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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
六道猶ホ炎ノ如シ
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騎士団を去る日

アザレイは森の中でテテと再会し彼女をイグラスに連れて行くことにした。イグラスに帰還し戦後処理に追われている所に王からの召喚があり、英側に絆されたと断罪される。自失しそうな所にハルディリアが現れ、ディゾールに宜しくねと声を掛けてきた。

アザレイは、気付くと兵舎の自室に戻っていた。部屋の明かりを点ける者はもういない。小姓のヤトは死んだ。ガンホムは入院中だ。…ディゾールは、来ていなかった。

何故(なぜ)ハルディリア様がディゾールの名前を…」

考えられるのは、ディゾールがハルディリアに何かを報告したということだ。ディゾールの息子ウルスラは、あの日あの晩サレイ(てい)に訪れていた部外者だった。セルシアのこともアザレイのことも、あの子は必ず真っ先に父に伝えただろう。しかし、そこからハルディリアに伝わるルートが見えない。ディゾールは軍属であるとはいえ貴族ではない、王宮との接点が無い。そもそも、ディゾールが団長である俺を(きゅう)()に追いやる様な真似をする訳がない。そこは、ディゾールを信用していた。

であれば、ハルディリアのあの発言は、何かがディゾールの身に起きているぞという示唆(しさ)ではないだろうか。親切心と()(ぎゃく)(しん)の同居する彼女ならば十分にあり得る話だ。自分はあれだけヒントをやったのに、とそれでも失敗する相手を見て楽しむのが彼女だ。

思い出せ。想像しろ。何が起こったのか。今、何が起こっているのか。

ディゾールと王宮を(つな)ぐ者。自分が(すき)を見せた相手は、誰だ。

「……まさか…

 父、上?」

次の瞬間、アザレイは兵舎を飛び出していた。


ダイスモン(きょう)は騎竜舎で騎竜医と話をしていた。そこに血相(けっそう)を変えた団長が()け込んで来る。

「ダイスモン卿!!」

「…騎竜医殿、お待ちを」

『何かあったのですか』

ダイスモン卿は念話に切り替えてアザレイに問う。アザレイは(うなず)いて再び走り出した。

『ディゾールは何処(どこ)だ。詳細は伏せるが、巻き込んだ可能性がある』

『…ふむ…。ディゾールなら今朝、銀天の()(ちょう)兵の相談を受けて銀天の()(しょ)に向かいましたよ。許可を与えたので間違いない筈です』

『感謝する、今(たず)ねたことは詮索(せんさく)無用で頼む。以上』

『…承知しました』

やはり、銀天の、父の仕業なのか。

アザレイの顔が(ゆが)んだ。


銀天の詰め所に到着した。アザレイのただならぬ様子に、兵達が(おどろ)く。

「黒天騎士団団長、アザレイ・シュヴァルツだ!銀天騎士団のシアノン・シュヴァルツ団長にお目通り願いたい!!」

「これはこれは黒天の団長殿。我が団長は現在お取り込み中で…」

大隊長格が飛び出てくる。好都合だ。

「火急なのだ!!仕事中でも風呂中でも構わん、息子が父に会うのに体裁(ていさい)など必要ない!今すぐ案内しろ!!」

「な、は、ハイッ!」

死の剣に手を掛けたアザレイに一喝(いっかつ)され、名知らぬ大隊長は(あわ)てて走り出す。アザレイはさっさと走れと後ろから()り飛ばしたい(しょう)(そう)に駆られながら、彼の後を付いていった。


通されたのは銀天の戦略会議室。アザレイが中に駆け込むと、果たしてそこには、団長席に座る父の姿と、(ひょう)()(だい)(じょう)に両腕を(くく)り付けられ無残に転がされた大事な部下の姿があった。

「お前の処遇(しょぐう)の伝令待ちだったが、先に本人が来るとはな」

「父上、いや、シアノン・シュヴァルツ銀天騎士団団長!これなるは黒天騎士団中隊長ディゾール、私の部下である!何故(なにゆえ)此処(ここ)でこの様な仕打ちを受けているのか説明して貰おう!」

アザレイがディゾールに駆け寄り治癒(ちゆ)魔法を発動しながらシアノンに詰問(きつもん)する。ディゾールは服も皮も()けるまで(むち)打たれ、両手指を折られ、その両眼は空洞(くうどう)になっていた。指は治せる。だが、欠損は…。

「…伝えた(はず)だ、アザレイ。伝え方を考えんと、お前が戦犯(せんぱん)にされてしまう、と。油断し抜かったお前自身を()じよ」

「それと我が部下に対する仕打ち、何の関係があろうか!」

「そやつ、間者(かんじゃ)であろう?命を残しておいただけ有情だとは思わんか」

シアノンに冷たい目で吐き捨てられ、アザレイは絶句した。

「お前の自邸、(ほとん)どは私が指名した使用人共だ。子供の監視は仕事の内なのだよ。…あの時お前は不自然な程呆気なくそやつを解放した。故に私の(さい)()(まこと)()(かん)だが、お前にも向けざるを得なくなった。そやつの息子にも監視をつけた。そして、お前がサレイと共に消えたあの日、そやつの息子がサレイ邸に一泊した。息子が何を見たのか、そやつは必ず聞いた筈だ。故に、尋問(じんもん)させてもらった」

「団長…俺は、これしきの傷じゃお前を売ってねぇ。指なんかすぐ治るし、眼だってガンホムとお(そろ)いになっただけだ…だがよ…」

ディゾールはアザレイの声のする方を向き、血の涙を流した。

「ウルスラは…ウルスラだけは駄目だ…。俺はどうでもいい、あいつだけは守ってくれ…頼む…!」



『母上!』

息子から必死の念話が届き、サレイは心底(うれ)しそうな表情を浮かべた。

『ええ、ええ、ぜーんぶたった今〈()〉たわよ。ウルスラちゃんのことなら、カレンとお母さんに任せなさい。貴方は自分のすべきことをして』

返事は無かった。余程(せっ)()()まっているのだろう。後もう少し、もう少しで全ての(こま)(そろ)う。彼女は胸の高鳴りを感じていた。

「さて、約束はちゃんと果たしてあげないとね…」


母の返答を聞き、アザレイは抱え込む様にディゾールを治癒しながら、(はげ)ます様に語り掛けた。

「…ディゾール安心しろ、大丈夫だ。大魔導師殿がウルスラを守ると言ってくれた。お前もここにきて命があるということは、これ以上間者としての危険も情報源としての価値も無い、捨て置いて良いと判断されたということだ。

 …俺は、(しっ)(きゃく)した。シアノン…父の言う通り、油断していた。今回の遠征(えんせい)は失敗扱いとなり、多数の()(せい)を出した責任は全て俺に(なす)り付け…いや、俺に責任があるということになるだろう」

「うむ、物分かりが良いのは美徳だ、アザレイ。分かったらそのゴミを片付けておけ。黒天で飼うか?それも良かろう。お前が黒天より去った後、それにまだ価値を置く上官が居ればの話だが」

アザレイは怒りに(ふる)えながらシアノンを(にら)んだ。

「…父上。何故貴方はそうも(しゅ)()(はし)るのか。母上の理想に折れた私が、それほど(にく)いというのか」

「アザレイ。お前は私から、愛していた頃の妻を(うば)った。次に、腹心の部下を奪った。その次に、新たに(さず)かった大勢の部下の命を奪った。そして更に、私から戦う理由を奪うと言う。()(はや)容認出来ん。()く立ち去れ、さもなくば私を斬り捨てよ」

父から今まで感じたことのない(おどろ)く程の(くら)い熱量を感じ取り、アザレイは顔を伏せた。ディスティニーを抜く。シアノンが椅子を引き構えるまでに剣光一(せん)、兵棋台ごとディゾールの両腕を拘束(こうそく)する(くさり)を断ち切った。

「…私の剣は大義の為にある。人を守り、神を打ち払うための剣だ。一人の耄碌(もうろく)した(おろ)かな老人を斬る為のものではない」

彼はそう吐き捨てると、ディゾールの肩を(かつ)いで隠蔽(いんぺい)魔法を発動し、銀天を後にした。


黒天の騎竜舎に戻ると、先程居た場所のままダイスモン卿が待ち構えていた。アザレイが隠蔽魔法を解くと、ダイスモン卿は苦い顔で、しかし予期していた様にディゾールに駆け寄った。

「誰がこんな(むご)いことを…ディゾールは優秀な百竜長だというのに…」

「…ダイスモン卿。私は黒天騎士団を去る」

「…事情は全く存じ上げませんが…何故か、そう、(おっしゃ)るのだろうと覚悟は出来ておりました」

其方(そなた)には迷惑を掛け通しで…本当にすまない」

「シュヴァルツ団長の大事なご子息ですよ?八つの時から存じ上げてるんです。迷惑だなんて思ったこと、金輪際(こんりんざい)ございません。私の実の息子の様に…お(した)いしておりました…!」

ダイスモン卿の笑顔がくしゃりと(つぶ)れる。アザレイの心も押し潰されそうだった。

「…我が心の父は貴方だ、ダイスモン卿。」

「……!!それは……」

「ディゾールを、頼む。眼は治らないかもしれないが、こいつなら必ず再起してくれる筈だ」

「…承知しました」

「さらばだ」

アザレイは短く父を抱擁(ほうよう)した後、再び隠蔽魔法で姿を暗ませた。


『母上、ディゾールはダイスモン卿に預けた。失われた眼を取り戻す方法はあるか?』

『それは天の神の権能。雷の剣の子に頼めば、必ず力になってくれるわ』

『分かった。俺は今からイグラスを出る。明日には何としても剣の仲間を連れて戻るから、(かくま)ってくれ』

『それは構わないけれど…アザレイ。貴方、王宮がそんなに簡単に剣の主を逃がす訳がないでしょう。テテを連れて行きなさい。この子は貴方の力になりたくて、独りで森を駆けて貴方の元に来たのよ』

黒天と蒼天が竜を分ける(※捨てる神あれば拾う神あり)。俺には新しい味方がいる。アザレイは(はや)る足をサレイ邸へと転じた。





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