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キャロお嬢様

 お城の敷地はとにかく広く、たくさん歩いて待ち合わせの場所につくと、馬車に揺られて来た母さんの顔色が悪かった。インフラ整備はやっぱり最優先なんじゃないだろうか。

 ボリスの家族も全員合流したのでこの人数が挨拶を始めるととにかく長い。世間話も加わって、やっぱりラーメンじゃなくてうどんだったのか、とか思ってぼんやりしてたら、ようやく祠に向かうことになった

 噴水や低木が迷路のように配置され、その間に季節の花々が品よく植えられている。見目麗しい庭なのだが、少し違和感がある。なんだろう?

 土地の魔力のムラに規則性があるのか?

 ぼくは静かに庭の気配を探ってみることにした。

 庭の真ん中に、街中にある大神の祠よりやや小ぶりの祠があった。魔力の輝きが半端ない。祠を中心に魔力の気配が均一に、だが複雑な軌道を描いて広がっている。ここは広大な結界の中心だ。街の噴水広場からの結界と組み合わさってより複雑さを増しているんだ。ここはこの領地の要なんだ。

「どうしたんだいカイル君?ずいぶんと興味津々なようだね」

 ボリスの父に怪訝そうに問われるまで、集中して気配を探ってしまった。

「あまりに綺麗なお庭なので、圧倒されてしまいました」

「ここまで美しいものは王都のものに勝るとも劣らないからね」

 気配を探っていたのはバレバレだったか。ただの幼児の好奇心なんだけどね。

 祠につくと、ボリスの父を先頭にまず大人たちが魔力奉納をしてお参りした。子どもで奉納できるのはボリス兄弟だけだ。兄二人が終わらせた後、おそるおそるボリスも奉納する。ぼくとケインは後ろでお祈りするだけなのは予定通りなのだが、その恰好がおかしいのだ。ぼくとケインはあの日と同じように白い布を被って手にはススキを持っている。

 精霊神にお礼参りするのなら、当日精霊たちが気に入った格好をした方がいいと、一部の騎士が気を利かせて用意してくれたのだ。母さんとお婆はすごく喜んだが、ぼくは正直なところ恥ずかしい。

 奉納を済ませたボリスもススキを受け取りあの日と同じようにぼくたちの被っている布の中に入った。

「こうやってススキを持ってあるいていたら光るものが……」

 説明の途中で庭のあちこちから色とりどりの精霊たちが集まって来てまるであの日を再現するようにぼくたちに戯れだした。精霊たちの数はあの日の方が多かったけれど、初めて見る周りの人たちが息をのむのがわかった。美しい城の庭に現れた精霊たちは幻想的過ぎた。

「うわぁ、なんてきれいなの」

 女の子の声に振り返ると、キャロお嬢様の隣に沢山の従者が控えている壮年の人物が目に入った。

 あれは……そうだ、絶対間違えようがない、領主様だ。後ろに立たれるなんて想定外だ。ボリスよりぼくたちが前に出ている。これは…失礼なんじゃないか?

「みんななにしてあそんでるの?」

「せいれいの神様におれいを言いにきたんだよ」

 幼児たちがのんきな会話をしている傍らで、大人たちが跪こうとするのを領主様が片手で止めた。そして、あたふたする大人たちに静かにするように、人差し指を口元に立てて示して、「無粋じゃないか、無礼講」と囁いた。

「せいれいたちはなにしにきたの?」

「ぼくたちが遊んでいると思ったのかな」

「わたしもせいれいたちとあそびたい!」

 キャロお嬢様のいつもの無茶ぶりに周りの大人たちも顔が引きつっている。精霊たちがお嬢様のご機嫌取りをすることはない。襲ってくることはないだろうけれど、護衛の騎士たちに緊張感がたかまる。

「これを持ってこうやって」

 ケインは手に持っていたススキを半分キャロお嬢様に渡し、穂先をクルクル回して精霊たちと戯れ始めた。ケインが布から抜け出してぼくとボリスの周りを回りだすと、お嬢様と精霊たちも真似してついて来る。可愛らしくて美しい光景なのだが、領主様の目の前でこれができるケインの心臓には毛が生えているに違いない。ボリスもいつの間にか布を抜け出しススキを大振りに振り回している。ススキの軌道にあわせて暖色系の光が移動する様は手持ち花火のようだ。

 ぼくは緑や青の精霊たちに囲まれており、ススキは魔法使いの杖のように輝いている。気が付けばぼくも一緒になってススキを振り回していた。煩わしい気持ちはすっかり消え失せており、ぼくはそのまま精霊神に感謝する言葉を述べた。

「建国の折より我らにご加護を与え給えし精霊神よ。我らの困難に対し、御身の僕たる精霊をお使わし下さったことに感謝申し上げます。我が少なき魔力をもって奉納とさせて戴きます」

 ボリスが魔力奉納のときに唱えたお祈りが口から出た。すると、精霊たちがぼくたちの持っていたススキの穂先に集まるや否や、光の束になって一つにまとまり精霊神の祠に吸い込まれていった。

 やっちまった。自分で口ずさんでおいてなんだが、今のはどうなっているんだ。まるでぼくが場を仕切ったようじゃないか。

「せいれいさんたち、帰っちゃったね」

「かえっちゃいやぁ」

「いい子にしていたらまた会えるかもしれないよ。お城のお庭にいるなんて思わなかったよ」

 ボリスがいい〆の言葉を言ってくれた。やっばり少し成長したのかもしれない。

「いつもうちの孫娘の相手をしてくれてありがとう」

 マゴムスメ。まごむ…………孫娘!!

 キャロお嬢様は領主様の孫だったのか!!

 これは勝手に精霊たちを帰してしまったのはまずかったのか!!

「私はこのお庭の責任者であるエドモンドというものだ。祠の管理もしておるから、先ほどの奉納にも感謝するよ。魔力は大丈夫かい?」

 ただのお庭番ではないはずの人が、優しい口調で話しかけてきた。無礼講とはどこまでがセーフなのかわからない。質問の内容からして答えるのはぼくか…。

「魔力はよくわかりませんが、精霊たちに会うと心が落ち着いて体が軽くなります」

「せいれいは元気をくれます」

 いいぞ、ボリス!もっと言え。ぼくはすうっと後ろに下がる。

「君たちの名前を教えてくれるかい?」

 あっ、自己紹介ターンだ。いけ、ボリスおまえがリーダーだ。

「おはつにおめみえいたします。第三師団長マルクの三男ボリスです」

 ちょっと違うけど大きくていい声だ。ぼくたちもその文言真似すればって…うちの父さんの役職名知らないぞ。無難な回答………無難な…、これか。

「お初にお目見え致します。城付き文官ジュエルの長男カイルです」

「おはつにおめいえいたします。弟のケインです」

 ケインは…可愛いからよし!よく言えた!

「わたくしは、キャロライン。みなさんなかよくしてもよろしくってよ」

 いつの間にかお嬢様のターンになっている。このままお嬢様の独走状態になってくれないかな。

 領主様の顔が可愛い孫に、やにさがった普通のお祖父さんになっている。

「今回はみんな大変な目にあったと聞いておる。町の騒動の件は必ずきっちり始末をつける。だからまた、うちの孫と遊んでくれるかな」

 ぼくたちに会いたかったって、孫かわいさのためだったのか!!

「「「はい」」よろこんで!!」

 どこかの居酒屋さんの店員のように元気よく返答した。

 精霊と遊んだ子どもたちにキャロラインお嬢様が加わった。



 どうにか“お城のお庭で偶然であった”計画を遂行して、ぼくたちは家族そろって家路につくことができた。馬車は荷馬車ほどではないが、結構揺れる。緊張しっぱなしだった体がほぐれていくのだが、母さんの体にはきついだろう。

「もう少し揺れない馬車とかできないかな?せめて振動を吸収してくれるクッションの魔術具とかあれば、母さんの体にはいいのにね」

「そうだね、この揺れは体に障るね」

 お婆も賛同してくれる。

「そこまでひどい揺れかい?」

 あれ?父さんはまだ気が付いていないのか!

「このくらいなら大丈夫だけど、あったら便利ね。振動吸収クッション」

「…体に障るって!もしかして!!」

「それはお家に帰ってからお話しましょうね」

「あぁぁぁ………ジィィィィィン!!」

 うわ、耳に来る絶叫。

「「「父さんうるさいよ」」」

 なるほどね。大騒ぎするのはお家に帰ってからにしろってことなのね。

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