スぺパ?
「キャー!お待ちしていました。ガンガイル王国留学生御一行パーティーの皆様。早速ですがご依頼の品をお受け取りください♡」
冒険者ギルドに到着すると、受付から歓声があがり、なんだなんだと、ちょっとした騒ぎになった。
ギルド長二名を連れて来たからか、と思ったが、持ち込まれた終末の植物が多く、保管庫を占拠しているので早く引き取って欲しかったらしい。
いや、それも違ったか?
保管庫に案内する受付の女性の視線がウィルに釘付けになっている。
ぼくたちは見慣れているが、ウィルは超絶美少年だ。
ギルド長たちがついてきているのも気にしない受付の女性と違い、他の職員が慌てている。
ゾロゾロとその場にいた冒険者たちまでついて来たので、保管庫に着くころにはかなりの人数になっていた。
「引き取りに来てくれたのはありがたいけれど、とてもこの人数では運べない量が集まってしまったんだ」
収納庫で作業していた大男のギルド職員がため息をつきながら言った。
収納庫の半分を占める終末の植物は発芽しており体積ばかり大きくなっていた。
「嵩ばかりあるだけで大した量じゃありません」
「全部買取ますから潰していいですか?」
ぼくとウィルがそう言うと、商会の代表者も頷いた。
「あの価格で全部買い取ってくれるのか!業務に差し障るので、買い取りを停止していたんだ」
「ああ、それは残念だ。これは浄水の魔術具の素材に使うから、今のところ需要がありそうだからいくらあっても足りないくらいなんだよね」
ぼくの言葉に、後ろからついてきていた冒険者たちが色めきだった。
「これを買い取ってもまだ足りないのか!」
「消耗品の部品に使うから、今のところはあるだけ買ってもきっと足りないかな」
冒険者たちが追加の終末の植物を取りに行こうと踵を返すと、人口密度が急に下がった。
「膨大な量が持ち込まれるぜ。品質の確認はしなくていいのかい?」
大男の冒険者ギルドの職員は、断った数量がこれより多いからとランク分けして値段を決めた方がいい、と忠告した。
商会の代表者はぼくたちを見て、任せておけ、と余裕の笑みを見せた。
「最高品質なものなんていらないのです」
農業ギルド長と商業ギルド長が怪訝な顔をした。
「この植物の生態をご存じですか?これは最高品質にしてはいけないものなのです」
大男のギルド職員が、ああ、と声を漏らして俯いた。
これだけたくさんの終末の植物が成長したということは、急激に土地の魔力を失い一気に発芽した場所がある、ということに他ならない。
「土地の魔力が低くなったら地表に現れ、他の生物の魔力を奪って発芽する……」
ロブが小声で言うと二人のギルド長が無言で頷いた。
「土地の魔力が少なくなってから急速に成長するこの植物の最高品質なものに、利用価値があったとしても最高価値をつけてはいけないのです」
「ああ、これで発芽したものの方が種より高くなれば、より稼ごうとするなら育てようとするものがでてくるだろう」
ギルドの職員の言葉にギルド長たちは頭を抱えた。
「発芽したものも使いますが、種でも十分です。ただ、発芽したものに価値がないとしてしまうと放置されてさらに成長してしまう。この植物は成長すると根を切って風の赴くままに転がって、種を撒き散らかす厄介者なのです」
「そいつは種のうちに駆除する方がいいのは間違いない」
ウィルと冒険者ギルドの職員が話し込んでいる間に、魔法の杖を一振りして風魔法で収納庫の終末の植物を圧縮した。
種と成長した植物とを分けて圧縮したら、どちらもミカン箱一つ分くらいになっていた。
「これで運べますね」
「圧縮した分見た目以上に重いぞ」
ギルドの職員が圧縮された終末の植物の塊を一つ持ち上げて言った。
「宿まで運んでやるから、もう少しここに残っていてくれないかい?今まで買取を拒否された冒険者たちが持ち込んでくるはずだ」
「そこら辺の隅っこで作業させてもらえるなら構いませんよ」
ぼくがそう言うと、商会の人たちとベンさんは代金の清算と今後の相談をするために、ギルド長たちを連れて事務室に戻った。
商会の代表者は旅路の相談を兼ねて魔術具の円滑な販路拡大を狙っている。
「本当にお前さんたちが作っているんだな」
収納庫の隅を借り、ロブが素材を計量して並べ、ぼくとウィルが錬金術で浄水の魔術具の部品を作っていると、ギルド職員は自分の仕事を放置してぼくたちの作業を眺めていた。
「浄水の魔術具本体を一人で作るより、部品を分担して作った方が効率よく沢山生産できるし、足りない素材の部品だけ残しているから、今日中にこの町の需要分くらい作れそうだよ」
出来上がった部品をスライムたちが検品して合格が出たものを収納袋に入れながらロブが説明した。
「やたら可愛くて賢いスライムだな」
ギルド職員の言葉に、鞄やポーチに潜んでいるキュアやみぃちゃんがむくれるように体を揺すった。
「ああ、ホントだ。まだいたぞ!」
「これも買い取ってくれるのか!」
戻って来た十数人の冒険者たちが背負子に満載した終末の植物を持ってきた。
すべて成長した終末の植物だったので、ぼくたちの顔が曇った。
「やっぱり多すぎて買取できないのか!」
あせった冒険者の一人が値引きしてもいいから買い取ってほしい、と申し出た。
抜け駆けするな、と小競り合いが起こると、ギルド職員が一喝した。
「金の話は事務室でしろ!」
冒険者たちはここに子どもしかいないことに気が付くと、すまなかった、と謝罪した。
素直に謝ったのはギルド職員が放った一喝に若干の威圧が込められていたからだろう。
冒険者たちより強そうな職員だ。
「全部買い取るから、重量を測って置いていって」
「おいおい、あれほどあった在庫は……」
ロブが作業の手を止めることなく言うと、冒険者たちは収納庫に山済みされていた終末の植物がなくなったのは運び出されたからではなく、ぼくたちが何やら怪しい部品を作って消費してしまったことを理解したようで、狼狽えた。
「作業の手を止めることになって済まないんだが、こいつを圧縮してくれないか?嵩が小さくなった方が重さをはかりやすい」
ギルド職員に声をかけられてぼくたちは作業の手を止めた。
「いいですよ」
ぼくが魔法の杖を一振りして手前の男が背負子から下ろした終末の植物をおにぎり一つ分に圧縮すると、おいおいおいおいおい、と小さくされた冒険者が慌てた。
「圧縮しても乾燥させたわけじゃないので重量は変わりませんよ」
ぼくはまだ圧縮していない背負子の終末の植物をばねはかりに吊るして、重さを記録した後、圧縮をして重量を比較して見せた。
「乾燥させた後、圧縮した方がもっと小さくなるのですが、買取価格が変わらないようにしただけです。圧縮した後、水気を抜けばいいだけですからね」
最初に圧縮した終末の植物に魔法の杖を一振りして水気を飛ばすと、もう一度ばねばかりにかけた。
「……軽くなっている」
「小さくなった方が計量も楽だし場所も取らない。俺の仕事が早く終わる。お前らだって一度で運びきれなかった分があるんだろう?サッサと取りに行けよ」
冒険者たちは納得すると我先にとぼくに圧縮を頼んだ。
ぼくが圧縮してギルド職員が計量し、ロブが記録をとり、ウィルが乾燥させる流れ作業であっという間に持ち込まれた終末の植物の計量を終えた。
「お前さんたち、うちで働かないかい?」
「「「帝都に留学に行く途中なのでお断りします」」」
「そこまで出来て、何を学びに行くんだ!もうすでに上級魔術師レベルだろう!」
ギルド職員の勧誘をきっぱりと断ったぼくたちに、呆れた口調で冒険者の一人が言った。
「冒険者としてはまだ優だし、魔法学校でも年齢制限がある単位は履修していないよ。まだまだ学ぶことだらけだよ」
ウィルの軽い口調に、エリート魔法学校生は言うことが違う、と冒険者たちが首を横に振った。
「早く次の分を持ってきてください」
ロブが淡々と言うと、ああそうだった、と冒険者たちが戻って言った。
同様の計量を三回繰り返す間に、ぼくたちは浄化の魔術具を組み立てていった。
最後の計量を終えた冒険者たちは事務室に支払いを求めに行かず、ぼくたちの作業に見入っていた。
「はー、すごいな。組み立てる順番も頭の中に入っているのか!」
「自分たちで設計したからね」
ウィルがそう言うと、ギルド職員と冒険者たちが感嘆の声を上げた。
「うひゃー、顔良し、頭良し、魔力量良し、でもって、きっと家柄もいいんだろう。将来明るいな!」
冒険者の一人がそう言うとぼくたちは顔を見合わせた。
「明るい未来にするためには、こんな買取がなくならないといけないよ」
「そうだね。この量は尋常じゃない。それだけこの近隣で一気に荒廃した地域があるっていうことだもんね」
「荒廃した土地があるということは、巡り巡ってぼくたちの生活に影響を与えることになるもんね」
「ああ、お前さんたちはこれから数年間も帝都で暮らすんだもんな」
ぼくたちが遠回しに他人事じゃない、と言ったことをギルドの職員は真摯に受け止めてくれた。
「村一つが突然無くなるなんて、こんなことが続けばいずれ帝都の周辺は砂漠化してしまうだろうな」
国籍豊かな冒険者たちは、村人たちが明言しなかった村の消滅についてポロっと口にした。
ギルド職員が眉をひそめたので、ぼくは魔法の杖を一振りして内緒話の結界をはった。
「ああ、ありがたい。別に帝国批判をしたいわけじゃないが、帝都に向って旅をするお前さんたちに高値で素材を買い取ってくれた礼に、こいつをどこで採取したかくらい話してもいいだろう?」
「ああ、いいもんを見せてもらったし、小型の浄水の魔術具を優先的に販売してくれるなら、この辺りの状況を話すのはやぶさかではないさ」
冒険者たちは皆が全く違う場所で終末の植物を採取してきたことを語り始めた。




