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世界の果て

 創造神がこの魔法世界を創造した。

 全ての物質に魔力があり魔力が世界を支えている。

「この世界から魔力が無くなれば、世界は崩壊してしまうんだ。それはこの世界を支えている結界が機能しないことを意味し、世界の果ての砦が崩壊してしまうのじゃ。だが、神々はこの世界に直接魔力で介入しない。神々の力は強力すぎて世界を破壊してしまうからなんじゃよ」

 雨乞いの儀式で大雨を降らせたのは代理の精霊で、神々が直接介入したことは無いらしい。

 精霊に加減が利かないと聞いても納得出来る。

 マナさんの精霊は幼児を漆黒の亜空間に閉じ込めた。

「はい。質問があります」

 ケインが元気よく手を上げた。

「世界の果ての砦って何ですか!」

「世界の砦はこの世の果てにある。辺境伯領なら深淵の森の北の山脈を越えたら凍結の海があると言われている。南の果ては灼熱の砂漠、西の果てが絶壁の海、東の果てに楽園の島があるといわれている。世界の果ての砦とは世界の壁を守る結界のことだよ」

 うわぁ。

 この世界は丸い地球、じゃない、惑星の一部を囲った箱庭に違いない!

 港町で水平線を視力強化した時に水平線の向こうにある南の国が見えなかった。

 丸い惑星でどれだけ視力強化をかけても遠くに見えるのは青空だ。

「ハハハハハ。北の砦を遠隔管理しているのが辺境伯領の城だよ。地図上ではこの世界の北西の端っこに位置しているが世界全体の北部を支えているんだよ。東西南北に同じように地図上からずれた地点に世界の果ての管理人が居る。東がおかしなことになっているようだが、砦が正常に結界を維持しているから緑の一族が関与する段階ではない」

 東の魔女には貸しがあるけれど東の砦と関係ないのかな?

「東西南北の砦は世界の壁を補強しながら、世界の理である地脈の底の結界とつながっている。そして古代国家の結界は全て世界の理である結界に通していたんじゃよ」

 ぼくが飛竜の里で見つけた地下の結界のことだろう。

「世界の理とはこの世界を構成する結界のことなんだね」

 ぼくの言葉にマナさんは否定も肯定もしなかった。

「そうとも言えるし違うのかもしれない。今となっては確かなことは言えない。ただ、この世界の基礎となる結界の魔法陣は、私たちが使う魔法の全てを制御していると言われている」

「精霊素が湧き出てくる源泉のようなものかな」

 ぼくの推測にマナさんは首を横に振った。

「そうだと言い切れない節があるんだよ。かつてはそうだった、というのが正しいかな。一族の口伝にもそうある。ただ、精霊たちが関与できない邪神が絡んできてから、その法則は乱れてしまったんだ」

 マナさんは精霊たちが邪神の影響を追えないことで、地脈が乱れる前に整えることが難しくなったと語った。

「砦を守る一族がいるように緑の一族は地脈を整える使命を帯びた一族なんじゃよ。国境をまたぐことが許されているのもそのためだ。邪神への天罰以来、古語を理解できなくなった人々は世界の理は神の教えとして、基礎結界と切り離して考える新たな神学の台頭を許してしまったんじゃよ」

「魔法師と魔導師に分かれてしまったことで、神学が魔法陣を軽く見るようになってしまったのかもしれないねえ」

「砦を守る一族の精霊使いに教会の上位者が嫉妬したことが原因だよ」

 魔本が口を挟んだ。

「古代文字と古代言語の改良は国家対教会の競争になってしまったんだ。古代言語は古代文字や古代結界より圧倒的に不利だったんだ。文字を読めない人々でも日常会話で天罰を下されてしまうから、暗黒期の人々は喋れば神罰が下ることを即理解した。人々の交信手段は身振り手振りにまで後退してしまった。ゆえに言葉を取り戻すことは急務だった。消えた神の像から教会関係者は使ってはいけない言葉を推測するのは早かった。それが世間に知れると魔法陣解読チームの対応の方が早くなった。使用できない神を排除すれば良いのだから、新しく言葉を作り出すより早くなるのは当たり前なんだ」


 教会関係者は成果を砦の管理者たちに奪われた、と憤り対立を深めていったようだ。


 砦の管理者が魔法陣の改良にいち早く成功したのは精霊使いが居たからだった。

 魔法陣も詠唱も必要がない精霊魔法は邪神の断罪後も何の問題もなく魔法を行使出来た。

 精霊言語を行使する精霊使いが言葉を使わずに問題解決できる姿に、神の代行者と契約したものに対する畏怖と、邪神に魂を売り渡したもの、という二通りの説が人々に意図的に流布されたようだ。


 魔本は文字で記録されることが少なくなったこの時代に詳しくなく、焚書や賢者を失った義憤で話を盛っている、とマナさんが遮った。

「ひとえに教会関係者を悪者扱いというわけにもいかない。あの時代は混乱を言語で詳細に伝えることが出来ず、精霊言語で相手の意図を読み取る精霊使いが不気味に見えたのは仕方がない事じゃった。それだけ世の中が混沌としていたんじゃよ」

 精霊使いを邪神の欠片で追い詰めて粛清し、人々は混乱の中で新しい言葉と文字を作り出し、世界の理と結界を結べるものは粛清を恐れて口外しなくなった。

 為政者一族の口伝として後世に伝えられていったが、時代と共に王朝が変わると上っ面だけの結界に置き換わってしまったようだ。

「帝国全土が世界の理に接続していない結界ならばとっくに滅びているのに、要所要所に適切な結界があるのです。技術が完全に失われたわけではないようで、帝国の意図が見えてこないのです」

 モンローさんは首を傾げた。

「カイル君が世界征服をしてくれたら、世界は丸く収まるんですけどね」

「「!!」」

 どういうことだ!

 何でそうなる!?

「ほぼ精霊使いで、世界の理に繋がる結界を張れて、しかも若い。緑の一族が求める為政者としての条件を完璧に満たしていますね」

 モンローさんの奥さんも頷いた。

「結界が張れても、政治は門外漢なので為政者には向きませんよ!」

 それは残念、とモンロー夫婦が軽くいった。

 …からかわれていたのか!

「冗談はさておいて、緑の一族は世界征服を目的としていない。世界の理の結界と地上の結界のずれが歪みとなって天災をもたらすのじゃ。私たちはしばらく南の歪みを正すためにこの地を拠点に活動する。将来カイルやケインに手伝ってもらえたら嬉しいが無理強いはしないよ。今日はせっかく外国に来たんだから楽しんで帰りなさい」

 マナさんは今日の講義をそう言って締めくくった。


「面白い植物って何ですか?」

 南の国に来たぼくの頭の中には、コーヒー、カカオ、ピスタチオ、と南国原産の美味しいものが浮かんだ。

「兄さん。食べ物のことを考えているでしょう?」

 顔でバレたか。

「チョコレートなんかあったら良いなって思っていたよ」

「カカオはまだ見つかっていないが、面白い植物ならこれのことだよ」

 マナさんがぼくに見せてくれたものは乾燥した細くて小さいトウモロコシだった。

「これを栽培している地域があるんですね!」

「ああ。高地の部族が土地に合わせて品種改良してここまでこぎつけたそうだ」

「それは凄いね。そこの部族ではどうやって食べているのかな。粉末にしてパンにするの?」

「近いな、クレープのように薄く焼いて食べるんだ」

「トルティーヤ!」

「美味しいの?」

 ケインがやっぱり食べ物だったと言いつつも味を気にした。

「美味しかったよ」

「それは楽しみだ。だけど、この植物のどこが面白いの?」

 ケインの質問にぼくとマナさんは顔を見合わせた。

「カイルが探してほしいと言っていた植物はいくつかあるんだが、この植物の面白いところは野生種が存在していないことじゃよ」

 ケインの頭に?が浮かんでいる。

「ぼくたちが畑で作って食べている植物は人間が美味しくたくさん食べれるように品種改良しているのは知っているよね」

「お米の時に見たよ」

「米も小麦も芋だって、人間が品種改良する前の野生種が野原に自生しているのが普通なのに、トウモロコシには野生種が無いんだ」

「ああ。カイルの言う通り、そこの部族は神に授かった植物だと言っておった」

 この世界ではトウモロコシは宇宙からやって来たのではなく、神様から授かったものだったのか!

「ケイン。トウモロコシの不思議は、割とどこででも育つ地域を選ばない植生だからどこででも生えていそうなのに、自分では繁殖できず人間の介入なしには発芽で出来ないことなんだ」

「どういうことなの?」

「豆を収穫しないでほっておくと種は鞘から弾けて自ら地面に落ちて発芽するだろ」

「うん。見たことあるよ」

 うちの家庭菜園では枝豆と大豆を育てている。

 大豆の収穫時に豆を弾け飛ばしたことがあるのだろう。

「トウモロコシはこうやってソーセージのような形の穂が完全に皮を被っているんだよ」

 マナさんが手渡してくれた乾燥トウモロコシは、皮付きのまま干したものと皮をむいて干したものがあった。

「成熟しても先っぽまでしっかり皮を被っているから、地面に落ちても自力で発芽しないんだ」

「こんなに大きな粒がたくさんついているのに、自力で発芽しないんだ。このポヤポヤした毛で膨らませたりしたら先っぽだけでも剥けそうなのにね」

「そうなんだよ。実が大きくなる時に皮も先っぽまでしっかり包み込んで大きくなるから成熟しても剥けないんだよ」

「完全に人間に食べられるために出来た植物じゃね」

 先っぽだけ皮をむいたケインがこの毛は食べられないのかと訊いた。

「先端部分を取り除けば、煎じてお茶に出来るよ」

「あらやだ、収穫時に捨てていたわ」

 モンローさんの奥さんががっかりしたように肩を落とした。

「見慣れない食材だから活用しきれないのは仕方ないですよ」

「これ、全部皮をむいても良いの?」

「ああ。カイルに見せようと思って皮ごと乾燥させただけだから、剥いて構わないよ」

 ケインは先っぽだけ皮をむいたトウモロコシを持って、この毛をどうしようと言いながら丁寧に剥いているが、ひげのお茶を作るには量が少ないので捨てるように指示した。

 トウモロコシといっても子どもの握った掌におさまる小ぶりで実の列が少ない。

 もっと品種改良して実が大きいのや、甘い品種も作りたいな……。

 ぼくがとうもろこしを手に考えていたら、モンローさんが声をかけた。

「カイル君は剝けているの?」

 剥けている?

「いえ、まだ剝いていないだけです」

 あっ………。

 ぼくは思考をいったん放棄してトウモロコシの皮をむいた。

 乾燥したトウモロコシ……。


 そうだ!


 ポップコーンを作ろう!

 塩味もいいけれどキャラメルポップコーンもいいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとです。 唐突なシモネタにぷふって吹いてしまった
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