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小さくて可愛い?

 馬車は王太子が新型魔術具の実験と称したため、ポニーたちと交代することなく検問も開放状態で進み、日没前に余裕を持って王都に到着した。

「楽しかったよ。マリアたちも快適に旅ができたようだし、君たちになんと感謝すればいいかわからない」

 領都の門を通過したところでアルベルト殿下がしみじみと言った。

「ぼくたちもこの国に来られて良かったです。ガンガイル王国を出国して以来、魔力の少ない地域ばかりでしたので、心がすさんでいきそうだったのですが、魔力豊富なこの国の風景に癒されました」

 ぼくがそう言うと留学生一同が頷いた。

 ぼくたちは王都に滞在中は王太子一家の離宮に招待された。

 マリアが恥ずかしそうにぼくを見た。

 ……わかったよ。風呂とトイレだな。

 後で商会の代表者に相談しよう。

 にゃー、とみぃちゃんが一鳴きするとぼくの膝に戻ってきた。


 速達の鳩の魔術具で先ぶれがあった離宮は、さすがに使用人たちが優秀なのか慌ただしさはみじんも感じさせなかった。

 留学生たちには二人一部屋、商会の人たちにも寝室が用意されており、高級ホテルのような清潔で豪華な部屋に通された。

 兄貴と同室になったぼくたちの部屋には、みぃちゃんやキュアのための柔らかい毛布の入った籠が二つあり、二匹はご満悦で寝心地を確かめた。

 スライムたちがぼくのベッドで転がり出すと、結局二匹もぼくのベッドを占領した。

 今晩もぎゅうぎゅうで寝ることになりそうだ。

 この土地で神々にご挨拶したい、と馬車を降りる前にアルベルト殿下に相談していたので、七大神の祠巡りは明日にして、この後は離宮の中庭にある山の神の祠に参拝することを許されていた。

 自室に着替えなどの荷物を整え終わるころ、ウィルがぼくたちの部屋に顔を出した。

「小さな国だけど豊かな国だね」

「山に囲まれているし、辺境伯領に似た雰囲気があるよね」

「本来世界はこうあるべきなんだろうね」

 ぼくたちが感想を述べていると留学生たちが集まってきたので、中庭に行くことにした。


 美しい花壇に見とれながら庭師に案内されて山の神の祠の近くまで来ると、園芸用の芥子の花の中に親指サイズの妖精がいた。

 兄貴とウィルはぼくが何か見つけたことに気が付いたが、ぼくが目で黙っているように合図をするとそ知らぬふりをしてくれた。

 気配を最大限殺して青い芥子の花に近づいた。

 三つ子のアリサが昔捕まえたように、そっと両手で芥子の花ごと包み込んだ。

 妖精が抵抗してぼくの魔力を使って逃げ出さないように両掌に闇の神の魔法陣を精霊言語で刻みつけて魔力の流れを遮断した。

「珍しい花ですね。青い芥子ですか」

 花を摘み取らないように気をつけながら妖精だけ掬い取って言うと、庭師が喜んだ。

「王妃様がお好きな花です。高地にしか咲かない希少な植物ですが、苦心してこの庭で栽培することに成功しました」

「ああ、山の神の祠の側でご加護を得ることができたのですね」

「その様ですね。この離宮でもこの場所でしか花を咲かせません」

 良いものを見せてもらいました、と庭師に礼を言って、祠まで行くと従者を従えた王太子夫妻と五歳くらいのオレンジ色の髪の男の子が既に参拝を終えていた。

 袖口に隠れているぼくのスライムが闇の神の魔法陣を全身に刻んで妖精を包み込んだ。

 ウィルが代表して男の子に挨拶をすると、男の子は元気よく、ヘルムートです、と挨拶をかえしたが、マリアたちが遅れてやって来るともじもじして下を向いた。

 綺麗なお姉さんたちに照れているようだ。

 可愛い。

 ぼくたちが順番に魔力奉納をしているとヘルムートはずっとマリアを目で追っている。

 初恋のお姉さんか。可愛いな。

 兄貴がみぃちゃんのスライムを連れて祠に入り兄貴の代わりに魔力奉納をした後、ぼくのスライムは兄貴の肩に飛び移った。

 ぼくとみぃちゃんとキュアが魔力奉納をしていると精霊たちがふわふわと姿を現した。

 小さな祠を出ると、兄貴の肩の周りに妖精を心配した精霊たちが球体になって集まっていた。

 さらにその周りにフワフワと精霊たちがどうなっているんだ、とばかりに集まってきた。

「これが精霊たちなのか!」

「なんでジョシュア君の周りに集まっているの?」

「きれいだね」

 兄貴の肩にいるスライムがぼくの掌に飛び移ると、ぼくの周りに二重の層をなして精霊たちが集まってきた。

 スライムが何かしたらしいことに全員気付いた。

「この状態で静かにお話できるところに移動しませんか?」

 ぼくがそう声をかけると、アルベルト殿下が四阿(あずまや)に目をやった。

 参拝を終えていない留学生一行を残して四阿へ向かうと参拝前のマリアたちもついて来た。


 内緒話の魔法陣をかけた四阿には王太子夫妻と息子のヘルムートと従者一人、兄貴とウィル、マリアとアンナさんとエンリケさんだけが移動した。

 ヘルムートにはみぃちゃんとキュアが両脇について、孤児院訪問ですっかり手で馴れた子守体勢に切り替わっている。

 ぼくが軽く威圧を放ったので精霊たちは四阿の外で待機している。

「率直に質問することをお許しください」

 ぼくは両殿下の前に妖精を包み込んだぼくのスライムを差し出して言った。

 両殿下が頷いた。

「精霊や妖精を見たことはありますか?」

「いえ、四阿の周りを取り囲んでいる光たちが精霊だというのなら初めて見た」

「わたくしも初めて見ました。キリシア公国でも見たことはありません」

 ぼくにあっさり捕まって、ぼくのスライムに捕獲されたままの妖精は、三つ子たちに捕まった妖精のようにどんくさい。

「光の玉のような精霊たちが集まって、中級精霊、上級精霊、格が上がっていくのですが、出世街道を外れる、というか、十分成長していないのに実体化しようとして中級精霊にならないことを選ぶ精霊が妖精になります」

 ぼくの掌のスライムの中に捕らわれている妖精が、出世街道から外れる、というくだりで抗議するようにスライムを揺らしたので、両殿下を含む全員が笑った。

「精霊と同様に普段は姿を消していますから、スライムが広がっても姿が見えないかもしれません」

 ぼくがそう説明している間にぼくと両殿下の間でみぃちゃんのスライムの方がみるみると膨らみ、四阿の半分ほどの大きさになったところで、扉を作って中に入れと勧めるように扉を開けた。

 ぼくが無言で中に入るように指さすと全員が無言で頷いた。

 両殿下の従者が渋い表情をしたが、二人は気にすることなくヘルムートを連れて中に入った。

 みぃちゃんのスライムは内部にフカフカのソファーを壁際に丸く作っていたので、上座を気にすることなくみんなで詰めて座った。

 テントの中心にぼく一人立って、みんながぼくを囲んだ状態になると、ぼくのスライムが蕾から花が開くように広がった。

 ほう、と誰とも知れずため息が出た。

 スライムの花びらの中心には何もいないようにみえたようだ。

 やっぱり見えないのか、と全員が思った時、みぃちゃんのスライムのテントの中を飛んでいたキュアが空中で大口を開けてパクっと何かを食べた。

「ひりゅうさんが、たべた!」

 やっぱり幼児には見えていたか。

 ぼくには反対側が透けた親指サイズの妖精が慌てて飛び立ち、キュアにパクっと咥えられたのが見えていた。

 キュアは飲み込んでいない、と言いたげに首を横に振ると、妖精がブンブンとジャイアントスイングのように揺さぶられている。

「ヘルムート君にはキュアが何か食べているように見えるの?」

 マリアが尋ねるとヘルムートは恥ずかしそうにもじもじとしながら頷いた。

 掌の上のぼくのスライムが糸のように細長く触手を伸ばしキュアが咥えている妖精を捕まえて掌の上に引き戻した。

「スライムの癖に生意気なのよ!この、〇ソ喰らい!森の中で魔獣の〇ソでも死骸でも喰らっていればいいのよ!」

 実体を現した妖精は口汚くぼくのスライムを罵った。

「あんたねぇ、口が汚すぎるでしょう!小さい子も、偉い人もたくさんいるのよ。妖精たちは空気の読めないお馬鹿さんだと思われちゃうじゃない。賢い子も居るのに、世界中の妖精たちに謝りなさい!!」

 ぼくのスライムが呆れたように妖精に説教をした。

「あんたが私を縛っているから文句を言っているんじゃないか!放しなさいよ!この〇ソ喰らい!」

 スライムに腰ひもを付けられた妖精は腕を振り上げて猛抗議した。

「驚くことが多すぎて、何から言えばいいかわからなくなるが、この小さい女の子が妖精なのか!」

 アルベルト殿下がそう言うと、スライムが喋った!とヘルムートは飛び上がって喜んだ。

「普通のスライムは喋らないんだよ」

 ウィルが自分のスライムをポケットから取り出してヘルムートに見せた。

 まだ赤ちゃんなんだね、と無邪気にヘルムートが言うと、勉強しないと喋れるようになれないんだよ、とぼくが言った。

「べんきょうかぁ。スライムもたいへんなんだね」

 ウィルのスライムは、そうなんだよ、と言いたげに体を震わせた。

「なんでスライムばっかり注目を浴びるのよ!私は伝説の妖精なのよ!」

「登場の仕方がカッコ悪い上に、キュアに咥えられるなんて大失態だよ」

「ちょっとマヌケな登場だったね」

 みぃちゃんとキュアが呆れたようにそう言うと、妖精が顔を真っ赤にしてぼくの掌の上で地団太を踏んだ。

「ねえ、ヘルムート。自分の思い通りにいかなくて地団太を踏むのは、みっともないことでしょう?」

 カテリーナ妃が妖精の悪態を我が子の反面教師にしようとした。

「カテリーナのばかぁー!あんたが赤ちゃんのころから守ってあげていたのに、あんたまで私のことをばかにするなんてひどいよ!」

 妖精はぼくの掌の上で座り込むとわんわん泣きだした。

 カテリーナ妃は精霊使いじゃなくて妖精に愛された人物だったのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 掌の上のぼくのスライムが糸のように細長く触手を伸ばしキュアが咥えている妖精を捕まえて掌 の上に引き戻した。 →文章の途中で余計な改行が挟まっていませんか?  改行関連は誤字報告機能で指…
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