母は強し…?
今回のあとがきに本編・閑話に収録できなかった小さなおまけがあります。少し下品な表現があります。
「使った魔獣カードはきちんと片付ける約束でしょう」
掃除を終えた母さんに、ぼくとケインは叱られた。変だな。昨日きちんと片づけた後、今日はまだ遊んでいない。
みぃちゃんとみゃぁちゃんがぼくたちの後ろにさり気なく隠れた。お前たちが犯人か!
「カイル、ケイン。みぃちゃんとみゃぁちゃんを捕まえて!」
ぼくたちは母さんが素早く当たりをつけた容疑者二匹をすかさず取り押さえた。
「いったい、いつの間にやらかしていたんだ?」
「……猫は夜行性だから、私たちが寝た後で何かやっていたに違いないわ」
二匹は母さんと目を合わせようとしない。
ケインは魔獣カードを確認して、首を傾げた。
「ちらかしただけで、何もしていないかもしれないよ」
そんなはずはない。明らかに何かやらかした顔をしている。ケインはみゃぁちゃんに甘いから、誤魔化されるんだ。
「ちょっとテラスのテーブルに魔獣カードを運びましょう。そこで検証してみましょう」
母さんは立証するためにみぃちゃんとみゃぁちゃんに禁止とした魔力を使わせるようだ。朝令暮改ならぬ朝令朝改だよ。即断即決の極みだ。
まず先に昨日同様スライムを競技台にあげて戦わせる。
「スライムたちは魔獣カードで学習しないとこの技は出せなかったのよ」
ケインのスライムが母さんのスライムにボコボコにされている。母さんのスライムは火喰い蟻の技で火鼬の火炎を防御をしながら灰色狼5匹分のブリザードをコンボで決めてきた。カッコイイ。
「次はカイルのスライムよ!来なさい!!」
ぼくのスライムは弾みながら競技台に立った。負ける気なんかさらさらないようだ。
母さんのスライムは先制攻撃で、灰色狼2匹分くらいのブリザードの煙幕を張り雷電虎の雷を反射させて変則的に飛ばしてきた。ぼくのスライムは土竜の土壁で自身の周囲に砦を築くだけで精いっぱいだ。
ん?雷電虎………?ああっ!!母さんこそぼくたちが寝た後でちゃっかりスライムを特訓していたんじゃないか!大人ってずるい!!
「頑張れ!反撃だぁ!!」
ぼくのスライムは砦を飛び出して無防備に自身を晒すと、そのままそれを隙だと感じ取った母さんのスライムが放った雷の一撃を虹鱒の水鉄砲乱射で的を作る要領で雷の軌道を誘導して母さんのスライムに当てた。
賢いぞ!ぼくのスライム!!
「あら、カイルのスライムに学習されてしまったわね。まあ、二連戦だし、よく頑張ったわ」
母さんは自分のスライムをねぎらいながら魔力をあげている。
スライムは禁止にしなかったのは、自分も遊びたかったからなのか。
みぃちゃんとみゃぁちゃんはスライムたちの戦いを真剣に見つめていた。
母さんはしたり顔で言った。
「さあ、みぃちゃんとみゃぁちゃん。あなたたちの番よ。実力を見せつけてやりなさい」
みぃちゃんとみゃぁちゃんは颯爽と競技台にあがった。
はい。犯人はこの二匹です。
みぃちゃんとみゃぁちゃんは昨晩ぼくたちと一緒にベッドに入って、起きてからもずっと一緒にいる。犯行時間は深夜だ。ぼくたち家族が寝静まった後、魔獣カードを引っ張り出して学習していたに違いない。だって、二匹はカードを使わずにキレッキレの技を繰り出し始めたのだ。
先攻はみゃあちゃんだった。速攻で雷電虎の雷を放つが、みぃちゃんの土竜の土壁に阻まれた。
みぃちゃんの反撃は土壁を乱立させて壕を作り灰色狼のブリザードをランダムに繰り出す。どこでそんな試合巧者な流れを見出したのか、防御しきれなかったみゃぁちゃんのダメージを蓄積させていく。
みぃちゃんは得意げにぼくを見た。小技でも勝てるんだぜ、って言っているのか。煽りは良くないと思うぞ。
案の定、みぃちゃんの態度が、小バカにされたように感じたのか、みゃぁちゃんは怒りに震えだした。
「ギャゥニャゥニャゥニャゥニャゥ……‼‼」
みゃぁちゃんは奇声をあげながら、背中の毛を逆立てていると思えばむくむくと成猫化した。マジギレしてしまったのか。
「遊びに本気で怒らないの!!」
母さんは勢いよく競技台をひっくり返して、勝負をドローにした。
「みぃちゃんとみゃぁちゃんはそこに並んで座りなさい」
みゃあちゃんはびっくりして子猫のサイズ戻って、おとなしくみぃちゃんと並んでテーブルの隅っこに丸くなった。
「あなたたちは真夜中に勝手に魔獣カードで遊んでいましたね。証拠はカードを使わずに今の勝負ができたことです。急に体が大きくなったからと言って大人のように自在に魔力が扱えるわけないでしょう。お家を爆発させてしまっていたかもしれないんですよ。えっ?結果爆発してないだろ、ですって?みゃぁちゃん、あなたはそもそも感情の抑制ができずに、今しがた大きくなりましたね。あなたたちが突然大きくなったことを他人に知られてしまうのは、私たち家族を大変危険な状況に追い込むことになるのですよ。何ですって?知らなかった、と言いましても、みぃちゃん、あなたは昨晩光る苔のことは秘密にしましょうと話していた時に居ましたよ。そもそも、あなたが勝手に雫をなめたのでしょう。ええ。ごめんなさい、と。そうですね。相互理解が必要なのです。魔力は勝手に使ってはいけません。人前で大きくなってはいけません。うちはお客さんが多いから、日頃から気をつけてください」
母さんが本気で怒ると、丁寧語になるんだ。
途中まで逆らう表情をしていたみぃちゃんとみゃぁちゃんも、すっかり反省してしおれている。
「真夜中は猫たちの時間だから、あなたたちが遊べる魔術具を作ってあげるわ。何がいいかしら?」
叱った後でも、母さんは猫にも優しい。
「とりあえず、洗濯機に遊び心を足してみようよ。そうしたら夜のうちに洗濯も終わって、母さんも楽だし、みぃちゃんとみゃぁちゃんは遊べるうえにお手伝いもできてしまうから、いいことだらけだよ」
もともとみぃちゃんとみゃぁちゃんは洗濯物を回っているのを見ているのが好きなのだ。ルーレットでもつけたら喜ぶだろう。お手伝いもしたがっていたから、猫の手でも役に立つ、一石二鳥だ。
「良い案だと思うけど、真夜中に洗濯機を回すとうるさいわ」
「部分的に音を消す魔術具とかないの?」
「あるにはあるけど、結構魔力を使うものなのよ。省魔力化なら父さんに相談しましょう」
「それじゃあ、こんばん、みぃちゃんとみゃぁちゃんが遊べないよ」
「鼠の玩具でも改良しましょう。それなら、昼からでもぱぱっとできるわ」
「「よかったね。みぃちゃんみゃぁちゃん」」
「「ミャァミャァ」」
なんとか大団円となった。やっぱりうちの母さんはすごい。
おまけ ~とある魔獣たちの真夜中井戸端会議~
とある魔猫A:精霊たちが唆すんだよな。
とある魔猫B:あいつらヤバいよな。ここにあるぞ。とか、糞スライムに負けるのか、なんて、煽ってきやがる。
とあるスライムA:糞とか言うなよ。言葉が汚いぞ。
とある魔猫B:精霊たちが言ってたんだよ。糞食ってたスライムが偉そうにしてるって。
とあるスライムB:魔獣に貴賤なんてない。スライムだって強くなれるんだ!
とあるスライムA:精霊なんて自分たちが、*んこしないからって偉そうに!スライムがいなくなったら、世の中*んこだらけだぞ。
とある魔猫B:スライムはお下品ね。やっぱりスライムはスライムよね。
とあるスライムB:お前らみんな性格悪いんだよ。真夜中にこっそり鍛えて、俺たちをボコボコにする気だったんだろ!
とある魔猫AB:精霊たちがやれって、言ったんだ!!
とあるスライムAB:一番性格悪いのは…
とある魔猫スライム2AB:精霊たちじゃん。




