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性悪開発者……?

 キャと声を上げそうになったキャロお嬢様とミーアが口を押えた。

「兄さん。説明が下手過ぎるよ。それじゃあ全身を蝸牛が這いまわっているように想像しちゃうじゃないか」

 ケインが慌てて否定した。

 蝸牛は可愛いかな、と思って決めた外見に過ぎない。

「いやいや、予想以上に凄かったよ」

 回復したウィルが、あれは本体がくすぐっていたわけではなく、風魔法でこちょこちょされていたことをキャロお嬢様とミーアに説明した。

「始めは風魔法でお腹のあたりをくすぐられる程度で、腹筋で堪えれば何とかなるかな、と軽く考えていたら、ふくらはぎや背中に不規則に出現するんだ」

「反応が薄ければ違う場所に移動するように設計していたからね」

「ああ、やっぱりそうか。こっちの反応を見て、ここだという場所を徹底的に狙ってくるんだ。一度笑ったらもう止められないよ」

 笑いのツボを特定すると執拗にくすぐるように設計した。

「実際に試合で有効かな?」

 ケインは実用的かどうか結果を知りたがった。

「有効だね。戦意喪失どころか、動けないんだ。最強レベルまで強めてあったんだよね」

 蝸牛の魔術具は今のところ三段階のレベルを設定した。

「まだ最終レベルまでいっていないよ」

「どんだけ笑わせることを想定して作ったんだい!?」

 ウィルが苦笑しながら言った。

「今回は魔術具の内容を説明してウィルに試してもらったけれど、笑ってはいけない真剣勝負で使用したら、屈強な騎士なら耐えるかもしれないと思って、笑い茸のエキスも仕込んであったんだけど、使わないで済んだよ」

「ああ。使われずに済んで良かった。笑い続けるって、予想以上にきつかったよ。一度笑いだしたら戦線復帰は無理だね」

「実用性はあるけれど、もう少し検証したいよね。兄さんも試してみる?」

 ケインの一言にぼくは固まった。

 これは人を笑わせるために作った魔術具であって自分が使用することは想定していなかった。

「人を笑わせる魔術具って言っていたから花びらが出てきたり、シャボン玉が飛んだりするような魔術具だと思っていたけれど、物理的に対戦相手を笑わせる魔術具で、しかも自分では試してみる気が全くなかった悪辣な魔術具だったんだね」

 イザークが呆れたように言った。

「無自覚で性格が悪いところがありますね」

 キャロお嬢様とミーアもそうですね、とぼくを見た。

「対戦相手に戦意喪失を起こす魔術具だから性格悪くもなるよ」

「ちなみにですけど、笑い茸のエキスは周囲に拡散させずに敵だけに効くように出来ているのですよね」

「被験者の鼻と口を覆うように設定してあるから隣に味方が居ても問題ないよ」

 キャロお嬢様の瞳が一瞬好奇心に輝いた。

「ウィリアム君の悶絶を見た後では、誰も被験者として協力してくださらないでしょうね」

 ミーアは現実的なことを言った。

「出口で調査しましょう。中にはもの好きな方がいらっしゃるかもしれませんわ」

 見物人のアンケート調査に被験者の希望の有無を確認することになった。


 意外なことに被検体の希望者が多数いた。

「あの魔術具で笑わなければ冷笑の貴公子に勝ったことになるから、挑戦したくなるらしいよ」

 初級魔法学校の魔獣カード倶楽部の部室に、なぜか中級魔法学校の魔獣カード俱楽部の部員数人がいるのは、仮部長から部長に正式決定したイザークが居るからだ。

 魔獣カード大会は魔獣カード俱楽部の主催で、生徒会後援を得て各学校単位で行われることになった。

 したがって、イザークが初級魔法学校の部室に来る理由は無いのだが、蝸牛の魔術具の中級魔法学校の噂話をしにきていた。

「良いじゃないか、全員被検体にしようよ」

 ウィルの記録を破るために参戦してきた生徒たちのプライドなど全く意に介していないウィルが言った。

「最初から身体強化をかけて挑んでくるのなら、良い被検体じゃないか。どこまで耐えうるのか実践に近い形式で全員を検証しようよ」

 見物人からのアンケートで多かったのは、炎に包まれたウィルを見ているのが辛かったという意見だ。

 炎の魔法に晒された味方を救出するためにどう行動するか、という一般的な反応も検証してみたい。

「少ないマス目で模擬戦にして検証してみましょうよ」

 キャロお嬢様が魔獣カード倶楽部らしく魔法攻撃は魔獣カードの技のみ、魔術具は蝸牛の魔術具と見た目が同じで違う内容の魔術具を二つ用意して、対戦者が内容を知らずに選ぶのはどうか、と提案してきた。

「笑い茸のエキスの仕込み方って、女性たちの間に流行している、混みあう市電で揺れに合わせて女性を触ってくる殿方を撃退する魔術具によく似ているでしょう。あれはジェニエさんとジーンさんが開発した魔術具ですよね」

 父さんが初見殺しに使った、臭い植物のエキスを入手したお婆は母さんと協力して痴漢撃退魔術具として、不用意に女性に触れた人物の鼻の周りだけに悪臭を拡散させずに留めておくペンダントヘッド形の魔術具を作ったのだ。

 悪臭の元は市内の騎士の詰所に出向けば、迷惑料を払って解除してもらえるらしい。

「そうだよ。痴漢撃退魔術具の魔法陣を応用しているよ。競技会用に悪臭の魔術具も作ってみようかな」

「兄さん。くれぐれも匂いを漏らさないようにしてね」

 ケインだけでなくウィルまで頷いたので、そんなに臭いの?とイザークが訝しがった。

「夏休みにエントーレ家にお邪魔して本物の悪臭を嗅いだよ。あれを辺境伯領の女性たちがお守りとして身に着けているなら、さぞ治安が良くなるだろうね」

「ええ。女性の一人歩きには欠かせないお守りとして浸透しましたから、不埒な輩は居なくなりました」

 悪臭の苦痛と、騎士団の詰所で解除を求めるとヘンタイ扱いされて社会的に死んでしまうので、男性が不用意な行動をしなくなった、とミーアが説明してくれた。

 ぼくは寮の研究室では実験しないことをキャロお嬢様に約束させられて、新型蝸牛の魔術具を制作することにした。

「イザーク先輩。中級魔法学校にお戻りになるのでしたら、あちらの上級生たちも連れ帰ってくださいね。新入部員たちが委縮してしまうのですよ」

 中級魔法学校の魔獣カード俱楽部に辺境伯寮生が少ないのでイザークについて来た中級学校の部員たちが辺境伯寮生を相手に対戦していて、新入生が怯えているかのように隅っこで観戦していた。

 ミーアの指摘にイザークが、申し訳ない、と謝罪した。

「交流会の日時を決めて人数制限して来るようにしても良いかな。みんな強い相手と対戦したいんだ」

「それでしたら構いませんわ」

 ミーアはテキパキと上級生が来る日時を決めて部室の平穏を勝ち取った。


 魔獣カード大会が近づくと校内はいたるところで魔獣カード対戦や優勝者の予想の話でもちきりになった。

 辺境伯領では早くも第一回予選会が地下街で開かれ、大いに盛り上がったそうだ。

 予選会を五回も開いて、三位まで予選通過者として決勝戦で本選出場者を各部門上位三名とすることにしたらしい。

 冬の娯楽として大いに盛り上がり、人々が街中に出歩く機会が増えたことで、冬場なのに祠の魔力奉納が増えた、と辺境伯領主は大喜びしているらしい。

 自分の揃えた最強デッキの守護神たちに神頼みの魔力奉納が増えたのだろう。


 魔法学校の生徒たちも本気で祠巡りをする生徒が増加している。

 魔力奉納の行列でトラブルを起こすことも無く、市民たちと気さくにお気に入りの魔獣カードの話で待ち時間も盛り上がっているようだ。

 新商品の発売日や中古市場の価格など、身分も関係なく熱心に情報交換している。

 魔法学校の魔獣カード大会と一般の魔獣カード大会が別開催なので敵対関係にならないから、なおさら話しやすいのだろう。

 あの店は暴利だとか、どのカードが市場でダブついているなど、情報を集めると流行りのデッキが見えてくる。

 魔力奉納を終えても、話したりない生徒と市民が喫茶店を占拠したり、魔獣カードを取り扱う商店を一緒にハシゴしたりするので街の経済も活性化しだした。

 こうして魔獣カード大会は市中では好き物の大会だと思われていたが、徐々に市民全体の関心事となっていった。


 ぼくの蝸牛の魔術具はラウンドール公爵子息を炎上させたうえ悶絶させた、と評判になっていた。

 競技会の模擬戦形式で魔術具の再検証をするため上級魔法学校の騎士コースの訓練所の使用許可を申請すると、教員たちもたくさん見学を希望した。

 一般生徒の見学希望者も多数予測されたため見学希望者は抽選とすることになり、準備期間が設けられた。

 被験者たちに魔術具のえげつなさを説明したが希望者は減らず、検証内容に抗議しない、と誓約書に記名してもらい、トラブルを未然に防ぐことにした。

 十二マスのタイルを用意し、六人、二チームに分かれて、制限時間内にタイルをチームの魔力に染めた数が多い方が勝利、とすることにした。

 チーム分けは被験者に当日あみだくじを引かせて事前に作戦を立てられないようにした。


 話が大きくなっている自覚はあった。

 ウィルを燃やしたことで耳目を集めたのに、魔獣カードの技を人間で実践するのだ。

 騎士コースの生徒だけではなく、魔獣カードファンまで見学を希望したので倍率がとんでもないことになっていた。

 それでも見学者の人数を学校側が増やさなかった時点で予測はしていた。


 当日、訓練所に向かうと話題になっている割に人気が少なく、王立騎士団員が警備をしていた。

 ハロハロがそっくりさんとしてではなく、王太子殿下としてご臨席されるのだろう。

 ぼくたちはハロハロ程度では緊張することは無かったが、訓練所の中に入ると警備の人数と上座の椅子の豪華さにご臨席されるのがハロハロではないことを悟った。

「兄さん。匂いが漏れたりなんかしないよね」

「万が一のために観客席の防御の魔法陣を強化してもいいか、騎士コースの教員と警備の人に相談して来るよ」

 国王陛下にあの悪臭を嗅がせたらぼくは不敬罪で逮捕されてしまうだろう。

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