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お祭り計画会議!

 ジェイ叔父さんの希望で寮に帰る前に亜空間に立ち寄って熱伝導の研究をすることになった。

 実物のフライパンの大きさを見たジェイ叔父さんの探求心が止まらなかったのだ。

 普通サイズでいくつか試作品を作る間、みぃちゃんとスライムたちは聖女先生がハロハロやその取り巻きたちに受けたセクハラを密告すると、調合の手を止めて聞き入った。

 全く気がないわけではないのかな?

「ハロルド王太子の俺の中の評価が駄々下がりなんだけど、あの方に国の未来を託して大丈夫なのかな?」

 興味の対象はそっちだったか!

 王太子の取り巻きたちに嫌がらせされたのはジェイ叔父も一緒だったので、ハロハロへの嫌悪感が先立ってしまったようだ。

 みぃちゃんとスライムたちは仮面越しのジェイ叔父さんの表情から満足いく反応を見たようで、ほくそ笑んでいる。

 あの仮面の表情からどうやって心情の機微をくみ取るんだ!

 出来上がった試作品を食堂のおばちゃんに評価してもらうことにして、寮に帰った。

 ぼくは魔獣たちとベッドに入ったけれど、ジェイ叔父さんは酒瓶を持っていたから寮長の部屋に行ったのだろう。

 兄貴がいないのは実家かケインのところに行ったようだ。

 睡眠不足が続いていたのでぼくが眠りに落ちるまでは秒速だった。


 お子様ランチのお弁当を携えて早朝の中央広場に向かうと、奉納弁当と名を打ったお弁当を首から下げた立ち売り箱に満載した三人娘たちが笑顔で販売していた。

 商会の人たちの仕事の早さに感心していると、おはようございます、とマリアとデイジーに声をかけられた。

「おはようございます。ほど良い混み具合の中央広場でいい朝ですね」

 貴公子然とした微笑のウィルが代表してあいさつをした。

 デイジーがぼくに駆け寄ってくるとジャンプしてぼくの右耳を引っ張って着地した。

 “……オムライス祭りに進展があったみたいじゃない!”

 精霊言語で語り掛けるなら耳を引っ張る必要がないじゃないか!

 お転婆デイジーの腰を素早く捕まえ、たかいたかいをするように宙に放り投げた。

 “……大司祭の判断待ちだから朝一で結果なんか出せないよ!”

 図に乗ったデイジーは空中で横捻りを加えて曲芸のようにグルグル回った。

 しまった。

 認識疎外のローブを着ているのに目立つことをしてしまった。

 回転するデイジーをキャッチする前に、ぼくのスライムが素早く魔法の絨毯に変化すると、ぼくとウィルとジェイ叔父さんとマリアとデイジーという目立つメンバーだけを掬い上げた。

 スライムの絨毯から外れてしまったボリスにお子様ランチの入った収納の魔術具の鍵を開けた状態で放り投げた。

「朝っぱらからイチャイチャするなよ」

 ジェイ叔父さんがこぼした。

「「年の差があり過ぎて恋愛対象じゃない!!」」

 ぼくとデイジーが同時に声を上げると、魔法の絨毯から取り残された旅を同行した新入生たちが噴き出した。

「ジュエル兄とジーンちゃんと同じくらいの年の差だ……」

 言い終わらないうちにジェイ叔父さんはデイジーの正体を思い出した。

「デイジー姫が三つ子ちゃんたちと変わらない年頃だから、反射的に体が動いたんだね」

 笑いをこらえたウィルが小刻みに肩を揺らしつつもフォローを入れてくれた。

「私の弟も私を見つけると駆け寄ってきますわ。可愛いですよ」

 ぼくの行動に驚いて目を見開いていたマリアも、ケタケタと笑い出した。

「冷やかしはもういいわよ。積もる話があるからガンガイル王国寮に行きましょう」

 地上に東方連合国の三人組を残しているのにもかかわらず、デイジーが言い放った。

 エンリケさんが手を振ってくれたのでマリアの帝都での保護者の了解を得たと判断したぼくのスライムはガンガイル王国寮へと飛行した。


 寮の中庭には連絡も入れていないのに、寮長と寮監が待ち構えていた。

「ガンガイル王国寮へようこそお越しくださいました」

 魔法の絨毯から降りる二人の姫に寮長は恭しく挨拶をした。

「予定にない行動の我らを歓迎していただき、ありがとうございます。神々よりの夢の神託を授かり早朝から急遽ガンガイル王国寮を訪問することになったのにもかかわらず、このように手厚い歓迎を受け感激しております」

 小さなデイジーがスカートを摘まんで優雅に一礼すると、中庭にいた野次馬の寮生たちから可愛いらしさに感激する溜息が漏れた。

 東の魔女の猫かぶりに、ポーチから顔だけ出していたみぃちゃんが一切表情に出さずに笑った。

 東の魔女と本物の猫の猫かぶりを目撃して呆気にとられていると、ぼくのスライムがポンポンと肩を叩いた。

 伊達に小国の姫の称号を持っているのではないということか。

 真面目な顔をした寮長が恭しくデイジーをエスコートしながら言った。

「大司祭様から返答が来ております」

 寮の身分の上位順に従ってウィルがマリアをエスコートして中庭を後にしようとした時、マリアが呟いた。

「ハンスのオレンジ!」

 ウィルはエスコートする手を離してマリアの腰に手を当てて踵を返した。

 早朝の涼しい風がオレンジの香りを運んできた。

「まあ、食べごろのオレンジがたくさんなっているではないですか!」

 マリアの声に振り返ったデイジーはリトルプリンセスの仮面をかなぐり捨て、視力強化しなければ見えない完熟オレンジを確認すると走り出した。

「お姫様方、オレンジを収穫してから寮にご案内いたしましょう」

 ウィルはマリアの手を取って優雅にエスコートしながらデイジーの後を追った。

 デイジーが見た目年齢通りの行動をしたことで微笑ましい雰囲気になり、籠いっぱいのオレンジを収穫すると、談話室ではなく食堂に向かうことになった。


「ガンガイル王国の特別自治区の教会の司祭から大司祭に緊急通信があったらしいです。その教会独自のお祭りを中央教会で実施するご神託が夕方礼拝であったようで、問い合わせの内容が、大司祭の賜ったご神託と内容が矛盾しないとのことでした」

 大盛りスタミナ定食と大盛りチャーシュー麵をすでに食べ終えたデイジーが、オムライスの言葉が出ない寮長の説明に左眉毛をグッと上げた。

 ぼくは旬の野菜のかき揚げうどんを無言でデイジーの前に置くと、マリアの大きな目が更に真ん丸に見開かれた。

 デイジーの大食漢は早朝朝食会を共にした寮の人たちは知っていたので。驚くマリアの表情を微笑ましく見ていた。

 前回食材を提供してくれたお礼として、食堂のおばちゃんはデイジーに食べさせたいものを次々と作って提供しているのだ。

「飛竜の里のオムライス祭りを中央教会でもやる方向で話が進んでいるのですね」

 ウィルが話を進めると、自分の顔より大きなかき揚げを頬張るデイジーの笑みが深まった。

「そうなのです。ただ、中央教会は現在、夏の洗礼式シーズン真っただ中で多忙ななか、定時礼拝で教会が輝くことから帝都の注目を一身に集めているので開催が難しいと渋っていたところを、飛竜の里の司祭が司祭と聖女が一人ずついればできる儀式で、道具一式を貸し出すと申し出たようで、中庭で小規模に行う事になりそうです」

 小規模という寮長の言葉に饂飩の汁を飲み干したデイジーの左眉が上がった。

 すかさずミックスフライ定食を差し出すと柔和な笑顔になった。

「小規模ということなら我々は参加できないのですか?」

 ジェイ叔父さんの言葉にデイジーの眉毛が八の字になった。

「いや、そこは人数制限だけになりそうです」

「まあ、この短時間に部外者の参加枠を勝ち取るなんて素晴らしい手腕ですわ!」

 お刺身定食を食べる手を止めて聞き入っていたマリアの絶賛に、寮長がハルトおじさんにそっくりの笑顔になった。

「そこは材料の提供を申し出て、道具は私たちしか開けられない魔術具で運搬するので可能になりました。それでですね、オムライス祭りを教会に独占されないためにも、広く帝都民に知らせる必要があると考えているのですよ」

「オムライス祭りは自治領民全員で食す楽しい祭りだと伺っておりますわ。教会が独占するなんて言語道断です」

 ミックスフライ定食に紛れ込んでいた蟹クリームコロッケを一口食べて味と食感に首が伸びたデイジーは、何としてもオムライス祭りを公開すべきだ、と語気を強めて言った。

 食堂のおばちゃんがタルタルソースのおかわりをカウンターに出すと、近くにいた生徒が無言でデイジーの前に置いた。

「そうなんです。我々だけの参加だと道具を貸すことで一時的に教会関係者とみなされて外部の参加者として扱われなくなる恐れがあります。オムライス祭りを教会の秘儀としないために、是非キリシア公国と東方連合国に資金援助をしていただき、オムライス祭りに参加していただきたいのです」

 寮長の言葉にタルタルソースをエビフライにたっぷりとかけていたデイジーの手が止まった。

「オムライス祭りの貴重な参加枠を私たちに譲ってくださるのですか!」

 驚くマリアに寮長は頷いた。

「写真を撮って記念誌を発行しようかと考えています。ガンガイル王国だけが教会に影響を与えているようなイメージにしないためにも、美しい姫様たちに参加していただきたいのです」

 帝都には日刊新聞の存在はないが、皇帝の即位や皇子誕生のような慶事に記念誌として本と呼ぶには薄い印刷物が発行される。

 便乗して似たような記事に妄想を膨らませたゴシップ紙も多数発行され、好事家の収集物としても人気があるらしい。

「記念誌に載ることも含めて、お帰りになってからご検討ください」

 寮長は開かない教会の扉の前で自分がズッコケた記念写真が残った時から、写真を活用して広報活動をしようと企んでいたようだ。

「ありがたいお話なので、前向きに検討いたします。寄付額については後ほどバヤルから連絡を入れますわ」

 ミックスフライ定食を食べ終えたデイジーの言葉を聞き、マリアも同様の返答をした。

 オムライス祭りの重要な連絡事項を終えた寮長は、談話室に祠巡りの衣装のデザイン画が展示されているから帰る前に見てほしいと話題を変えると、食事の時間が終わってしまうことを悲しんだデイジーが眉を寄せて俯いた。

「気持ちの良い食べっぷりで作り甲斐がありましたよ、お姫様」

 食堂のおばちゃんがオレンジゼリーを持ってくると、デイジーは眩しいほど明るい笑顔になった。

「大変美味しいお料理でした。スタミナ定食の牛レバーは臭味がなく濃厚で、もやしもキャベツもしゃきしゃきしておりソースがたいそう美味しく、白いご飯によくあいました。薔薇の花びらのように盛り付けられたチャーシューは口の中でとろけるほど柔らかいのに肉を感じさせる味わいを損なっていませんでした。ラーメンスープは濃厚なのにしつこすぎず、すべてを飲み干して器の底が見えると食べ終わってしまうのが悲しくなるほど美味しかったです。その次に出てきた大きなかき揚げは、私の願望そのものの大きさでした。カリッとした食感の季節のお野菜にサクラエビが潜んでいるなんて反則級に美味しいではありませんか。もちもちの饂飩のコシも大変満足のいくもので、美味しい出汁は夢中になって飲み干してしまいました。ミックスフライ定食は主役級のフライたちが脇役のようにたくさんあり、さらに私の喜びを倍増させたのが、究極のご馳走ソースともいえるタルタルソース……」

 食堂のおばちゃんはいつ終わるとも知れないデイジーの大絶賛を、孫でも見るような優しい笑顔で頷きながら聞いていた。

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