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要チュウ意…!

「スライムって、君たちは辺境伯領出身なのか!」

 所長がぼくたちの話を聞いていた方が驚きだ。

「ぼく以外全員です。全員スライムを使役していますよ」

 所長がようやくまともに着席すると、ウィルの砂鼠の結界に気付いて胸ポケットから魔法陣が描かれた紙を取り出し、光魔法や闇魔法を繰り出して砂鼠の結界に干渉し始めた。

 ウィルはいつもの冷笑を崩すことなく、落ち着いて所長の動作を見守っている。

 全員のスライムがポケットから出てきて、所長の所業を低級魔獣への挑戦と捉えて観戦し始めた。

 ウィルの砂鼠のスタミナは、首輪についているみぃちゃんチャームに秘密がありそうだ。

 気配を探ればチャームにはウィルの圧縮した魔力が籠もっている。

 魔力バッテリー装備の砂鼠は所長の干渉はものともせず結界を維持し続けた。

「これは、なかなか凄いですわ」

 聖女先生は結界が小さいからなせる業でしょうか、とディーに話しかける。

「うむ。出来る鼠だということは認めよう。所長も子どもの使役魔獣を苛めないでください」

 検証が続くと鼠を観察し続けなければいけないディーが所長を止めた。

「子どもの魔獣を苛めているわけじゃ…スライム!」

 ぼくとケインとキャロお嬢様とボリスのスライム四体を見た所長が二重顎になるほどに顎ごと仰け反った。

 ディーの時とは異なり、テノール歌手のような声で叫んでいたのにぼくたちは少し笑いそうになった。

「父が会うたびにスライムを見せびらかすのだ。野生のスライムを捕獲しても、私の魔力に染まることもないし知性のかけらを見せることのない。なのにどうして、辺境伯領のスライムはこうまで違うのだ!あああああ。使役者の魔力に染まったスライムはこうも個性的な色になり、光魔法の使い手たちは輝きの質が違う。真珠の粉をまぶしたかのよう光沢の質が違う!スライムの可能性は無限大だ。だからこそ……わたしもスライムを使役したい!!」

 “……ヘンタイの息子はヘンタイなんだわ。あたいたちが自我に目覚めたばかりの頃にあいつの親父に酷使されそうになったのをご主人様に止めてもらったのよ”

 “……懐かしいね。迷路にチャレンジしたときだよね“

 “……自我に目覚めた頃の記憶なんてないよ”

 “……スライムへの憧れは理解いたしましたが、このように熱弁を語られましても、下級魔獣使役師の資格を取得していない時点でウィルにも劣りますね”

「スライムの初期飼育はとても大変ですよね。ぼくもチャレンジしましたが成功していません。だからと言って、うちの砂鼠をスライムの代用に考えて使役契約を交わしたわけではないのですよ」

 砂鼠にご褒美魔力を与えるウィルと砂鼠は同じように嬉しそうな表情をしている。

「魔獣との信頼関係なんですよ。そもそも情をかわせるほど魔獣の世話をしない貴族が、己の魔力量だけで魔獣をねじ伏せようとしたところで、自害してでも逃れようと抵抗されるのは当たり前だ」

 ハロハロがもっともらしいことを言ったのに、聖女先生は表情を変えずに瞳だけが胡乱気にハロハロを見ている。

「そんなハロハロは何を使役しているの?」

「犬だよ。今日は留守番してもらっている」

 きっと影武者の隣にいるのだろう。

「浄化済みのエリアAのaならスライムや砂鼠に見学させても問題ないだろう?」

「「「所長!!!」」」

 隊長と聖女先生とディーが、部外者を坑道に入れるのか、と口々に反対意見を述べる。

「浄化の進捗状況を対外的に示すいい機会じゃないか。最近は予算も通りにくくなってきているんだよ。世論を味方につけないと、君たちの危険手当も出なくなるよ」

 所長は、危険な仕事のわりに給料が低いのにね、と労いながらも我を通そうとする。

 坑道の先は細いので、飛竜が入れないエリアは魔導師の担当になるので、聖魔法を使える小型使役魔獣の恩恵を受けるのは一番危険なエリアを担当する魔導師や魔術師たちじゃないか、と反論を抑えていく。

 所長が入所してから死亡事故が無いのはこうやって正論をごり押しするからなのだろう。

 鉱山内部のエリア分けされた七枚の封印の扉の前までがぼくたち生徒も同行を許され、スライムたちと砂鼠が清浄化された更に先のエリアまで侵入することを許された。


 鉱山の入り口まで来ても、瘴気の気配は全くなかった。

 山の空気は清々しく、鉱石の堆積のために広く切り開かれた広場は何一つ残されておらず、ここが廃鉱であることを実感させられた。

「兄さん…ここは凄い……!」

 屈んで石ころを拾ったケインが言った。

 ぼくも小石を拾って掌で転がした。

「何をやっているんだい?」

 ウィルより先に所長が訊いてきた。

「土地の魔力量は充分たくさんあるのですが、魔力の質に偏りがあるようです。説明しにくいので試してみてもいいですか?」

 ボリスが、あっ、と言ったが、所長は、やってごらん、と言ってくれた。

 魔法の杖を取り出して、手にしていた小石を中に投げると、杖をひと振りして小石をみぃちゃんのフィギュアに加工した。

「「「無詠唱錬金術!!!」」」

「いえ、魔法陣を媒介しています」

 小石から練成した、カプセルトイの大きさのみぃちゃんの首輪に極小の白金が付いている。

「これを持ち帰ったら盗掘ですか?」

 魔法の杖に釘付けだった所長はみぃちゃんフィギュアの精巧さと白金に気付いて、おおぅ、とテノールの美声を響かせた。

「これは素晴らしいが……、これを盗掘かと言われたら、偶々靴底に付着した砂金を盗んだというようなものだ。もう一つ作ってくれたら一個持って帰っても良いよ」

 ノリが軽いけど大丈夫だろうか?

 ぼくはケインの選んだ小石でみゃぁちゃんを練成した。

 ミャア、ニャア。

 呼んでいないけど本物のみぃちゃんとみゃぁちゃんがポーチから出てきた。

 聖女先生が、モフモフ、と呟くと二匹の前で膝をついた。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんは聖女先生に愛嬌を振りまいて存分にモフらせると、子どもの玩具を取り上げるのか、という空気を醸し出した。

「所長。子どもと愛玩動物に当たりがきついとモテませんよ」

 隊長が小石の状態で子どもたちが持ち帰っても責められないものにどうこう言っても仕方ありませんよ、と援護してくれた。

「それにしても見事な練成だね」

 ディーは手袋を脱いで適当な小石を選び出すと、口元だけ動かして何かを詠唱すると、小石が輝きながら変形して、飛竜のフィギュアを練成した。右前足の爪の一か所が白金に輝いている。

「「「「カッコいい!!!!」」」」

 ぼくたち生徒はディーを囲んで拍手した。

 ぼくが幼い頃に大人が魔方陣を隠して魔法を使っていた時に口元を動かしていたから詠唱魔法と勘違いしていたように、みんなもそう思っていた時期がありタネを知ってがっかりした記憶があったので、詠唱魔法を生で見られて興奮している。

「これは物質を製錬して、練成するとんでもなく難しい技術だぞ。一体どうしたらこんな子どもが出来るようになるんだ?」

「一応上級魔法師の資格を習得間近です」

「習得していなければ出来ないだろう」

「年齢を理由に受けられない講義があったので、学習が止まっていましたが、今回この実習の参加が認められたので、後は卒業制作だけです」

「「「卒業制作はその杖で十分だろ!?」」」

「これは初級と中級の卒業制作にしました」

「「「!!!」」」

 大人たちは下山して魔法学校の卒業論文を読まねば、とか、聞いていない、とか、あれが欲しい、とざわざわとしていたが、順番で下山しよう、と話をまとめた。

 まだ中に入ってもいないのに入り口で時間を使い過ぎだ。

 封印の外の石ころに希少鉱物が含まれているなんて警備計画を見直さなくては、と隊長が頭を悩ませた。


 所長が扉の鍵の魔術具の開錠をすると辺りの魔術具が狭い坑内を不気味に照らした。

 キュアが鞄から飛び出して、光魔法で熱くない小さな火の玉を人数分出した。

「「これはまた小さな飛竜だな!!」」

「ぼくが預かっている赤ちゃん飛竜です。便宜上使役契約をしているので、上級魔獣使役師の資格を取得しました」

「魔法学校の辺境伯寮はどうなっているんだ!下山して見学に行きたいよ」

 ディーは他にも使役魔獣がいる気配はしたが、まさか飛竜だとは思わなかったそうだ。

 所長は火の玉を検分して、浄化の作用もあるのか、とキュアに熱い視線を送った。

「赤ちゃんを働かせてはいけませんよ」

 聖女先生に釘を刺されている。

「飛竜は育てられた恩義でその人生の一時王国に仕えてくれる時期があるだけです。カイルが赤ちゃん飛竜と契約しているのは本当に例外で、扱い方を間違えたら、母飛竜の逆襲に遭いますよ」

 飛竜の里でしっかり学習したハロハロが言った。

「いや。わかっているよ。赤ちゃん飛竜に坑道の浄化なんてさせたら外で護衛してくれている飛竜たちが暴れ出す。ただ、内部で作業してくれる人たちの安全性を少しでも高めたいとつい考えてしまうのさ」

 所長は、自分は現場の最前線に立てずに魔術具ばかり作るしか能がないから、と言った。

 責任者として良い事を言っているはずなのに、現場で活躍する魔術具を見たい、と言っているように脳内変換されてしまう。

 ぼくたちは七つの扉の前に立ち、比較的奥行きのなかったエリアAが浄化済みであること、扉Bには魔術具部隊が現在浄化活動中で、三日後に戻って来る予定だと説明された。

 スライムたちと砂鼠は扉Aの最初に浄化が済んだ坑道aにカメラを持って入る許可を得た。

 魔獣たちは防御の魔法陣を自力で張り、ディーに案内されて扉の奥に入っていった。

 精霊言語でぼくのスライムが思念を送ってくれるので中に入った様子もぼくはライブ映像で脳内視聴することが出来た。

 目のないスライムは全方向に視野があり、その中で自分が知りたい方向に特化してピントを合わせて他はぼんやりとしている。

 ディーが砂鼠の方を見ないようにしていることにピントを合わせて愉快がっているスライムの気持ちも伝わった。

 ケインのスライムは内部の地質に興味があるようで少しずつ採掘しようとしてディーに注意されている。

 ボリスのスライムはキャロお嬢様のスライムを警護するようにそばに張り付いて警戒している。

 砂鼠は先行するように、とことこと奥へと歩いている。

 坑道の明かりの魔術具は必要最小限しか設置されていないので、スライムたちから離れると薄暗くなるのだが、夜目が効くのか砂鼠は呑気にお散歩でもしているように見えるけれど、しっかり魔力むらを探している。

 “……危ない!”

 ぼくのスライムがそう思念を送って来たかと思うと、砂鼠が歩いていた地面から刃物が飛び出してきた。

 スライムの視界から砂鼠が突如として消えた。

 首ちょんぱになる寸前にハウスの機能を使ってウィルのポーチに戻ったようだ。

 チューチュー。

 いつの間にかウィルの掌に戻っていたかのように見えた所長と聖女先生が驚いたが、使役魔獣の様子をほんのりと感じていたケインやキャロお嬢様やボリスが中で何かあったようだ、と深刻になって言った。

「中に罠があってひげを少し切られたようだよ」

 ウィルはみんなに砂鼠の左頬のひげが短くなっているのを見せた。

 ぼくたちがざわついていると、炭鉱入口の方から、卵が腐ったような温泉臭ではない、堆肥も混ぜたような酷い悪臭がした。

 ぼくたちはたまらず鼻をつまんだが、所長は慣れているようで顔色一つ変えなかった。

 扉Bで作業している部隊に不測の事態があって予定より早く引き揚げてきたのかもしれない。狭い坑道に何日も籠っていた男たちの匂いがどんなに臭くても顔をしかめたり鼻をつまんだりしたら失礼だ。

 それに気が付いたぼくたちは両手を下ろして涼しい顔をした。

「やっぱり所長の仕業だったか。なにが鼠一匹入れない封印だ。鼠嫌いのディーが入れるわけないからな。何かの検証をするなら報告してくれよ」

 体格こそ大柄でいかにも炭鉱夫といった容貌だが、上質な貴族の格好をした青年が悪臭と大声の主だった。

「来客があるのは言ってあったろう。聖女様も王族もいらっしゃるのだから、もう少しまともな対応をしなさい。ここに配属される上級魔法師は礼儀知らずだと誤解されますよ」

 ハロハロは王族対応しなくてもいい、と言ったはずの所長が礼儀を口にした。

 臭いから出てくるなと遠回しに言っているのだろうか?

 …………臭い?

「失礼なことをお伺いしますが、体臭がきつくなったのはいつからでしょうか?」

「一年前…くらいかな?そんなに臭うか?」

 ぼくの質問に王都から来た全員が、合点がいった顔をした。

「辺境伯寮の大審判を廃鉱(ここ)に引きこもっていたから知らなかったのか……」

 隊長の言葉に、所長と上級魔法師は何のことだ?とまるでわからないようだ。

「失礼ついでにぶしつけな質問をいたします。辺境伯領、もしくはラウンドール公爵家に何かしら、反感を持ったことはありますか?」

「俺、いや、私としてはどちらにも興味がありませんが、実家ではラウンドール公爵の三男の魔法学校の入学にあわせて何やら嫌がらせを計画していたようですが、私は派閥争いには興味が無いのでどうなったのかまでは知りません」

 ……知っていて何もしなかった人に該当したのか。

「あの、激痛ではないけれどなんとなくお腹が痛い状態で、一年間も坑道の浄化作業を続けていたのですか?王都で治療の相談でもされたら即完治できましたのに」

 聖女先生の問いかけに、上級魔法師は顔を赤らめて下を向いて小声で言った。

「代わりの人材が居ないんだよ……」

 ぼくは気の毒に思って、口をはさんだ。

「今すぐ治せるので誓約書に名前を書いてください」

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