもらっておる。教会の施設内の最終決定権をお持ちなのは大司祭だ。私たちは神事の手伝いのために入館許可をもらっている。大きなものなので搬出が難しいときは手伝いを呼んでいいことになっている。二人のお姫様は今回の神事に多額の寄付をされている関係者だよ。入館できないなんてことはない」

 寮長はそう言うと、屈んでデイジーの手を取り、身長差で体を斜めにしながら寄宿舎内部に足を踏み入れた。

 はじき出されても自分のせいではない、と高をくくったかのように鼻を鳴らしていたペドロさんは寮長に続いてマリアをエスコートしたウィルも玄関に難なく侵入すると慌てて後を追った。

 どうにもまだガンガイル王国が侮られているような気がするが、教会関係者は上位貴族に内心では敵愾心があるからなのかもしれないな、と考えながらぼくとジェイ叔父さんも中に入った。


 コの字型の建物の真ん中が男女共有のスペースなのはガンガイル王国寮と同じだった。

 一階に礼拝室と応接間がありぼくたちは応接間の方に案内されたが、玄関を挟んで応接室の反対側が礼拝室なのは飛竜の里の司祭から聞いていたので、寮長は玄関中央で立ち止まると首を横に振った。

「そこに祭壇があるのに、素通りするなんて私たちにはできません」

 寮長が礼拝室の扉を指さすとペドロさんの顔色が変わった。

「礼拝室の使用については、基本的に礼拝時間以外は解放されており誰でも祈って良い、とされているはずだろう?」

 寄宿舎の規則を予習済みの寮長がつかつかと礼拝室の前まで歩きだすと、小走りのペドロさんが叫んだ。

「館長が不在の時に騒動が起こると困ります!」

「祭壇で神に祈ることは騒動ではないぞ」

「突然精霊たちが現れたら十分騒動になります!」

「それは明日のお祭りの成功を精霊たちも祈願してくださる慶事ではありませんか」

 ウィルは取りつく島もなく礼拝室の扉を開けた。

「扉を開けて入れる時点で大司祭の許可が出ているんだよ」

 教会が光ってから教会内の敷地にある建物に自在に施錠できるようになった大司祭の名を持ち出すと、ペドロさんは悔しそうに顎を引いた。

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