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神様ランチ……?

 ぼくたちは収穫の残りの作業を手伝って、迎えの馬車が来た時刻に帰ることになったのだが、デイジーと三人組はアリスの馬車に乗り込んできた。

「見るからに魔術具なのがわかるアリスの馬車は憧れでした。こうして同乗できる機会があるのなら逃すわけにはいかないので、厚かましいでしょうがこうしてご一緒させていただきました」

 東方連合国のシンが好奇心旺盛なデイジーの代わりに言い訳をした。

「初めて乗る方はだいたい同様の反応をされます。お気になさらなくて結構です」

 補助椅子に乗ることになったボリスが気にしなくていい、と笑うと東方連合国の三人組は安堵した表情になった。

 車中はではオムライス祭りの詳細を詰める班と鉄を使わない巨大フライパンの制作方法を検討する班に分かれて帝都に帰った。

 顔なじみの門番に夕方礼拝に間に合って良かった、と言われると馬車の中では体力魔力に余力のあるものだけが行くかもしれないと曖昧な返答にした。

 アリスの馬車が東方連合国の寮に行くために貴族街に向かうと、人々の流れは中央広場に向かっていた。

「カイルたちはもう行かないんでしょう?」

 確認のようにデイジーが聞いた。

「憲兵たちも手順がわかっただろうから、何とかするだろうからね。ただ厳つい体格の憲兵たちがちゃんと両手を地面につけて腰を落としてケロケロやっている姿を想像すると面白そうだよ」

 馬鹿にするように聞こえないのは、事実を淡々と推測して落ち着いた口調でボリスが言ったからだ。

 三人組は絵面を想像して顎を引いた。

「市民の集合体の力をガンガイル王国寮生たちがいつまでも補っていたら駄目だから、今晩は希望者以外行かなくていいよ」

 ジェイ叔父さんは巨大フライパンの素材探しに心を持っていかれたようで、興味なさそうに言った。

「騎士コース選択者の中に毎朝晩の皆勤賞による魔力アップを狙っている先輩がいるから、誰か彼か中央広場にいるでしょうね」

「わかりました。朝一番に連絡を取りたい時には中央広場でガンガイル王国寮生を探します」

 ロブの言葉に安心したようにシンが答えた。

 鳩の魔術具の郵便屋さんがない帝都での連絡は使者を訪問させなければならなかったが、これからは早朝の中央広場に行けば誰かに会えるということになったようだ。

 東方連合国寮の前でデイジーと三人組を降ろし、ぼくたちは寮に戻った。


 食堂の掲示板には祠巡りの衣装コンペのデザイン画が談話室に展示されていると告知があり、一人十点の持ち点を気に入ったデザイン画に分散して投票しても良いということだった。

 ジェイ叔父さんは厨房に入り込み皿洗いの魔術具の稼働を手伝いながら、調理器具を観察していた。

 ウィルが寮長に試験農場での流れの報告をすると、詳細をジェイ叔父さんから聞き出そうと厨房まで押しかけ、忙しい時間帯に何しているんだ、と食堂のおばちゃんに二人とも怒られていた。

 談話室が混雑しているので、寮長の部屋にぼくと兄貴とウィルとボリスとジェイ叔父さんが呼ばれた。

「ウィリアム君の話に理解できない部分が多く。なぜ巨大オムライスなのかがわからない」

「最初は子どもたちにお話の中でしか見たことのないような、夢のように大きなオムライスをつくっただけだったんです。どーんと大きなオムライスをみんなで分けて食べるなんて、楽しそうでおいしそうでしょう」

 ぼくの説明に寮長とジェイ叔父さんが頷いた。

「そうしたら、小さな村でそんな面白いことをしたら、みんなが食べたくなるでしょう?」

 全員が頷いた。

「当然卵が足りないから方々から搔き集めることになると、行く先々の鶏舎で卵がたくさん産まれているんです」

「ああ、それで村の祠巡りの最中に収穫祭の話が出た後、試験農場の鶏舎でたくさん卵が生まれたということはオムライス祭りをしろというご神託に繋がるんだな」

「そうです。そんなに都合よくたくさん卵が生まれるなんて、神々に奉納せよということに他ならないということになったんです」

 飛竜の里では新しい教会を建てるお祝いのお祭りということになり、教会の司祭と聖女が儀式を行い、ぼくたちは結界を施す前の教会内部に入れたこと、スライムが花火を打ち上げたことを詳しく話した。

「飛竜の里の司祭はラインハルト殿下の従兄弟でした」

 ウィルの一言に寮長も心当たりがあったようで、私の親族だ、と頷いた。

「なるほどね。巨大オムライスは子どもたちが健やかに育つ願いを込めて神々に捧げる神聖なる食べ物なのか。こうしておけば中央教会から司祭の派遣を依頼できるな。なに、洗礼式で忙しい時期だが、収穫祭には少し早い。地方の村なんだから上位の司祭でなくてもいいなら都合がつくはずだ」

 寮長は自分の思考をまとめるように呟いていると日没を告げる鐘が鳴った。

「ああそうだ。巨大オムライス用のフライパンを作りたいと食堂のおばちゃんと話していたら、寮の鶏舎でも午後から卵がたくさん産まれたと言っていた。それは神様が賛成しているからだろうな。ああ、厨房でも鉄製品が少なくて強化磁器で代用していた。巨大フライパンは熱伝導のいい銅製がいいとおばちゃんは言ってたが、正直なところ入手が難しい……」

 ジェイ叔父さんが厨房で仕入れた情報を披露していると、魔術具の鳩が窓ガラスを突いた。

 寮長が鳩を室内に入れると手紙を取り出して目を通した。

「大司祭から……ダハハハハハハハハ!!」

 寮長は手紙をジェイ叔父さんに渡しながら大爆笑した。

 ジェイ叔父さんも目を通すなり噴き出した。

 ウィルに手紙を渡すジェイ叔父さんの手は笑いのため震えている。

 ウィルが広げた手紙をぼくたちも覗き込むと、手紙の冒頭のあいさつを読み飛ばせば、夕方礼拝で大司祭にご神託があったことが書かれていた。

 エビフライ、ハンバーグ、チキンライス、唐揚げ……お子様ランチのメニューかというようなものを神々が明日の早朝礼拝に奉納するお弁当を要求していたのだ。

 手紙の締めくくりには謎の言葉としてホワイトソース、デミグラスソース、ミートソース、チリソース、トマトケチャップと、呪文のようにオムライス祭りで作ったソースが羅列されていた。

「これは間違いなくオムライス祭りをやってくれという依頼だね」

 笑い出さずにため息をついたぼくたちに寮長とジェイ叔父さんが、なんでだ?と首を傾げた。

「この部分がオムライス祭りのソースの種類です。蟹クリームソースがないのはさすがに蟹の入手が困難だから配慮してくれたようですね」

「エビ味噌で代用できるかもしれないから厨房で相談してみるよ」

 ボリスとウィルとぼくは新作のソースも用意すべきかの話に移っていたが、寮長とジェイ叔父さんは爆笑したからよく読んでいなかった手紙を精読しだした。

「なるほどね、今まで奉納した弁当の中にオムライスがなかったから、大司祭にはソースの意味がわからなかったのか。孤児院の慰問のあと中央教会の中庭でやるべき神事のソースの種類だ、ということにして、すぐに返信を書こう。ああ、ベンさんたちに応援を頼まないと」

 寮長は即座に自分たちに都合の良いようにオムライス祭りを利用する算段をつけ始めた。

 神々のリクエストのあった奉納するお弁当を注文しにぼくたちは食堂に戻った。


 夕食の混雑がひと段落した食堂でお弁当の注文をすると、食堂のおばちゃんは奉納弁当ね、と言いながらメモを取った。

 お子様ランチのような内容なのだから、盛り付けもお子様ランチっぽい見た目にしたくなったぼくは、メモパッドを取り出しておばちゃんに盛り付け事例として紹介した。

「この旗の部分は神々の記号をぼくが書くからチキンライスの山に立てようよ。ここになにか甘味を置きたいけれど、何がいいかな?」

「大量に作るなら、ゼリーがいいわね。オレンジがたくさんあるからオレンジゼリーなんかどうかな?」

 お子様ランチらしくていい案だ。

 いや、神様ランチ……朝食だから神様御膳かな?

 オレンジを活用するアイデアに皆が賛成すると、気を良くしたおばちゃんは巨大フライパンのアイデアを話し始めた。

「銅をね、大きなフライパンの全面に使わなくても過熱ムラができないように、こうグルグルと入れてみるのはどうかしら」

 蚊取り線香のようにグルグルと指で描いたおばちゃんに、ジェイ叔父さんが握手を求めた。

「ありがとう。参考にするよ。やっぱり、実際に料理をする人に聞いた方がいい案がでてくるな」

「忙しい時間帯じゃないならいつでも相談に乗るわよ」

 自分の出したアイデアを否定されることなく採用されたことに気を良くしたおばちゃんは嬉しそうに笑った。

 日没礼拝に中央広場に行っていたメンバーが帰ってきたので、おばちゃんは手を振って厨房に戻った。

 中央広場は昨晩ほどの混雑ではなかったが、それでも人の出は多かったのに礼拝の順序が徹底されたので大きな混乱はなかったようだ。

 日没の鐘が鳴り教会が光り出すと、憲兵たちがカエルの歌を警備担当エリアに分けて輪唱したようだ。

 簡単な歌だから市民たちも真似をしたが精霊たちは現れず、カエルの踊りを始めるとようやく精霊たちがちらほらと出現したようだ。

「ガンガイル王国の魔法学校の制服を着た生徒たちがいないから精霊たちが少ない、とか、光と闇の貴公子はどこだ、といった声がちらほら聞こえてきたよ」

 マークとビンスの報告にぼくとウィルは苦笑した。

「王都の魔法学校の制服はもう着ない方が良いな……」

「早く入学式を迎えて帝都の魔法学校の制服が着たいよ」

 ぼくたちは大浴場に移動しながら嘆いた。


 お休みの挨拶をして部屋に戻ると、素材を抱えたジェイ叔父さんに亜空間に行こうと誘われた。

「飛竜の里に転移して巨大フライパンでも見に行こうかい?」

 ぼくの一言にキュアが大喜びした。

「もう日没を過ぎているのに……そうか!飛竜だらけの飛竜の里では瘴気の心配が全くないのか!」

 この世界で夜通し宴会ができるほど安全な場所は、飛竜の里と緑の一族の村くらいだろう。

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