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お祭り騒ぎ

 すでに夕食を終えた寮生もたくさんいたので、話し合いの場は談話室に移した。

 光り輝く教会を見たいのはおそらく寮生たちも職員たち全員だけど、寮を空っぽにして早朝から出かけるべきか?ということが議題になった。

「祈り方が同じなんだから早朝礼拝でも光るだろうということが、まだ市民にバレていないから全員で中央広場に行っても空いていると思うよ」

「空いているだろうけれど、今日の混乱で中央広場の警備が厳重になっていたら、寮生全員で野次馬のように見に行くと憲兵に咎められるかもしれないよ」

「それはあり得るね」

 みんなが活発に意見を交わした。

「騎士コースの生徒は早朝と夕方に別れて、中央広場の混乱に警戒したらどうだろう。というか、中央広場の市民たちが教会の光の恩恵を受けようと教会に突進するんだから、ぼくたちが中央広場で歌でも歌って、精霊たちを誘い出して市民の気持ちを落ち着かせてもらうのはどう?」

 幼いころ精霊たちに不安な気持ちを沈めてもらった記憶のあるボリスが発言した。

「中央広場か、商会の正門前に一般市民も参拝できる祭壇を儲けてもらうのはどうだろう。せっかく人が集まるんだから魔力奉納をしてもらえば教会側だって助かるんじゃないかな?」

「そうだな。大司祭に手紙を書いてみよう」

「おおっと、鍵騒動で忘れていたが、みんなの魔力奉納のポイントはどうなったんだ?」

 早朝教会見物の話し合いの傍らで、夕方礼拝に参加した寮生たちは、自分たちのポイントが予測していた神の祠での魔力奉納と同じポイントだったことを報告した。

 古の魔法陣の神の印の位置にいた寮生は、祠巡りの最初に魔力奉納をする祠と同じポイントになり、その他の場所にいた生徒たちは、一つの祠の奉納するよりやや少ないポイントに留まった。

 早朝と夕方で差があるのか確認できなかったけれど、教会関係者たちの日中の魔力を使うお勤めまで考慮されているのだろう。

 一回の礼拝が一つの祠に奉納する魔力の量ということは、参拝者の体に無理のないようになっている。

「ああ、教会に籍を置いていない人間に一年間試してもらったらどのぐらい魔力量が増えるのか、興味深いよね」

「毎日祝詞を唱えて魔力奉納をしているから、ご加護もたくさんもらえそうだよね」

「平民の子が寄宿舎に入っても、礼拝では個人の能力を超えて魔力奉納をすることもなさそうなのに、何で平民の寄宿生は成人前に亡くなってしまうんだろう?礼拝以外に何かキツイお勤めがあるのかな?」

 ウィルとのボリスの話を受けてロブが疑問を口にした。

「そう言ったことは部外者にはもれないものだよ。……ああ、寮長。この結果も手紙につけてください。魔力の多い人を七大神の位置で礼拝すれば一度に多くの魔力を奉納できるでしょう。魔法学校生の伸ばしてあげたい生徒に担当させるのもいいでしょう。ですが、教会の寄宿生たちは学校が始まるまでの期間は祠巡りをするのも良いかもしれませんね」

 ジェイ叔父さんは礼拝所の床の魔法陣に七大神が関与していると思われることと、その根拠を具体的な数値を書き込んだメモを寮長に手渡しながら言った。

「そうか、教会内では魔法学校生同士として雑談ができたけど、ほんの少ししかできなかった。寄宿生たちが祠巡りをするようになれば、気軽に話しかけられるね」

 ぼくたちが喜ぶと、ばあちゃんの家で話を聞いていない寮長まで乗り気になった。

「それじゃ、明日の日中、魔法学校に行って、ジェイさんの復学を臭わせて学生名簿を閲覧させてもらうよ。寄宿舎生全員の名前を覚えられるほど優秀な頭脳ではないけれど、できるだけ覚えてくる」

「ああ。それでしたら魔術具をお貸しします。友人の作った自動筆記の魔術具を、ぼくたちで改良したものです。名簿を小声で読み上げるだけで書き写してくれる魔術具です。その場で書き起こせば不審がられるでしょうから、記述は寮に帰ってからにすればいいでしょう」

 ガンガイル王国上級魔法学校生徒会長イザークの中級学校卒業制作の自動筆記の魔術具の改良版をバージョンアップさせたものをウィルが寮長に貸し出した。

 これはもう文字起こしできるボイスレコーダーだ。

 スパイのロブが物欲しそうにしている。

「最低でも学年と人数と性別を確認してください」

 目力の強いロブに、全学年のを閲覧する、と寮長が頷いた。

 “……私が全部知っているのに、わざわざ足を運ばんでもよかろうに……”

 魔本が精霊言語で割り込んできたが、ぼくたちが教会に足を運んで知り合った寄宿舎から魔法学校に通う生徒たちの身元を、ぼくたちを過剰に心配する寮長が調べに行った、という公式な過程があると、今後何かと楽になるのだ。

 ロブはついでに寮長に調べてきてほしい生徒たちの名前を挙げると、寮長も興味を示した。

「キリシア公国のマリア姫以外の留学生と、東方連合国から、わざわざ初級魔法学校に留学予定の女の子か。初級から留学するなんてことはめったにないことだから、調べてみる価値はあるな。その子と同時に編入する東方連合国の子がいないかも合わせて調べておこう。編入生は入学式でも紹介されないからね」

 ロブと寮長が魔法学校で仕入れてくる情報について細かく打ち合わせをしている間に、ジェイ叔父さんが寮監に明日の早朝の教会見学がどうなったのか、と尋ねていた。

「早朝も夕方も教会見学は希望者全員で行くことになりました。全員が馬車で行くのも仰々しすぎるから騎士コースの連中は走ることになりそうです。早朝訓練みたいなものだと言っていますよ」

「夜明けに都市型の瘴気が残っているのなら、訓練どころか実戦になってしまうぞ」

 ジェイ叔父さんが危険性を指摘すると、寮監は頷いた。

「危険があれば、即座に寮に撤退します。念のために、祠巡りに参加してくれている冒険者たちに商会の方々が声掛けしています。早朝の街に異変があれば鳩の魔術具で知らせてくれることになっておりますよ」

 またしても商会の人たちが先回りして手配していた。

 利益の見込みがあるから動いているんだろう。

 早朝の中央広場が安全になったら、朝市でもやりたいのだろうか?

「みなさんも明日の早朝からお出かけになられるんでしたら、教会の魔法陣の研究はほどほどにして早くお休みになってくださいね」

 寮監に釘を刺されたが、スライムたちが撮影した画像をサッサと合成したい……。

 談話室の隅っこで、夕方礼拝の撮影に参加したスライムたちが、箱詰めされた水饅頭のように集まっている。

 スライムたちが撮影した画像を、どうやら精霊言語でぼくのスライムが集めているようだ。

 一匹一匹撮影した画像を重ね合わせる作業に時間がかかるだろうと踏んでいたのに、もしかしたらぼくのスライムが編集できるかもしれない!

 タイパの可能性に胸が躍る。

「明日の朝食はお弁当にしますから、希望するお弁当があれば食堂で予約してください!」

 食堂のおばちゃんたちが談話室にやって来て、自分たちも見に行くから、朝食は全員お弁当にする、と宣言した。

「お弁当を持参して中央広場で朝食会をしましょうか?」

 寮長の言葉に、商会の人たちが、自分たちの馬車で椅子とテーブルを運ぼう、と言い出した。

「中央広場の使用許可はどうなっていますか?」

「広場での飲食は禁止されていない。これだけの規模なら、注意されるかもしれないが、禁止されていないので処罰の対象にならんだろう」

 面倒事を一番嫌いそうな寮長が、憲兵に咎められる可能性があるのに強行しようと言い出している。

 寮監が気にしていた、本気になった寮長とはこういうことなのか。

 談話室はお祭りの準備でもするかのような騒ぎになっている。

 早朝輝く教会を見に行くだけなのに、なんだか大事になりそうだ。

 スライムたちがそれぞれの主人の元に戻ってきたので、ぼくたちは早めに寝るからと言って自室に戻った。


 ウィルとボリスが、ぼくと兄貴とジェイ叔父さんの部屋にそのままついて来た。

 亜空間で撮影した画像を見ようとしていたのがバレている。

「みんなが撮影した画像の同じところを重ねてぐるっと繋げる作業を、あたいが中心になって談話室でしていたんだよ。これが結構大変だったんだけど、みんな頑張ってくれたんだ」

 スライムたちはそれぞれ個人の能力に限界があり、ピンボケしていたり、長く画像を記録していられないスライムの途切れたりしている画像を、近くで撮影していたスライムたちの画像と重ねて、鮮明な画像に解像度をあげていたようだ。

 シロがソファーとスクリーンを用意した亜空間に移動すると、早速上映会を始めた。

 スライムたちの撮影は礼拝所の床と祭壇の魔法陣が既に輝いているところから始まっていた。

 跪く参拝者たちは床の魔法陣の輝きを受け黄金色に染まっており、壁の下から天井に向かって徐々に光が広がっていく。

「早朝礼拝の時より輝きが強いんじゃないかな」

「教会の建物は大きな魔術具だけど、今まで魔力奉納されていた魔力は結界維持だけに使われていたから、早朝礼拝ではまず建物の維持に使われたのかな?」

 ジェイ叔父さんとウィルが私見を話していると、ボリスが、あっと言った。

「祭壇の側から現れた精霊の一部が壁に収集された!」

 ボリスがスクリーンを指さして指摘すると、ぼくのスライムが少し巻き戻した。

 祭壇の側に現れた精霊がふわふわと礼拝所を漂いながら壁の魔法陣に触れてスッと消えてしまった。

「精霊たちは成長する過程で様々な選択肢があります。仲間たちと集まって妖精になったりするものもいますが、仲間内で妖精になると視野が狭くて、アネモネさんの妖精のようにお馬鹿なことをしでかしてしまいます。私もかつてそうでした。精霊たちは自分の感情で、色々な選択肢があるのにもかかわらず勢いで決断してしまいます。この精霊はこの美しい礼拝に感激するあまり、教会の一部になることを選択しました」

 妖精型に変身したシロの発言に驚いたのか、その容姿に驚いたのかはわからないが、ジェイ叔父さんとウィルとボリスがシロを見て仰け反るほど驚いた。

「「「シロの実体って!こんな姿だったのか!」」」

 三人にはシロが中級精霊なのは明かしていたが、この容姿は見せたことがなかった。

「……ジュンナさんをベースにジーンさんメイさん、キャロライン嬢を交ぜたような容姿……」

 ウィルの観察にジェイ叔父さんが噴き出した。

「もしかして、カイルに気に入られようとして、カイルの身近な女性の容姿を取り入れようとしたのか!」

 ジェイ叔父さんに事実を指摘されてシロは頬を膨らませた。

「だから言いましたでしょう。私にもお馬鹿な時代があったのです」

 シロが素直に認めると、みぃちゃんとぼくのスライムがゲラゲラと笑い出した。

「シロが中級精霊になる前の精霊時代に、あたしもずいぶん騙されたよ」

 みぃちゃんが感慨深げに言うと、三人は首を傾げた。

 みぃちゃんは精霊たちに煽られて洗濯機の魔術具で賭けをした昔話をした。

「精霊たちは起こるかもしれない未来の欠片を見ることができるのに賭けをしたら、あたしが勝てるわけないじゃない」

「必ずしも起こる未来ではないんですから、いかさまではありませんでしたよ」

「でも、公平性には欠けるよね」

 みぃちゃんの暴露に対して言い訳したシロに、ぼくのスライムがツッコミを入れた。

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