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子どもの好奇心

「耐久性を気にしないで量産型にすればいいんだから、小さい植木鉢は土魔法が使える冒険者たちが作ればいいんだよ。ぼくたちは転写用の魔法陣を描いた紙を用意して、冒険者たちの作った鉢にしか転写できないように仕掛けをしておけばいいんだ」

 冒険者たちには村の外側の魔法陣に魔力を注げるようにみぃちゃんのチャームを持たせている。

 そのチャームが鍵となって魔法陣を転写することができるようにしておけば、鉢も魔法陣を描いた紙も、単体ではただの植木鉢と焚き付けにもならない小さな紙きれでしかない。

 こうすれば、追加注文があっても鳩の魔術具で難なく運べる。

「なるほどね。数回使えば効果がなくなるからこそ、本物が欲しくなるんだね」

 あくまでおためし商品ということにしておけば販売価格も抑えられる。

 ぼくたちは試作品をいくつか作って検証したが、魔獣たちも魔力が多すぎで、小鉢に植えた植物がすぐに成長するうえ、何回でも収穫できた。

「数回で効力が切れるようにしたんじゃなかったの?」

 ぼくのスライムが呆れたように言った。

「小さな鉢を作ったウィルも魔力が多いし、そもそもシロの亜空間の中では魔力を使い放題みたいに精霊たちがたくさんいるから、こういう検証には無理があるよ」

 みぃちゃんとキュアが頷いて、兄貴が苦笑した。

 兄貴が凝視していただけで、うっかり干渉してしまったようだ。

「戻ってみんなと検証しようか!」


「誰でも使える魔術具じゃないと小さな村では困ることになるじゃないか」

 もんじゃの村に戻ったぼくが口をついて出た言葉がこれだった。

 シロが時を少し戻している。

 戻って来るタイミングも悪くない。

 シロはこの旅で短期間に成長したようだ。

 留学生一行が検証の内容を検討していると、村人たちは、自分たちでも作物を一日で成長されられるのか、と目を輝かせた。

「検証に協力してもらうと、日頃は意識していない個人の魔力量の差が推測できるかもしれません。ですが、今日すでに祠への魔力奉納をたっぷりした人は、今日の魔力を使い切っている可能性があるので、他の人より劣って見えるかもしれません。魔力量は個人別、状況別であることを忘れないでください」

 ウィルはこの検証で村人たちの中で魔力量による序列が起こらないように声掛けをした。

「じゃあ、ここを片付けてから、検証してみよう」

 ぼくがそう言うと、冒険者たちは真っ先に立ち上がった。

 みんなでやればすぐに終わる。


 ウィルが土魔法で作った見本の小鉢を冒険者たちが必死に真似している間に、魔力のない冒険者たちと村人たちと留学生たちに収穫時を迎えたデントコーンから茎や葉を集めてもらい、錬金術でササっと紙を作った。

 デントコーンからは油や澱粉も欲しかったので飼料になる分は少なくなりそうだ。

 ケニーはサツマイモの成長具合を喜んでいる。

 農業班と別れたぼくと兄貴は小鉢を量産しているウィルたちと合流した。

 小鉢の底に魔法陣を書いた紙を敷き、みぃちゃんのチャームを持ったクラインが魔力を流すと簡単に転写できた。

 検証を待ちかねた協力者の村人たちが広場に列を作っている。

 亜空間での試作品の検証の過程から、小鉢を作った人の魔力量に影響を受けた結果になるのではないか、という条件も考慮することになり、小鉢の制作者ごとに同様の検証を繰り返すことになった。

 村人たちが魔力枯渇を起こすのではないかと心配したベンさんが、蜂蜜をたっぷりしみこませたホットケーキを差し入れした。

 甘い匂いと一口、口に入れて美味しそうに微笑む村人たちの表情を見た子どもたちが羨ましがった。

「あれは魔力をたくさん使った人たちのお薬だよ」

 子どもたちの母親が、特別な差し入れを本当は苦い薬だ、と言って子どもたちにそう言って(たしな)めた。

「いい子にしてみていられると約束できるなら、お兄さんの美味しい子ども用のお薬を一粒あげるよ」

 小声でウィルが子どもたちに囁くと、全員小さく頷いた。

 そんな子どもたちの口の中にコッソリ金平糖を一粒入れてあげるから、ウィルはすっかり子どもたちになつかれていた。

「いいかい。カッコいいのは君たちのご両親だよ。今日の仕事を熟した後に、明日からもみんなと幸せに暮らせるように、持てる力を全部出して新しい魔術具を作るため協力してくれているんだよ。みんなも五歳の登録が済んだら、神様に感謝して祠巡りを頑張って村の役に立つようにするんだよ」

 “……甘いもので子どもたちを洗脳している?”

 “……東の魔女のやり口に似ているよ”

 “……金平糖に魔法陣を刻んで思考を誘導しているわけじゃないから、同じじゃないでしょう”

 “……餌付けしているだけじゃない?”

 ぼくとみぃちゃんのスライムたちの突っ込みに、キュアとみぃちゃんが、そこまで子どもたちの思考を誘導していない、とウィルの肩を持った。

 甘味の誘惑で洗脳しているような気がするけれど、村の将来のために有益なことだから良しとするべきなのだろうか。

 ……なにかぼくもやらかしている気がする。

 誰でも魔力を注いだら植物が成長する魔法の鉢……。

 ぼくの脳裏にバケツで稲作をした、不味い思い出が浮かんだ。

 やる気になれば四歳児でも植物を急成長させられる!

「ちょっと待った!魔法陣の改変をしてもいいかな。お腹をすかせた子どもがイチゴの種を植えたりしたら……」

 その先は言わなくても留学生一行には通じた。

「カイルは魔法陣の改良を今すぐして!ぼくたちはこの魔術具の検証を続けるけど、まだ市場に流通させないように印をつけておくよ」

 ウィルは素早く検証中の鉢に色を付ける魔法をかけようとしたが、すかさず兄貴が止めた。

「ウィルの魔力が干渉したら、条件が変わってしまう」

 村人たちの魔力量には限界がある。

 条件を変えて何度も検証できない。

「子どもがうっかり使わないようにするのは、後付けでどうにか出来ないか考えてみるから、そのまま検証を続けていいよ」

 要は子どもが勝手に使えないようにすればいいのだから、チャイルドロックをかけられるようにすればいいだけだ。

 魔力を流す順番を決めて鍵にする?

 四ケタの暗証番号くらいで良いのかな?

 あまり難しい設定にして大人が忘れてしまっては、ただの植木鉢と変わらなくなってしまう。

 気が付けばウィルにまとわりついていた子どもたちが、考え込んでいたぼくを取り囲んでいた。

 自分たちだってやってみたいよね。

 三つ子たちも祠巡りが出来るようになるまで、魔力を使い過ぎないように玩具で魔力を動かす基礎を学んでいたんだ。

 そんな感じで何かあればいい。

 商会の人たちには魔獣カードを寄贈するのは孤児院だけ、と釘を刺されている。

 “……普通に苺でも栽培させたらいいんじゃない?”

 みぃちゃんがもっともな意見を精霊言語で言った。

 子どもは大人の真似をしたがる生き物だ。

 大人と同じように植物のお世話をしながら、体から漏れ出る程度の魔力で鉢が反応するようなちょっとした仕掛けをすればいいのか。

 “……鉢の色が変わるようにしたら子どもが喜びそうじゃない?”

 “……お水が欲しい色とか、お日様にあてて欲しい色とかに変わればわかりやすいよね”

 スライムたちの案はなかなかいい。

 出来上がれば綺麗なものになるだろう。

「そんなに難しいことを考えているの?」

「いや、子どものうっかり対策は出来上がった鉢に鍵をつければいいだけだから簡単に済むけど、興味を持った子どもたちのために、子ども用の鉢を作ろうと思ってね」

 ウィルの問いにそう答えると、ぼくを取り囲んでいた子どもたちから歓声があがった。

「子ども用だから大人のとは違うけれど、大事にお世話をしたら美味しい苺ができる鉢を作るよ」

 ぼくは大人用の鉢の周囲に数字を転写する紙を用意した後、子ども用の鉢を製作した。


 出来上がった鉢に腐葉土を入れて苺の種を撒くと鉢が水色に輝いた。

 子どもたちは鉢の側に置かれたいくつかの木札の中から、じょうろから水が出ている絵と『水遣り』と文字が書かれた水色の木札を選んだ。

「そうだよ。苺さんは水が欲しいんだよ」

 ウィルがそう言うと子どもたちは水差しから小さいじょうろに水を移し替えて、誰が水をあげるか相談を始めた。

 井戸から水を汲んでくるのを付き添うのも、子どもたちが水をあげ過ぎないように止めるのも、大人の仕事になってしまうのだが、手間を増やしたにも拘らず、母親たちも喜んでくれた。

「苺の鉢を村長の家に預けておけば、後は子供たちの面倒を見る人を当番にすればいいだけですもの。自分たちで食べるものを育てることは良いことですわ」

「文字に興味を持ってくれたら、学校に入学してからお勉強が楽になるかもしれないわ」

 木札の文字に興味を持つ子もいたので、苺のお世話カードは知育玩具のようになっている。

 ぼくたちが子どもたちと戯れている間に小鉢の検証が終わったようで、平均すると二十回くらい使えるようだ。

「何から何までありがとうございます。これで、娘の村も土壌改良の魔術具を購入してくれるきっかけになるでしょう」

 村長の奥さんは声を震わせてぼくたちに礼を言った。

「なるべく早く事が進むように、私どもも在庫を切らさないようにしておきますね」

 商会の人たちが広く販路を確保してください、と言うと村長の奥さんが笑顔になった。

 みんなで生きのこる道を模索するだけだ。


龍蝦片(えびせん)って美味いな……っていうか、米麺はどうなったんだ?」

 エビチリに龍蝦片、東坡肉(トンポーロー)青椒肉絲(チンジャオロースー)、に蒸し餃子と中華三昧の夕食に舌鼓を打ちつつも、クラインは米麺料理がないことにがっかりしている。

「ベンさんはクラインの思い出の味と勝負している気がするんだ。この蒸し餃子の皮は米粉だから、ライスペーパーまでは再現できているから、納得いくものができるまで黙って待っていようよ」

 ぼくは蒸し餃子を指さして小声で言った。

「この薄い皮がお米なのか。中身が透けて見えるのが食欲をそそるよね」

「皮と言えばこのお肉は凄いね。豚の皮ってこんなに美味しいんだね」

「ベンさんの処理が上手だからだよ」

 スライムたちも東坡肉を気に入ったようでテーブルの上で、ちょうだいちょうだい、と体を揺らしている。

 クラインの思い出の味は東方系の海鮮出汁と米料理だ。

 残り少ない一緒の食事で、何か思い出してくれないかな。

 東の魔女はともかくとして、東方の結界を強化する足がかりが欲しい。

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