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第一回魔獣カード大会魔獣部門 低級魔獣クラス本大会 #6

『第一会場、第五試合、低級魔獣部門準決勝出場者は会場にお戻りください』

 場内アナウンスがかかっても精霊たちは消えなかった。

 準決勝は競技台側で観戦する気なのだろう。

 ぼくと母さんはケインと父さんに手を振って第一会場に急いだ。

『第三会場は休憩に入ります第一会場、第二会場が準決勝の会場です選手登録を……』

 場内アナウンスが第二会場の案内を始めた。

 ハルトおじさんのスライムに比べて休憩時間が短いケインのスライムが一番きついだろう。

 “……あたい。全力を尽くすよ。あの子は全ての魔獣カードに精通しているけれど、あたい頑張るよ”

 “……姉さん頑張って!”

 “……あんたは簡単に負ける子じゃないわ!”

 “……魔力量なら負けてないよ!”

 みぃちゃんのスライムとみぃちゃんとキュアも応援している。

 好きなように戦えばいい。

 今日はお祭りで、競技台の上のスライムたちが主人公なんだ。

 今この瞬間、この会場の主人公はスライムたちだ。

 森の掃除屋だとしか思われていなかったスライムたちが、神々や精霊たちも応援する神獣のような存在になっている。

 “……あたい……嬉しい…。スライムはただの〇ソ喰らいじゃない!って証明できたんだね……”

 シロが黙り込んでいるのは、中級精霊になる前のシロがスライムたちを罵ったのだろう。

 ああ、そうだよ。ぼくはスライムたちがただの掃除屋だなんて思っていないよ。

 野生のスライムたちはおそらく森の魔力状態を把握しているだろう。

 スライムたちが遠隔で、魔力状況を知らせてくれたら世界の危ない地域を絞ることが出来る。

 スライムには無限の可能性があるのだ。

 “……ありがとう。ご主人様。あたいがこんなに賢くなる前から、あたいたちのことを信じてくれていたね”

 そうだった。懐かしいな。

 光る苔の雫を摂取する前から、スライムたちに迷路に挑戦させていた。

 “……あたいね。あたいの人生なんてただ有機物を消化して生きていくだけだと思っていたの。こんな難しい言葉は知らなかったけれど、多分そんなことを考えていたんだ。けどね、カイルの魔力をもらって少しずつ自我がハッキリしてから、強くなりたかったのはカイルやみんなの役に立ちたかったからなの。役に立ってね、ありがとう、て言ってもらったら嬉しかったんだ。それだけだったはずなのに、強くなったら楽しいことが増えたの。……あたい、幸せよ!幸せなスライムなの!!”

 ぼくのスライムの思念にぼくの反対側の肩に乗っているみぃちゃんのスライムも、母さんの肩に乗っているスライムも感涙するかのように震えた。

 そうしてスライムたちが光り出した。

 ぼくの両肩に乗っているスライムたちも、母さんのスライムも、振り返ればケインやハルトおじさんの肩に乗っているスライムたちも共感するように光り出した。

 客席にも光るものがちらほらある。

 辺境伯領応援団のスライムたちだろう。

 ぼくの家族の居るボックス席が、一番スライムの密度が高いから燦然と輝いている。

 ああ。今この会場の主役は間違いなくスライムたちだ。

 観客たちが大騒ぎする中、辺境伯領応援団が応援歌を歌いだした。

 準決勝進出者に生粋の辺境伯領出身者ではないぼくたち一家とハルトおじさんのスライムたちが勝ち残ったのに、声を限りに歌ってくれた。

 精霊言語で心を覗かなくてもわかる。

 応援団のみんなは出身領地に関係なく、ただ勝ち残ったスライムたちを称えて歌っているんだ。

 すべてのスライムたちの代表として勝ち残ったスライムたちに敬意を持っている。

 精霊たちが歌声に合わせて踊るように会場中をぐるぐると飛び回り、観衆たちと一体になってスライムたちを応援している。

 “……あたい幸せだようぅ……。だから頑張る!!”

 ぼくのスライムがトンボの羽を生やして上空に舞い上がった。

『ご覧ください!第一会場上空に舞い上がった黄緑色のスライムが、第一会場の準決勝進出を決めたカイルのスライムです』

 場内アナウンスがそう告げると観客たちが大声援と拍手で応えた。

 母さんのスライムもつられてトンボの羽を出し舞い上がった。

『ただいま舞い上がりました薄紫のスライムが、第一会場、準決勝進出のジーンのスライムです!』

 観客たちはぼくのスライムと同じように声援と拍手を送った。

 まあ、そうなると第二会場のハルトおじさんのスライムも舞い上がり場内アナウンスを受けて、会場内から拍手喝さいを浴びた。

 ケインのスライムもそれに続き、準決勝進出スライムたちが競技場上空で一列に並んで礼をした。

『第一会場、第二会場、共に準決勝出場選手はくじ引きを行ないますので、各会場の受付に集合してください』

 まるでこういうセレモニーが予定されていたかのように、場内アナウンスが滑らかに大会スケジュールを進行させた。

 ぼくと母さんのスライムが第一会場の受付で先攻後攻のくじを引くと、ぼくのスライムが後攻で母さんのスライムが先攻だった。

「両選手は位置についてください」

 精霊たちが消えずに競技台の側に控えているなか、両スライムは位置についた。

「第一会場、第五試合、準決勝、攻撃開始!」

 母さんのスライムが出した魔法陣に奇抜なものはなかった。

 ぼくのスライムが土壁の卵を作る前に、母さんのスライムが三匹の灰色狼のブリザードで凍土にして土魔法の効果を遅らせ、氷のナイフや電流の攻撃をした。

 ぼくのスライムも盾で防ぐ正攻法だった。

 ただ、攻防のスピードが速く、目まぐるしく競技台の上を飛んだり跳ねたりもぐったり、地味な戦いながらも手足のないスライムたちの一挙手一投足に観客から歓声が上がっている。

 時折、第二会場の方から、ハルトおじさんのスライムが大量の昆虫を出したのだろう。うわぁぁ、気持ち悪い、という声が混じっている。

 ケインのスライム頑張れ!

 ハルトおじさんのスライムと対戦したくない。

 まずはその前に母さんのスライムが手ごわい。

 巨大魔獣やレアカードを駆使しなくてもすべての魔獣カードを熟知している母さんのスライムは、ぼくのスライムに少ないダメージポイントを数多く負わせている。

 二匹は楽しそうに大観衆の中お互いの技術と知識を披露している。

 母さんのスライムはぼくのスライムの着地地点を予測し、山椒魚の粘液を出現させ、ぼくのスライムをズッコケさせると、ぼくのスライムは体勢を崩したまま滑りながら火炎砲をかわし、熱を利用して卵型の土壁を強化した。

「第一会場、攻撃終了!」

 主審の一声の後、場内から巧みな試合運びだ、と歓声と拍手が上がった。

 両スライムが魔法陣と魔獣を消すと、ぼくのスライムはダメージポイントがマイナス64ポイントもあった。

 大きな負け越しではないが、母さんのスライムは侮れない。

 主審が手を上げて位置につくよう促そうとしたとき、第二会場から爆音と砂煙が舞い上がった。

 視界が悪くなったため、第二会場の攻撃終了を待って清掃魔法をかけてから試合を再開することになった。

 ケインとハルトおじさんのスライムたちのド派手な試合内容が気になる。

 第二会場の攻撃終了を主審が告げると、実行委員が清掃魔法をかける前に精霊たちが輝いて、一瞬で会場内の埃が消えた。

 精霊たちはサッサと試合を再開しろ、とでもいっているのだろうが、観客たちは感動のあまり拍手が止まらなかった。

 第一会場の主審が拡声魔法を使って告げた。

「第一会場、攻撃開始!」

 ぼくのスライムはイシマールさんのスライムがしたように、素早く競技台全体に魔法陣を張った。

 先ほどの防御ターンで逃げ場に仕掛けをされて追い詰められたのが堪えたらしく、競技台上の優位を得ることを先にしたようだ。

 ぼくのスライムは競技台をお花畑にした。

 レンゲや菜の花に混じってヌメリ草まで混ぜてある。

 ツツジやシャクナゲまで育てて、いったい何がしたいのかわからない。

 母さんのスライムは地面の仕掛けを警戒して、泥団子の要塞に大鷲の羽を生やして上空に避難した。

 一見しただけで真似されてしまった。

 お花畑の攻防は花吹雪が飛び交う中、泥団子の大鷲にスズメバチの大群が襲ったり、蔦の鞭が飛び交ったり、とそれなりに激しい攻防になったが、逃げ上手な母さんのスライムに致命傷を負わせることは出来ず、ダメージポイントも55とぼくのスライムがやや負け越してしまった。

 観客たちには見応えのあった勝負なようで、両スライムたちは温かい拍手に包まれた。


 第二ターンも穏やかでも見ごたえのある攻防でお互いに拮抗したため、得失点差は68ポイントぼくのスライムの負け越しのまま第三ターンを迎えた。

 会場内はこのまま母さんのスライムが準決勝を制するのではないか、というムードになった。

 ぼくのスライムは焦った様子も無く、第三ターンの母さんの攻撃を淡々とかわしている。

 だが、母さんのスライムの攻撃がパターン化されてきたのか攻撃にキレがない。

 ぼくのスライムに全くダメージを与えることなく、第三ターンの母さんのスライムの攻撃が終了した。

 ぼくのスライムの最終攻撃で再びお花畑を出した時、母さんの顔色が変わった。

「カイル!第一会場の競技台の結界を強化しなさい!」

 母さんが拡声魔法を使ってまでぼくに指示を出した。

 こういう声の母さんに逆らえないぼくは反射的に魔法の杖を取り出し、第一会場の競技場の結界を強化した。

 どんな爆発が起こるのかと場内はざわついたが、母さんのスライムは防御を全くすることなしに、美しい黄色い花の棚にフラフラと近づいていき、トンボの羽を生やして花の棚まで飛んで行きラッパ状の黄色い花の中にすっぽりと自ら入っていった。

 

 ……!

 

 そうか、あれはエンジェルトランペット、と異名を持つキダチチョウセンアサガオだ。

 美しい花の甘い香りに誘われて、匂いを嗅ぎ過ぎると幻覚に襲われる、毒性の高い幻覚植物だ。

 ぼくのスライムが雷電虎を出現させると、母さんが項垂れた。

「降参を宣言します!」

 母さんは自分のスライムがボコボコにされる前に主審に降参を宣言した。

おまけ ~緑の一族と魔獣カード大会 #2~


「今、自分以外の人が被害を受けて、ショックを受けているでしょう?でもね、私は今フエちゃんがもっと前に脅迫状を受け取っていたことに猛烈に憤りを感じています!」

「そうですね。こんな脅しをかけるなんて、あってはいけない事なのです。平民のフエちゃんに平民の一般生徒を使って脅すなんて、貴族の風上に置けません。私たち貴族が存在する意義は治世を安定させ人々を幸せにすることなのです」

 キャロお嬢様とミーアがそう言うと部室内の貴族たちは一様に頷いた。

「ちょっと待って。……この一件は任せてくれないかな」

 ウィル先輩が部室に飛び込んできて言った。

「脅迫の件はフエちゃんのところの商会がもう対応しているし、うちも動いている。主犯は確定していて、今日は魔法学校に来ていない」

「犯人は捕まっているのですか?」

 部員たちは口々に驚きの声をあげた。

「脅迫の共犯者か、内容を知っているものが便乗してフエちゃんに嫌がらせをしただけだよ」

 ウィル先輩は確信をもっているかのように右口角を少し上げて微笑んだ。

 この犯人にもすでに当たりが付いているのだろう。

「この髪の毛を少し預かってもいいかな。大会が終わるころには返すよ。ラウンドール家に伝わる特別な呪詛返しを試してみたいんだ」

「あら、それでしたらわたくしも少し預からせてください。辺境伯領主一族にも凄いのがあります」

「キャロライン嬢は午後の試合に集中しないと駄目だよ。辺境伯領から応援に来た大人たちは二連敗が堪えているんだからね」

 ウィル先輩はそう言うと、髪の毛の入った封筒をサッと掴むと、反対の手で私の頭をポンポンとした。

「今日の商会は大忙しだから、今すぐ鳩の魔術具でこの封筒を届けるのもどうかと考えていたので、夕方までに返していただけるならお預けします」

「夕方前には片をつけるよ」

 そう言うとウィル先輩は部室を後にした。


 午後の会場も華やかな演出で入場した。

 俯いてしまったら犯人の思う壺だ。

 呼吸を整えてまっすぐ前を向いて入場した。


 手加減なしで良いと、言ってくれた決勝戦の相手は魔獣カード倶楽部の部員で、先ほどの騒動を知っている。

 本気で、最高の試合をするだけだ。

 拮抗する勝負に辺境伯領応援団からきついヤジが飛ぶと、日頃口数の少ないメイさんの旦那さんが声を張り上げて応援してくれた。

 胸がぎゅっとして、熱くなった。

 とっておきのカードで勝利すると、裏技の使用がいかさまじゃないか、とヤジが飛んだ。

 カイルがとりなしてくれたので私のいかさま疑惑はすぐ消えた。

 罵声が飛んで来るかと思ったのに、会場内から温かい声をかけられると、思わず涙ぐんだ。

「おめでとう。フエ」

 同じように目を光らせたカイルの言葉に、まるでダムが決壊したように涙が流れ出た。

 そっとカイルが抱きしめてくれたから、同じくらい鼻水が出たのを誤魔化せた。

 ドキドキしたのは恥ずかしかったから……たぶんそうだ。

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