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ハロハロの謀計

 自宅で過ごす楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、再び王都に向う季節がやって来た。

 ウィルとクロイは気が合うようで、学習館の帰りに火の神の祠で待ち合わせをして毎日のようにうちに遊びに来ていた。

 魔術具を一緒に作ったり、訓練場で非番の騎士たちと戯れてたりと随分楽しい夏休みを過ごしていたが、ぼくたちより一足先にラウンドール公爵領に戻った。

 どうやら跡継ぎ候補の長男に発破をかけに行ったらしい。

 ウィルの奮闘はラウンドール公爵領の税収の増加からも見て取れる。

 トウモロコシの種を譲り受けていたから、また何か変革をするのだろう。

 三つ子たちは仮市民カードを手にしてから計画的に祠巡りをし、移動の合間に商店街でも魔力供給を請け負って、ポイントを貯め続けている。

 飛竜の里の子どもたちに魔力もポイントも負けないようにと頑張っている。

 お婆か母さんが付き添い、やり過ぎ注意と見守っているのに、貸本屋の魔術具に魔力供給をしていると聞いてぼくはギョッとした。

 あの魔術具は大量に魔力を持って行くのだ。

 三人同時にほんの少し供給しているだけだ、と三人は主張している。

 命にかかわるような魔力を要求していない、中の本が三人の魔力を欲しがっているから手にするのにふさわしくなるまで待っているんだろう、と魔本が言った。

「他にも魔本があるのかい?」

「あるにはる。だが、どれも私ほどの力はない、ただの古文書だ」

 古文書の文字が問題だし、ただの古文書が魔力を要求するとは思えない。

 “……ご主人様。念のためにみぃちゃんとみゃぁちゃんの肉球の区別を教えておいた方が良いかもしれません”

 そうだよね。保管の魔術具に入っている古文書が魔力を使うのは読んでもらえる本になるために魔力を使いたいのだろう。

 ケインや兄貴と相談して、みぃちゃんとみゃぁちゃんの肉球カードを作り家族であてっこするゲームを作った。

 スライムたちも自分たちのカードを欲しがったので全員分作る羽目になった。

 三つ子たちは自分たちでルールを作ってババ抜きのように遊び始めた。

 そうして出発の日がやって来ると、いつでも帰って来られる安心感で誰もめそめそはしなかった。

「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」

 イシマールさんと新婚飛竜たちと一緒に、魔法の絨毯で王都へ旅立った。


 三年目となると新鮮味も無くなりそうだが、王都にも変革が起こっているのが上空から確認できたので、細部まで気にして見てしまう。

 祈りで魔力が増えると理解した市民は毎日の魔力奉納を欠かすことがなくなり、王都の結界は魔力に満ちている。

 生活がギリギリの者ほど必死に魔力奉納をしたので、増えた魔力で生活を立て直せるようになった。

 火の神の祠の近くのスラム街でも身ぎれいにしている人たちが多くなった。

 生活に余裕が出てくると庶民の間にも魔獣カードが普及し始めたようで、街角のあちこちで対戦している姿が見える。

「年齢別に大会でも開いたら盛り上がりそうだね」

 ぼくがボソッと呟くと、ケインは顔を輝かせた。

「競技会は帝国留学をしない、一般生徒には関係がないから学校全体で盛り上がることは無いけれど、魔獣カード対戦なら年齢制限や使用枚数の制限とかして、いろいろな部門別にしたら誰でも参加できる!」

 “……初見殺しの新技もたくさん集まりそうだから、競技会の魔術具に転用できる技もあり出てきそうだね”

 王都に入ってから実体を消した兄貴の着眼点も良い感じだ。

 ほどなくして辺境伯寮に着いたが、寮長への挨拶もそこそこに研究室に急いで行こうとしたら、先に部屋に荷物を運べ、と周りのみんなに止められた。

「カイルとケインは二階の奥の部屋だよ」

「お前たちは神出鬼没だから、部屋のドアにどこに居るかだけでも書いて貼っておいてくれ!」

 寮長が懇願するように言った。

 ぼくたちが転移であちこち行っているのはこの寮内では公然の秘密だ。

「連絡の取れるスライムを寮に常駐しておきますから!勘弁してください!!」

 こうして、ぼくとケインのスライムたちの分身に目印をつけて、寮の談話室に常駐させることになった。

 スライムたちは主の魔力の色に染まっている。

 それぞれ色は違うが、似た色のスライムたちが寮内にはたくさん居る。

 だから、ぼくとケインのスライムの分身たちには、それぞれ違うピアスを付けることにした。

 みぃちゃんの首輪のチャームを羨ましがっていたぼくのスライムはご満悦だ。

 後々、スライムたちにアクセサリーを付けることが大流行するのだが、それはキャロお嬢様が寮に戻って来てからのことだ。


 新しい二階の部屋も間取りが変わらないせいか、違和感はない。

 ぼくとケインが荷物を整えて、いざ魔獣カード大会の話を詰めようとしていると、ぼくとケインのスライムたちが、来客が談話室に居る、と同時に言った。

 どうせウィルだろうと当たりを付けていると、談話室に居たのはハロハロだった。

「「ご無沙汰してます」」

「君たちが戻ってくるのを待っていたよ!今年度は是非、帝国留学の勉強会に参加してほしいんだ」

 寮長が出したお茶に見向きもせず、ぼくとケインの方に身を乗り出したハロハロにぼくとケインのスライムが割って入った。

「勉強会に参加する必要性がないよ」

「そもそも参加者の質が悪いよ」

 ぼくとケインはボリスの手首についたスライムたちの分身からの報告を聞いて、留学への勉強会も合宿も参加しないことを決めていた。

「ハルトおじさんと同じことを言うんだね。学習内容を変えないと生徒の質は上がらない。辺境伯寮生しかまともに育っていない、ときつく言われたんだ」

「ぼくとケインが参加することで教育課程を見直してくれるだろう、と企んでいたんだね」

「やりませんよ。ぼくと兄さんは、今年は自分の研究の合間に学校生活を楽しむ予定です」

 楽しむ、という言葉にハロハロが反応して食いついてきたが、目新しいことを始めるわけではない、と言うと、部屋の隅で寮長が安堵していた。

「寮内で度々やっている魔獣カード対戦を学校の昼休みにやりたいね、と相談していただけです」

 ケインは詳細をハロハロに説明した。

「年齢別や、カードの使用枚数の制限、団体戦かぁ。いいね。……決勝戦は御前試合にしないかい?」

 寮長が胸元で乙女のように両手を握りしめ、やっぱり大ごとになるじゃないか、と口元が動いた。

「うわぁ。子どもの遊びに大人が首を突っ込むんだ」

「大人は大人で大会を開けばいいじゃないですか!」

 ぼくとケインに賛同するように、テーブルの上のスライムたちが胸を張って抗議した。

 ハロハロの前で余計な口を利かない分別があるようだ。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんがテーブルに寄って来てニャァニャァ鳴いた。

「いや、そうだな。余興として大人の大会を開いても良いな。大人と子供の優勝者で御前試合をするなら問題ないだろう?」

 やけに御前試合に拘るな。何でだろう?

「魔獣カードをやりこんでいる子どもは強いですよ」

「だから良いんだよ。出来れば平民からも勝ちあがってきてほしいな。高々遊びなんだから、身分差なんか気にせず独創的な技を出してくれたら、能無しの上位者を見えない拳でぶちのめせるだろう」

 ハロハロは悪い顔でニヤリと笑った。

 能無しの上位者が社会的地位の高い役職に多少いるのは仕方がないことなんだ、とハロハロは前置きした。

 縁故採用者は仕事が出来ないのに、要所要所で口を挟んで現場を混乱させるが、縁故採用しているからこそ派閥を抑えられる側面があり、無能を一掃しない方が縁故を望む者の暴走を防ぎ、仕事が捗るらしい。

 一部の上位貴族が基礎の結界に繋がる魔法陣を独占しているのだ。

 完全に排除したら国の結界を作り直さなければならなくなってしまうのだろう。

「勝ち上がった身分の低い人たちが、その後嫌がらせを受けないなら良いですよ」

「ああ、約束する。有効な新技は本人の名前を付けて保護してやるよ。魔獣カードはガンガイル王国の重要な輸出品になる。新技作成者や技術革新者に魔獣カード用の称号と賞金を与えれば、名誉と金の両方を手にすることが出来る。そうなれば出自など関係あるまい」

 おっと、この流れはプロ魔獣カードプレイヤーが出現するかもしれない。

「面白そうですね」

 ケインは魔獣カードという人気の種目での独自の上下関係だから、社会の身分は気にしなくて良い特殊な世界が出来上がるのか、と感心した。

「今考えた案にしては上出来だね」

「魔獣カードという案に乗っただけで、前からやってみたかったことなんだ。今の王都の体制では君たちの親御さんたちのような優秀な人材を地方や帝国に奪われてしまう」

 辺境伯領は極寒の辺境という印象でそれほど人口流出が起こるとは考えていなかったが、今や人気の観光地だし、ラウンドール公爵領や港町も改革は進んで住みやすい領地になっていくだろう、王都が変わらなければ国の要を支えられなくなる、とハロハロは真剣に言った。

 寮長が内緒話の結界を張ってくれ、とぼくに目で懇願した。

 そんなに深刻な話はしていないが、寮長の胃が悲鳴を上げる前に結界を張った。

「君たちだって寮内で楽しんでいたことを学校で大々的にやるつもりなのは、何か下心があるんだろう?」

「競技会に向けた魔術具の制作のヒントになるような面白いアイデアが出てくるのではないかと考えてはいたよ」

 ぼくは兄貴も交えて話したかった競技会対策の一部をハロハロに話した。

「初見殺しは確かにすぐに攻略されるけれど、たくさんあったら相手もどの手が来るか読みにくくなる。これは面白いことになりそうだ」

 ぼくとケインは学習会や合宿に参加せずに、競技会用の魔術具制作の合間に顔を見せに来れば良し、という事でハロハロは納得してくれた。


 ミャゥミャゥミャゥミャゥミャゥ……。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんが厳しい目でぼくたちに訴えかけてきた。

 スライムたちもテーブルの上で一列に並んで土下座して訴えかけてきた。

「魔獣たちは何を訴えているんだい?」

 ぼくたちの魔獣たちのただならぬ様子にハロハロが言った。

「魔獣たちも魔獣カード大会に出場したいようなので、是非、魔獣部門も作ってください」

 あきれたようにみゃぁちゃん頭をなでながらケインは言った。

 負けず嫌いな魔獣たちは自分が活躍できる場が欲しいようだ。

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