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魔獣の魔法

 昼食の後、きちんと亜空間で休憩を取った。

 スライムたちと魔本は特訓を続けていたようだ。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんはキュアに猫の手で物を掴むコツを教わっていたようだ。

 巨大オムライスを仕上げたキュアは子どもたちの人気者になっていた。

 羨ましかったのだろうか?

 アレは確かにカッコよかった。


 亜空間の天蓋付きのベッドで目覚めると、寝たことで情報が整理されたのか気付くことがあった。

 現代魔法の学校で教わる魔法の種類は魔法陣を使う魔法と、ぼくは習っていないけれど祝詞を使う詠唱魔法の二種類とされている。

 区分されているのに、魔獣の魔法はそのどちらでもないと言われている。

 本当のところ、魔法は二種類あるけれど内容が学校で学ぶものとは全く違う。

 自分の魔力を使って魔法を発動させるのは人間も魔獣も一緒で、精霊や兄貴は自分の魔力ではなくその場の魔力、自分以外の魔力を行使する。

 二種類と言う言葉だけ残って、理解できるように誤認されたのだろう。

 見たことのない精霊が伝説上の存在となり、人々に認識されなくなったからだとしても、いつから精霊は認識されなくなったのだろう。

 兄貴は特例中の特例のような存在で、誰もなぜ存在しているのかわからないから、一旦除外して考えるべきだろう。

 建国王と精霊神が活躍していた時代に飛竜の里は既にあり、里の昔話には飛竜と精霊の小話が多数あった。

 オムライスパーティーで子どもたちに地元の昔話を聞くと、精霊は伝説の存在でしかなかった。

 境目は邪神が封じられた辺りからなのだろうか。

「兄さん、また先走って何か考えているんでしょう?」

 隣で目覚めたケインが、うつ伏せで頬杖をついているぼくを良からぬ企みをしているかのように訝しげに見た。

「魔法の種類について考えていたんだよ。魔法学校の教えはわからないことを放置した結果、精霊魔法の存在を全く無視した教えになっていたのではないか、と考えていたんだ」

 ケインは寝起きの頭を犬のようにブルブル振って大きく頷いた。

「精霊魔法は人間が使えない上に、精霊が見えなくなった現代人には無いと同じだよ。ぼくが兄貴の存在に気が付いたのは精霊言語を取得してからだもん。認識できないものは存在が無いものにされてしまうよ」

「神々のご加護だって人間は気が付かないんだから無理ないことだよ」

 ぼくとケインの間に兄貴が実体化して割り込んできた。

「兄貴はご加護あるか、見ただけでわかるのかい?」

「確実に見えるとは言い切れないけど、魔力の輝きが違うんだよね。カイルとケインが祠巡りをするたびに七大神の輝きが増していたから気が付いたんだ」

 ぼくが誘拐事件で見たカラフルな世界のことだろうか?

 あのときの頭痛を考えるとアレをもう一度やる自信は無い。

「ご主人様はもう魔力量も充分ありますから、視界の規制を外しても大丈夫ですよ」

 妖精型で実体化したシロに、犬になれ、とすぐさま命じた。

 男の子だらけのベッドの中に女の子が割り込んできてはいけないよ。

 犬になったシロはぼくの上に覆いかぶさった。

 シロの擬態はイシマールさんの指導の賜物で、重さと呼吸も感じる。

「ぼくが生存本能を優先させて微細な魔力以外をあえて見ないようにしているということかい?」

 “……ご主人様、その通りです。光る苔を食べている現在では、あのようなことは起こりません”

 そう言われても、あの時どうやったかなんてすっかり忘れている。

 魔力ボディースーツに自在に切り替えが出来るサーモグラフィのように魔力が見えるゴーグルを装備しよう。

 シロをはねのけて起き上がると、兄貴とケインを見た。

 兄貴は変わらす真っ黒だったが、ケインは黄色を主体にマーブル模様に色々な色が混ざっている。

 全属性の魔法が使えるとは全ての色があることなのか。

「兄さん。何か見えるの?」

「色とりどりの世界が見えるよ。ああ。大丈夫あの時のような頭痛はしない。ただ情報量が多すぎてこれは脳が疲れるね」

「精霊言語を取得した時のような感じなのかな?」

「ああ、そうだね。音の情報が溢れたように、色の情報が過剰にあるよ」

 この亜空間は真っ白ではなくたくさんの精霊たちが混みあい漂っていて、様々な色の光りに満ちている。

「ここにはたくさんの精霊たちが居て、真っ白な世界を構成しているのなら、あの真っ黒な亜空間には精霊たちが存在していないということなのかい?」

 “……ご主人様。ご明察です。カカシの精霊は私たちの干渉を防ぐためにご主人様をあの亜空間に閉じ込めました”

「そんな中でシロはどうやって干渉したんだい?」

 “……ご主人様。それはご主人様にもお話しできません。下僕契約をする前に口に出せない方々のお力をお借りしました”

 言葉に出来ないことの代表格と言えば神々だろう。

「……ああ。いいよ。それなら追及はしないから。シロが突然消えてしまったら、ぼくもみんなも悲しから、触らないことにしておこう」

 読んで字のごとく、触らぬ神に祟りなしだよ。

 亜空間に居る中で一番魔力が多いのはキュアだ。

 体の輪郭が見えなくなるほど白い光を放っている。

 二番がみぃちゃんとみゃぁちゃんだ。

 ぼくとケインに似た魔力の色だが、黄色や赤が強くなる箇所もあり、攻撃力が高そうだ。

 スライムたちもみぃちゃんとみゃぁちゃんに僅かに劣るだけだ。

 魔力量はぼくのスライム、ケインのスライム、みぃちゃんのスライム、みゃぁちゃんのスライムの順だが、下剋上を狙うみぃちゃんとみゃぁちゃんのスライムたちは誕生年数を考えるとよく頑張っている。

「光量が魔力量だとすると数値化できると面白そうだな。ケインは小さい頃から魔力の色が見えていただろう?」

「祠のように白いものだとわかりやすいけれど、人や魔獣は難しいね。兄さんは魔本の魔力も見えるのかい?」

 魔本を呼ぶのは簡単だ。

 読みたいと思えば手元に来るのだ。

 ぼくの手におさまった魔本は輝き方に特徴があった。

「この本は外側と内側で魔力が違うようだ」

 魔本の魔力は魔力供給しているぼくの魔力を表面に広げているだけで、中心部分は本来の持ち主の魔力を閉じ込めている。

 魔法の杖を取り出すと遠心分離機をイメージした魔法を魔本にかけた。

 見た目は小さな竜巻に巻き込まれているだけのようだが、中心部分の魔力を少しだけ取り出して、魔石に移した。

「何をするんだ!私の魔力を勝手に搾り取るな!!」

「ごめんね。その分ぼくが魔力をあげるから許してよ。中心部分の魔力は魔本を作った人の魔力だろうから興味があったんだ。調べ終わったら返すから、約束するよ」

「返してくれるなら、許してやろう。保管庫から出ることが出来たのもカイルのお蔭だ」

「良かったね。魔本も喋れるようになったんだ」

 ケインはぼくの突然の暴挙を気にしていないようだ。

「ああそうだ。理屈としては風魔法の応用で、スライムの幻獣を作り出すことが出来た」

 幻獣といえばカッコいいが、魔本の真上で向こう側が完全に透けて見える水色のスライムが喋っている。

 兄貴はよく頑張ったね、と言いながら魔本のやや上を見ている。

 目が無いから視線はわからないけれど、顎の傾きだけで見えていると判断した。

 だけど、ケインには魔本しか見えないようだ。

 ケインは真っ白な祠だと見えるのだから、真っ白なシーツの上になら見えるかもしれないと期待して、魔本を置いた。

「魔本の周囲をよく見てごらん。ケインならきっと見えるよ」

「……水色のスライム!」

「私は人間の知識で物事を考えるから、こうやって魔獣から魔力を学ぶと、魔獣の魔法は面白いな」

「「魔獣がどうやって魔法を使っているのかわかるのか!!」」

「昔の人はミャー。ミャァミャァミィー……」

「喋り出す前にみぃちゃんとみゃぁちゃんの鳴き声を学ばせて正解だったようだね」

「魔本ってかなり迂闊だよね」

 みぃちゃんとみゃぁちゃんのスライムは、こうなることを予測していたようだ。


「あたいも魔本に言われるまでは、魔法陣で魔法を使うのが当たり前だったから、気にしていなかったのよ」

「低級魔獣が魔方陣で魔法を使うなんて面白いやつらだろう」

 現代語だけで話すと決意した魔本が本の知識からではなく、自分の感想で説明してくれた。

 魔獣は神々のご加護で魔力を魔法に変換させて使うから大雑把な魔法が多く、飛竜のように知能が高く、神々のご加護が篤い魔獣は全属性の魔法が使えるとのことだった。

 納得いくことが多い。

 人間が突然変異の魔獣だと考えていたことは、偶々他の神のご加護を得た魔獣だっただけなのだ。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんもスライムたちも全属性なので、自分の魔力量の範囲でなら何でもできるらしい。

 魔獣だって見たことのない魔法は使えないから、キュアに学べば可能性が無限大だ、と魔本は興奮して語った。

 なにより魔本が驚いたのは、ぼくの魔獣たちが魔法陣を理解して使っていることで、人間のように繊細な魔法を使えるようになったこと。

 繊細な魔法を見て育った飛竜が大雑把でドカンと町一つ吹っ飛ばしてしまう魔法で、料理の火加減を調整出来るようになっていることだった。

「楽しいよね。本能で魔法を使うより魔法陣を介するほうが魔力の消費を抑えて、繊細な魔法を行使出来るんだから、祝詞と魔法陣をミャー」

 魔本はシロに強制的に発声を止められた。

 魔法で話しているから付近の精霊素を遠ざけられたら魔法が発動しなくなる。

「兄さん。精霊魔法って最強だね」

「乱発すると、不毛の地になりそうだよ」

 “……ご主人様。精霊素を根こそぎ使うことは世界の理に反しますので、私たちには出来ません”

 精霊魔法にも限界があるのか。

「兄さん。素朴な疑問なのだけど、人間も本能だけで魔獣のように魔法を使うことが出来るのかな?」

 “……できますよ。ご主人様が原野で使っていたから、精霊たちは珍しい子を見るために集まってきたのです”

 例の魔力探査か。

「魔獣のように魔法を使うことを私はお勧めしないよ。魔獣だって生死をかけた時ぐらいしか単体では魔法を使わないよ。このことで飛竜がどれだけ特別な魔獣かがわかるだろう?」

 同じくらいうちの魔獣たちは特別なようだ。

「使役契約をしてからはカイルの魔力を使えるけれど、出来る女は自立したいのよ」

 みぃちゃんが妙にカッコいいことを言った。

 そういえばご褒美魔力以外に魔力をあげたことは無いような……。

 光る苔の雫の回復薬のお蔭で、今まで地味にレベルアップしていたのか。

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