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不思議な朝食会

 寮長と教会前にいた憲兵たちが精霊たちが漂っている中央広場に戻ってきた。

「ですから、光っている時間はどうしたって人々は教会の方に足が向かってしまうのですから、教会前に祭壇を儲けてもらう方が集まってきた人の流れを統率することができますよ。早めに報告書をあげなくては夕方の混乱に間に合いませんよ」

 寮長はそう言って憲兵たちを下がらせた。

 冒険者たちも前日に注文したお弁当を受け取ると全員席に着いた。

「職員の方々も一緒に全員で食事を取るのは初めてのことですね。こんな機会をくださった神々に感謝して本日の朝食をいただきましょう!」

 寮長の言葉を合図にぼくたちはいただきます、と一斉に言った。

 お弁当の蓋を取ると朝日や精霊たちの光を浴びて輝いて見えた。

 寮の職員や冒険者たちは教会の祭壇に魔力奉納をするのが初めての人たちも多く、美味しいお弁当に感激しながら魔力奉納の感動体験をしきりと話していた。

 寮生たちも光る教会の神々しさの感想を語り合い、まっすぐ寮に戻らず朝食会が出来たことを喜んだ。

 早朝の街はまだ静かで涼しく精霊たちの光が少し残る朝靄に包まれる幻想的な風景のなか、貴族階級の魔法学校生たちと使用人階級に見える職員たちや厳つい冒険者たちが、銘々好みのお弁当を食べる不思議な空間になっていた。

 中央広場の朝食会は大成功に終わる……と思ったよ。

「そのぉ。残っているお弁当売ってくれますか?」

 赤毛の小さな女の子が、ぼくたちと同い年くらいの少年三人を連れて予備のお弁当が積まれているテーブルの商会の人に声をかけていた。

「朝から魔量奉納をしたらお腹が空いたのです。お金を払うので分けてください」

 七歳の少女に化けたアネモネさんに違いない。

 兄貴を見るとそうだ、と頷いた。

 ここで食品の販売許可を取っていないから売れないんだよ、と説明している商会の人たちが困っている。

 ぼくが席を立つと兄貴とウィルも席を立った。

「こんなに朝早くからどうしたんだいお嬢ちゃん?」

 ぼくは屈んでアネモネさんらしき少女に話しかけた。

「昨日の日没の時刻を知らせる鐘が鳴ると教会が光ったというお話を聞きましたの。日没時といえば教会では夕方礼拝が行なわれていた筈です。でしたら次に教会が光るのは早朝礼拝だと推測して、私たちは教会を見に来たのです!」

「ご明察ですね、お嬢さん。光る教会は綺麗でしたか?」

 初対面のふりをするぼくとアネモネさんの小芝居にウィルが参加した。

「ええ、とっても綺麗でしたわ。教会の前に祭壇を用意しているのは帝都の中央教会の習慣ですの?」

「いいえ、今朝が初めてのことですよ。ぼくたちも光る中央教会を見に行くことを決めましたが、混雑なく見れるのは今朝しかないと予測して団体で見に来ることにしました。さすがに人数が多いので中央教会の大司祭様にお伺いのお手紙を出したところ、ご厚意でぼくたち用の祭壇を用意してくださったのです」

 貴公子然とした笑顔でつらつらと言うウィルに、少女姿のアネモネさんが鈴を転がすようにケタケタと笑った。

「私たちも教会にお問い合わせの手紙を出すべきでしたね」

「申し訳ありません。半信半疑で話を聞いていました」

 少女アネモネさんの側に付き添っていた少年の一人が引きつった笑顔でアネモネさんに謝罪した。

「ぼくたちはガンガイル王国という、この大陸の北西の端の国から、大陸の叡智が集まる帝都の魔法学校に留学にきた留学生たちとその寮の職員の一団なんだよ」

 ウィルの説明にアネモネさんの付添の少年三人が顎を引いた。

「ねえ、ちゃんと居たでしょう。ガンガイル王国は国家をあげて神事を見直して改革を進めているから、帝都の教会が光るような椿事が起こったら留学生たちが必ず視察にきているはずだ、と言った通りだったでしょう」

 三人の少年たちが申し訳ありません、と項垂れた。

「ふふ、ぼくたちも貴女の噂を聞いていますよ。留学の旅の途中で東方連合国出身の冒険者の方と親しくする機会がありました。今年の東方連合国の留学生にとびっきりの才女がいると耳にしています。初級魔法学校の課程から上級魔法学校の課程まで何日で上がって来れるか楽しみにしていますよ」

 ウィルの言葉に三人の少年はギョッとした顔になった。

「待ってくださいませ。あなたたちの課程にすぐに追いついて見せますとも!」

 頬を膨らませて息巻く少女アネモネさんの姿に、ぼくたちは小芝居を続けるのが難しくなり吹き出した。

「ええ、あなたにはそれができる才能があると聞いておりましたよ。笑ってしまったのは侮ったからではなく、あなたがあまりにも可愛いからです」

 膝をついて顔の高さを合わせたウィルが真顔で言うと、少女アネモネさんは照れたように頬を赤らめた。

「ぼくはガンガイル王国ラウンドール公爵家三男ウィリアムといいます。こっちが、ぼくの親友のカイル君とジョシュア君です。全員中級魔法学校に入学する予定です」

「私は東方連合国、ファン国王女デイジーです。こっちは、東方連合国イェー国のシン、ツォー国のユン、ハー国のポーです。三人とも中級魔法学校に編入する予定です」

 ぼくたちはデイジーたちと握手を交わした。

「これはこれは、失礼いたしましたデイジー姫。せっかくこうして親しくさていただく機会があったのですから、ぼくたちの朝食会へご一緒していただけますか?寮長!かまいませんよね」

 寮長がどうぞどうぞ、と認めると、少女アネモネ、いや、東方連合国ファン国デイジー姫がお誘いありがとうございます、と優雅に微笑んだ。

「はい、是非そのお弁当を賞味させてください」

 お弁当を売ることなくアネモネさんの胃袋に収めるための小芝居はこうして幕を閉じた。


 貴族街のガンガイル王国の使用人たちが急遽参加しても大丈夫なように、多めに作ってあったお弁当十数個をテーブルに積み上げたデイジー姫は満面の笑顔でぼくたちの席についた。

 ぼくが魔法の杖を一振りして内緒話の結界を張る、とデイジー姫は勝ち誇った笑みで、本題を切り出した。

「あの土壌改良の魔術具はバカ売れしたわ!北東部は冒険者たちが先行して販売して成果をあげていたから、東南部の戦争の爪痕が残る地域を回ったのよ。東方連合国は一部帝国の属国もあるから、同盟国の面をして販売できるから楽だったわ」

 デイジー姫の言葉にハー国のポーが頷いた。

 お弁当のご飯を大陸に見立てて東南の島々を一粒一粒ご飯を離し、デイジー姫の話を補足した。

「独立心の強いこの地域にはイェー国のシンが、旧来からの属国にはハー国のぼくが、近年征服された地域はツォー国のユンが各地の農業ギルドに話を通しました。足ががりができたので、ここからこの地域まで販売できました」

「短期間にここまで販路を拡大できるなんて、素晴らしいです。ありがとうございます」

 ぼくは定期的に魔術具を起動しているからすでに知っている情報だったが、いちいち報告していなかったので、ウィルは素直に驚いた。

 四つ目のお弁当を平らげたデイジー姫は焼き鳥弁当に手を伸ばした。

「終末の植物も採取したから、ポーに冒険者登録させて、そっちに卸しておいたわ」

「ええ、帝都の冒険者ギルドに集まってきています。浄水の魔術具は需要が高いのであるだけ買い取りますよ」

 本当に買い取る人がいたんだ、とポーが呟いた。

「珍しい素材があれば何でも買い取ってくれるって言ったでしょう?東方からガラクタみたいな素材を持ってきたから、今度寮に持ち込んでいいかしら?」

 七個目のシュウマイ弁当を頬張りながらデイジー姫が言うと、ポーが食べ過ぎです、と残りのお弁当を遠ざけた。

「ええ、是非いらしてください。前日に連絡してくださいね。食堂の食材を多めに購入しておきます」

 笑いながらウィルが言うと、お昼時に行ってもいいのですね、とデイジー姫が喜んだ。

「ベンさんのお店の出前専門店がもう注文を受けてくれるようだから、帰る前に商会の人たちに訊いてみたらいいよ」

 ポーが遠ざけたお弁当を風呂敷に包みながら言うと、デイジー姫の目が輝いた。

 魔法の杖を一振りして内緒話の結界を解くと、朝靄はすっかり消えて、日差しに暑さを感じた。

「残りのお弁当をデイジー姫のお土産にしてもいいかな?」

 商会の人たちに確認を取るとかまわない、と返事が来た。

 ポーがすかさず商会の人たちにお礼を言い、ベンさんの出前専門店の注文の取り方を尋ねた。

 多めにお弁当を仕込んだのはデイジー姫のためではなかったんだけれど、大食い姫が高級出前料理に興味を示したことに商会の人たちはホクホク顔になった。

 デイジー姫と仲間たちは朝食会の会場の片付けまで手伝ってから、貴族街へと帰って行った。

「あの大きさで、あんなに食べるんだね」

 ボリスの一言に旅を共にした新入生一同以外の全員が頷いた。

「多めにお弁当を仕込まなければいけないような気がしたのは、あの姫様に遭遇する予感だったのかな」

 食堂のおばちゃんの言葉に、商会の代表者は頷いた。

「精霊たちのお導きだったのでしょうね」

 朝靄と一緒に消えた精霊が笑っている気配がした。


 ぼくと兄貴とウィルは、午前中にばあちゃんの家の子どもたちと祠巡りをして、午後からは教会の魔法陣の研究をすることにした。

 貴族街のガンガイル王国の敷地ではハルトおじさんの不気味な精霊神の像の横に植えたオレンジの木に花が咲いていた。

 水場の側に植えたオレンジはまだ花をつけていなかったが、ぼくの背丈より大きく育っていた。

 子どもたちを連れて祠巡りに行くと、光る教会の噂が街中で囁かれていた。

 子どもたちも見たがったが、日の出日の入りの時刻は薄暗がりの中から悪いものがでてくるかもしれないから、逃げ足の遅い子どもたちが街中をウロウロしたらいけないよ、と声を低くして脅かすと、キャーキャー騒いだ。

「洗礼式を済ませるまでは、日の出日の入りの鐘の前後には家に入っていなくてはいけませんよ」

 三人娘に諭されて、子どもたちも諦めた。


 ばあちゃんの家で子どもたちと昼食を食べてから、寮に戻ると玄関先で寮長に捕まった。

「魔法学校で色々と情報を仕入れてきた。ジェイさんの研究室に一緒に行かないかい?」

 ジェイ叔父さんの研究室に一人で行くのが嫌だから、寮長はぼくたちを待っていたのかな?

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