勇者レオンの記憶
主神は死の淵に立ち、前世の記憶を取り戻した。前世と同じ過ちを繰り返し、彼は再び忘れ去られたと絶望していた。もう一度話し合いたい。その思いに応え、ラストリゾートが彼を蘇生させる。彼は狐色の髪に戻り、サンリアはついに夢の記憶を手に入れた。
レオンはサンリアを優しく抱き締めた。
サンリアはレオンの腕の中で声を上げて泣いていた。
何故私は忘れていたのだろう。
こんなに、私のことを大事にしてくれていた人がいたのに。
「レオン君……確かに、とてもしっくりくる名前です。僕達は…初めからずっと一緒に旅をしてきた君のことを、忘れていたとでも…?」
セルシアが口を抑えて震えている。自分達がもう少しでとんでもない過ちを犯そうとしていたかもしれないと思うと平静ではいられなかった。
「ああ。これを見てくれ」
レオンが勇者ヨークの物語としてかつて編集した映画を再生する。
「…覚えています。これは、僕の魂が覚えている、勇者ヨークのサーガ…
そこに封印されしは白き神の剣 ヨークはその封印を解いた
忽ち現れる闇の狼 ヨークは勇猛に切り捨てその肉を食らった
ここは果ての森 闇が飲み尽くさんとする世界…」
セルシアが途中から歌い始める。
真に忘れ去るには、強烈に過ぎたその旅路。
しかし、ああ、見よ!勇者ヨークのその無惨な姿
闇の呪いに侵され最早死を待つばかり
救うには果ての森を抜けねばならぬ
ミフネの祈り、神の剣に届き
真の姿を得た神の剣が 闇の呪いを清め祓った
果ての森よ、諦めよ 勇者ヨークの体は今また炎の神の元へ
玉犬が眠る彼を迎え 炎の神が加護を与え
今ここに復活せん 勇者ヨーク、我らが伝説──!
セルシアが歌い終え映画が幕を閉じる頃には、皆すっかりレオンのことを受け入れていた。
そう、確かにこの狐色の少年は、自分達と共に旅をし、いつも笑顔で夜を照らし、幻影で遊び、様々なことに俺のせいでと苦悩し、それでも神の生まれ変わりとして、代替わりをやると自分で言い切った、大切な仲間で。
それを、自分達は忘れていて。
記憶が改竄されていて。
心無い長命種として断罪し。
いつ死ぬのかとその時を待ち構えていた。
強力で恐ろしい催眠術から、目が覚めたような心地だった。
「……謝っても、謝りきれません……。リオンさんは、本当は、こんな思いをする為に…長命種になって下さった訳ではないのに……」
フィーネが目に涙を浮かべてしょげかえる。
「世界の記憶を書き換える…人間だけじゃない、俺のモジュールだって例外じゃなかった。ロロに乗る奴がいないのも誰も不審に思わなかった。
…無法過ぎるだろ…それを、レオンは二回も食らったって言うのか。俺等は、二回もお前のことを忘れて…」
クリスが険しい顔で首を振った。
「まあ、一回は前世の話だからあんま気にすんなって。それに、今回はこうして思い出してくれたし。」
レオンがふにゃりと笑う。しかしその顔はすぐにくしゃくしゃになった。
「…俺の失敗を思い出して欲しくなかった。俺の存在を忘れて欲しかった。だから俺は独りで長命種になったんだ。
でも、耐えられなかった。俺の知っているお前らが、俺が死ぬのを喜んでいる顔見たら、そんな下らないプライドなんかもう、どうでもよくて…俺はまた、皆に思い出して欲しくなって、皆と一緒に居たくなって……
自分勝手で……本当に、ごめん」
胡座のまま、頭を下げる。
「本当に、お前が自分で選んだのか。その道しかなかった訳ではなく?」
アザレイが相変わらず厳しい目をレオンに向ける。しかしその厳しさは、最早レオンに対するものではなかった。
「ああ、お前らは、あんな失敗をした俺を、それでも責めなかった。寄り添ってくれていたさ。単に俺が逃げただけだ。だから、忘れられたままでも、自業自得だった。」
「…じゃあ、そういう時はごめんなさいより、もっと他に言うことがあるんじゃない?」
サンリアが漸く笑顔を取り戻してレオンに詰め寄った。
「…うん、そうだな。皆……
本当に、ありがとう……!」