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嫌がらせ?

「これをこのまま祭壇に祀ればいいのではないでしょうか?」

「場所をとらない、という意味ではその方がいいでしょうが、魔術具と魔法で二重に圧縮している供物を祭壇に上げるのは……、そうですね、例えば、あなたの朝食が銀の装飾の美しいクローシュに覆われていたとして、その銀の半球体の蓋が自分に提供される時には開けられる前提だということを、当然想定していますよね」

 教会関係者は当然だと頷いた。

「それでしたら、同じことです。奉納する供物が収納の魔術具に入ったまま祭壇に上げてはいけないことが想像できますよね」

 畳みかけるように寮長が言うと、当たり前だと教会関係者が頷いた。

「そうでしょう。祭壇の前で魔術具から出すとちょっとした騒ぎになりますよ。バッファローの角や皮は貴方が考えているより大きいのです。まあ、昨日連絡していますから、祭壇の前は開けてくれているでしょう。ただ、実は今朝オレンジがたくさん採れたもので、それもお供えしてほしいのです。ですから、今ここで供物の内容を確認された方がよろしいですよ」

 予定時刻より早く叩き起こして暗記してもらったセリフをよどみなく言えた寮長が微笑んだ。

「ああ……、話が分かる人を呼んでください。決してあなたを軽んじるつもりはないのですが、魔術具に上級魔法がかかっている状態をご理解なさっているようには見えない。上級魔法とは創意工夫の魔法なのです。カイル、アレを」

 台本通りにジェイ叔父さんが言うと、ぼくは魔法の杖を出してジェイ叔父さんに手渡した。

 収穫したオレンジを収納の魔術具に入れて圧縮した時、これを教会で祭壇の前で披露したら揉めるだろう、面倒事は大人が対処すべきだ、とジェイ叔父さんが言い出し、ぼくの魔法の杖にジェイ叔父さんの魔法陣を描いた極小の魔石を仕込んでおいていたのだ。

 ジェイ叔父さん同様に小芝居をしている寮長は、ケニーとロブを呼んでサイコロサイズの魔術具を二人で持つように仰々しく指示を出した。

 二人は向かい合い、お互いの右手の親指でサイコロサイズの魔術具を挟み、実寸大になったときに魔術具の下を落とさないよう中腰になり、何もない空間に左手を出した。

 大げさな二人の様子に教会関係者は鼻を鳴らしたが、ジェイ叔父さんが魔法の杖を一振りすると収納の魔術具が大型の旅行鞄の大きさに戻った。

 教会関係者は腰が抜けたかのようによろめいた。

「……?!しっ……司祭に話を通してまいります!!」

 慌てて踵を返すとよろけた教会関係者を笑わないように、ぼくたちは顎をグッと引いて堪えた。

 人手が必要になるなら手伝おうと残っていた魔法学校生たちがクククっと息を殺したように肩を揺らした。

 ジェイ叔父さんは魔法の杖が気に入ったようで、待っている間に何度も振り、魔術具のサイズを変えて使用魔力量を確認するかのように検証した。

 サイズが変わるたびに押さえているケニーとロブが慌てている。

 こういうところが父さんの弟らしいんだよな、と思っていると、兄貴も同じように苦笑していた。

 そうこうしていると急ぎ足でやって来た司祭服の男性がジェイ叔父さんの奇行を見て、自分を呼びに来た教会関係者を褒めた。

「礼拝所は魔法陣を使った魔法を行使する場所ではなく神々に祝詞を捧げる場です。その怪しい魔術具の使用は認められません!」

 教会での魔法の行使は祝詞で行う魔導師が主体になるから、祭壇の前で魔法陣のみで魔法を行使する上級魔術師は教会の権威に固執していそうな中央教会では嫌われるだろうと予測していたので、この台本が出来上がったのだ。

「ですから、というか、供物の内容を事前にお知らせしていたのに私たちを裏口に案内した挙句、大きな供物を運び入れる人員を用意していないということが、私たちには不思議でなりませんね。供物の搬入は駐車場にいた人もこの裏口の扉にいた人にも伝達されていませんでしたよ。ああ、自分たちで担いで来いということでしたか。北の外れの王国は中央教会では辺境扱いで歯牙にもかけてくださらないのですね」

 寮長は王族の身分を振りかざすことなく、神々への供物が裏口から搬入しなければならず、魔法を使うことも許されず自分たちで担いで来いと言われてしまうのは、自分たちがしがない地方出身だからだと大袈裟に嘆いた。

「帝国に入国してからも各地の安寧を祈願して教会で祈りを捧げてきたぼくたちの巡礼の旅は、帝都の中央教会には何の意味もない子どもたちの戯れでしかなかったのですね」

 超絶貴公子の冷笑を浮かべたウィルが嘆くと、慌てて駆けつけてきた司祭がそんなことはない、と首を横に振った。

「ガンガイル王国の留学生一行様が旅路の途中で各地の教会で寄進されていたことは、この教会でも伝え聞いておりま……」

 その巡礼の旅の締めくくりである中央教会での礼拝が裏口からの早朝奉納への参加、という矛盾点に直面した司祭が口を閉ざした。

「これが帝都の中央教会の一般参列者の公式な作法なのでしょうね。いやはや素晴らしいですね。帝国の貴族たちは神の前ではただ人でしかなく、神学を学ぶ魔法学校生の後ろから身を低くして参拝するのが正しい参拝方法だなんて、田舎者故知りませんでした」

「そうでしたか……、これはまた無作法で申し訳ないです」

 寮長とジェイ叔父さんはお騒がせしました、と司祭に頭を下げるとぼくたちに向き合った。

「魔法学校ではくれぐれも神学を学ぶ生徒たちを立てるように、廊下ですれ違う時は必ず端によって頭を下げるようにしなさい」

「王族でさえ後ろからついて行かなければならない、徳の高い方々です。粗相のないようにしてくださいね」

 ぼくたちへの扱いが酷いと憤慨した寮長とジェイ叔父さんは台本にないセリフを加えて芝居を続けた。

「わかりました。気をつけます」

 ウィルが芝居に付き合いうやうやしく言うと、司祭や教会関係者たちが狼狽えた。

「教会の建物の中で魔法陣を起動させるのは失礼でしたね。ここで供物を取り出してしまいましょう」

 ジェイ叔父さんがそう言うと、残りの二つサイコロサイズの収納の魔術具を元の大きさに戻したので、ぼくたちは落とさないようにみんなで支えた。

「収納の魔術具を開けるともっと大きなものが出てきますよ。身体強化をかけないと運べません。私たちが祭壇まで運びましょうか?」

 司祭は首を横に振り、控えていた教会関係者数人に運ぶように命じた。

 バイソンの皮は重く四人がかりでなんとか箱から取り出した。

 角は二人ががりで運び、オレンジに至っては魔法学校生が総出で運び込むことになった。

「……これほどたくさんの供物をありがとうございます。本来供物は教会の正面から運ばれるものです。参拝者も正面玄関から入ります。今日は開門前の早朝礼拝へのご参加ということでこういうことになってしまいましたが……」

 司祭は教会の開門前だから不手際ではないことが、本来とは違うことを説明した。

「いえ、裏口に案内されて教会関係者の皆様の後方から参拝するように、ということでしたら私は王族ですが自分の身分は気にしません。かまいませんよ。時間をとらせてしまって申し訳ないですね。祭壇の間に案内してください」

 寮長は司祭の言い訳を遮って儀式に参加させろ、と促した。

 供物だけ奉納しにきたのではないので、中に入れてほしい。

「あのですね、こちらからの通路は一般の方々は進入禁止の場所を通ることになるので、正門の方に一度お周りになってそちらからお入りになってください」

 司祭の言葉に温厚な顔のまま寮長は激怒した。

「この大きな教会をぐるっと回っているうちに早朝礼拝が終わっているなんてことはありませんよね。そのようなことになれば、私は帝都の中央教会は礼拝の許可を出しながら認めなかった嘘つきだと教会の総本山に提訴いたします」

「いえ、当教会はキチンとご招待したのに遅れたとしたら参拝者の責任です」

 そうか!

 そうきたか!!

「間に合わせましょう。ジェイ叔父さん。収納の魔術具をしまってください。残りのオレンジはぼくたちが運びましょう。教会建物の外で魔術具や魔法を使うのはかまわないのですよね」

 司祭が頷いたので、ぼくは収納ポーチから空飛ぶ絨毯を取り出した。

「正面玄関の扉が開いていなければ、教会がぼくたちを締め出しているに違いないということですね」

 ウィルはそう言うと空飛ぶ絨毯に飛び乗った。

 ぼくたち全員が素早く絨毯に乗ると、教会関係者の顔色が変わり、一人が奥へと走り去った。

 ぼくは負けて堪るか、と絨毯を急上昇させて教会の建物を飛び越え、正面玄関前に着地させた。

 急上昇と急下降と初めて体験した寮長とジェイ叔父さんに回復薬を手渡す間に、ウィルが正面の大きな扉に手をかけて鍵がかかっていることを確認した。

「締め出していますね。これは完全なる嫌がらせです」

「録音したから証拠もばっちりです」

「どうしてこんなみみっちいことをするのかな?」

「中央広場で精霊たちを出現させたのが面白くなかったのかな?」

 侮辱されたことが決定的になったので、みんな我慢をせず言いたい放題になった。

「教会を締め出された記念写真でも撮ろうか」

 ぼくが提案するとみんなも賛成した。

 ぼくのスライムがカメラを構え、大きな扉の前にみんなで並び、扉が開かないことを示すように片手を扉にあてて記念写真のポーズをとった。

 スライムが連射で撮影している最中に扉の鍵が開く音がしたので、ぼくたちは押さえていた手を離した。

 手を離しそびれた寮長が、扉が開くとそのまま倒れ込んでいくのが記録されてしまった。

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