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望外の支援

「川沿いの熊の縄張から南西に帯のように被害地が流れているから、次はこの村が襲われることが濃厚ということか」

 ギルド職員の言葉に合わせ、ぼくのスライムがメモパッド上の次に襲われる村の箇所に光をあてた。

 お前賢いな、人間の言葉がわかるのか、と冒険者たち褒められると、スライムたちがミラーボールのように光を反射させた。

「やり過ぎだって」

 ウィルが自分のスライムを撫でると、嬉しそうに自らスリスリする姿に一様いちように和んだ。

「この村は今日にも魔術具が売れるはずだから、間に合うと良いなぁ」

 ぼくのスライムが光を当てた村はもんじゃの村長の娘さんの村で、今頃、村長が持参した小鉢の検証を何度もして、土壌改良の魔術具を売り込んでいるはずだ。

 見込みがある状況だからウィルの声も明るい。

「もう先回りして対策しているのか!」

「偶々だよ。この五芒星上に強化した村の関係者がいる村だから、優先的に魔術具を販売するだけだよ」

 ギルド職員は深く息を吐いた。

「お前たちの偶々は、正直恐ろしいぞ。荒くれものが多い冒険者の中で、この植物採取に応じた冒険者たちは思慮深い判断ができる者たちばかりだ。……いや、荒くれものたちが依頼を受けた川沿いの熊の連中も、お前たちは手懐けてしまったんだろう?」

「手懐けたというか、依頼を受けてもらっただけだよ。あの人たちはとにかく臭くて、あれでは熊に近づいただけで気付かれてしまうんじゃないかと思ったけど、清潔を徹底してもらって美味しいものを一緒に食べたら、仲良くなったよ」

 あいつらが清潔になった!飯で手懐けるなんて、どんだけ美味い飯なんだ!と冒険者たちは色めきだったが、他にどの村で売れそうなんだ、ギルド職員は話を進めた。

「売れそうな村はこの辺りだけど、希望としては東に向かって流れていきそうな死霊系魔獣をこの辺りで止めたいかな」

 伝手はないかな、と冒険者たちを見回したが、誰も目を合わせてくれなかった。

 ギルド職員は肩を震わせて、訳ありな連中ばかりだからたとえ地元でも帰りにくいんだろうな、と言った。

 帰りにくい!?

 伝手がないわけではなさそうだ。

「まあ、この状況から読み解けることは、土地の弱ったところから、死霊系魔獣が発生し、徐々に大きくなりながら結界が弱い村を狙って襲っているようだな。その周辺に軍の諜報部員がいて、村が襲われると分隊を派遣して一日で収束させている、ということか」

 本人から申告はなかったが、軍の訳ありそうな諜報部員に帝国に入国してすぐ会ったなぁ。

 あっ!

 ぼくはドルジさんが諜報部員だということを知らないことになっているから、諜報部員という言葉に反応したことを隠すため、眉間にしわを寄せて、メモパッドを指でポンポンと叩いた。

「この植物採取の依頼は南部の飛蝗の被害にあった地域にも出しているのに、あっちの方は飛蝗の回収依頼まで出していたからもっと稼げるでしょう。何であっちに行かなかったの?」

 唐突な話題の転換にも拘らず、冒険者たちは苦笑した。

「虫が嫌いってのが一番の理由だが、いくら報酬が高くても、食いもんがないところに行くのはきついぞ。南部の難民問題は餓死者を死霊系魔獣にしないために、死にそうになったやつらを生きたまま燃やすって噂があるくらいだ。食いもんの確保に報酬の全てが消えるような場所にはいかないよ」

 冒険者の言葉に、南部の食糧事情の酷さにぼくたちは頭を抱えた。

「まあ、お前さんたちの土壌回復の魔術具に効果があれば、南部は冬でも作物が育てられるから回復するだろう」

「あっちの方が軍の派遣部隊も多いから配給だってあるはずだ」

 だろう、はず、では今苦境にたたされている人たちのお腹は膨れない。

 顔をしかめたぼくたちに、ギルド職員が、知らんのかぁ、と驚嘆した。

「ガンガイル王国の王家から冒険者ギルドに緊急依頼が出ているぞ。受付で騒ぎにならなかったか?」

「なんかあったの?」

 ぼくたちが素っ頓狂な声を上げた。

「南方の蝗害支援の物資を運ぶ冒険者を急募している。お前たちのへんてこなポニーが曳く馬車はずいぶん魔力を食うらしいな。魔力供給部隊として地区を分けて募集している。依頼内容が魔力供給と、提供する地区しか記載されていないので、可のレベルの冒険者たちがガンガイル王国との国境の町に殺到しているぞ」

 冒険者ギルドに入るなりざわついたのは、ぼくたちが話題のガンカイル王国出身者だったからで、ウィルが美少年だったからではないのか。

「たくさん集まっているなら、上手くいきそうだね」

「魔力が少ないなら、短期間で供給者を交代すれば一日に進む距離を稼げる」

 ぼくとウィルが頷きあっていると、冒険者たちが冒険者の可はピンキリなんだ、と溜息をついた。

「冒険者登録は、成人なら魔力量だけで認められるし、未成年なら魔力量と基礎知識、と言っても鶏を絞めれるか程度の知識で可として登録できるんだぞ」

 冒険者たちは駆け出しの可が何人集まっても使い物にならない、と口々に言った。

「一人一人が少なくても魔力備蓄の魔術具に供給してくれれば、人数さえいればいいんだよ。個人の魔力量は関係ない」

 ぼくは両手を上げて万歳の姿勢で泣き笑いした。

「アハハハハ。仕事が少なくなった冒険者を集めるだけ集めるのか。国境の町ならガンガイル王国と交流もあるから、急激に増えた冒険者分の食糧を融通することは簡単にできる。……こんな案は思いつかなかったよ。まだまだハルトおじさんには敵わないな!」

 ウィルも涙目でぼくの肩を叩いた。

「ああ、良いところを全部掻っ攫って行かれた気がするけど、それが大人の余裕なんだね。ぼくたちが気にしつつも放置していたところを全部補っていくんだ」

「絶対できないと思っていたよ……」

 ロブの目にも涙が光っていた。

 ぼくたち三人が円陣を組んでお互いの肩を叩いて、旅路の最初から押し殺していたやるせなさに一条の光が差したことを喜んだ。

 スライムたちはぼくたちの頭の上に乗り、やったー、と触手でガッツポーズをした。

 ロブの頭の上には、空気を読んだみぃちゃんのスライムがいた。

 ぼくたちの歓喜についていけない冒険者たちが、何でそうなるんだ、と口々に疑問をぶつけた。

「国を出る前から、南部の難民の話は聞いていたんだ。今そこに困窮している人たちがいるのを知っていながら、自分たちの安全な旅路のために、問題のある土地を避けて旅を続けてきた。目の前にある問題を、見ないようにして通り過ぎていたんだよ……」

 ぼくが言葉を詰まらせると、その先をウィルが引き受けてくれた。

「見なかったことにしても、その土地で苦しんでいる人たちの問題が消えてしまう訳じゃない。できることしかできない、自分に言い聞かせてきたんだ」

 ぼくたちの言葉に、冒険者たちが俺たちも同じた、と項垂れた。

「ぼくたちは安全なところから、何かしら魔術具で支援できないかと模索することしかできなかった。……だって、ぼくたちの旅路の食料を分け与えたって、圧倒的に足りないのがわかっているから、南部の食糧支援は何もできなかった。本当はみんな見捨てたくなかったんだ!」

「ガンガイル王国では今、絶賛農業革命中で、魔力や肥料による土壌改良、魔術具による労働力の軽減でかつてない豊作が続いているけれど、国土の面積と冬場の生産性の少なさで、とても帝国の被災地全域に支援はできない。できないことを言いだすべきではない、と誰もが忸怩たる思いでいたのに、ここにきて、本国の王家から援護射撃が来たんだもん。泣けてくるよ」

「その道筋を作ったのが、お前さんたちじゃないか!」

「土壌改良の魔術具のお蔭で、一時的な食糧支援で凌げる目処がついたから、大胆な食糧援助に踏み切れたんだろうな」

 子どもながらによくやった、と冒険者たちはぼくたちを褒めた。

 焼け石に水の状態では、いくら援助をしても現地の人たちに不満が募るし、追加の援助が途絶えると両国間に軋轢が生じかねない。

 自活の道があるからこそ短期的な支援に効果がある、ということか。

「飛蝗を集めてやっつける画期的な魔術具も、お前さんたちが絡んでいるんだろう?技術提供をしたガンガイル王国は現地の惨状を憂いた緊急支援として、帝都や皇帝陛下を通さずに直接現地に支援物資を届ける、大義名分を得たんだ。お前たちが南部に希望と支援をもたらした使者だ」

 ギルド職員がよくやった、とぼくたちの肩を叩いた。

「俺もな、半信半疑だったんだ。ガンガイル王国の留学生一行の魔術具が素晴らしい、とはいっても、同行している商会がやり手の商会だから売り込みが上手いんだ、と考えていたんだ。だが、どうだ。お前さんたちは本当に珍しい魔術具を研究して制作しているし、量産化もしている。目の前で見なかったら信じられなかったよ」

 ギルド職員が侮っていて済まなかった、と謝罪すると、俺たちも同じだ、と冒険者たちも続いて謝罪した。

「ぼくたちが魔術具を広く販売できたのは、商会の人たちの尽力があってのことだし、帝国ではまだ実績のない一留学生でしかないのだから、そう思われるのも当然だよ」

 笑顔でウィルがそう言うと、一人の冒険者が体を震わせた。

「ああ、こんな子どもたちが、いや、賢い子どもたちが画期的な魔術具を作って世の中のために頑張っているんだ。これでも俺は秀の冒険者だ!行ってやるよ、東の村々に。たとえそこは死霊系魔獣が集まる世界一の危険地帯になると予見できても、俺が行って被害を防いでやる!」

 震えていたのは武者震いだったのか、今は顔を紅潮させていきり立っている。

「ああ、西に行くのは駆け出しの可でいいなら、俺たちは危険の真っただ中の東に行くぞ!」

 おおーと冒険者たちが乗り気になった。

「片付けてから、事務室で詳しい話を商会の人たちから聞こうよ。土壌改良の魔術具は販売の仕方次第で販売手数料が高額になるんだ。売れば売るほど高額報酬!危険手当がつくように、ぼくも交渉するよ」

 おおおおお!

 冒険者たちはぼくの言葉に歓声を上げた。


「東方の村々への魔術具の販売をこちらの冒険者の方々が、引き受けてくださるのですか!話が早くて助かります」

 各ギルド長に相談していた販路拡大のルートで、東方を担当したがる者がいないのでは、という懸念が解消した商会の代表者は満面の笑みになった。


「カイル、食材用の収納の魔術具は持ってきているかい?」

 商会の人たちが冒険者たちに詳細を説明している間に、ぼくたちが七大神の祠巡りをしていると、ベンさんに声をかけられた。

「ありますよ」

「ちょっと買い物に付き合ってくれるかい」

「いいよ。何を買うの?」

「米麺と魚醤だよ。知り合いに頼んで仕入れてもらったんだ」

「一から作るんじゃなくて既製品にするんだ」

 ウィルが意外だという顔で言った。

「手持ちの米ではなんかピンと来ないんだ。米の種類が違うんだから仕方ないだろ!」

 夕食は米麺だ!

 フォーもいいけど、ビーフンもいいな。

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