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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
五里無水
68/105

挿話〜うつくしき男〜

七神剣の成り立ちが明かされる。

その男は、極北(きょくほく)からやってきた。かつて迫害(はくがい)され、極北に追いやられた漆黒(しっこく)の一族。超常の力を得て、世界の裏側に回った神の一族。そこから更に逸脱(いつだつ)し、大いなる者と契約して世界を(ほろ)ぼした男。彼は、世界が燃え尽きる間、極北から面白おかしくその様子を見ていた。美しかった。自分の生まれた意味、美の神と呼ばれた意味が、(ようや)く分かった様な気がした。


しかし、世界はもう半分あった。

蛇足(だそく)

仕方のないことではある。前の世界の誰も知らないことだったのだ。


基本的に何でも楽しんでいた男だったが、これには流石(さすが)に嫌気が差した。(すで)にそこには(ひか)え目ながらも文明が存在し、(あん)(じょう)(みにく)短命種(たんめいしゅ)どもが群れを成していた。さて、どう()(じょ)してやろうか。

暗躍(あんやく)なんてもう食傷(しょくしょう)だ。下らない笑顔を作り、それでも自分の思い通りに(こま)を動かす楽しみは、かつては()った。今はもう、そんな労働をするなど我慢出来そうにない。それならば、植物を育てるのはどうだろう?短命種を蹴散(けち)らす種を作り、私はその種が育つのを、ただのんびり待てばいい。そう、時間なら腐る程ある。

手始めに、土を(なら)す様に、邪魔な内海を消してやった。海の神が(なげ)く。神、神だと?このしょうもない()(ぎょう)が?短命種共の考えることはやはりよく分からない。分かりたくもない。

空の神は短命種を守らんと降りてきた。健気(けなげ)じゃないか。私にも、かつてそんな友がいたよ。まあ、限界を迎えていたので、私が消したんだが。しかし(もろ)いもんだ。やはりこれで神とは片腹(かたはら)痛い。

陸の異形は何も言わない。同胞(はらから)が散ったのを見て無意味を(さと)ったか。抵抗しないならばそれで良い。地均しは完了した。あとはここに最高の(おく)り物を()めてやるだけだ。

彼の基準でも()(ごた)えのある美しい大樹がひとつあった。折角(せっかく)だから、その(そば)に植えてやろう。そしてその樹の上で、種が育つのを眺めていよう。前の世界は赤で埋め尽くした。今度は緑で埋め尽くそう。萌える緑は燃える赤とどっちが美しいだろう。彼は大樹に(きょ)(かま)え、大半をのんびりと眠って過ごした。

何処(どこ)から見つけてきたのか、短命種共が彼を神と(あが)め大樹に住み始めた。大樹の手入れも必要か、と彼はうんざりした。短命種を数匹捕まえて、少し力を与え、駆除する者に変えた。こういうものはバランスが大事だ。短命種が大樹に蔓延(はびこ)らなければそれでいい。圧倒的な勝敗が決しない程度に争わせておく。何やら戦争を始めたが、今回はいずれ緑が等しく(おお)うだろう。放っておけば良い。


「久しぶりだね」

大いなる者が(あらわ)れた。本当に久しぶりだ。前の世界ではあれ(ほど)(かん)(しょう)していたのに。

「お久しぶりです。私の管理に何か問題が?」

「いや、キミには問題無いよ。他の次元に問題が起きたんだ。いや、問題が起きたというより、決定的になった。この次元は、混ざる」

大いなる者がそう宣言すると、世界があちらこちらで(ひび)割れ、その罅から無数の知らない世界が突き出してきた。

「これは一体……?」

「ちょっと制御に失敗しちゃったんだ。悪いね。あ、でもここに来て安定したな。うん、この次元、もうこのままだから。引き続き楽しんで」

「…そろそろ、()きたなって思うんですよね」

「えー、それは困るな。引き()ぎ要員居る?居ないでしょ。後継者が育つまで()められちゃ困る。ま、希望は聞いたから次来るまでに探しといて」

「承知しました…」

大いなる者はうんうんと(うなず)くと()き消えた。男は溜息をついた。

「…後継者ァ?そんなもの、貴方が決めればすぐだろうに。」

良い様に逃げられたな、と思う。しかしまあ、やる事は変わらない。重なって増えた世界も平等に、緑で覆い尽くそう。

「……つまらないな。」

一応、後継者とやらを作っておくべきか。彼は海の異形と陸の異形、それから空の異形の(ざん)()を呼び寄せ、自身の力を加えて混ぜ合わせ、形を変えて神を作った。しかしそれは一つの形を保てず、海の異形の卵と、陸の異形の卵と、いくつかの宝石に分かれた。何でも思い通りにとはいかない、特に自分が絡むと難しいものだな、と彼は思案する。しかし、この宝石に私の力が宿っているなら、これを持った者は私の後継者たりうるのではないか?

宝石の形を変えて剣とする。そのうち二本は異形の卵に与える。残りの剣は駆除する者達に。さて、これがどう動くか。

「届いてくれよ…私に」

大樹から払い落とす。もう用はない。彼は再び眠りについた。




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