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この先も生きのこるには

前回に引き続き、やや残酷な描写があります。

 ……何だろう…、すごくうるさい。人の声、それも怒号に近い。頭に響く、ずきずき痛むくらいに響いてうるさい。どやどや騒がないでほしい…。

 ぼくがそれが沢山の人が入ってくる音だと気付くまでだいぶん時間がかかったと思う。そしてその怒号は悪いひとたちから発せられるものではなく、明らかに助けに来てくれているひとたちのものだと気付くのはなおさらだった。

 ぼんやりしていた頭に急に血が上る。声を、声を出さなきゃ。

「…たす…け…て………」

 大声を出すつもりだったのにかすれた声しか出ない。

「た、す、け、て」

 お腹に力を入れてできるだけはっきり聞こえるように助けを求めた。

「こっちだ!こっちに管理人のご婦人が倒れているぞ!」

 気が付いてくれた!!

「た、す、け、て」

「…子どもだ!子どももいる!!しかもまだ生きてるぞ!おい!!!誰か、手伝え!!」

 言い終わらないうちに体の上にあった重く冷たい身体がどけられた。

 ああ………かあさん………

 ぼくは漸く体を震わせて泣いた。もう疲れすぎて声も出なかったけどね。




 それからぼくは水を飲ませてもらったらまた眠ってしまったみたいだ。

 起きた時には宿場は綺麗に片付けられいて、遺体は外に並べられていたのを大きな毛布にくるまれたままただ茫然と見ているしかできなかった。

 父さん、母さん。まだ少し血のにじんだ白い布をかけられていて、表情もわからない。どうしてだろう、ぼくはその表情を見たいとも思えなかった。

 現場検証らしい作業も済んでいたようで、知らないおじさんたちがぼくに話を聞きたそうにしていたけど両親の遺体の前でかたまってしまったぼくに何も言えなかった。

「スープを用意している。…食べられそうかい?」

 身なりのよさげな服を着た20代に見える男性にそっと抱き上げられて食堂に連れていかれた。

「…俺にも息子がいるんだ、お前さんくらいの年のな」

 痛ましい子を見る目で話しかけるのだが、口調は事務的で淡々としている。

「無理はしなくていい、でも何か食べて体力をつけてくれ。ふもとの村までは馬で移動になる。お前さんが移動に耐えられる体力を回復しなければ身動きがとれない」

「あ…え、っと…その、父さんと、母さんは?」

「ほかの作業員とともにここで埋葬するしかできない」

「…遺体の損傷が激しいから?」

「そうだ。…う?随分と難しい言葉を知っているな」

「死にたくないって思っていたら頭の中で物知りな人が教えてくれたの。…ぼく、頭がおかしくなっちゃったの?」

「お前さんがおかしいわけじゃない。今は何も考えるな。とにかく食べろ」

「……ぼくはカイル。おじさんは誰?」

「俺はジュエル。ここの現場代理人だ。カイル、お前うちの子になれ」

 なにこの展開。頭がついていかない。

「とにかく食べろ。お前は、うちの子に…、なればいいんだ……、ぐっ、ふ…ゔ……っ…」

 ジュエルは冷静に語りかけていた最中、目頭を押さえて突然号泣し始めた。



 ほかの人たちの話を総合してみると、ジュエルが少し離れている間にこの惨劇が起こっており、ぼくが見ていないような作業員の休憩小屋などではより凄惨で、到底言葉には表せないほどの状態だったようだ。現場検証をしながら遺体を回収していたら生存者であるぼくを発見することになって、自分の判断の間違いをまざまざと見せつけられたような気持ちだったらしい。何一つまともなことができなかった、と。子煩悩の愛妻家だから、村の親族にまともな引き取り手がいなかったらジュエルの子になればいい、きっと幸せになれる、大丈夫だよとみんなは口々に言うのだ。

 ジュエルの子になるかどうかはさておいて、現実は淡々と過ぎていく。

 両親たちを埋葬して大きめの石で簡単な墓標を作ってくれた。少し簡易的な葬儀も執り行われたらしいけれども、ぼくはあまり覚えていない。

 ぼくはとにかく食べて、とにかく寝て、ようやくまともに動けるだけに体力を回復させて、救助から3日後に漸く村まで下りることができた。

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