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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
六道猶ホ炎ノ如シ
85/105

挿話〜第七聖獣〜

もはや語り継ぐ者のいない、旧世界の神話。

ここは、最果ての地、極北の(いただき)。そこに住む彼等長命種は、かつて精霊と対話できるという異能を理由に迫害された一族だ。しかしその異能は各地の権力者にとっては垂涎(すいぜん)の的であり、いつしか彼等は神の名を以て呼ばれる様になっていた。

短命種と和解しようという一派があった。短命種は玩具(おもちゃ)であり捨て(ごま)であると考える一派があった。

主神は、何も言わない。一族の中でも特に長い年月を生きている彼は、もうずっと長いこと岩の様にじいっと何かを待っている様でいて、誰にも何を待っているのかを打ち明けることはなかった。

ある時、一族の中にとびきり美しい少年が生まれた。彼に似合う名前は何かと人々は百年かけて考えて、美の神と名付けた。名を(もら)った時、彼はたいそう(ゆう)()に一礼し、皆がいい名付けをしたと喜んだ。

彼は精霊と対話するだけでなく、契約する力を持っていた。彼が夜の大精霊と契約した、と主神の前で黒髪の精霊を見せて報告した時、人々は初めて主神の笑顔を見た。主神の背後に金髪の精霊が現れた。主神も精霊と契約していたのだ。これは昼の大精霊だ、と彼は美の神に教えた。私達は長いこと君を待っていた、と。

これより千年、神と人との蜜月(みつげつ)が続く。主神も()く短命種を見守り、育み、(みちび)き、世界は繁栄(はんえい)(おう)()した。


やがて、精霊よりも強い力を持つ(けもの)が、極東の古い地層から七頭発見された。短命種はこれを神に(ささ)げ、極北はこの獣をどう(あつか)うか()めに揉めた。結局、精霊と同じ様に誰かが契約をし、聖なる獣、聖獣と呼ばせて人々の信仰を新たに植え付けた。

精霊よりも聖獣の方が持て(はや)される時代が来た。第一の紅き(おおかみ)、第二の瑠璃(るり)の竜、第三の(みどり)(わし)まではすんなりと、誰が契約するか決まった。第四の銀の馬、第五の金の兎は、契約相手を競わせて選んだ。第六の(もえ)()(ひょう)、第七の()(こん)(さい)は、そもそも契約をしたがる気配が無かった。

聖獣と契約した者達が、主神に代わって短命種をより能く支配しようとした。聖獣反乱と呼ばれた。主神と美の神は、協力して彼等を分散させて、一人ずつ地下の大迷獄(だいめいごく)深淵(しんえん)廻廊(かいろう)〉に閉じ込めた。主神が嫌うものは、変化。好むものは、永劫(えいごう)。彼等はそのまま地下で()()て、地上に出ることはなかった。

第六、第七の聖獣と契約したがる者は表向きいなくなった。その代わり、第六聖獣を美の神にあてがおうとする向きが現れた。そうすれば、主神は聖獣を(こば)まなくなるのではないか。そうなれば、第七聖獣は誰にでもチャンスがあるということになる!

美の神は皆の期待に答え、第六聖獣と契約した。そして、第七聖獣を主神に捧げると言った。皆は仕方無く受け入れたが、主神も、第七聖獣も、互いに契約しようとはしなかった。そのまま、第七聖獣は(きん)()となり……


時が過ぎた。

結局共に歩むには(おろ)か過ぎる短命種にまつわる対立はより深くなり、聖獣反乱以来の緊張が極北にて高まっていた。

武神と呼ばれた男が、短命種との関わり合いの中で命を落とした。

武神はしかし、その死の道程の(なか)ばで、第七聖獣に引き戻された。

武神が望んだことはただ一つ。

弱きを(たす)け、強きを(くじ)くこと。

それが己自身への(かせ)となり、和解派として短命種の為に命を落とす結末となったことが、第七聖獣の琴線(きんせん)()れたらしい。

武神が、第七聖獣と契約した。

それを見た美の神は(げき)()した。

彼は実際のところ、第六聖獣と契約などしていなかった。ただ主神に相応(ふさわ)しき聖獣を捧げる為、主神が第七聖獣と契約出来る様に周囲を誘導していたのである。それを武神が横取りした形になった。

主神は聖獣反乱以降、美の神にすら何も語らなくなって久しく、美の神は初めての(せき)(りょう)(まど)ってしまったのかもしれない。

美の神は武神と争い、最後は短命種を操り(たお)させた。武神の弱点が弱き短命種にあることを利用した。武神を皮切りに、和解派が美の神とその精霊によって次々と斃された。

それはまるで(あっ)()()(せつ)の様に。凄惨(せいさん)で。美しく。


「美の神は、死の神だったのか──」


主神は、久方(ひさかた)ぶりに笑った。

彼が望むのは、今や永劫の死のみであったからだ。





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