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帰途#1 ~日程調整~

 ハロハロが国王に一筆書いてもらうまで、赤ちゃん飛竜はコッソリと寮で飼育されることになった。

 コッソリと言っても新婚飛竜たちがいるだけでも注目を集めている。

 魔法の絨毯で辺境伯領に帰りたかったので、帰領届を学校に提出しに行った。

 亜空間経由でいつでも帰れるけれど、帰りますと宣言して帰る姿を目撃されなければ、家の敷地から出られない。

 ぼくは赤ちゃん飛竜を入れた鞄をたすき掛けにして、寮まで迎えに来たウィルたちと徒歩で学校に通った。

「父上から、公爵領地の運営を視察してから辺境伯領に行く許可が出たんだ。港町の時のように宿を予約するから、カイルのお家に迷惑はかけないよ」

 止めても来るのはわかっていた。

「三大公爵家のお坊ちゃまの滞在なら、領のお城クラスになるのかと思った」

「辺境伯には父上が、息子が親友の家に遊びに行くだけだから気をつかわないで、と手紙を書いてくれたんだ」

 ぼくもウィルが来るかもしれないことは家族に伝えてある。

 ウィルのぼくへの執着は、メイ伯母さんも手紙で知らせてくれていたので、うちの家族も全員押し掛けてくるだろうと踏んでいた。

「宿の予約もできたし、付添は家庭教師に決まったのだけど、日頃、我儘を言わないエリザベスが一緒に行きたいと駄々をこねているんだ」

「辺境伯領は遠いから小さい女の子には厳しいよ」

 ボリスが移動日数の方が滞在日数よりかかるよ、と真面目に言っているが、ぼくには心当たりがある。

 内緒で簡単に帰宅しているぼくに、三つ子たちが王都に行きたい、と簡単にせがむのだ。

 四才になったばかりでは、そこのところを理解してくれというのも無理がある。

「駄目なものは駄目と言い切って押さえつけることもできるけど、地図で距離を測って近場の旅行を経験させてあげて、辺境伯領がどれだけ遠いかわかってもらう方がいいよ」

 ボリスが地図とか地理とかあの時知っていたらなあ、と呟いた。

「ああ。それは良さそうだ」

「ぼくたちだって領を出たのは洗礼式の後だもん。経験を積むのは良いことだけど出来ることと、出来ないことを知るだけでも経験値になるよ」

「そうやって少しずつ経験値を積んだのがカイルとボリスなんだ」

「「ウィルも他人事じゃないくらい巻き込まれているよ」」

 本当に入学してからも散々な目にあっている。

「確かに半年前は想像できなかった日々を送っているよ」

 ウィルは三大公爵家のラウンドール公爵家以外の二家が不明瞭な会計処理を理由に分家に家督を譲ることになった経緯を語ってくれた。

 ハルトおじさんが探っていた汚職・横領を理由に粛清してこれで解決と考えていたのに、帝国のスパイまで明らかになり、追加で全員捕らえられたのを、公爵家で名簿を記憶していたウィルが確認したそうだ。

 未来の腹黒公爵が爆誕だね。

 王妃殿下はスパイを引き込んだ張本人となってしまったが、東の魔女が妃殿下の実家に入れこめた経緯を追跡調査しているとのことだった。

 ハロハロと奥さんは帝国を欺くために処分はされたが、その内容は軽いものだ。

「王太子妃殿下は事実上蟄居です。お子様の王族教育に問題があったらしいよ」

 傀儡の子を傀儡にすべく魔の手が回っていたのだろうか。

 まだ四才なら修正も効くかもしれないけれど、精霊を捕まえているかどうかが、運命の分かれ道だ。

 校門まで来たので、靴が汚れたからと言って魔法の杖をひと振りして内緒話の結界を消した。


 書類を提出しに来ただけなのに、お茶とお菓子を出されて上級、中級、初級の各学校長に囲まれてしまった。

 初級の校長は始終ニコニコと、今年は良い年だった、とただの好々爺になっているが、上級と中級の校長が魔法の絨毯を卒業制作にしないか、と息巻いていた。

 退屈してきた飛竜の赤ちゃんが鞄の中でもぞもぞし始めたので、スライムを入れて遊び相手にさせたら楽しそうに魔法談義をしているようだ。

 魔法の絨毯の飛行許可を卒業制作の実験、ということで口添えしてくれるからおとなしく話を聞いている状態だ。

 今までの飛行には王族が同行していたので、文句をつけてきた領主はいないが、個人旅行では通行税を払わないで空の旅をするのはどうだろう、と寮長に指摘されていた。

 学校長の口添えで各領地の飛行許可がおりるのなら、いつもの勧誘合戦くらい煩わしくても付き合っている。

「卒業までまだ二年もありますから、魔法の絨毯は見た目も含めて、改良していきます。卒業制作として論文を出すのは、改良版にしたいので、もう少しお待ちください」

 絨毯にじかに座っている今の外見では、お空でピクニックをしている子どもたちにしか見えない。

 飛行計画書を作成して、上級学校長の学生の研究に協力を求める手紙を添えて、通過予定の各領地に手紙を出した。

 空の旅行の法整備ができるまでは手間がかかっても仕方がない。


 辺境伯領がごり押しで作ったカフェテリアはオープンするなり大盛況で、昼時には席を確保するのが困難だったが、ぼくとボリスとウィルは授業に出ていないので授業時間にまったりしている。

 赤ちゃん飛竜はイシマールさんが屋台のおっちゃんたちに自慢しに連れていった。

 チャーシューを味見させてもらったらいいよ、と美味しかったイメージを赤ちゃん飛竜に伝えると、ごくんと喉を鳴らしておとなしくイシマールさんと一緒に行った。

 厨房を借りて、紅茶のラテアートで立体的にシロがお風呂に入っているように作ったら、ウィルが女子のように喜んだ。

 絵はそこそこに描けるようになったが立体的に作品を作るのは難しいんだ、とブツブツ言っている。

 みぃちゃんのチャームが招き猫になったことをまだ気にしているようだ。

 あれはあれで味があったのでポーチにつけている。

「使ってくれるのは嬉しいけれど、カイルの作ったみぃちゃんと並べてつけると見劣りするじゃないか」

「カイルのうちにはみゃぁちゃんが居るから、二匹並んでいる方がしっくりくるけど、仕上がりの違いが……」

「練習してもう少し上手になったら付け替えてくれるかい?」

「お世辞じゃなくてこういうのも良いよ。個性があって良いと思うよ」

「出発前にうちに遊びに来ないかい?エリザベスがみぃちゃんとシロに会いたがっているんだ。司書もカイルに魔法書を見繕うのを楽しみにしている」

 ラウンドール公爵家の使用人たちは壁に飾られた写真で魔法の絨毯を見ており、興味深そうに立ち止まって見ているとのことだったので、本物を見せてあげたいようだ。

 ウィルは飛竜の里でも里の人たちに優しかった。

 ボリスも行くなら行ってもいいかな。

「あっ!ぼくが初級錬金術の資格取ってからで良いかい?もう試験を受けるだけでいいんだ。ぼくもみぃちゃんのチャームを作りたいな」

 仲間はずれにしないでね、とボリスが言ったことで、ラウンドール公爵家で錬金術のアクセサリー作りと、庭で魔法の絨毯のお披露目をすることが決まった。


 ラウンドール公爵家からお迎えの馬車が来ても寮ではもう慌てる人はいなかった。

 この前は王家の馬車だったから内心ではすごく緊張していたのに、帰寮したお前たちが殿下をハロハロと呼んだ時は、吹き出しそうになるのをこらえるのが大変だった、と寮長が心境を語ってくれた。

 もうハロハロとは呼ばないから寮長の腹筋を鍛える事態にはならない。

 ぼくとボリスとみぃちゃんとシロと赤ちゃん飛竜と付添はイシマールさんが馬車に乗った。

 寮長はお留守番だ。

 ラウンドール公爵家では使用人たちがたくさん出迎えてくれたので、赤ちゃん飛竜は鞄に引っ込んでしまった。

 ラウンドール公爵夫妻にウィルとエリザベスがエントランスで出迎えてくれた。

 お決まりの挨拶をしている間、エリザベスがみぃちゃんとシロを見てつま先をもじもじさせている。すぐにでも触りたいのに、お行儀よく我慢しているようだ。

 可愛らしい。

 アリサはこういう状況でおとなしく出来るのだろうか?

 学習館ではお行儀の時間もあるけれど、本人が嫌がったら無理はさせていないはずだ。

「アリサが気になるの?ぼくはミーアが気になるよ」

 小声でボリスが言った。

「もうじき入学だからお作法は頑張っているはずだよ」

 内気なミーアはボリスの兄妹の中では一番真面目で、兄たちの失敗を反面教師に育っているはずだ。

「ご兄妹のお話ですか?今度の辺境伯領の新入生は辺境伯領主のお孫さんがいらっしゃるから、華やかになりそうですね」

「公女様のご入学後、話題が絶えないことになるのは間違いないです」

 イシマールさんが断言した。

 今、女子寮を大改装中なのだ。

 キャロお嬢様はタウンハウスでの生活を拒否して、入学後は寮生活を送るつもりなのだ。

 寮長が半泣きで教えてくれた。

 中庭に飛竜の宿舎があってお世話ができる、あわよくば飛竜に乗れるかもしれないのに、キャロお嬢様が見逃すはずがない。

「この新しいお茶菓子は学校の話題の中心になっているではありませんか。親たちがこぞって子どもたちに並ばせて入手しようと躍起になっておりますのよ。カフェテリアのオープンはキャロライン嬢のご入学まで待たれると思っておりました」

 昼時に屋台にダッシュする人たちが増えたので、危ないから人を分散させるべく、カフェテリアのオープンが早まったのだ。

 味に関係なくサッサと昼食を済ませたい人は食堂に行くので、食堂にもそれなりの需要がある。

「公女様はスライムを飼っておられます。公女様のスライムはなかなか優秀なスライムですから、来年度のお茶会でどのようにご披露されるか楽しみです」

 公爵夫妻はスライムですか、と納得している。

 大人の会話をイシマールさんが引き受けてくれるので、寮長と来た時より気楽に過ごせる。

 お茶とお菓子とおしゃべりに一段落付いたところで、子どもたちは席を立ってもふもふタイムとなった。

 お茶のテーブルの横に広めのラグを敷いてあり、床で心置きなくみぃちゃんとシロをもふもふ出来るように準備されていた。

 エリザベスにはおとなしく撫でられる二匹が、しょっちゅう会っているウィルにはしっぽであしらう塩対応だ。

 公爵夫妻もラグに膝をついて二匹と戯れだした。

 こんな気さくな人たちだったのか。

「飛竜の赤ちゃんは出てきてくれないのかな?」

「人見知りが激しいので、今日は鞄から顔を出してくれるかどうか」

「いや、無理を言うつもりはない。貴重な飛竜の赤ちゃんを見たいけど、嫌われるようなことはしたくない」

 公爵は笑顔でそう言った。

「可愛い動物たちは女性たちに任せて、錬金術を練習しよう、私の工房で。」

 みぃちゃんとシロを残して、男性陣は公爵の工房に移動した。

 屋敷の端に続く廊下の壁に、ウィルが撮影した写真を拡大したものが飾ってあった。

 左右で港町と飛竜の里に分かれている。

 蝶の魔術具が精霊と煌めいている港町や、飛竜の里で桜と精霊、飛竜たちの踊りに精霊が加わっている写真はどれも美しい。

 その中に数枚、ぼくのドアップの写真が紛れているのが恥ずかしい。

「綺麗に撮れているので、色付けする魔術具を開発したいのだが、なかなか時間が無くてね」

 公爵は満面の笑みで言った。

 ポケットのスライムが、自分が選んだけどこんなに大きく引き伸ばされて飾られるとは思わなかった、とひたすら謝っていた。

 旅行の記念のスナップ写真がこうなるなんてぼくにも想像できなかったよ。

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