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義姉妹

 この村には男性は既婚者しかいない。

 今回村に来たぼくを含めて男の子は六人しかいない。

 したがって目立つ。

 村人の視線が集まっているところには男の子がいる。

 お昼ご飯をオープンテラスで食べていても、お勧めのタコスを代わる代わる持ってきてくれる。

「ありがとうございます。でも、もうお腹いっぱいです」

 そう言って断っているのは男の子ばかりだ。

「みんな男の子に声をかけたいだけなんじゃ。食べられない分は気にせず断って良いよ」

 ぼくたちはふれあい動物園の満腹兎のように、もう何も食べられないけれど愛想よく何かをつまんでいた。

 そんな中、異彩を放っていたのがフエだった。

 フエはもう男装はもうやめていたが、短い髪にズボンなのは変わらなかったので一見男の子のように見えたのか、女の子たちがこぞって料理を運んでいる。

「フエが女の子なのはみんなわかっているが、あのタイプはうちの村では人気があるんだよね」

「わかるなぁ。お義姉様になってほしいよね」

「お義姉様?」

 男の子じゃないってわかっているのに声かけていたんだ、とケインが呟いた。

「町の魔法学校の寮生活で助け合い、生涯の親友になる関係になるのよ。フエの救出作戦の時もフエの母親のお義姉様が活躍してくれたわ。ユナにもいたのよ」

 メイ伯母さんは自分のお義姉様は王都に、義妹は従業員として港町にいると言った。

 クラーケン襲来時に従妹たちを領主館に避難させてくれた従業員が義妹だったようだ。

 数人のグループで構成される疑似姉妹関係らしい。

 村を出て嫁いだ人の子どもたちと一族との繋がりを作る為でもあるようで、従妹たちも数人の女の子に声をかけられているようだ。

「フエちゃんは凛々しくってカッコいいもんね。いつも孤児たちをまとめて面倒見ているし、お義姉様になって欲しいと思う気持ちはわかるわ」

 ハナさんまでそう言った。

「私は王都の魔法学校でお姉様のお世話になったけれど、義妹のお世話はほとんどできないダメな義姉だったからな」

 義姉妹選びは洗礼式前の一族の子どもの一大事なようだ。

「フエちゃんはね、頭も良いでしょう。飛竜の里が駄目っていうわけじゃないんだけれど、王都の魔法学校に進学させてあげたいんだよね」

 メイ伯母さんが切り出した。

「本人の意思が大事なんだけれど、魔法学の蔵書の数が王都の図書館の方が圧倒的に多いし、今の王都の魔法学校は辺境伯領が底上げしているからレベルも上がっているし、優秀な孤児たちは王都に進学した方が良いと思うんだ」

 それはごもっともだ。

 優秀な子どもは王都で学ぶ機会がある方が良い。

「フエちゃんは肌の色で外国の血が入っているのが明白だから、うちで養女にした方が悪目立ちしないでしょう」

 港町に外国人がいるのは当たり前だから国際結婚した妹の子ども、という設定にしたら確かに悪目立ちしないだろう、とメイ伯母さんは力説した。

「フエにもう話したのですか?」

 ケインが訊いた。

「出発前に旦那から話してもらったわ。洗礼式までに考えてくれたらいいな、と言う程度よ。一族の子どもたちと交流を深めてその気になってくれないかなって下心があるのよね」

「いいなぁ。うちは子宝に恵まれなかったから、養子を迎える機会があったら嬉しいよね」

 ハナさんがボソッと呟くと、旦那さんが驚いた。

「子ども、欲しかったんだ!」

 研究しか興味が無いように見えたのだろうか?

「恵まれないことに気落ちしても仕方がないから、研究に邁進しなさいという事だと思って気にしないようにしていたのよ。あなたも気にしない方が良いわ」

 ハナさんはあっけらかんと言った。

 婿入りして子どもが出来ないと無言の圧とかあったのかな。

「急いで研究室に戻る必要がないなら、飛竜の里から来た子どもたちと話してみると良いよ。酷い目に遭った子たちだから幸せにしてあげたいよね」

 メイ伯母さんは食後に子どもたちと遊ぼう、とハナさん夫婦を誘った。


 昼食の後片付けが済むと、魔獣カードを子どもたちのスライムたちが披露した。

 村人たちから拍手が起こった。

 魔獣カードはマナさんが持ち込んでいたけれど、スライムが使いこなすのがカッコよかったようだ。

 ぼくとケインやみぃちゃんとみゃぁちゃんのスライムは子どもたちに花を持たせるためにおとなしく見学している。

「いいね。スライムを躾けるなんてなかなか面白いことを考えたね」

「きっかけはうちの父が家族全員に各々の魔力に染めたスライムを用意してくれたからなんですよ」

 声をかけてくれた村人にそう答えた。

「良いご家族に恵まれたね。ユナちゃんもきっと喜んでくれるよ」

 目頭をハンカチで抑えながらそう言ってくれた。

 ぼくは家族を褒められたことも嬉しかったし、ユナ母さんを偲んでくれる人がいる事にも感動した。

「ユナの故郷はカイルの故郷だよ。時々顔を出してくれたらみんな喜ぶよ」

 この村ではぼくが突然転移して来ても、誰も驚いて大騒ぎにならない安心感がある。

「ユナ母さんの話が聞けるのは嬉しいし、能力を隠さずにいられる気安さがいいね」

「兄さん。僕も連れてきてね」

 ケインは魔力の少なくなった土地をどう再生させていくかに興味があるようだ。

 ぼくたちは子どもたちが遊んでいる様子を横目に見ながら、魔本に載っていない結界の話を始めた。

 緑の一族はズレた結界を整えて地脈の流れを正常化させているらしい。

 緑の一族が定住するだけでたくさんの精霊を引き連れて来るので、離れる土地にも入植する土地にも影響が大きいから、いくつかの班に分かれて移動しているらしい。

 マナさんの魔法は精霊魔法なので、ケインというよりは実体を現していない兄貴が勉強している。

 恥ずかしがりやな兄貴が男の子と言うだけで注目を浴びるここで実体化するのに抵抗感があるのだろう。

「カ、カ、カ、カイル君!」

 フエと話していたハナさんが口をパクパクさせながらぼくの方に駆け寄り、両肩を掴んで揺さぶった。

 その勢いに圧倒されていたら、旦那さんが、落ち着きなさい、とハナさんを止めてくれた。

「「どうしたんですか?」」

 ぼくとケインが同時に問いただした。

 ハナさんは興奮して口をパクパクさせて、フエちゃんがフエちゃんが、とフエフエばかり言って話が進まない。

「ハナさんの研究が面白そうだから、お手伝いしたいってお願いしたらこうなっちゃったの」

 フエが説明してくれた。

 トウモロコシの新種を研究している話を聞いて、ぼくがバケツ稲で品種改良したように自分も小さな畑を作って研究の手伝いをしたかったようだ。

「七日で収穫できるほど急がなければ魔力枯渇を起こさないでお手伝い出来るでしょう?」

 まさにその通りだ。

 あんなに大急ぎで成長したのは、ひとえに精霊たちが競争を始めたからに他ならなかった。

「わしが精霊たちに釘を刺しておくから魔力枯渇は起こさせないよ」

 マナさんが請け合ってくれた。

「トウモロコシの栽培期間は長期になるけれど、その間、お婆さんの家じゃなくてハナさんに家に滞在してもいいかなって聞いたら、ハナさんがこんな風になってしまって……。迷惑だったのでしょうか?」

「これは喜び過ぎて言葉が続かなくなっただけだよ」

 旦那さんがハナさんの代わりに答えると、ハナさんは何度も頷いた。

「こ、ここ、こ、子どもと、子どもと……」

「子どもと暮らしてみたかったのかい?」

 旦那さんの問いにハナさんは力一杯頷いた。

「こんな変人の家でよかったら、我が家に……滞在してくれるかな?」

「はい!」

 フエが元気よく返事をすると、ハナさんが泣き出した。

 子ども好きなのに子宝に恵まれなかった女性の反応にしては大げさな気がする。

「ご主人様。ハナさんの精霊が干渉しているようですけれど、悪い事ではなさそうです」

 そうかな?

 フエが不快じゃないようなら問題ないのかな?

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