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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
七神剣の森
92/105

神との戦い

英と長が夜の神の棲む大樹の上に集う。旧世界の精霊によって、神産みの儀式が執り行われる。レオンが持つグラードシャインは、全ての七神剣の力を取り込み、終の剣ラストリゾートへと変化した。

「おお、(すご)いなぁ。ちゃんとバラけずに(まと)まったじゃないか」

パチパチ、と乾いた拍手が聞こえ、皆は頭上を(あお)ぎ見た。

美しい夜の化身が、そこに居た。

「初めまして、私はラインハルト。君がサレイの見出した後継者候補だね?」

「そうだ、俺はレオン。お前を止めるためにここまで来た」

「クッ…ク、ハハハハハ!!短命種如きが!私を(たお)せると!精霊どもの口車に()せられて!のこのこ此処までやってきた訳だ!!!……嗚呼…思い上がりも(はなは)だしい……。後継者など、()(はや)この世界の何処(どこ)にも存在しない。長命種の最後の生き残りが私なのだ。他は、全て私がこの手で殺した。同じ黒髪黒目なだけで私と対等だと思い上がった連中を…、そう、後ろの彼奴(きゃつ)の様な、ん…?お前…似ているな、あの男に…」

ラインハルトはレオンから視線をアザレイに移した。

「彼奴の名は何と言ったか…武神…、…まあ、いい。お前は死んでおけ」

ラインハルトがアザレイを指差すと、パン と音がしてアザレイの腹が爆発した。

「アザレイ!?」

サンリアが悲鳴をあげる。息子を殺された筈のサレイは眉ひとつ動かさない。

「てめぇ…!」

レオンが激昂(げきこう)し、ラストリゾートを構える。

「ああ、すまないね、あんまりあの顔が()()(かい)だったから無礼な殺し方をしてしまったよ。確か短命種は自身の尊厳(そんげん)を死ぬ()(ぎわ)まで求める厄介(やっかい)な生き物だったよね。最近関わっていないから忘れてしまっていた」

(ちょう)(はつ)に乗るな、レオン。まだ私達の権能をお前に与えられていない』

フチーから念話が届く。

「…クリス!アザレイ何とかなるか!?」

プラズマイドはもう無いが、ラストリゾートが近くにあり、ナノマシンがまだ活動している。医療モジュールが治療不可能と判定しない。それは、アザレイが生きたいと願っているからだ。

「ぐ…っ、諦めてねぇぞ!俺もコイツもだ!」

レオンはその強がりを聞くと(うなず)き、再びラインハルトを(にら)んだ。

「シノ!雷様!コトノ主!俺に力をくれ!」

『呼応せり』

精霊契約としては甚だ略式ではあったが力を持つ者のその言葉に、三神は呼応して権能を移した。視界が(はげ)しく()らめく。

今彼に()えているのは魔力を視る者の視野。大樹から立ち上る銀色の膨大(ぼうだい)な魔力。それに匹敵(ひってき)する程の量の深淵(しんえん)をその身に宿す、夜の神にして美の神、(ある)いは死の神ラインハルトの姿。

さっきアザレイがやられたのは何かの魔法によるものだろう。この視界ならば、発動する前にラストリゾートできっと断ち切れる筈だ。

「〈卵〉達の魂を食らって無事とはね…。なるほど、サレイが君ならばと思うのも頷ける。」

ラインハルトが(たの)しそうに笑顔を見せる。夜空に(かがや)く月の様な、冷たく美しい笑顔だ。

「さて、(そろ)ったパーツで何処まで私と渡り合えるかな?短命種の少年よ」

レオンがラストリゾートを構えると、夜の神は自身の魔力で()んだ飾り気のない銀色の長剣を手に取った。神の筋肉がキチチと(きし)む。オルファリコンを取り込んだラストリゾートが、レオンの耳にはっきりとそれを伝えた。呼吸音もする。呼吸をするということは、窒息(ちっそく)もするということだ。神は、長命種は、所詮(しょせん)人だ。同じ人として、それを思い知らせてやる。


クリスはまだ生命活動を停止していない肉片を集め、アザレイの上半身と下半身を(つな)ぎ合わせた。急がないと、どんどん細胞死してしまうのだ。彼は恐怖などと最早甘えたことを言っていられない極限状態だった。フィーネも()け寄り、アクアレイム無しの自分の魔力でアザレイの血液を操作する。血液が(じゅん)(かん)する(くだ)を上下繋いで二つ作ってしまえばこちらのものだ。どんなに不格好でも、まずは構造の元となるものを復元しなければ、本来の形には戻れない。

インカーがアザレイの脚にザザの衣を掛けてやる。それは高い樹上にあって体温を維持(いじ)するのに最適だった。

「…不思議だ。全く痛くない」

アザレイが(つぶや)く。少し残った胸筋で呼吸が出来る。

「そりゃ、神経ブロックしてるからだよ。痛みなんか感じさせたらショック死しかねんからな」

クリスが(なお)も肉片を()ねながら返事した。粘土細工でもやらされている様だと彼は眉を(ひそ)める。しかし、臓器や骨などは後から幹細胞を使って作り直さないと、今すぐ正常な形にするのは無理だ。

「俺の体が分からない。もう、繋がったのか」

「ああ、繋がりはした。血管も出来た」

「なら…上々だ。離れてくれ。今一度あの(けもの)()べる」

「…!!死んじまうぞ!?」

アザレイは(こた)えず、体を黒い模様が(おお)う。クリス達は(あわ)てて飛び退()いた。


「やはり短命種は欠陥(けっかん)品だな。()(めい)的に経験が不足してしまう。高々百年で手にできるものなど一握りでしかないのに、その一握りで満足し、しかもそのまま死んでしまって結局何も残らない」

ラインハルトは右手に持った片手剣でレオンと切り結びながら左手で魔法を()り出す。レオンは視線で魔法を殺すが、どうしてもその一瞬は相手の剣から目を離さざるを得ない。音で聞いてなんとか防いではいるものの攻め込めていない状況だ。

「〈閉じよ〉。君の負けだ」

ラインハルトがそう宣言すると、レオンの足が大樹に(しば)り付けられた様に動かなくなった。

「……!」

レオンが(あせ)る。ラインハルトが剣を振りかぶった。

突然背後から大きな紫の(さい)が現れてレオンを拾い上げる。ダークラーだ!

「アザレイ!?お前動いて大丈夫なのか!!?」

五月蝿(うるさ)い、今は戦いに集中しろ。足運びで陣を描かれていた。足を縛られたのはそのせいだ。自分に放出される魔力ばかり見ていないで体のどこに魔力が流されているかを見ろ』

「その獣…やはり武神の転生か!」

ラインハルトの目に(いか)りが宿る。(おそ)い掛かる剣をダークラーの爪が(はじ)く。

『無駄だ、貴様はかつてより更に強くなった。私の力は強き者に対しては無敵』

「無論、覚えているとも!リン!」

ラインハルトが左手の魔力を横に放出すると、黒髪のサレイが手繰(たぐ)り寄せられた。レオンの魔法殺しは自身に向いた魔力でなかったため出遅れた。

「サレイ母さん!」

『母上!』

サレイを(たて)にされ、レオンとアザレイは固まってしまう。サレイは無表情だ。精霊に意識の主導権を(うば)われているのだろうか。

「リンは元々私の精霊だ。この女ごと利用するさ」

「はん、何が美の神だ、()(きょう)(もの)!」

レオンは挑発しながら、(ぎょく)(けん)達をラインハルトの周囲に誘導(ゆうどう)させる。切り込むとラインハルトは迷わずサレイを前に押し出した。その瞬間、ラインハルトは炎に包まれた。玉犬達がラインハルトの背後や側面から炎を繰り出したのだ。

「ふっ、こんな炎など〈うつくしくない〉!」

ラインハルトの言霊(ことだま)により、炎が一瞬にしてかき消される。多少の傷は作った様だったが、それも見る間に修復されていった。

「マジかよ…!」

「本物の神を見くびらないで貰おう」

『だが無傷じゃない、手を(ゆる)めるな!(たた)み掛けろ!』

アザレイが(はっ)()をかける。思い付く事全てやれ、と。

レオンはラインハルトに斬りかかりながらレーザーを()つ。

同時にコトノ主の力で水を呼び、大蛇を五匹作る。

ラインハルトは暗闇病の(きり)を使ってレーザーを散らす。

大蛇達がラインハルトとサレイに飛びかかり、サレイをラインハルトから引き()がそうとする。

ラインハルトがサレイに()ばした手にレーザーが直撃する。

暗闇病の霧は玉犬達が炎で(はら)い、その炎の中を()(でん)が駆け抜け(めぐ)る。

ラインハルトの言霊を使わせまいと声を奪う。

ラインハルトは炎の中で感電し動けず、じりじりと焼かれていく。

アザレイがそこに巨大な(こぶし)()じ込む。

『おのれ短命種共!』

声を奪われたラインハルトの念話が二人に叩きつけられる。

『ラッシュだ、レオン!』

「おう!〈上昇気竜〉!!」

炎と雷に包まれたラインハルトが、大樹から()い上げられる。

アザレイが()(しょう)して追いすがり、尚も拳と(かぎ)(づめ)を入れ続ける。

『リン、(えん)()しろ、おい…!』

『そういうの、貴方の言葉でいうと、うつくしくないわよ。』

『……!!!』

ラインハルトが上昇から(ゆる)やかに下降に転じる。


「死の権能、命を奪う、闇の執行人(しっこうにん)黄泉路(よみじ)を示せ、〈第一(プリマ・)の葬送剣(フェネブレ・スパーダ)/クロウヴァ〉」

黒い(ほん)(りゅう)がラインハルトを追い抜いたアザレイに転送され、ラインハルトを地に叩きつけんと(ほとばし)る。


()は美しき(くろ)薔薇(ばら)の。(ごう)受けて咲く徒花(あだばな)の。記憶を辿(たど)れ、〈第二(セコンド・)の葬送剣(フェネブレ・スパーダ)/ニーシリィ〉」

第二の奔流が転送される。


「果て無き夢、(つい)に終わらん。其は究極の闇、永劫(えいごう)揺籃(ようらん)。生き続けるは死に続ける。奪え、殺せ、(おとし)めよ。〈終の(ウルティモ・)葬送剣(フェネブレ・スパーダ)/クフィル〉」


第三の奔流が転送される。三本の流れは禍々(まがまが)しい黒い大渦(おおうず)となって()ちるラインハルトを加速させた!





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