みんなであそぼう…?
お昼はそれぞれお弁当を持ち込んでいて、舞台下の引きだしから椅子とテーブル出してそれぞれの付添人と食べるのだが、今日は縄跳びでいつもよりみんな仲良くなったのでテーブルを寄せておかずを交換したりして楽しく過ごせた。
お嬢様のお弁当はとても食べきれる量ではない豪勢なものだったのでジーンやお婆もおよばれされると、必然的にうちの昼食もお勧めすることにすることになり、まだ試作品段階の焼きそばをお披露目してしまった。
ウスターソースの出来はまだまだ改善の余地があるものだけど、とりあえず目玉焼きを乗せることで見た目と味を誤魔化したのだ。
お婆の生薬の中に生姜があったはずだ。ああ、紅生姜を作りたい。
豚バラたっぷりのソース焼きそば。ちょっと塩気は強いけど、豚の脂のもつ甘味をちゃんと活かせたようで材料が少ないながらもラーメンの時同様、出来は上々。
フォークではお上品には食べられないので付添人には渋い顔をされたが、お肉がたっぷりで甘じょっぱい味付けは子どもたちには大好評だった。
そうだ、今度は焼きそばパンにしよう。
午後からは、ジーンとお婆は仕事にもどり、子どもたちはまだまだお昼寝が必要な年だから、少しおしゃべりをしてからお開きになる。
いつもならね。
お嬢様はすっかりケインと意気投合しており、また魔獣カード持ち出して遊んでいる。
隣で騎士っぽい人が魔獣の解説まで始めた。
ケインと気質が似ているならこの後が想像つく。
寝ぐずりで喧嘩を始めるだろう。
ぼくはお嬢様の付添人の中で一番細かくお世話をしている人のところへ近寄って行って状況を説明した。
「小さい子たちは疲れが出てきているので、ぐずり始めるかもしれません。ここで昼寝をさせるのもひとつの手かもしれませんが、うちの昼寝布団は貧相でしょうし…どうしましょう?」
ホントは帰ってほしいけど社交辞令って大事だよね。
「お嬢様もお疲れでしょうからご帰宅の手配は始めます。しかし、あのように夢中になられておられますから、お声がけいたしますのは今しばらく難しいかと…」
まいったな、ぐずっても連れ帰ってはくれないのか。
「舞台上にある長椅子は下の方を引き出せば簡易のベッドに出来ますよ」
「この舞台は下に椅子やテーブルもしまえて便利ですね。床でお眠りになられるよりは舞台上のベッドでしたらまだ良いかと思われます。男の子たちにはお帰りいただかないといけませんが、警備の人数に問題が出てしまいます」
やっぱりほかの子の付添もお嬢様の警護だったか。
「男の子たちはあっちで雑魚寝させて、舞台の上は緞帳でも引きましょう」
なんでお勧めしているんだろう。
本音は今すぐでも自分たちの子供部屋へ帰りたい。
木札の答えを見たいんだ。
断ってくれ付添人。
「お帰りのお声がけで失敗したときはその様によろしくお願いいたします」
遠巻きに断れる技術がない自分が恨めしい。
付添人が手配しに遊び部屋から離れると、案の定ケインとお嬢様がもめ始めた。
ケイン、頼む…!頼むからお嬢様を泣かせるな!
「はいいろおおかみは、ひいたちより強いもん!!」
「火鼬は一匹でも火炎魔法使ってきますが、灰色狼は一匹では氷結魔法を使えません」
正論で煽ってどうする騎士もどき!!お前何してんだ!
「灰色狼の木札をいっぱい作ればいいんだよ」
「じゃあ作って!」
「もうあまっている木札がないもん。こんどね」
「こんどって、いつ!!」
「あしたか、そのつぎの日」
「お嬢様、今度来る日までに用意していただきましょう」
「こんどって、いつなのよ‼」
お世話の細かい付添人が間に入ってくれた。
「今度は奥様がお決めになった日ですよ。また来るお約束をなさればよろしいでしょうかと」
「…まだあそぶ。かえらない」
「キャロがやくそくを守ればまた遊べるけど、怒られたら来れなくなるよ」
おい、ケイン、お嬢様を呼び捨てにするなよ。
「またきてもいいですか?」
「また遊びに来てください。やくそくです」
ケインとお嬢様が丁寧に次の約束を取り付けてその場がおさまった。
部屋に戻ってみると、二段ベッドの下の木札は動いていた。
『たのしいから』
ぼくはケインに気づかれないように下の段で横になるケインの背中をトントンしながら足で木札を入れ替え、もう一度質問する。『どうやって移動するの?』
気疲れのせいかぼくもケインの横でぐっすり眠ってしまった。
めざめると木札が動いていた。
『くらいところにもぐる』
相変わらず具体的にどうしているのかわからない答えだった。
『どこにでも行けるの?』
答えやすい質問をしなくてはならないのだろう。
日課のお昼寝が終わればまたジェニエの作業部屋でお手伝い。晴れの日は薬草畑の手入れだが今日は乾燥機の使い方を教わる。
ケインはジーンに木札を作ってもらっている。
「遊び部屋にくる子どもたちって、いつもお手伝いしてくれるジュエルの同僚や騎士団の子どもだけじゃないでしょう?」
「基本的にはジュエルの関係者の子どもたちだけど、どうしても偉い人が絡んでくるのは避けられないからね。今日の手伝いはもう十分だよ。カイルも疲れただろう」
「外遊びができたら子どもたちも分散するから気が楽だけど、毎日来客があるのはしんどいね」
「明日はケインの三才の登録で教会に行く日だから、私たちは別行動で商店街を回ろうか?」
「うちを空けていいの?」
「ああ、騎士団の引退した馬を引き取った時に近所の爺さんに手伝いを頼んだんだ。いつも厩舎の方に居るからまだ会ってなかったね。離れの鍵を預けておけば大丈夫だ」
「山奥育ちだから町を見学できるだけでも楽しみだ」
「商業ギルドに行く用事だけど、貸本屋にも行こうね。いっつも小難しい薬学の本ばかり見ているからもっと面白い本を借りてこよう。教会登録の日は市場もたつからお昼はみんなと合流して屋台で食べるのもいいね」
初めての町探索は全部興味深い箇所だ。
「それは面白そうだね。今日はあとジーンの手伝いにいくね」
「私がするから気にしなくていいよ。最近ジーンの顔色が悪いのを気遣っているんだろう?ひどい病気とかではないから安心していいよ。明日はジュエルも仕事は半休だから教会に行くまでは馬車を借りる予定だよ。ジュエルはちょっと立場のある仕事をしているから公の場ではカッコつけないといけないのさ」
距離の問題ではなく世間体で馬車を借りるんだ。ジュエルも結構偉い人なのかもしれない。
「それならジーンの負担も軽くなるね」
「そうだね。いつもいい子のカイルにご褒美をあげよう。ケインも使うだろうけど、先にカイルにあげよう」
ジェニエは白いチョークをくれた。前にこんなのあったらいいなと話していたものだ。
「石灰を焼くのが手間だったからちょこっと錬金術を習いに行って作ってみたんだ。簡単だったから今度は色付きも作ってみるよ」
「ありがとう、ジェニエ。でも錬金術ってそんなに簡単に身につくの?」
「初級魔法学校時代に履修はしていたんだけど、少し薬を生成しただけで一日体を動かせなくなるほど魔力を消耗したから学んだけど使っていなかったんだ。素材をある程度手動で生成しておけばそれほど魔力を使わなくて済むかと思って試してみたらできただけだよ。うちで試して爆発でもしたら嫌だから、専門家に相談したんだ」
「ジェニエはいくつになっても努力する人ですごいね」
「カイルがいろいろ楽しそうなことを言ってくるからもっと何とかしようと思えるのさ。カイルが孫になってくれてうれしいよ」
「ぼくもジェニエの孫になれてうれしい」
「お婆って呼んでくれるかな?」
「…おばば、ありがとう」
ぼくは自然とおばばに抱き付いていた。ちょっと涙ぐんだのを隠したかったしね。
夕飯の後に新作玩具で遊ぶのも日課になっている。
ケインの魔獣カードはきれいな絵が描かれたジーンの力作になっていた。
「はいいろおおかみたち、やっちまいなさい」
ケインが三枚の魔獣カードをテーブルに置くと、キラキラと小さい氷の粒のようなものが渦を巻いて光った。
「負けないのよ、やれ!火鼬火炎渦!!」
ジーンの火鼬のカードからはオレンジ色の光の粒が渦巻く。
かっこいいし、奇麗だと思うけど、これはまずい。
「このキラキラ魔法、キャロお嬢様は出せないんじゃないかな…」
「「あっ!!遊び部屋では使えない…」」
ジュエルとジーンが顔を見合わせて残念がる。
「木札を置くための台を魔術具で作って光らせるとかできるかな?」
「それならできる」
「私が作るわ」
「ジーンは休んだ方がいい。今日も顔色悪かったろ」
「もう大丈夫よ。でもジュエルが作るんだったら設計図を先に見せてね」
「バカみたいな効果は付けないから。子どもでも遊べるようにするよ」
「はぁ…、全く。玩具は子どもが遊ぶものでしょうに…」
ジェニエの嘆きはもっともだと思うよ。
寝る前に確認した木札は『どこにもいったことがない』だった。この家の敷地から出たことがないという意味だろうか?質問の方をもっと具体的にしなければいけない。
『商店街に行ったことあるかい?』これならどうだ。




