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飛行と転移

「お前たちは神出鬼没にどこにでも転移できるのか?」

 冷静さを取り戻したディーが言った。

「残念ながら、どこにでも行けるわけじゃないよ」

 種明かしはしないよ。

「護送される前に話しておきたいことはすべて話した。組織の幹部でもない俺は僻地の除染員になるだけだろうから二重スパイだなんて大役は務まらんよ」

 憔悴しているディーは投げやりに言い放った。

「別に僻地で瘴気の浄化をするにしても試してほしいことがあるし、組織に潜り込めるなら二重スパイになってもらうよ」

「世界を救おうだなんて大それたことはしないけれど、手数を多く持っていないとこの先生きのこれないからね」

 ケインが可愛げない子どもになっていく。

「ハハハ…。俺にいったい何をさせようって言うんだ……ハハハ…」

 乾いた笑いをしたディーに亜空間でゆっくり話そうか?と言うと押し黙った。

 シロのお仕置きは効果抜群だったようだ。

「スライムを携帯してもらうだけだよ」

 ぼくたちのスライムがポケットから飛び出して分裂するパフォーマンスをしている間に、ディーの髪の中に潜んでいたスライムをそれとなしに回収した。

 ディーは装飾品を目立つほど身に着けていなかったので、白金の指輪を作り宝石代わりにスライムを嵌めた。

 ケインも真似して作ったので、ディーの左右の中指に嵌めさせた。

「ぼくたちに伝えたいことがあればスライムに話しかければ、本体のスライムに伝わるよ」

「国境超えても大丈夫だったけど、どこまで繋がるか試験したいから、移動中に何か呟いてね」

 メイ伯母さんの検証では緑の一族の村と港町で交信可能だった。

 北西の端っこのガンガイル王国と反対の南東の僻地の果てに送られても交信できるかは、やってみなければわからない。

「途中で指輪を没収されたらどうするんだ」

「呪いの指輪だから翌日には戻ってきているよ」

 適当なことを言って誤魔化したが、シロに取り返してもらうだけだ。

「お前たちの能力は一体どうなっているんだ!」

「成長期だから伸びしろがまだたっぷりあるよ」

「これからもまだ研鑽するつもりだし」

 驚愕するディーに、指輪が震えたら耳元に手を当てたらぼくたちの声が聞こえると、取り扱いについて説明した。

「……そうか、世界の理に触れたんだな……」

 全ての筋肉を弛緩させたようにだらりと体を寝台に預けたディーが力なく言った。

 兄貴がぼくの表情筋を真顔で固定した。

「世界の理ってなんですか?」

 ケインが何も知らない純粋な子どものようにディーに問いかけた。

 ディーの組織の言う世界の理の定義を知りたい。

「真の魔法世界だ。神の求めに応じれば何の規制もなく魔法が使える、神々との約束だよ」

 それは魔方陣と詠唱魔法に区別される前の古の魔法のことだろうか?

「ディーは勉強不足だよ。世界の理の中でぼくたちは生きているのに、世界の理という言葉に惑わされているよ」

「ケイン。世界の理を探すことは無駄な探求じゃないさ。世界の理を探す過程に何らかの発見があるかもしれないだろう。天に向って唾を吐く研究だって、繰り返し角度や速度を変えて計測し続ければ、飛行の魔法に繋がる発見が出来るかも知れないよ」

「……組織の探求は全て無駄だと?天に向かって唾を吐くようなものなのか?」

「さあね。とりあえずは胡散臭い人たちの真の目的を探れたらいいんじゃないかな。ディーは世界の理を探求し続けるだけで良いんだ。そうすればきっと教義の裏側に辿り着く。ディーは一日の研究成果を、爪を噛むような仕草をしながら呟けばいいだけだよ」

「土地の結界に神々へ真摯に感謝しながら魔力を奉納することも忘れないでね」

 ケインのアドバイスは的確だ。

 ディーが世界の理に辿り着けるかは、ディー次第だ。

「僻地に飛ばされた時はぼくたちから指示を出すよ」

 ぼくたちはそれだけ言うと寮の自室に帰った。


 翌朝ぼくとケインはボリスの合格発表を待たずに魔法の絨毯で帰宅した。

 イシマールさんと新婚飛竜たちに護衛されながら最高スピードを検証した。

 魔力不足の心配がまったくないので、人気のないところでわざとダッチロールさせて体に負荷をかける練習もした。

「……吐きそう」

「……回復薬でなんとかなるかな?」

 じゃんけんでキュアに癒しをかけてもらうか、マズい回復薬を使うか、役割を決めることにした。

 真剣勝負だから精霊言語を駆使してぼくの思考を漏らさずケインの手の内を読んだ。

「兄さん。大人気ないよ」

「子どもだからいいもん」

 ケインは諦めて回復薬を一気飲みして絨毯に寝っ転がった。

 ぼくはキュアの癒しを受けると吐き気も頭痛もおさまった。

「兄さん、回復薬は効果ありだよ」

 ケインはスライムたちに慰められていた。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんもキュアの癒しを受けているのを見て、キュアの癒しも有効なんだね、とケインが呟いた。

 スライムたちはあの揺れでも大丈夫だったようだ。

「飛竜騎士にでもなるつもりなら、この程度の訓練で回復薬を使うようではいかんぞ」

 イシマールさんの声真似でぼくのスライムが言った。

「イシマールさんがそう言ったのかい?」

「違うよ。イシマールが言いそうなことを真似してみたんだよ」

『ああ。飛竜部隊の訓練はもっときついな。どうぞ』

「飛竜騎士は目指していないから、もう、まっすぐ帰ろうよ」

 音を上げるケインにイシマールさんが笑う声を通信で聞きながら、ぼくは音速を越えても衝撃波が起こらない魔法陣を考えた。

 進行方向の空気を後方に転移出来れば速度は加速するし衝撃波も起こらないかな?


「転移の魔法か?魔力の消費が無駄に多いだろ」

 帰宅後、父さんに説明すると、増えた魔力でごり押しするな、とお説教を食らった。

「発想は面白そうだから、人の移動で試す前に物の輸送で試そうよ」

 ケインは都市間の物流に飛行船のようなものを考えているようだ。

「空飛ぶ輸送が可能になったら誰だって乗りたくなるでしょうね」

 母さんが地上でガタガタ揺られて旅するより空の旅の方が快適そうだ、と言った。

「大型にしなければ良いじゃないかい。どうやっても人が乗れない形なら密航できないでしょう」

 お婆は落下の危険があるものに人が乗るものじゃない、と主張した。

 ぼくたちは飛竜がいなくてもスライムで飛べるから緊急事態にも対応できるけれど、魔術具として世に出てしまえば無理をする人間が出てくるだろう。

 ぼくたちが新しい魔術具の相談をしている間にスライムたちは発声法の特訓をしていた。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんとキュアがサポートについて指導している。

「空気って面白いね」

 音が空気の振動だと知った三つ子たちがコップに水を入れて叩いて遊び始めた。

 妖精たちが水の量を加減して音程を整えている。

「妖精たちは三つ子たちを甘やかしすぎだよ。ぼくたちは自力で調律したよね」

 ケインが妖精たちに手伝わせないで自力でやりなさい、と注意した。

「水路の輸送が発達しないのは川上りの魔力消費が激しいからなのかな?」

「王都と辺境伯の間には大きな滝があり、大型魔獣が生息していると言われているから、船の物流は一部地域でのみ行われているよ」

 船便で運べないところだけ飛べばいいのかな?

「兄さん。今空飛ぶ船を作ろうかとか考えたりした?」

 何か企んだ顔でもしたのだろうか?

「空飛ぶ船は面白そうだし、多分ぼくなら飛ばせるよ。ただ本当にやったら、土地の魔力をかなり無駄遣いすることになりそうだよ」

 やってみたい事をそのまま実現したらそこら中が不毛の地になる。

 それじゃあマズいんだな。

「やけに物流に拘るけど急ぐことでもあるのかい?」

「飛竜の里が急激に人口増加しているから、今はぼくが転移で物資をながしているけれど、恒常的に担当するわけにはいかないでしょう」

「ああ。それはポアロさんとも話していたんだよ」

 父さんは飛竜の里の手前の町に物流センターを作り、飛竜の里へ外部からの接触を一本化する手筈を整えていると説明してくれた。

「空飛ぶ輸送は飛竜の里で実験すれば、興味を持った飛竜たちが警護してくれるかもしれないね」

「面白そうだと思ってくれたら手伝ってくれるかもしれないよ」

 キュアは飛竜だって楽しいことが好きなんだ、空飛ぶ船は良いよね、と力説した。

「船を飛ばす予定はないよ。ああ船の玩具なら作ろうかな」

 ぼくは三つ子たちに遊びで使ったコップを片付けたら船の玩具を作るよ、と声をかけると三人は妖精たちに頼らずに素早く片付けた。

「ジョシュアとケインとカイルが居ると三つ子たちの聞き分けが良いわ」

 早く新しいおもちゃを見たいだけだと思うな。

 母さんにポンポン船の説明をしてカッコいい船のデザインを頼んだ。

 ぼくが簡単に船に細工をしたものと、母さんの繊細な技術を比べたら、母さんの偉大さがわかるだろう。

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