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嫉妬

「素晴らしい魔法陣ですね。床に広がる魔法陣は古代魔法陣を封じて重ね掛けしたもの、それに時を重ねるごとに魔法陣を横や上に広げていったようですね」

「ああ、そうだね。時代によって神々に祈る内容がずれていっている」

「雨乞いっぽい魔法陣の反対側に日照を求める魔法陣があるのも面白いですね」

 魔力奉納を終えて消えてしまった魔法陣のあった場所を指で示しながら、ぼくたちは感想を語り合った。

「チラッと見ただけで、そんなことまでわかるのですか?」

 魔法学校生に声をかけられると、ウィルは笑顔で言った。

「自分たちの興味がある魔法陣だけしか見えないですよ。例えていうなら、今この騒がしい礼拝所でも自分の悪口を言われたら聞こえるようなものです」

 例えがわかりやすかったので、話を聞いた魔法学校生たちが笑った。

「毎日朝晩こんな魔力奉納をしながら魔法学校に通っているなんて、尊敬します」

 一日に祠巡りは一周だけしかしないぼくたちが、真摯な気持ちを口にすると魔法学校生たちは照れたように頬を少し上げた。

 ぼくたちが魔法学校生とささやかな交流をしている間に、寮長とジェイ叔父さんが今日の教会側のぼくたちへの対応の代償として夕方の礼拝にも参加する権利をもぎ取っていた。

 教会の秘密の魔法陣をもう一度見れるのなら、今朝の出来事は笑い話として水に流すことに、ぼくたちも異存はなかった。

 夕方に再会することを魔法学校生たちと約束し、正面玄関に行くとアリスの馬車が待っていた。

 王族が乗る馬車ならもっと立派な馬を用意しろよ、と門番がこぼしたので、アリスの力量を見極められない門番は恥じた方がいい、とロブが小声で言った。

 旅路で盗賊被害に遭わないために馬車の外装は控えめにしている。

 十二人も乗る大型の馬車をポニー一頭で引いている時点でアリスが普通の馬じゃないことを見抜かないといけないよ、とロブに言われた門番は、ぼくたち全員が乗り込むのを見届けてから車窓越しのロブを見て、これは凄い馬車だ、と口を動かした。

 見栄を張って立派な馬車で乗り付けなければ、それ相応の応対を受けるということを、ぼくたちは実感した。


「朝食にカツカレー大盛りでポテトサラダにエビフライをつけるほど、大活躍してきたんだね」

 ボリスがぼくたちの朝食を見てそう言うと、ぼくたちは力なく笑った。

「教会側がどういった公式発表にするかわからないから、何とも言えないけれど、興味深い事象に遭遇したから、もう一回夕方の礼拝に参列するよ」

 焼肉定食大盛りに納豆と冷奴をつけたウィルが、壁面や天井の全面を撮影できるカメラがあればいいのに、と言うとジェイ叔父さんの瞳が輝いた。


 ぼくたちは、ばあちゃんの子どもたちと魔力奉納に行く班と、試験農場を見に行く班と、マルチアングルで撮影する魔術具を開発する班に別れて行動することになった。

 ビンスとロブが魔力奉納の検証に、ケニーとマークとボリスが帝都外の試験農場に、ぼくと兄貴とウィルがジェイ叔父さんの研究室で礼拝所を360度撮影する魔術具を開発することになった。

「そのマルチアングルとやらを駆使して撮影するための魔術具を夕方までに試作したとしても、魔術具や魔導師を嫌う教会で撮影許可をとるのは至難の技でしょう」

 ウィルが現実的な問題を突きつけるとジェイ叔父さんが笑って言った。

「無許可でバレずに撮影できるんだよ。寮長が夕方の礼拝の同伴者に使役魔獣の許可を取り付けたんだ」

 礼拝所の撮影は他人事だと思って魔獣カードで遊んでいたスライムたちやみぃちゃんとキュアとウィルの砂鼠もぼくたちのテーブルに寄ってきた。

「ああ、寮長が頑張ったんだ。うちの寮の使役魔獣たちが祠巡りで魔力奉納している実績があることを持ち出して、夕方の礼拝への参加を認めさせたんだ」

「あたしも参加して良いの?」

「もちろんだ」

 ジェイ叔父さんの返答に、日頃から打ち解けていない相手には鞄の中で潜んでいるキュアが喜びのあまり小躍りした。

「ああ。寮長は保護している飛竜の幼体から砂鼠まで多様な使役魔獣がいることを大司祭に伝えてある。七大神の祠に魔力奉納をしている魔獣たちならば使役者のそばにいる条件で参加可能だ」

 ウィルの砂鼠がみぃちゃんの横で飛び上がって喜んでいる。

 猫と鼠が仲良くしているのも面白い。

「魔術具を完成させたら、スライムたちが魔術具に変形してこっそり撮影することができるだろう」

「あたいならできるけれど、長期間記録を保持することができないから、帰ってきてから描き写してね」

 “……紙に描き残してくれたら私が永遠に保存できる”

 魔本がすかさず自己アピールをした。

 ……魔力にインクが載せられたらいいのに。

 水魔法を工夫すればできるかもしれない。

 マルチアングルカメラの制作をジェイ叔父さんとウィルに任せて、ぼくは特殊な紙とインクの開発を始めた。


 昼食は寮長が運んでくれた。

「進捗具合はどうなっていますか?」

「できたにはできたんだが、問題がある。礼拝所で様々な場所から撮影できれば、全てを撮影できるんだけど、俺たちが一か所で纏まって魔力奉納することになるだろうから、死角ができるんじゃないかな」

 ジェイ叔父さんがメモパッドに礼拝所の図を描いて、ぼくたちが魔法学校生たちの後ろで魔力奉納をしたら死角で撮影できないだろうと思われる箇所に印をつけた。

「なるほどね。あちこちから撮影できれば、それを重ねて礼拝所に描かれている全ての魔法陣を記録できるのか。スライムが魔術具に変身できるのは知らなかったけれど、使役魔獣の参拝の許可を取っていて良かったな。教会で魔力奉納をしたら魔獣たちにもご加護があるかもしれない、くらいにしか考えていなかったんだ」

「何も知らずに許可をとったからこそ、許可が下りたのかもしれません」

 ウィルがそう言うと寮長が頷いた。

「そうだな、物のついでにという感じで願い出たのが幸いしたのかもしれない。ああ、いい事思いついたのに、話を詳しく聞いてしまったから、大司祭にさり気なくおねだりできないかもしれない……」

 寮長はぼくたちが礼拝所の中でバラバラな位置で魔力奉納できれば、スライムたちを色々な個所に配置できる、と興奮して言った。

 それはぼくたちだって気が付いていた。

 どうやってベストポジションに分散するかを悩んでいるのだ。

「さり気なくできないのでしたら、堂々とおねだりしてもらえませんか?」

 ウィルは市民カードをひらひらさせてぼくたちに見せた。

「早朝礼拝は結局二回もすることになったじゃないですか。ポイントもだいたい祠巡り二回分くらい増えていたんですよ」

 早朝礼拝でポイントが付くと思っていなかったので、ぼくは確認していなかった。

「外国人だからかな?ガンガイル王国の教会で魔力奉納をしたときにポイントはつかなかったよね」

 “……ご主人さま。ガンガイル王国の教会での魔力奉納は飛竜の里だけです。皆さんは教会建設時に深くかかわってしまっていたので飛竜の里では教会関係者扱いになっていました”

 教会ボランティア扱いでポイントがなかったのか。

「私は王族が護る結界に魔力奉納をしてもポイントがつかないけれど、帝都で祠巡りをしたらポイントが付いた。ポイントはその結界の責任者から支給されているから、帝国の教会では客人扱いだったということだろう」

 寮長がわかりやすく説明してくれて助かった。

「今まで教会で奉納した後に一々確認していなかったからよくわからないですね。自分たちの所属する教区の教会以外で魔力奉納をするとポイントが付くのでしょうか?」

 旅の途中で立ち寄った教会では祠巡りもセットになっていたので、一日の魔力奉納の合計ポイントしか気にしていなかった。教会でポイントを貯める発想がなかった。

 ウィルも偶々気付いたらしい。

「一番魔力奉納が多いのは闇の神の祠だ、と決めつけていたので、最近の自分の魔力奉納のポイントの細かい変化を気にしていなかった。……そうか!自分たちを被験者にすればいいのか!」

「ご明察!」

 ぼくが気付くとウィルが頷いた。

「早朝礼拝から察すると、礼拝所での魔力奉納の量は七大神の祠一つ分の魔力量を奉納することになるから、それを個人の魔力奉納の量の基準として、魔法陣が仕込まれている礼拝所の場所によって魔力奉納の量に差があるか、検証させてもらえばいいのか!」

「教会関係者にはポイントがつかないならこの検証は部外者しかできないということになるな」

 ジェイ叔父さんの指摘に寮長が笑顔になった。

「ああ、魔力奉納の量を私たちと教会関係者たちで比較することもないから、嫉妬心を起こされずに済む。教会の上位者は上位貴族の跡継ぎになれなかった三男や分家の次男が多いんだ。貴族籍を保持しているというだけで妬む対象にされてしまう」

 寮長は大司祭がぼくたちに嫌がらせをしたのは、上級貴族への嫉妬心があったからではないかと勘繰っていた。

「私は王族だからそこそこ魔力量は多いし、ウィリアム君は公爵子息というか、旧ラウンドール王国の王家の子孫だ。カイル君もジェイさんも平民ではあり得ないほどの魔力量があるから、下手したら大司祭より魔力量が多いかもしれない。身の丈に合わない地位を得たら心が荒むものだ」

 寮長の大司祭への評価が酷く低い。

「いくら何でもそれはないだろう」

 ジェイ叔父さんが、自分より大司祭の方が魔力量が少ないなんてことはない、と否定すると寮長は首を横に振った。

「あの規模の教会で扉の施錠を手動でするなんて、建物に対して魔力が明らかに足りていない証拠だ。中央教会の人数を考えたら、一人一人の魔力量が少ないのだろう。ああ、教会内で使用できなかった建物に付属している魔法を、私たちが奉納した魔力で今頃使えるようになっているだろうな。集団で魔力奉納したから、私たちの中で誰の魔力が一番多かったかは教会関係者たちにはわからないはずだ。礼拝所での魔力奉納で増えたポイントは、比較する祠の名前のみにして実際の数字を公表しないようにしないといけないよ」

 寮長の忠告にぼくたちは頷いた。

「午後は帝都内の祠巡りに行ってきます。自分の魔力奉納量を正確に把握しに行きます」

 外出許可を目の前の寮長に求めると、馬車の手配が間に合わない、集団で行動しろ、と言われたが、アリスの馬車は領都を出たボリスたちが使用しているし、他の生徒たちは午前中に魔力奉納を終えてしまっている。

「ぼくたちは騎士コースも受講済みの冒険者で、飛竜の幼体もいますから自分の足で走ります!」

 ウィルの主張に寮長も渋々頷いた。

あとがきで告知させていただきます。

この度、GAノベル様から2024年8月9日に『ぼくの異世界生活はどうにも前途多難です。』第1巻が発売となります!


書籍化にあたり、プロの編集者の方々のお力でとっても読みやすい文章に生まれ変わり、イラストレーターの戸部淑先生によるとっっっても可愛いイラストで彩っていただきました!

ページ下部に一巻表紙イラストを掲載しております。是非ご覧ください!


こちらの連載もまだまだ続きます。

書籍、Web版共にこれからもよろしくお願いします!

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