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トウモロコシ迷路

「周囲の魔力を奪って魔法を行使するのかと思うと、思いっきり出来ないでしょう」

 兄貴はいつも家族のそばに居るから家族の魔力を消耗させるのではないか、と気にしていたことを語った。

「ぼくがシロに魔法を使ってほしくないのもそれなんだよね」

「ご主人様に負荷をかけるような魔力の使い方はしません」

 シロがきっぱりと否定した。

 シロがぼくの魔力を使い過ぎる心配より、周辺の魔力を使い過ぎる影響を考慮しているだけだ。

「そもそも精霊が好む人物には魔力量があるというのが前提条件なのですが、幼少期から好かれる子どももいますが、それは大概砦の守り手の子孫です」

 カイルたちは珍しいんですよ、とマナさんの精霊が言った。

「誘拐事件の三人かい?」

「ええ、そうです。それから精霊たちは幼児に注目するようになりました。辺境伯領は幼児から大人まで素直に神々や精霊たちを敬うようになりました。そうなったことで、土地の魔力量も精霊たちや精霊素も増えたので、シロが問題なく魔力を使える条件が整いました。ガンガイル王国の王都も同様です」

 精霊が精霊魔法をいかんなく発揮するためには条件があるという事か。

「緑の一族の村では精霊素も魔力量も問題ないなら、さっさと魔獣を駆除してしまえば良いのではないですか?」

 ケインの質問にマナさんが答えた。

「結界の外に魔力量も精霊素も足りないから我々はここに来ているんじゃよ。結界の外側で魔法を使えばさらに土地の魔力を消費してしまう。薬で催眠誘導されているだけの魔獣だから、薬効が切れたら散り散りになるだけじゃ」

 持久戦なら緑の一族の方が有利だ、とマナさんは言った。

 つまり、何もしない方が結界の外の土地に与える被害が少ないという事なのだろう。

「魔力を襲ってきた魔獣から調達しても精霊素が少なくなってしまうから、外の土地に被害をもたらすことになるのは変わらないのでは?」

 ケインが尋ねた。

「そこは、やってみなくてはわからないでしょう、としか申し上げられません」

 魔獣を殲滅するために周囲の魔力と精霊素を使えば、土地の魔力と精霊素が枯渇してしまうが、集まった魔獣が村の結界を現在進行形で攻撃しているのに精霊素を使っている。

 兄貴の提案では土地魔力に影響を与えないと推測できるが、魔獣の命を奪うほどの魔力を使うと消費する精霊素が当然多くなるはずだ、とマナさんの精霊が言った。

「それで、やってみなければわからない、という事なのですか」

「土地の魔力に影響がないのだから、精霊たちが興味を持つような魔法を使えば精霊素も沸きやすくなるんじゃないかな?」

「ああ。土地に精霊が増えれば精霊素も増える。……何をしようって言うんだい?」

「トウモロコシ畑で巨大迷路でも作ろうかなって……」

 みんながあきれたようにぼくを見た。

 兄貴は思いっきり魔法を使いたい。

 ぼくはトウモロコシの研究をしたい。

 子どもたちを含む精霊たちを楽しませたい。

 全部一度に出来てしまうじゃないか。

「欲望の盛り合わせ……」

 ケイン。一石三鳥だよ。

「面白そうじゃないか。やってみよう」

「部屋の外と時間を切り離しました。思う存分作戦会議をしてください」

 マナさんの精霊は仕事が早いうえに高度な技術が使えてカッコいい。

「ご主人様。いずれ私も出来るようになってみせます」

 亜空間で時間を止められるようになっただけで十分だよ。

 精霊の成長を待っていたらぼくがおじいちゃんになってしまうことだってあり得る。

 シロの成長はいったん置いておいて、魔獣の殲滅作戦の詳細を詰めた。


 兄貴は黒い少年に姿を変えた。

「なんで黒くなるの?」

「結界から飛び出して、帝国の孤児院を破壊した時のキュアのように目立ちたくない、と言うのもあるけれど、万が一攻撃を受けても黒い姿だと回避できるからね」

 スライムたちは東西南北にそれぞれ担当を決め、村の結界の外周を蚯蚓(みみず)のように細長く伸び、兄貴が仕留めた魔獣の回収を担当することになった。

 ぼくとケインとみぃちゃんとみゃぁちゃんがスライムたちの護衛を担当し、シロは兄貴の護衛兼補助、マナさんとマナさんの精霊は全体を総括してもらうことになった。

 キュアは能力が高すぎるので子どもたちと見学だ。


「さあ、始めようか」


 ぼくたちは村の真ん中であるマナさんの家の中庭で蝶の魔術具を放ち、円柱型の村の結界を半球型の構造に切り替えた。

「相変わらず蝶の魔術具の結界補助は綺麗だね」

 村人たちは仕事の手を止めて屋外に出てきた。

「何を始めるんだい?」

 結界の外の魔獣の存在を村人たち全員が知ってるのかマナさんに聞いていなかった。

「トウモロコシ畑を広げてみようかなと思って、ちょっと結界の外側に畑を作ります」

 トウモロコシをたくさん植えるのなら、と言って村人たちは自宅から加工前のトウモロコシをたくさん持ってきてくれた。

 種類が混ざってしまっているけれど、今回は研究を諦めてトウモロコシ迷路をメインにしよう。

 高さが違うのが混ざってしまうけれど、子どもたちの身長より大きいだろうからまあいいか。

 実体を消した兄貴が結界のてっぺんに上がると、ぼくたちは東西南北に分かれてそれぞれの配置についた。

 兄貴が土魔法で村の周囲を耕し始めると、結界を攻撃していた魔獣たちがバタバタと倒れ始めた。

 スライムたちが素早く触手を伸ばし死体を回収しては結界の内側に放り込む。

 数が多いから吸収するより回収に徹して、魔石や毛皮をはぎ取る作戦にしたのだ。

 鳥類も半球上の結界の外側を滑り落ちてくる。

 スライムは結界の外側に網の目のように広がって、まだ生きている魔獣に死骸を取られないように変形して対応した。

 村人たちがこぞってトウモロコシを寄贈してくれたので作付面積を増やすことが出来そうだ。

 兄貴が見えない村人にはトウモロコシが突然空中に飛び上がって、村の結界の外に拡散したように見えたのだろう。

 うわぁぁぁ~、という歓声があちこちから聞こえた。

 村の端っこには魔獣の死骸がどんどん積み上げられていくので、トウモロコシ畑が結界の外に出来たことに気が付いたようだ。

「結界の外まで手入れしに行けないわ」

 畑作を担当する女性たちに声をかけられた。

「襲ってきた魔獣たちの魔力を使って育てるので手入れはいりませんよ」

 そう答える間にトウモロコシは芽を出し、ぐんぐん成長していった。

 すぐにでもぼくの背丈を越えてしまいそうだ。

 兄貴もスライムたちも順調に作戦を遂行している。

 魔獣の攻撃は、みぃちゃんとみゃぁちゃんのスライムたちが防御魔法をかけているので、傷一つ負わせていない。

 問題ないのは良い事だ。

 ぼくのスライムの補佐はシロに任せて、魔法の杖をひと振りして魔獣の死骸から魔石を取り出した。

 すっからかんに魔力の抜けた魔石に魔力を補充すると、魔法陣をどんどん刻んでいった。

 精霊言語で済ませるので、ぼくの担当範囲の魔石を加工するのに時間はかからなかった。

 魔法の絨毯に乗って村の外周を飛びながら、魔石を回収しては魔法陣を刻んだ。

「兄さん!作戦に無いことを急に思いつきでやらないでよ!!」

「トウモロコシ畑に簡易の結界を張ったら、今日にでも遊べるようになるから、良いじゃないか」

 遊べるという単語にケインが苦笑した。

 楽しくなければ精霊たちは寄ってこない。

 遊ぶことは大切だ。

 ぼくが村を一周したころ、兄貴は襲ってきた魔獣から全ての魔力を奪い取ったようで、トウモロコシの成長が止まった。

 雄花が咲く手前まで成長したトウモロコシは大きな迷路になるように、間隔をあけて植えられていた。

「兄貴!成功だね!!」

「後片付けが終わるまで作戦は終わっていないよ」

 黒い少年の姿になった兄貴はそう言うと、魔獣の死骸を魔法でマナさんの家の中庭に山積みにした。

 仕事を終えたスライムたちやみぃちゃんとみゃぁちゃんもマナさんの家に戻ってきた。

「結界に攻撃してくる魔獣は完全に殲滅出来た。トウモロコシも見事に育って大成功。土地の魔力を減らすことなく全てが上手くいきよった!よくやったな、ジョシュア!!」

 マナさんが兄貴の両肩をポンポンと叩いて労った。

「襲撃者の魔力を根こそぎ奪う姿は死神のようでしたよ。途中から余裕が出てきて、魔力枯渇死の寸前になるように練習をしていたましたね」

 マナさんの精霊は兄貴が力加減を学ぶ良い実戦になったと言った。

「ご主人様。私も少し練習しました。殺してはいけない相手が襲ってきた時に、有効に活用できそうです」

 襲われたくはないけれど、そういう事がないとは言い切れないから、いい練習ができたようだ。

「魔石を回収して魔法陣を施したので、子どもたちが遊べるように結界を張っても良いかな?」

 マナさんと村長のモンローさんに許可をもらい、魔法の絨毯に飛び乗ろうとするとスライムが焦ったようにぼくの肩に飛び乗った。

「あたいが居るから魔法の絨毯は必要ないよ」

 スライムと合体して飛び上がると、キュアもついて来た。

 仲間外れにしていたわけじゃないけれど寂しかったようだ。

 キュアが大人しくしていてくれたお蔭でみんなのレベルアップが出来た。

「ありがとう。キュア」

「見ているだけでも勉強になったよ。私も破壊したり燃やしたりするだけだと、活躍の機会を失ってしまうのよね」

 力加減を覚えなくちゃ、とキュアも理解してくれた。

 蝶の魔術具を回収して、魔法の杖をひと振りし、魔石を散らして簡易の結界を張った。


「これでトウモロコシ畑の迷路で遊べるよ!」

 地上に降りてそう言うと子どもたちが歓声を上げた。

 三、四人でグループを作り時間差で迷路に入ることになった。

 ぼくとケインは制作者なのでグループ分けから除外した。

 男の子がどの子のチームに入るかで争いが起こりそうだったので、くじ引きでグループ分けをした。

「……凄いな、こんなことが出来ちゃうんだ」

 従妹たちと同じグループになったフエがボソッと呟いた。

「中庭に積み上げられた魔獣の命で出来たことだよ」

「命が、別の命になったの?」

「死んだら魂は天界の門に行ってしまうから、直接命が交換されたわけではないけれど、生きる力をもらって急成長したようなものだろうね」

 フエの質問にケインが答えた。

「そこのところの仕組みがどうなっているのかはわからないから、これからも試してみたいんだ。でも研究室で検証したら駄目だよ」

 釘を刺しておかないと、子どもたちに交じって迷路に行こうとしているハナさんならやりかねないからね。

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