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魔力奉納の連鎖

「あはははははは。神々の序列を本能で感じ取ったのか。神々は人間の暮らしをいちいち気にしたりしていない。だけど、お前たち家族は実に面白いから、神々もいつも気にかけている。シロもよくやっている。カイルの思慮深さのお蔭だな」

 思慮深い、という言葉にケインがムッとした顔をした。

 それなりに思慮深く活動……無鉄砲なところがあるのは否めない。

「うわぁ。そんなにご加護に差があるんだったらもっと真剣に祈るよ」

 クロイは悔しそうに言ったが、柳の下の二匹目のどじょうに神々が興味を持つとは思えない。

「真面目に祈ることは良い事だけど、不純な動機を神々は見過ごしにならないと思うよ」

 お婆が真っ当なことを言うと、上級精霊が笑うカオスな空間になった。

「間違いないよ。最初の一人だから面白がってもらえただけだが、これをみんなでやるから面白いことになるんだ。そうやって広げていったことで、世界の秩序を取り戻す流れを速めているんだよ」

 クロイはキョトンとしたが、ケインと兄貴には理解してもらえたようだ。

「魔力奉納の資格のない幼子が祠の外から必死になって祈っているからその可愛さについたご加護を、真似した十人の子どもたちで割ったら一人分のご加護が少なくなるのはわかるよね」

 ケインが説明する傍らで兄貴が黒い靄を出して一人分を十等分した。

「「三人で祈ればご利益も三等分になるんだね」」

「均等に割ったらそうなるだろうけれど、誰か一人が神々のご贔屓になったなら均等にはいかないのが世の中の理のようなものだよ」

 父さんの横やりに上級精霊が、その通りだ、と言った。

「そうなんだけど、動く魔力の量が大きくなったら注目してくれる神々が増えるんだ」

 ケインの説明に併せて兄貴が黒い靄の量を増やして不均衡に分配した。

 上級精霊が肩を揺らして、その通りだと笑った。

「カイル兄さんはいつだってご利益を独り占めにしないで皆を巻き込んだ。家族だけで独占しなかったことが、大きな力になったんだ」

 ケインは領で市電が走るほどの魔力を集めるのは家族だけでは到底ありえない事だったと三つ子たちに説明した。

「そうなんだ。人々の行いがご加護とご利益の連鎖を引き起こしたんだよ。それが、カイルがあの町に来て数年で起こった事なんだ」

「真剣に魔力奉納をする人が増えたお蔭で、ご加護やご利益を得た人々が増え、町全体の魔力量が増えたという事ですか?」

「ああ、そうだよ。カイルが王都に拠点を移してからは二年で国中に広がった。だから、今アリサがしていることを真似ることで、クロイやアオイに即効性のあるご利益を得られなくても、その行いは無駄ではない。洗礼式前から真面目に祈る子たちが魔力奉納をする年になれば、たくさん魔力を奉納するだろう」

 蝶の羽ばたきが竜巻を起こすかもしれないのか。

「真面目に祈ることは無駄ではないのですね」

 アオイがそう言うと、上級精霊はそうだね、と言って妖精たちを見た。

 妖精型のシロよりかなり小さかったはずの妖精たちが心なしか大きくなっている。

 蜂蜜食べ過ぎた?

「ご主人様。妖精は蜂蜜が好きですが物理的に食べません」

 神々のお供えと同じような物か。

 下げ渡しのオムライスの量が減っているわけではない。

「……妖精たちが急成長しているように見えるのは、祠参りについて行って魔力とご利益の上前を撥ねている?」

 ぼくの疑問に妖精たちは首を横に振って否定したが、シロは質問を変えた。

「祠参りの後方で三つ子たちがお祈りしているときに魔法を使ったことはあるかい?」

「「「誘拐されないよう反撃の対策魔法をしています」」」

 妖精たちも嘘はつけないけれど、自分に都合の良い事しか言わないのか。

「精霊魔法は自分の魔力を使わないから、お祈りしている子どもたちの魔力を頂戴して魔法を使っているんだね」

 アリサが闇の神に注目されたのは妖精が奉納の魔力を流用していたから、なんてことはないよな。

「心配するほど流用しているわけではないよ。三つ子たちが祠について行くと、子どもたちも張り切るから相対的に奉納される魔力量は多くなっている。妖精の成長は神々のご加護だ。有り難く受け取っておけば良い」

 家族全員、喋れる魔獣たちも含めて、ありがとうございます、と神々に感謝した。

 亜空間にキラキラとした癒しの光が再び満ちてぼくたちを包んだ。

「よくよく祈ると良い」

 上級精霊がそう言うと、ぼくたちは自宅の居間に戻っていた。


「ジョシュア兄ちゃんも魔法学校に行っちゃうの?」

 ぼくとケインは自宅で一晩過ごし早朝のうちに寮に戻るつもりだ。

「学校に帰領届を出していないから、家でのんびりできないんだよ。すく戻ってくるからね」

「毎晩帰って来るよ。三つ子たちが寝る前に戻ってくるからね」

 自宅に帰ってから兄貴と家族で和やかに歓談しながら、家族のほとんどの出来事を兄貴が知っていることに、みんなが感動した。

 思い出の部屋のアルバムの写真は、家族みんなで兄貴はどこに居るかを当てっこして、見慣れてくると全員兄貴を見つけることが出来るようになった。

「ケインの足元に出現率が高いな」

「うちの子たちが小さなころから運動能力が高かったのは、ジョシュアのお蔭だったのね」

「初めてケインが薬草の仕分けをしたときにも、一緒に手伝ってくれたんだろうね」

 兄貴は、ああ、うん、と相槌を打つばかりだったが、父さんも母さんもお婆も幸せそうに笑っていた。

 兄貴はシロと同じように実体を消すことが出来たうえ、黒い少年になることも出来た。

 黒い少年になると小さく分れることが出来たので、米粒サイズの黒い少年を三体作って、父さんと母さんとお婆のお守りの指輪の影に潜んでいることになった。

 兄貴に話しかけたいときに耳元に指輪を当てるだけで、何時でもお喋りできるようになった。

 三つ子たちは羨ましがったが、兄貴が分身の扱いに慣れてから、三つ子たちに分身を付けることになった。

 父さんと母さんとお婆は過ぎた時間の埋め合わせをするように、ジョシュア、ジョシュア、と同時に話しかけるから兄貴が対応に困ることになった。

「他の誰かと話し中の時は指輪を叩くようにして、順番に話せば良いでしょう」

 母さんが解決案を出した。

 その後、緊急時のサインも決めて、何度か練習をしたらスムーズに対応できるようになった。

「「「行ってきます!!!」」」

 ぼくたちが寮に戻る時もみんな笑顔のままだった。

 毎晩必ず帰ってくる安心感があるからだ。


 寮の食堂で焼き魚定食に納豆と明太子を付けてご飯大盛りにしようかと悩んでいたら、キャロお嬢様が今日は煮魚が美味しそうですよ、と(かれい)の煮つけの定食のトレーを持って声をかけてきた。

 キャロお嬢様とミーアの視線の先では、ハルトおじさんとハロハロがお刺身定食を食べていた。

 美味しい朝ごはんを食べに来ただけではないだろうから、ぼくたちは挨拶しに二人のテーブルに近づいた。

「「「「おはようございます」」」」

「ああ。おはよう。煮魚も美味しそうだね」

「おはよう。オムライスは私も食べたかったよ」

「もうご存じなのですか」

 昨日の今日なのに上に話があがるのが早すぎだ。

「ラウンドール公爵が昨夜の内に来て、自慢の写真を見せてくれたんだよ」

 内緒話の結界を張ってじっくり話し合うことになった。


 本来だったら半年近く時間をかけて仕上がる教会の結界が一瞬で完成したことを、結界を管理する教会の本部と王宮の結界管理部が気付き大騒ぎになったらしい。

 ウィルが帰宅し、オムライスの神事の記念写真を公爵に見せたところ、これが原因だ、となってしまったようだ。

 教会と王宮から調査員を派遣される可能性があるから、保護している子どもたちの一部を港町に隠せないか、という相談だった。

 国内で誘拐された子どもは、もしかしたら教会関係者が五歳の登録の時に顔を覚えているかもしれないからだ。

 帰領届はキャロお嬢様がぼくたちの分もまとめて提出してくれることになり、ぼくとケインは急ぎで飛竜の里に転移して、メイ伯母さんの自宅に転移することにした。


「いきなりこんなにたくさん連れてきてごめんなさい」

 ハルトおじさんが、早朝から飛竜の里とメイ伯母さんに連絡していてくれたので、ぼくたちは子どもたちを運ぶだけで済んだ。

「いいのよ。昨日の騒ぎを考えたら教会関係者が増えるのは仕方がないわ。巨大オムライスはちびっこ飛竜たちが作れるようになっているから、あの子たちに再検証を任せてしまえばいいのよ」

 昨日は楽しかったね、と従妹たちと子どもたちは和んでいる。

「それでね。旦那とも急遽話し合ったんだけど、うちに子どもたちがたくさん居ると目立つから、みんなで実家に帰ろうかと思うのよ」

 実家って……緑の一族の村のことか!

「外国に引っ越されたのですよね?」

 ケインも驚いて確認した。

「引っ越してはいるけれど、よそから人が来ることはめったにないし、開拓作業を終えてから入植しているから不便なく過ごせるわ」

 従妹たちはすでに話を聞いていたらしく、旅行気分で楽しみにしている。

 肌色が一人だけ違うフエが悪目立ちしないように一緒に来ていたのに、騙された!?と言うように身を固くした。

「族長のカカシさんは悪い人ではないし、親戚に会いに行くというより観光気分で良いんじゃないかな?当事者じゃないぼくが言うのも何だけど、伝手が無いと絶対に行けない場所だから、行ってみたいよ」

 ケインがフエにそう言った。

「面白そうだから行ってみるっていう動機で良いんじゃないかな?」

 ぼくがフエの肩をポンポン叩くと、緊張を解いた。

「そうですね。……会える機会があるのだから、行ってみたいです」

 こんな機会が無いとお邪魔できない場所なのだ。

「ぼくは場所を知らないから転移できないけど、どうするの?」

 メイ伯母さんは音のならない笛を吹いた。

「これでカカシおばあちゃんが迎えに来てくれるわよ」

 クラーケン襲来時もこれでカカシを呼んだのかな。

 カカシで来るのか、マナさんで来るのか、どっちだろう?

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