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神様のオムライス

 飛竜の里に戻ると精霊神の祠に魔力奉納をしに行った。

 温泉を掘る前にまだ今日は参拝していなかった山の神の祠に魔力奉納しに行こうと話していたら、シロに精霊神の祠が先です、と言われたからだ。

 魔法を使うものはみな精霊神に感謝しようということになり、ぼくとケインは魔獣たちをぞろぞろ引き連れて魔力奉納をした。

 里の人たちはぼくたちの魔獣が魔力奉納をすることに慣れているから、スライムが奉納していても、偉いねえ、と優しく見守ってくれる。

 ポアロさんの奥さんの予想通り、子どもたちのお世話に来ていたお料理当番の里の人から巨大オムライスの話が伝わり、里の人たちがお手伝いと称して続々と集まって来ていた。

 卵が足りるか心配だ。

 港町に戻っているメイ伯母さんに助けを求めて、亜空間経由で卵を仕入れた。

 巨大オムライスの話はメイ伯母さんの家族も虜にしたので夕方迎えに行くことになった。

 山の神の祠に行こうとすると、もう一度行きたい、と言う三つ子たちを連れて歩いた。

 途中で出会い里の人たちまで参加したので、気が付けば精霊神の祠から山の神の祠までパレードのような行列になってしまった。

 聖女先生や廃鉱で心神喪失し療養に来ていた騎士とその家族も参加している。

 楽しそうな気配を察知した成体の飛竜たちが集まってきた。

 ちびっこ飛竜の両親もやって来たようで、行列の上を飛んでいた里の飛竜たちが親元に飛んで行った。

 一匹残ったキュアの家族はぼくたちだ。

 キュアは胸を張るように得意気に先頭を飛んでいる。


 山の神の祠に着くとみんながぼくに一番先に奉納するように勧めた。

 山の神様に温泉採掘の許可を求める魔力奉納だろう、と後ろに並ぶ人たちの無言の圧を感じるが、ぼくは古代魔法陣の片鱗がある古い結界の魔法陣に魔力を流して確かめたいだけだ。

 祠の水晶に触って魔力を流すと、魔法陣に流れ込む魔力を辿って結界の全貌を確かめる。

 山の神の祠から続く魔法陣は、上書きされた里の新興地を守る魔法陣と重なり、落花生の殻のような形になっている。

 両者は補完しあいながら、大地の神の魔法陣を経由して国の魔法陣につながっている。

 ……まだある。

 とても大きな……大きすぎて全貌がわからない……。

 地の奥の、さらに奥に巨大な結界の一部のような存在を感じるだけだ。

 支えている魔力はとても神々しく、こんなに強烈な魔力が存在しているとは信じられない、強大な威圧感がした。

 その結界の全貌を追うには、ぼくはまだまだ矮小すぎだ。

 結界の片鱗に近づいただけで、そんな圧がかかったのだ。


 ……あの結界に接続できる結界の製作法が最上位貴族だけに受け継がれているのだろう。

 国王やごく一部の上位領主クラスだけに受け継がれているもので、全ての領主が知っているわけではないことが狙われたのだろう。

 廃鉱の結界は王国の結界とも世界の基礎の結界ともつながっていなかったから、魔獣暴走を防げなかったのかもしれない。

 ……全ての結界の一番下にある巨大な結界は神が創り給うたものということなのか。


 魔力奉納を終えて振り返ると、30cmも離れていない目の前に麗しの上級精霊が居た。

「正解にたどり着いたようだね。カイル」

 ぼくが祠から出ると、時が止まっていた。

 ぼくの魔力奉納を見守っていた人々はフィギュアのように静止しており、動いているのは日頃から魔力を与えているみぃちゃんとぼくのスライムとみぃちゃんのスライムとキュアだけだった。

 いや、シロは妖精型で、実体化した兄貴も居た。

「世界の理に反したものは例外なく創造神の神罰が下る。その後の世界は混乱するが、世界の理に則ってどんなに時間がかかっても元に戻る。人の世の世界においてそれがどれほど長い年月であろうと神々にはそれほどのことではない」

 それはなんとなく理解できる。

 飛竜の一生と比べても人間の一生はとても短い。

 それが、神々の時間となれば尚更だろう。

「知識を独占する人間が現れたことで、世界の再構成に遅れが生じたことが問題なのでしょうか?」

「そんなことは些細なことだよ。利権を独占しようとするのは生き物の本能だ。だが多様性を無くした生態系は長続きしない。淘汰させるのを神々は見ているだけだ」

 自然淘汰されて、なるようになるのが世界の理ということなのか。

「でもここに上級精霊が居るのは神々の意向でしょう?」

 上級精霊は口角を上げて目を細めた。

「ああ。そうだよ。カイルがなかなか呼んでくれないから良い口実になった。神々は人々の行いには干渉しない。だけどお気に入りの人間が出てくることはままある。力加減がわからずに雨乞いで洪水を起こした話は有名だろう?そういった事情で神々は人間の願望に直接応えることは無くなってしまったのだよ」

 神様だって黒歴史を神話として語り継がれたくないのだろう。

「それでもお気に入りをかまいたくなると、我らを遣わすことがある。大地の神が喜んでおったよ。ガンガイル王国全体で大地の神の魔力奉納が増えた。まあそれは他の神々も喜んでいるよ」

 祠巡りの流行は国土全域に広がったのか。

 結界が繋がっているのだから不毛の大地にも届いているといいな。

「ああ。届いているよ。再び緑に覆われるまでには時間がかかるが、生物全てが死に絶える事態は避けられそうだ。そのこともあってカイルは神々の覚えめでたいよ」

 ……そのこともあって?

 ……それ以外何かあったのだろうか?

 上級精霊が神々の伝言を(ことづか)ったのは……。

 あった!日本酒とみたらし団子だ!

「巨大オムライスに興味を持たれた神様がいらっしゃるのですか?」

「察しが良いな。大地の神はホワイトソースで、料理の神はデミグラスソースで、山の神はミートソースをご所望だ」

 全員バラバラな注文じゃないか。

 ……めんど…いえ。奉納させていただこう。

「ああ。廃鉱の処理も手際良かったと褒めてらしたぞ。スライムの人気もあった」

 ぼくの両肩に乗っていたスライムたちが喜びに震えた。

 きっと張り切ってオムライスのソースを作ってくれるだろう。

「猫のダンスは神々もお喜びだ。励むが良い。飛竜はお前の気のむくままに行動してよい。神々は、神々の名を語って幼きものたちを虐待した奴らに鉄槌を下した飛竜の破壊方法をお気に召したようだ。悪いやつらには天罰が下るから心配しなくて良い」

 孤児院は教会関係者が運営していたのにキュアが木っ端みじんに破壊したのだ。

 神々が許してくれて良かった。

「山の神と水の神と火の神から手を貸してやれと(ことづか)った。お前たちは場所の選定も済んでいたようだし。それ!」

 上級精霊が指パッチンをすると、温泉候補地の方角でドカンと爆発音がした。

 おおおおおおお。

 上級精霊は消えて、時が動き出し、人々の驚愕の声が響いた。

 この状況はぼくが山の神に魔力奉納をした直後に神様が応えるように間欠泉が噴き出したように見えるだろう。

 “……兄さん。何をやらかしたんだい!”

 ぼくのせいじゃない。

 全部上級精霊がやった……なんて里の人たちに説明できない。

 そうだ!困った時は神頼み!!

「困っていた孤児たちを快く受け入れてくれた里の人の行いを神様はたいそうお喜びになったようです」

 嘘じゃない。神々は孤児たちを助けたことをお気に召してくれた。

「そんな人々を(ねぎら)い、神々が私たちに温泉を授けてくださったのだ!」

 おおおおおおお。

「神々に感謝を!皆さん順番に魔力奉納をよろしくお願いします」

「わかったよ、兄さん。後が詰まるから魔力奉納をしてくるね」

 兄貴から精霊言語で説明を受けたケインが、ゆっくり奉納したら後の人に悪いかな?と言いながら祠に入った。

 好奇心の方が勝るはずだからケインも結界を辿るはずだ。

 ケインの魔力を追いたかったが、キャロお嬢様や三つ子たちに囲まれてしまった。

「辺境伯領にも温泉が欲しいですわ!」

 三つ子たちも自宅に温泉と目を輝かせている。

「みんなで神様にお願いしようね」

 キャロお嬢様に里の人たちへの応対を任せて、取り急ぎ露天風呂の浴槽だけでも作りに行こう。

「魔法を使うところを見てみたいから、ついて行っても良いかな?」

 フエの言葉に数人の孤児たちが期待の籠もった眼差しでぼくを見た。

「カイルの魔法は魔法の杖を振るだけだから、影響のない位置まで下がっていてくれるなら見学しても良いんじゃないかな?」

 ウィルは自分がついて行きたいだけだろう。

 子どもたちの魔力奉納は午前中にすでに終わらせているので、連れていくのに時間のロスも無い。

「私も行きます!」

 この場の仕切りを聖女先生に任せた、キャロお嬢様とミーアもやって来た。

 ぼくは魔法の杖をひと振りして空飛ぶ絨毯を出して子どもたちを乗せた。

 山の麓の間欠泉は15メートルを超える高さでまで噴き出しており、虹がかかっていた。

 精霊たちが喜んで集まって、霧のように広がる水しぶきの中を色とりどりに光った。

 幻想的な光景だ。

「……美しい世界だね」

 フエがうっとりした声で言った。

「精霊たちが寛げる世界が美しいんだよ。世界中がこんな風に精霊たちが寛げる場所になれば、きっと平和な世界になるよ」

 祠の魔力奉納でケインも巨大魔法陣の片鱗に触れたのだろう。

 発言が壮大になっている。

 そうだ!大きな露天風呂を作ろう!

 スライムと合体して飛び立つと間欠泉を挟んで左右対称に男女に分けて石造りの浴槽を幾つも作り、真ん中で池のように大きな飛竜の浴槽を作った。

 飛竜は混浴で勘弁してほしい。

 早速ちびっこ飛竜の家族が入浴に来てくれた。

 飛竜の顔を見るだけでわかる。

 良い湯加減のようだ。

 ぼくが魔法の絨毯に戻ると子どもたちに拍手で出迎えられた。

 見世物として面白かったようだ。

「カイルの魔法の杖に仕込んである魔法陣が知りたくなるよね。どうやったら規模の大きな土魔法を一瞬で出来るんだろう?」

 ウィルが子どもたちに魔法を学んでも誰もがあれをできるわけじゃないからね、とぼくを特別扱いした。

 光る苔を食べてから魔力量も増えたので、自分が凡人ではないことを自覚したが、上級精霊とか神々の魔力の片鱗を感じると、ぼくはちっぽけな人間そのものなのだ。

「精霊たちや神様のほうが途轍もなく偉大だよ。今日は温泉のお礼に神々にオムライスを奉納するから早く帰って、色々な味のソースを作ろうね」

「なんでオムライスを奉納するんだい?」

「神様は人々が面白そうなことをすると喜ぶからだよ。神話にあるでしょう?」

 ケインがウィルの質問を誤魔化した。

 上級精霊から神託があったなんて言っても信じられないだろうからね。


 魔法の絨毯でポアロさんの家に戻ってから、メイ伯母さんの家族を迎えに行った。

「カイル。たぶんご神託だと思うのだけど、鶏舎の鶏が午後からもたくさん卵を産んでいるの。これは沢山作れ、ということなのかしら?」

「そうだと思うよ。里の鶏もせっせと卵を産んでいるから、今日はオムライス祭りだよ」

 神々が張り切っているのは間違いないだろう。

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[良い点] 神様たち……ッ!(≧∀≦)(≧∀≦)(≧∀≦)
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