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廃鉱技術革新

「なぜ飛ばさないんだい?」

 魔法の絨毯を見た後なら移動手段を“飛ぶ”を基準に考えるだろう。

 だが、省魔力で高速移動を考えると飛ぶより、少し浮いて摩擦を無くすだけの方が余剰魔力を防御にも攻撃にも使える。

 辺境伯領では市電の技術に応用する研究をしていたから、対外的に機密な技術にしていたのだ。

 鉱山のトロッコにも応用され隠匿の魔法陣も完成形になったので、スケートボードのお披露目が可能となったのだ。

 ボードに張り付く所長を引き離して、ディーとランスに乗り方の指導をして、販売した各種魔術具の使い方も指導した。

 キャロお嬢様が、行商人、と呟いていたがぼくもこんな予定じゃなかった。

 全てが円滑に行えたのはハルトおじさんがハロハロを派遣したからだ。現場決済権のある王太子が追加予算を認めたのだ。

 腐りかけでも王太子は王太子だ。

 イシマールさんは廃墟の町の復興に興味を示し、往復の護衛と温泉施設の充実に力を貸してくれることになった。作りたいサウナを列挙してくれた。

 ミストサウナには興味がある。

 お互いの利益があるから警護も頼みやすい。

 新婚飛竜たちも廃鉱の復興に興味があるようだ。

 屋台のおっちゃんたちは三交代で王都とここに滞在するシフトを組んでいた。

 お風呂の衛生管理は所長の秘書が、なくなるくらいなら私がやります、と立候補してくれた。

 イシマールさんが王都で求人を出すから個人の負担にならないようにする、と請け負ってくれた。

 カフェテリアの出店の経緯から労使のプロになったのだろうか。

 鉱山が西日に染まる前にぼくたちは王都に戻るべく、魔法の絨毯を広げたらディーとランスが相乗りしていた。

 栗鼠を捕まえたので初級魔獣使役師の資格を取得しに行きたいとのことだった。

 王都での宿泊先は、ディーは教会の宿泊施設で、ランスは所長の実家に(ハルトおじさんの邸宅じゃないか!)に滞在することになった。

 飛竜たちの護衛に、みぃちゃんとみゃぁちゃんが操縦する魔法の絨毯に驚愕しつつも、スライムたちとトランプ対戦のババ抜きにあっさりと敗北して、打ちひしがれていた。

 スライムたちの表情を読めないからやりたい放題にやられていた。

 聖女先生はハロハロが馬車で帰ったことにホッとしたようで、来年から同僚になるランスが気になるようだった。

 キャロお嬢様は聖女先生からハロハロのセクハラを具体的に聞き出し、自身の婚約者候補の筆頭がハロハロの息子なので、在学期間が一年重なることを嘆いていた。

 七才の男子のセクハラなんて想像つかないが、立場に物を言わせるパワハラを想定しているようだ。

 ウィルは何やら思案しているようで口数が少なく、ボリスはケインの騎士コースの単位の相談に乗っていた。

「廃鉱に通う時はボリスも一緒に行くのかい?」

「たぶんそうなるよ。留学の試験対策は模試を一回受けただけでパスしたから、カイルの廃鉱通いの補佐をしていても問題ないんだ」

 去年アレックスの勉強に付き合ったボリスは、試験対策もバッチリになっていた。

「そっか。カイルに卒業制作の相談がしたかったんだよね。試作品が廃鉱で試せるかもしれないから父上に相談してみるよ」

 この流れならウィルも廃鉱通いについて来るのだろう。


 学校行事なので、学校に着いたら解散となるはずだったが、校長室に呼ばれて卒業制作はスケートボードで良いじゃないか、と説得されたがあれは公開する技術じゃないので断った。

「瘴気を解析する魔術具の方が世界的大発見だろう。隠匿すべきことじゃないか」

「瘴気の被害を無くす技術を隠してどうするんですか?優先して公開すべきですよ」

 取り敢えず、卒業制作として公開するかはいったん保留として研究許可はおりた。


 寮に戻ると研究室に籠もる、と言って、ケインと自宅に帰った。

 何の事件も起こさなかったから、その報告と新しい魔術具の構想を実家の大人たちに相談したら、新しい魔術具の構想自体が事件だと言われてしまった。

 炭坑内でキャロお嬢様のスライムが瘴気の欠片を持ち帰った時点で世界的発見だったらしい。

 瘴気を閉じ込める魔術具は現在では失われた技術で、世界的にも数個しか現存していないらしい。

 ぼくとケインはどんな魔術具を作って何を置いてきたのか自白させられた。

 瘴気を閉じ込める魔術具はキャロお嬢様のスライムが使用した物だけで鍵は登録魔力と暗号の二重鍵だ。

 スケートボードは持ち帰った。

 販売した魔術具はヘッドライトと小型カメラ、手榴弾タイプの浄化や結界強化の魔術具だ。使用方法が簡単で持ち運びに便利な小型なのでたいそう喜ばれた話をした。

 父さんは領の鉱山は管理が行き届いているから瘴気の発生による事故のデータが無いと言った。

 やっぱり公共性の高い研究を隠匿されると世界が停滞してしまう。

 母さんとお婆に睡眠時間を心配されて、夜遅くまで研究しないように釘を刺された。

 亜空間で寝るよ、とは言い辛い。


 鉱山入り口で拾った小石で作ったみぃちゃんとみゃぁちゃんのフィギュアの首輪の白金に三つ子たちが気付いて、後日、石拾いがブームになったそうだ。

 庭の奥の河原には鉱山から流れてきた希少鉱石を含む石がありそうなので、子どもたちが川に入らないか母さんたちを心配させることになるのだった。


 廃鉱に毎日通うなら亜空間を経由する方が早くて負担もないのだが、ウィルたちが居るので毎日空を飛ぶ羽目になってしまった。

 ディーとランスは王都で各々の用事を済ませて廃鉱に戻ると、早速エリアBで魔術具を併用して浄化をする検証をしてくれた。往復の時間を差し置いても浄化スピードが格段に上がった。

 何より毎日地上に出ることが精神衛生上かなり良く、上級魔術師たちの部隊も毎日引き上げてこれるようにスケートボードの貸出量を増やしてほしいと所長にせがまれた。

 大きなボードにして五人乗れるのを作ってくれと言われたが、不測の事態に五人が別行動を出来る方が良いだろうということで、五台実家から送ってもらうことになった。

 瘴気の欠片の研究が進み、手榴弾タイプの魔術具に追尾機能を搭載させたことで、エリアBの浄化はスムーズにほぼ完了させることが出来た。


 ウィルの発案した魔術具は、ぼくも欲しいと思うほどカッコいいものだった。

 剣の柄の部分だけなのだが一振りすると鞭が出現して瘴気を払ったり死霊系魔獣に有効な打撃を与えたりすることが出来るのだ。

 ぼくとケインとキャロお嬢様の分も制作した。聖魔法が苦手なボリスは魔力使用量が多すぎて手榴弾のほうが現実的な選択だった。

「お前たちが坑道に行くわけでもないのに俺より良い装備なのはなんでだろう」

 そう言うランスに貸し出して、現場で検証してもらうと手榴弾の方が魔法の鞭より圧倒的に効果があった。

 ウィルが落ち込んだ。

 カッコいいを追及すると魔力を大量消費してしまう典型的な例となった。

 所長に誰もが通る道だ、と慰められた。

 実用性はともかく、卒業制作ならこれで十分らしい。


 エリアBの浄化が終了して、瘴気を追跡する魔術具が完成したので、検証する日を決めた。

 王城からも応援の文官たちがやって来て結界の魔力を過剰に満たすことになった。

 ぼくたちは前日から泊まり込んで、往復に掛かる魔力を節約することになった。

 辺境伯領主の出資で温泉の側にこぢんまりとした宿泊施設が建設されたので、実験前日という緊張感より、温泉旅館でまったりすることになってしまった。

 お風呂の管理はイシマールさんの妹のルカクさんが担当することになったので、魔獣風呂まで出来ていた。

 使役魔獣用のお風呂は中庭に設置されており、色とりどりのスライムたちがふよふよと浮かんだり沈んだりを繰り返して楽しげに入浴する姿に、通りすがりの誰もが笑顔になった。

 気持ちよさそうに湯船に浮いているスライムにつられてキュアも湯船に浸かった。

 そのうち飛竜たちも温泉に入りたいと言い出したら巨大な浴槽が必要になりそうだ。

「なんだかスライムが増えていないか?」

「みぃちゃんとみゃぁちゃんもスライムを飼いだしたんだよ」

「うわあ。なにそれ。凄く羨ましい!」

 みぃちゃんとみゃぁちゃんは温泉には興味がなく、卓球台の上に乗り、猫の手パンチで卓球を楽しんでいる。

「飼っているというよりは、友だちみたいなものだよ」

 ケインの言うように、二匹のスライムはお風呂から上がると、卓球のラケットに変身して猫の手に張り付いた。

「なんだか楽しそうだけどサッサと寝ろよ」

 ディーとランスはお風呂と御飯だけをこっちの宿泊施設で済ませ、自分の宿舎で就寝するのだ。

 ぼくたちは、おやすみなさい、と元気に返事をして各々の部屋に引き上げた。


 当日は朝から山の神の祠に魔力奉納をして、研究所の職員たちと王都の応援の文官たちが分担して全ての封印の結界に魔力を注ぐために配置についた。浄化の済んだエリアAとBには小さな封印がたくさんあるので、人員も多くなった。

 廃墟の町の祠も修復されてハルトおじさんが部下を連れて魔力奉納を担当してくれた。

 子どもで参加したのは、ぼくとケインとボリスとウィルとキャロお嬢様で、聖女先生は引率として付き添っている。

 廃鉱内の七つの封印の扉の前で、重箱のように七段積み重ねた箱型の魔術具を床に並べて、所長とディーとランス、王族代表のハロハロ、ぼくたちが輪になって囲んだ。

 薄暗いのはキュアが魔力で干渉しないように、明かりの魔法を出さずに鞄で待機をしているからだ。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんもポーチに入って顔だけ出している。

 所長が七つの扉の鍵に瘴気の欠片をかけたら、追跡が始まるので、全員固唾を呑んで見守っている。

「いくぞ」

 所長がそう言ったので、ぼくは瘴気の欠片の入った瓶の蓋を開け所長に手渡した。

 瓶を受け取った所長が鍵にかけるべく瓶を傾けた時、全ての明かりが消えて坑道内は真っ暗になった。

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