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”運”がものをいう

 いつもは玩具を出して遊んでいる時間帯に、居間のテーブルに領の地図を出してみんなで囲んでいる。子猫たちはぼくとケインの膝の上だ。

「おれが城につく前に市場で騒動が起こった。事の始まりは、市場でちょっとした賭けの話が持ち上がった。ある男が『この一刻の間に市に持ち込んだ商品を一番先に売り切ったやつに鍋をやる』って言いだしたんだ」

「「「「鍋?!!」」」」

「ああ、うちの領の鉱山から採れる鉄鋼は上質で、あまりの人気に出荷、輸出に制限がかかっている。そうなると領内の既製品の値も上がって領外の製品の方が安くなってしまう。流入を防ぐため鍛冶ギルドが規制をもとめているのだが、国までからむ大事になっている。外国の行商人がうちの領の農村部で鍋を買いあさる事態にまでなっているからな」

 そんな鍋騒動があるのか。

「なんでそんな嘘くさいことを信じちゃったの?」

「その男は、自分はもう店を畳んで領をでるから騒動の種になる大鍋はいらないから早く売り切る商売っ気のある奴に譲ってやるんだって言ったらしい。まあ、みんな午後は早く売り切って帰りたい状態だったから、一人が話に乗ると後はあっという間にあの騒動になってしまった。踏みつけられて怪我をした人も大勢出たんだ」

「私とお義母さんは安売り騒動で子どもたちとはぐれてしまっただけだと思って大声で名前を呼んだの」

 母さんは思い出すだけで、手が震えている。

「ボリス君の妹さんが、男の子たちが殴られて連れ去られるのを見ていたんだ」

「あの場には非番の騎士が数名いたので、すぐに俺のところにも連絡が来た。騎士団は誘拐事件発生の報を受けて対策本部が結成された」

「現場では怒り狂ったミレーネ様が、町中の門を閉鎖するように叫んでいたわ」

「背丈の差があったから鳩尾を殴った男の顔は見えなかったよ。そのまま後ろから猿轡をかまされて、持ち上げられたら麻袋に入れられたから、ぼくは三人ががりで捕まったと思ったんだ」

「ぼくもあっという間にふくろにいれられたよ」

「そこんところは、犯人たちの方が素早かった。門の閉鎖はすぐしたんだが、市を早く閉めて、下村した馬車が各門に数台あった。遠い村から来ているなら肉や野菜を早めに売り切り日用品を買って帰るのはそう珍しいもんじゃない。怪しいやつがいなかったかの断定がなかなかできなかった、相当計画が練られていたんだな」

 父さんは悔し気に膝を叩く。

「私たちはミレーネ様のお宅にお邪魔して続報を待つことにしたの」

「ぼくたちは担がれて荷馬車の荷台に放り込まれた。痛かったけどたいした怪我はなかった。男たちは荷馬車に待機していた男に、黒っぽい髪の子どもがわからなかったから三人攫ったって言っていた」

「そこのところは騎士団の事情聴取でしっかり聞かれるところだから詳細をキッチリ話せよ」

「わかった。御者台に何人いるのかその時はわからなかった。ぼくはポーチに入れていたナイフを取ろうとしたんだけど、焦るとなかなかうまいかなくて門を通過してしまったんだ」

「門番は何をしているんだ!役立たずが!!」

「ああ、それはぼくもそう思った」

「はんにんはお塩とお酒をかったから、はやくかえる、みたいなこと言ってたよ」

「ようやくナイフを取り出して麻袋から出られた時にはもう荷馬車は結構な速さで町を出ていたんだ」

「兄ちゃんが袋から出してくれたんだ」

「大変だったねえ」

「ぼくたちは飛び降りたら死んじゃいそうだったからそのまま荷馬車に揺られていたんだ」

「どうしようかと思ったよ」

「しばらくすると馬車の速度が遅くなって、御者の人たちが迂回しようって騒ぎだしたんだ」

「何人いるようだった?」

「聞こえた声は二人だった」

「そうか。南門から帰ってくる商人たちが脱輪で渋滞していた街道を避けるようにそれていった荷馬車がいるけど大丈夫かって情報が入ったから騎士団数名で調査に行ったんだ。おれは改良した最新版の鳩なら微弱なお前たちの魔力を追えるかと思って騎士団に同行したんだ」

「ぼくたちは荷馬車が街道からそれたら速さが落ちるだろうって機会を待って飛び降りたんだ」

「「「よく大丈夫だったな」」」

「道が悪くてかなり揺れて荷馬車もゆっくり走っていたから、犯人たちに気づかれずになんとかなったんだ」

「けがもしなかったよ」

「荷馬車が街道をそれた跡があったからそれをたどって行ったんだが、何台かが真似して通っては挫折して戻ったりしていて、現場が荒れていたんだ」

 迷ったのはぼくたちがバカだったせいじゃないんだ。

「ぼくたちも荷馬車が通った跡をたどれば街道に出られると思ったのに迷子になったんだ」

「他の馬車にも会わなかったんだな」

 ああそうだ。他の馬車に遭遇していないってことは現場が荒らされる前だ。ぼくたちはおバカな子どもたちだ。

「あわなかったよ」

「下草を木の枝で払って進むうちに迷ったんだ」

 ぼくはうつむいて頭を抱えた。

「「「子どもなんだからあり得ることだよ」」」

「おれはもうお前たちの近くにいるだろうとふんで、鳩を飛ばしたらケインの魔力を探査させた方だけが飛び立ったんだ」

「「「なんでだろう」」」

 心当たりはある。…あれを騎士団が追いかけていたんだ。

「そのままついていくと沼地にハマった荷馬車があったんだ。鳩はその場で旋回していたのだが、馬車には誰もいなかった」

「飛び降りなかった方が早く助けられたかな?」

「徒歩で連れ去られただろうから、乗り続けていた方が危なかったな」

 迷子にならなければ、あの時の判断は間違いじゃなかったようだ。

「荷馬車に荷物は残っていたのかい?」

「ああ、塩と酒がいくつかあった。…もう一つ木箱があったんだ……」

「ケインの「うんち!!」」

「「うんち?」」

「麻袋からでたあとケインがもよおして、その辺りにさせるのが嫌でしっかりした木箱があったからそれをおまるにしたんだ」

「鳩はそれを追っていたんだ。だから騎士団はお前たちの排せつ物を追いかけることにしたんだ」

「はいせつぶつって?」

「「「「うんちとおしっこ」」」」

 一応用心にススキはかぶせたけど、バレバレだったならば下手な工作した分恥ずかしい。

「だがな、お前たち几帳面に隠しながら移動しただろ。なかなか難しくてな、ススキのトイレを見つけた時はもう日が暮れる時間帯で、夜の装備は特別だから広範囲に捜索できなくなってしまった。おまけに感度を上げた鳩も飛ばなくなっていた。八方ふさがりになってしまった」

「私たちも荷馬車が見つかったのに誰も乗っていなかったと聞いた時には絶望的になったわ。どこかの村にたどり着いていなければ普通の人なら魔獣にやられてしまうもの」

「ぼくたちは魔獣対策に木箱の中にあった白い生地を三人で被って、ススキを持って魔獣の来なさそうなところに移動したんだ」

「それが大正解だったし、捜索が難しくなった原因だった。あれは成人貴族が必ず着用する魔力を通しにくくする手袋に使用されるとても高価な生地だった」

「「ホントに魔力をおさえていたんだ!!」」

「わかっていて使ったわけじゃないんだな。後日騎士団でいろいろ聞かれる時にしっかりそこは話してくれ」

「気休めぐらいの気持ちで使っただけだよ。ほら、魔力って湯気みたいに上に向かってゆらゆら漏れ出ているでしょ。それを足元の方に流せたら見つかりにくいかもしれないと思ったんだ」

「ああそうか、普通の生地でも足元の方に流せるか試してみたいな。…それは置いておいて、よく魔力の流れに気が付いたな」

「ううんとね、あの時はあたりに悪い気配がないかとか、大きな魔力が近づいてきていないかとずっと気配を探っていたから、ぼくたちも逆に魔獣から丸見えなのかもしれないと思ったら怖くなって、何とかしたくて考え出したんだ」

「兄ちゃん、すごく頭痛くなってたんだよ」

「「「!!!」」」

「カイル、それは魔力暴走かもしれない。子どもの体で魔力を使うと加減ができずに体中の魔力を一気に放出してしまい、最悪死んでしまうんだ」

 マジか!黒いのに助けてもらえなかったら……最悪死んでいたのか。

 膝の上で眠り込んだ子猫をなでで気持ちを落ち着かせる。

「最初は焦っていたから加減がわからず、無理がたたったみたいだけど、すぐ治まったからなんとかなったよ。命拾いしたんだね」

「無茶をしなければ、生き残れない状況だったのはわかるが、今後は気をつけないといけないよ」

「わかっているよ。でもね、そのおかげで、魔獣がどっちにいるかとか、種類の違うのがいるとか、あの辺りのススキが魔力が多いぞ、みたいなことがなんとなくわかるようになったんだ」

 怪我の功名かな。あの時はなんとかしなきゃって必死すぎてそんなスキルを身に着けたことに気が付いていなかった。当たり前につかっていた。

「なんだかすごく便利そうだな今度教えてくれよ」

「ぼくにもおしえて!」

「気配を探るのはいつもしていたから、教え方はわからないよ」

「いつものように一緒に試行錯誤すればいいのよ」

 やっぱり母さんは目の付け所がいい。わからないことは家族みんなで考えればいいんだ。

「話がそれたね。ススキでトイレを隠した後どうしたんだい?」

「ひかるものがいっぱいあつまってきたんだ!」

「色とりどりの、これぐらいの大きさで、向こう側が透けて見える不思議な光だった」

 ぼくは指で輪っかをつくって説明した。

「すっごく、きれいだったよ」

「あのときぼくたちは三人並んで白い布を被って手にススキを持っていたから、ススキの穂にいっぱい集まったり、ぼくたちの周りをぐるぐる回ったり、遊んでいるようだったよ」

「たのしかったねー」

「「「………」」」

「赤いのがいっぱいボリスのそばにいたね。兄ちゃんにはいろんな色の、あっ緑のが多かった!」

「……たぶん、それは精霊たちだよ。私は見たことがないが言い伝えではそういう姿をしている。お前たちはとても運がいい」

 みんな首を振って見たことがないし、見た人も知らないと言っている。

「ボリスがもう騎士団に話しているだろうから、この話は公になってしまう。面倒なことにならなければいいが……」

「面倒なことって?」

「うーん、例えば神様に会った子どもがいるっていう事があったら、教会も王様も黙っていないだろう?精霊は精霊神のお使い様だから、神様の使いと一緒に遊んだ子どもたちを周りが放っておくことはないだろうね」

 おっと…?ぼくもそんな面倒なことになりうるなんて聞いてないぞ?

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