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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
六道猶ホ炎ノ如シ
76/105

大崩落

アザレイはフィーネの獣を殺し、レオンとサンリアの相手を部下に任せ、インカーを狙う。クリスはセルシアを探していたが、インカーに向かって葬送剣が使われようとしているのを見つけ、慌てて自陣に駆け戻ることに決めた。

「お前が死の剣の主、アザレイだな」

有翼(ゆうよく)(おおかみ)の背に座した白い衣に赤い(たてがみ)の女がアザレイを睥睨(へいげい)する。アザレイは交わす言葉を持たない。英の連中を一人でも多く戦闘不能にし、〈陸の卵〉を回収し、七神剣がイグラスに(つど)う前に夜の神の代替わりを済ませてしまわねばならない。こんな所で無駄話に付き合うつもりは毛頭(もうとう)無かった。

「〈第一の(プリマ・)──〉」

「〈卵〉は(かえ)った。中から生まれたのは何の力も持たない仔犬だ」

女が話を続ける。アザレイは(えい)(しょう)を止めた。

「お前等の目的は炎の神だったんだろうけど、無駄(むだ)だよ。あの仔犬を連れて帰っても神の力なんか無い。幼い子供レベルの言語能力と、すぐ寝る健康な体を持つ、ただの可愛らしい(ひな)だ。あれは今ここには居ない。だけど、ここにも居る。あれの権能はこの国全部に広がって、森との境界を保ち、人と共に存在している。炎はつまり、人の(かて)なんだ。卵一つ、仔犬一匹持って帰ったって、炎の神を(さら)ったことにはならない」

「…()(ほど)。耳には入れておこう」

女は恐らく本当のことを言っているのだろう。しかし〈卵〉を求める本意は、その(たましい)の格だ。力など改めて(たくわ)えさせればよい。

「ここには居ない、と言ったな?その犬ではないのか」

「この方はノノさんだ。炎の剣が()(げん)化した一つ。炎の神そのものじゃない。シノは…炎の神は、大事に(かく)されてる。戦場になんか出てこない」

「ならば(あぶ)り出されるまで、全て殺す。お前からだ、炎の剣の主」

「私の名前はインカーだ!仲間なんだから、名前くらい覚えて帰りな!」

「仲間ではない。剣は剣を呼ぶ。だからこそ、敵となるのだ!」

炎の(うず)がアザレイを(おお)う。しかし彼の騎竜は風を(まと)いそれを散らす。

「死の権能、命を(うば)う、闇の執行人(しっこうにん)黄泉路(よみじ)を示せ、〈第一の葬送剣プリマ・フェネブレ・スパーダ/クロウヴァ〉」

必殺の(ほん)(りゅう)がインカーを(おそ)った!


レオンが幻影で見せてくれた死の剣の大技。それを食らったレオンは焼け(ただ)れた様になっていた。そう、あれならば、私もついこの前近いものを経験した。確証は無い。しかし、これ以外に道はない。()(ちゅう)に活を求める。


「〈炎上、()(かつ)(しょう)〉」


「何ッ…!?」

アザレイは目を(うたが)った。インカーが炎を(まと)う。葬送剣(そうそうけん)がその炎に吸収されて散ってゆく。それは葬送の炎。(しか)して再生の炎。彼女の体を燃やすその炎は、死を食い尽くし生へと転じる。

得心(とくしん)がいった。何故(なぜ)レオンが生きていたのかと不思議だった。暗闇病は不治の病、(はら)うことは出来ても一度呪われた体は元に戻らない、筈だった。しかし彼は無傷で生きている。それは、この炎の剣の権能だったのだ。

「……それがどうした」

アザレイは独り言を吐き捨てた。確かに相性は悪い。だが勝ち(すじ)はある筈だ。反撃の炎を(しの)ぎながら、対策を考える。身に纏う距離の近さの現象は、作用線を断ち切るにも直接斬り込まなければならない。葬送剣は魔法の(やいば)だから(はじ)かれたが、直接斬り込めばあの炎も斬ることが出来る。しかし騎竜では届かない。これ以上高熱源に近付けば、冷却の魔法陣が保たない。騎竜では届かない、ならば…


ッドオオオオオオン!!!!


(しょう)(げき)がアザレイに叩きつけられた。騎竜が(ひるがえ)る。体が硬直している。

(っく、プラズマイドか!!)

アザレイは騎竜と(もつ)れながら落下した。騎竜を死なせる訳には。彼は騎竜をディスティニーの奔流で()ね上げる。どうか生き延びてくれ、俺は……


『呼応。深淵(しんえん)は光を()み夜に輝く。集結。()は七つめの力。(とこ)()の闇。生と死の姿。(しゅう)(れん)。守るは人、守るは(じん)()、其の生命の(いとな)み。この身に宿れ、〈第七聖獣/ダークラー〉』


身に(きざ)まれた詠唱術式が発動する。俺は、いつから決死の覚悟を身に付けたのだったか。今なら思い出せる。それは聖獣との契約(けいやく)。死を揺籃(ようらん)し、人の生を守ると決めたあの時。今果たされる、黄泉路の(ちか)い──



──それは戦場の空に突然発生した。

夜を渡る蝙蝠(こうもり)(つばさ)()(こん)の角が輝く(さい)の頭。黒い穴熊(あなぐま)の様な体。玉犬にも引けを取らぬ大きさを持つその()(ぎょう)は、()(ひび)きを立てて着地した。

『ダークラー呼応せり。(ふる)き神よ、後は引き受けよう』

それは(しゅん)(まく)を開閉してそう宣言した。降ってきた騎竜を(つか)み、優しく地に降ろす。そして翼を(ひろ)げると、ノノに肉薄(にくはく)した。

『旧世界の(けもの)よ、其方(そなた)の居場所は此処(ここ)にはない』

ノノが呼び掛ける。ダークラーは咆哮(ほうこう)し、玉犬と聖獣とで魔力のぶつけ合いが起こる。

『我、契約に(したが)うまで。神の(あやま)ちを正し人為を守護せん』

『其方もまた過ちである』

(しょう)()。我が正しさを受け()れぬことこそ過ちである』

『何を…!』

ノノの炎の防御をダークラーが突き破る。雷、風、炎、光、様々な攻撃がダークラーに当たるが、全てその闇の毛皮に吸収されてしまう。インカーがノノの背中から飛び降り、ダークラーの鉤爪(かぎづめ)は空を掴んだ。鳥に変化したモモがインカーを受け止める。ノノはそれを確認すると、ダークラーに飛び付き()み付いた。縺れながら戦場に落下する。地に叩きつけられたのはノノの方だ。ぎゃあん、とノノの悲鳴が上がる。ダークラーはノノを振り解き、再びインカーを狙って飛び立つ。

『ネーチャン、ダメ!アッチイッテ!』

インカーの目の前に突如(とつじょ)シノが転移してきた。

「シノ!?お前こそあっち行ってろ、危ないぞ!」

インカーが手を伸ばすが、モモが急上昇し離脱する。

シノが鳥に変化した玉犬達から炎を集める。それは臨界(りんかい)し、ダークラーを(つらぬ)(きょう)(れつ)な熱線となって放出された。余波(よは)が戦場に()(くる)い、地は崩壊(ほうかい)し、大穴を開ける。ダークラーは熱線を受け蒸発しながら、シノをその手に掴んで落ちた。


()(はや)戦場は大災害の様相(ようそう)(てい)していた。イグラス軍もリンリスタン軍も大地の崩壊に巻き込まれ壊滅(かいめつ)状態だ。唯一、勝者がいたとするならば。

「よく頑張ったわね、アザレイ。〈鳥籠(とりかご)〉」

(しょう)(もう)し動けなくなった仔犬を鳥籠に入れて、彼女は(かたわ)らに倒れている、聖獣の核となっていた自らの息子に微笑(ほほえ)んだ。

「貴方も、あの子も連れて行きましょうね。大切なお客様ですもの」


テテは空を飛びながら主人を探していた。ミミが二次成長を()げ鳥に変化したのを皮切りに、一斉(いっせい)に兄弟達も変化の術を()(とく)したのだ。(きゅう)(かく)(するど)さを増した。砂の匂い、血の臭い、焼ける臭いに混じって、あの人の香りが確かにする。きっと、あの荷車の中だ。荷車が崩落(ほうらく)に巻き込まれていないのは幸いだった。テテは(そば)に降り立ち狼の姿に戻ると、(ほろ)(かじ)って()がした。

痛ましい姿の主人がそこにいた。人間の手足って、こっち向きに曲がったっけ?多分、悪い奴らにやられたのだろう。気を失っているのだろうか。()めてみたが起きない。

「大丈夫よ、寝ているだけだわ。治療してあげる。貴方、その人を(くわ)えて一緒にいらっしゃい」

金髪の優しげな女性が近くで声を掛けてくれた。それは助かる、私ではこの人を治せないから…。テテはセルシアを咥えて女性の方に歩き出した。


レオンは見ていた。

山の様な巨体の竜騎士に押され、あわやという所でロロが鳥に変化してくれた。空に逃げられれば安全だった。その竜騎士が盲目(もうもく)でも、騎竜は視覚を持っているのだ。竜騎士はまともに追って来られなかった。

何か出来ることはないか、と思った。勿論(もちろん)、玉犬達の防御のために撹乱(かくらん)の力は再び使い始めた。サンリアは、無傷のままうまく騎竜軍を引き付けている様だ。インカーは葬送剣を食らって無事だった。(すご)いな、と思う。自分も今ならば押し負けないだろうか。アザレイの体を、駆け付けたクリスの雷が直撃する。よし!彼は叫んだ。アザレイが()ちる。そして、突然巨大な怪物に変身し、地に降り立った。

何なんだ、あれは。レオンは目を(うたが)った。アザレイは、あんなものに変身できるのか。死の剣の対である光の剣にも、その様な権能があるのだろうか。レオンは対抗心を()やしてアザレイを観察した。ノノさんが押されている。今ならビームで(えん)()出来ないだろうか。レオンはイメージした通りにビームを発射した。同じ事を思ったのだろう、サンリアとクリスも動く。しかし、怪物の毛皮を通すことはなかった。インカーが逃げる。ノノがやられる。シノが出てきて、怪物を倒す。怪物はシノを掴んで地に墜ちて、蒸発し、アザレイの姿に戻る。そこに。

ふわり、と空間が(ゆが)んで、サレイが立っていた。

(…ああ、とうとう見てしまった)

レオンは見ていた。サレイがシノを魔法の鳥籠に入れ、横たわるアザレイと共に魔法の様に消えるのを。

(やっぱり、サレイ母さんは、敵、だった……)





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