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スライムであそぼ

 このところ、いや、ずっと考えていたんだが、前世の記憶があってもぼく自身は何かができるわけではなく、ああしたい、こうだったらいいのに、って思うだけだ。実現してしまう、うちの家族がすごいんだ。

「カイル君はまた面白いことをしているのかい?」

 父さんの変態上司、もといラインハルト様ことハルトおじさんが遊び部屋に来ている。新しい物好きだから、最新トイレを試しに来たに決まっている。

 ぼくはというと、工作しやすいように薄い板と接着剤を用意してもらい彫刻刀で板に溝を彫ってくっつけるだけの簡単な迷路をつくっている。くっつけた板を押さえているのがケインの仕事だ。

「ちょっと迷路を作っています。単純なものなのでそんなに面白くないですよ。お勧めの最新作はこっちです」

 相手にするのが面倒だったので、子猫のみぃちゃんのために作ったゼンマイ式の鼠を玩具箱から選んだ。

 するとすかさず、みぃちゃんとみゃぁちゃんがドタバタとやってきた。名前のセンスが悪いのはケインのせいだ。名付けは家族みんなで相談していたのに、ケインがみぃちゃん、みゃぁちゃん、と呼んでいたらその名前で振り返るようになってしまったのだ。

 鼠の玩具は床に置いて後ろに引くと勢いよく走る仕掛けだが、不規則に曲がる設定をしてあるので子猫たちに評判がいい。今一番くいつく玩具だ。

 ハルトおじさんも子猫とおなじくらい夢中になっている。鼠がハルトおじさんに捕まってしまったら、きっと分解されてしまう。頑張れみぃちゃん、みゃぁちゃん。

 迷路は完全にくっつくまで強度が足りないから今日遊べるものにはならない。ついでだからいくつか難易度を変えて用意しておく。

 ぼくたちが不自由をしてまで個人でおまるを使っていたのは、自分専用の粘菌魔獣を育成するためだった。おまるに仕掛けがしてあることは、トイレの改装が終わってから明らかにされた。女性陣がきゃあきゃあ文句を言っていたが、ぼくはスライムが飼えるなんてワクワクしてしまった。

 スライムはさすがにそのまま飼育するのは、洗浄の魔法をかけても心情的にはばっちい気がするので、いったんガラス瓶に入れて各々が魔力を少し込めたご飯をあげて様子をみている。

 ぼくはいつもの仕分けナイフで人参の葉っぱを刻んであげている。ケインはお婆に手を添えてもらって果物の皮をむいてあげている。それぞれのスライムに違いが少しずつ出始めていて、今のぼくの楽しみの一つだ。

 野生のスライムは動植物の死骸や排せつ物を摂取して増殖しているとのことだが、住宅街では下水の処理に利用されている。今回のうちの改装は下水処理のスライムを家族の魔力に染めさせないように生ごみも含めて処理できるように改良されたのだ。家畜の排せつ物は堆肥用に今まで通りに処理される。三輪車ドライブは当面続く予定なので、イシマールさんに引き続き教えを乞う時間がとれる。

「カイル。この毛玉二匹をなんとかしてくれ!」

 鼠を捕まえたハルトおじさんはお気に入りの玩具を取られたみぃちゃんみゃぁちゃんから可愛らしい猫パンチをくらっている。幸せ者だ。

「この鼠、持って帰っていい?子猫ちゃんが邪魔してばらせないもん」

「ダメだよ。みゃぁちゃんのなんだもん」

 みぃちゃんがぼくの子猫で全体がクリーム色でお腹のあたりだけ白い毛で、みゃぁちゃんがケインの子猫で体全体が真っ白な毛だ。

「それ、父さんが事務所に持って行っていたからそっちを分解してください。子どもの玩具をねだるなんて大人気ないです」

「うーん。大人気ないのは自覚しているけどはっきり言われるとこれ以上おねだりできないじゃないか。他になんかないの?その迷路はどうやって遊ぶの?」

「これはまだ乾いていないので、遊ぶのは明日以降です」

「乾燥機を使えばいいじゃない」

「乾燥機は今、干し茸を作るのにフル稼働しています。うどんの出汁にすると評判がいいんです」

「ああ、あれ美味しいよね。騎士団の食堂までわざわざ食べに行ったよ。そうか、それなら仕方がない。私が乾かしてあげよう」

 ハルトおじさんがあっさり魔法で乾燥させてくれた。いいのだろうか?こんなに簡単に魔法を使っても。

「それでこれをどうするの?」

 期待のこもった顔で見つめられると、ここで実演しなければいけない気がする。

「みぃちゃんとみゃぁちゃんに玩具を返してあげてください。それからです」

「「にゃーにゃー」」

 ハルトおじさんはおとなしく鼠の玩具を手放してくれた。



「これは清潔な環境で育成した、ぼくの魔力を含んだ粘菌魔獣です。迷路に挑戦するのはこの子です」

「ぼくのもやる」

「せっかくだから同じ難易度の迷路にしよう」

「そうしよう」

 子猫たちは鼠の玩具に夢中でこっちに注目していない。邪魔がはいらない今がチャンスだ。

「粘性魔獣に指示を出すのかい?」

「いいえ。自由に行動させます。ゴールのところにぼくの魔力がちょこっと入ったくず魔石をおいて、欲しかったら自力で迷路を解くでしょう」

「いつもくず魔石を餌に与えているのかい?」

「いつもはぼくが用意したくず野菜です。あげるときに指先から魔力を少し吸っていくから、ぼくの魔力は好みなんだと思います」

「ケインもあげているのかい?」

「ぼくもスライムにご飯あげているよ」

「くず魔石に魔力を込められたのかい?」

「ちょびっとだからできたよ」

「いつも玩具の魔道具を使っているから少しだけ魔力を出すのは苦になりません」

「ああ、まあ、君たちならそうだね。このくず魔石はどうしたんだい?」

「ケインが魔昆虫を取ってきたんだ。それを貰ったんだよ」

 誘拐事件の時採取した昆虫なんだけど、緘口令を敷かれていたはず。父さんの上司なんだから知ってて当然だけど口に出すのは憚られる。

「ああ、そうだね。魔昆虫からも取れるね。どれ、検証してみよう」

 ぼくとケインは瓶に入ったスライムを箸でつまみ上げて同時にスタート地点に置いた。

 ぼくとケインのスライムは食性の違いからか半透明なのは一緒なのだが、色目がほんのり違う。ぼくのは薄緑色で、ケインのは薄黄色っぽい。

 スライムは進路が壁に阻まれるのを理解したかのように正解の順路を迷わずにたどる。ぼくのもケインのも変わらない速さで、ゴールのくず魔石にたどり着いた。

「ケイン。くず魔石を食べられちゃう前に回収して」

「りょうかい!」

 素手でスライムをつまんでくず魔石を回収する。スライムは指先から魔力を貰えるので、ご褒美の横取りにはならないはずだ。

「スライムも楽しかったかな?」

「感情まではわからないけど、ご褒美に魔力を貰えることを覚えてくれたらもっと難しいのでもチャレンジしてくれるかもしれないね」

「うーん。二匹とも同じような行動をしたということは、偶々というわけではなさそうだね。使役をしていないとしたら、スライムには思考ができるのか?」

 ハルトおじさんが頭を掻いたら、前髪がずいぶん後退した。おでこが広いのを後ろから髪の毛を流して誤魔化していたのか!

 これは何も気が付かないふりをするのが大人の対応なのか?それともさりげなく指摘する方がいいのか?ケイン、気が付かないでくれ!

「ハルトおじさん、かみのけ、ずれてる!」

 あっ……そうだよね。無邪気な子どもだもん。気になっちゃうよね、言っちゃうよね。

「ああ、これはね、こうすれば元に戻るんだ」

 ハルトおじさんは下を向いてから顔を上げて、にぃやっと笑顔を見せた時には元に戻っていた。なんなんですか?その形状記憶な髪の毛は!魔法なんですか?さっきからホイホイと…魔法ってそんなに気軽に使っていいのでしょうか?

「わぁ。ホントだ。もとにもどった!」

「うーん。もう少し難易度上げて検証してみよう」

 ハルトおじさんはスライムの検証にすっかり夢中になってしまっているけど、ぼくたちはハルトおじさんのおでこに視線が釘付けになっていた。

「スライムが疲れてしまうし、同じようにしないと正しい検証になりません。さっきご褒美の魔力もあげたので、条件が変わりました」

「もう少し遊びたいよね、ケイン?」

「ケイン、父さんと約束したよね」

 幼い子どもを巻き込むな!

「ハルトおじさんもスライムを飼えばいいんです。ぼくたちは父さんとスライムに魔力をあげすぎないって約束をしているんです。どうせ近日中にトイレの改装をするんでしょう?」

「うーん。そうなんだよね。あの新しいトイレは欲しいんだけど、ジェニエさんが制作しているから、今、人気の商品の納期に割り込んだら、うちの奥さんに怒られてしまうんだ」

 傷用軟膏かな。物凄く増産をせっつかれている。お貴族様なら魔法で治せないのかの?

「………言いにくい話ですが、はじめはおまるにスライムが仕込んでありました。詳しくは父に聞いてください」

「………おまるか。…自分のスライムが猛烈に欲しくなったから、仕方がないかぁ」

「ハルトおじさんもスライム飼うの?」

 ハルトおじさんは一瞬悪い笑顔をみせた。何か企んだに違いない。

「カイル君、ケイン君。キャロラインに子猫を一匹譲ってくれないかい?」

 なんてことだ!キャロお嬢様をだしにしている!!確かにキャロお嬢様は我儘だけど、周りの大人もそれを利用しているのだろう。だって、ハルトおじさんは悪だくみしている顔をしたもん。

「「ダメです」」

「そこんところをなんとか…」

 ここで言い負けしたらボリスの子猫も狙われてしまう。身分的には献上せざるをえないんだから。大人の理不尽は許してはいけない。

「小型の容姿の可愛い低級魔獣を捕まえて飼育したらいいじゃないですか。兎とか栗鼠なら、番で飼育したらどんどん増えますよ。一番かわいくておとなしいのが育つまではお付きの人が面倒をみて、責任もってお世話できるようになってから飼ってもいいことにすれば本人も成長しますよ」

「同い年のケインは飼っているのにかい?」

「ぼくはご飯あげるしトイレそうじもちゃんとするもん!」

「そうだね。悪かったよ。でも兎は可愛いしいいなぁ」

「農家さんに聞いてみたらいいですよ。兎は畑を荒らす害獣だから罠で生け捕りする方法がありそうですよ」

 愛玩動物は他を当たってくれ。うちの子猫を勝手に連れ去ったりしたら、ハルトおじさんの前髪に扇風機を強にしてあててやるぞ!!

「なんだか、カイル、怒っている?」

「うちの子はだれも里子に出す気がないだけです」

「だよねぇ。他を当たってみるから。あっ、ボリスのところには行かないよ」

「当然です」

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