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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
一筋の光
5/105

使命と旅立ち

純白の剣グラードシャインを抜いた平凡な少年レオンは、異世界の少女サンリアに、七神剣を持つ者の使命を打ち明けられる。突然降ってわいた使命に、レオンは…。

『こりゃ!ワシの孫に変な事を言わせるな!』

「なっ!?」

レオンは飛び上がった。何故か鼓動(こどう)物凄(ものすご)く速い。

「じーちゃん!?何訳の分かんない事言ってんの!」

サンリアが(おどろ)いて首を(めぐ)らすと、フクロウは飛び立ってレオンの頭をつついた。

「でっ…!」

『中々話が進まんから苛々(イライラ)しとったら、とんでもない言質(げんち)を取ろうとしよって!

 良いか、お前しかおらんのじゃ。

 剣の主は使命を()びておる。つべこべ言わず旅に出るんじゃ!』

(いきどお)りに(まか)せてバッサバッサと羽ばたくフクロウを、レオンは呆気(あっけ)にとられて見つめた。

「喋ってる…」

『当たり前じゃ!サンリアの説明聞いとらんかったんか!』

じーちゃんの声は耳にはホーとフクロウの鳴き声に聞こえる。しかし同時に、脳内に男の声が聞こえたような気になるのだった。

「聞いてたけど…当たり前か?」

『そうじゃ!』

「…そうか」

…言い切られると反論出来なかった。


「…で、…使命だと?」

『そう、剣の仲間と共に世界を救う義務(ぎむ)じゃ。お主が剣の主となったからには、不正なる侵入(しんにゅう)(はい)し次元の均衡(きんこう)守護(しゅご)せねばならん。森によって断絶(だんぜつ)された各世界にいる七神剣の仲間を集め、森の今以上の拡張(かくちょう)を防ぐのじゃ』

「キンコー?カクチョー??」

「…要するに、悪い奴らに(あやつ)られて森が沢山(たくさん)の世界を(こわ)してるから、そいつらを倒しに行くって事よ」

初めからそう言ってくれよ、と彼は頭を抱えた。彼のポンコツな頭が痛む。これ程の情報量は一度に入れるものではない。

「駄目だ、ピンとこない。森が世界を(こわ)す?」

『お主が今いるこの森は、お主の世界と地続きじゃ。そうじゃよな?そして恐らく、今の森の(きょう)(かい)は、お主が昔に覚えていたものより世界側に(しん)(しょく)しているはずじゃ』

「…えっと」

そういえば。

この小さな神社は段々と(さび)れてきている。駐車場だったはずのスペースにも、今は木々が()(しげ)っている。レオンは徒歩でしか来ないから気にならないが…、誰も整備する人間がいないから、という理由だけでは無かったのだろうか?


『心当たりがあったか?それはイグラス、武の民の仕業じゃ。武の民により森が暴走しておるのじゃ。

 この世界も、後一年もすれば森の侵略(しんりゃく)により人の(いとな)みが()()くされて消えてしまうじゃろうて』

「…まてまてまてまて。俺の世界、っつーか国は、海に囲まれてるんだぞ?

 森じゃ囲むのはどうやっても無理だろ!」

「海ってなぁに?」

(みずうみ)よりも大きな水溜(みずた)まりの事じゃ、サンリア。まぁそれはそのうち見られるじゃろ。

 …それよりも、レオンとやら。お主は頭が固いのぅ…

 異次元は、何も遠く離れたものばかりを指すのではない。

 様々な異次元が、お主のすぐそばで交わり合い、世界を共有し合っておるのじゃ。

 そして今、一つの次元が破壊されかけている。

 だから、これに(ぞく)する世界は滅びるのじゃ。

 つまり、お主のいる世界も、例外ではない。

 無論お主の言う国とやら…お主が普段見ている別の次元でのひと区分かの?それは(ほとん)どが無事じゃろう。しかしお主が今現に生きておる世界、それがどのくらい大きいのかは判らんが…

 その寿命は、持って後一年じゃ。』


「よくわかんね…例えば?」

「例えば、世界中からイチゴの消える呪文があったとするでしょ。イチゴが消えてもケーキは無事だけど、そのケーキの上のイチゴの中にいた虫の貴方は()()えで消えてしまうの。」

『それが他の次元においてどの位の影響になるかは分からん。しかし、そうやって次元と世界に()かれた物は存在してはおられんからな。土砂崩(どしゃくず)れ、洪水(こうずい)津波(つなみ)…何らかの災害が起こって辻褄(つじつま)は合わされ、いずれ壊滅(かいめつ)的な事になるじゃろう』

「つまり…どんな場所でも森の侵略は起きる。他人事じゃないって事か」

「やっと解った?」

「…あぁ。悪い奴らを倒して森を止めないと、少なくとも俺達の町は危ないんだな、って事は解った」

「貴方の町だけじゃないけどね…まぁ外れてはいないわ」


レオンは枝から飛び降りて、森の外に向かって歩き出した。

『どこに行くのじゃ?』

「シオンに伝えなきゃ…」

『シオン。』

「俺の兄貴。あいつに、逃げろって伝えなきゃ。待っててくれ、書き置きしたらすぐ戻る。今日中にも出発しよう」

レオンはそう言うが早いか、駆け出していた。


『魔女の息子、か…』


フクロウはサンリアにも届かない念話を虚空に放った。



レオンがドアを(いきお)いよく開けたので、音を聞き付けたシオンが嬉しそうな顔をして出てきた。

「おぉレオンか。吉報(きっぽう)だぞ!」

「こっちは凶報(きょうほう)…てか、何で居るんだ?彼女は?」

「お前に早く知らせてやろうと思って帰って来たんだ」

「知らせ?何だ?」

「彼女に子供が出来たのさ!」

「マジでか!?」

「マジだよ、マジ。お前もついに叔父(おじ)さんだな!」

「十五で叔父さんかよ…」

苦笑するレオンを見る兄は、今まで見た事もない様な満面の笑みを浮かべていた。


(やっぱり、潮時(しおどき)か)


「…おめでとう、シオン。じゃあ、結婚するんだな」

「あぁ勿論さ!レオンは此処に住んでて良いぞ、俺は彼女の家に婿(むこ)…」

「いや、俺は。…俺は此処を出る……旅に出るから」

「お前…今更俺に気を(つか)わなくても」

「そうじゃない…」

レオンは何と説明すれば良いものか分からなかった。自分自身半信半疑なのだ。


「シオンは信じないだろうけど…俺、旅に出て、世界の為に良い事してこようと思う。」

「いきなり…どうした?環境問題か?治安問題か?それとも、まさかとは思うが(まず)しい国に学校を?お前馬鹿なのになぁ」

「いちいちオチ付けんな!…ん~、治安になるのかな。悪い奴らを止めに行く」

彼がそう言った途端(とたん)、シオンの顔が(くも)った。

「お前がどう動こうと、例え(だま)されていようと、お前が一人前の大人として行動するんなら、それはお前の自己責任だ。だけどな、これだけは覚えとけ。

 …世の中に悪い奴はいない。

 いるのは、自分が悪いって自覚してる極悪(ごくあく)な奴と、(わけ)(わか)らずがむしゃらに生きてる(つみ)の無い奴だけだ。

 よく見極めろよ」

極悪いるんじゃん、とレオンは思ったが、()げ足取りする様な所ではないと思い(うなず)いた。忘れがちになるが大切な事だ。


「それだけ分かってれば、後は何とかなるだろ。いつ出発するんだ?」

「今日」

「え!?急だな!」

「前から予定してたんだけど、言い出せなくてさ。良いタイミングかなと」

レオンは咄嗟(とっさ)(うそ)()いた。(めずら)しくシオンは嘘だと気付かない。

「そうか…残念だな、まぁ俺の子が生まれる頃にはいっぺん帰って来いよ。ここは引き(はら)うが、…ほら、これが俺らの住所」

ロープ、ナイフ、などとレオンが思いつく限りの旅支度をしていると、シオンが紙切れを手渡してきた。

「あぁ、うん了解。荷物は適当に処分(しょぶん)してくれ。それから…」

「ちょっと待て」

「何だ?」

「何か…ほら、旅に出るならお役立ちアイテムが欲しいだろ、回復薬(かいふくやく)とか…」

「あるのか!?」

そんなRPG的な。

「いや、さすがにそれは無いけどな。似たようなのならある、ほらこれ、最近見つけた()(ぐすり)だ。お前がよく森に入るから必要になることもありそうだと思って買っておいたんだ。あ、海外に持っていくなら箱もとっとけよ?(なぞ)の薬は没収(ぼっしゅう)だからな。

 えーと確か、麻酔(ますい)が入ってて即効(そっこう)(いた)みが(やわ)らぐんだよ。治りも早いらしい」

そう言ってレオンに兄が手渡したのは、一見ただの軟膏薬(なんこうやく)だが。

「…本当だろうな?」

「俺を疑うのか?」

「疑う理由は一杯あるからなぁ…」

すぐ人の言うことに丸め込まれる弟は、よく兄に揶揄(からか)って遊ばれたものだった。

「いくら俺でも祝儀(しゅうぎ)にフェイクは(つか)ませないよ」

「そうか。なら(もら)っとくよ」

「おう」

短く返事をして、シオンは弟の顔をじっと見つめた。

「な、何だよ…」

「…いや、何となく長い別れになりそうだから、大事に育てた弟から涙のひとつでも出ないかと思って」

「そんな女々(めめ)しい事はしねーよ」

今までありがとう、お互い頑張ろうな、とレオンは笑顔で言った。

彼の兄は興醒(きょうざ)めした様にそっぽを向いて呟いた。


「…つまらん。またな」


「おう。あ、シオン…ええと、理由とかちゃんとは言えないんだけど。なるべく神社から遠くに住んだ方が良いぞ」

「ん?よく分からんが、彼女の家は中央通りに面してっから結構遠いが…」

「あー、なら大丈夫そうだな。

 …それじゃ。」

「…じゃあな」

レオンはもう何も言わず、ニヤリと笑って出ていった。


「やっぱりこうなるんだな…」

〈兄〉は少し(さび)しそうに苦笑する。彼はとっくの昔から、〈弟〉がやがて世界から(かい)()することを知っていた。だから高校にも社会にも居場所を作らせなかった。

それ(ゆえ)とはいえ、最後まで〈弟〉に(じょう)が移る事が無かったのは、今や愛を知る彼にとって少なからず(しょう)(げき)(てき)だった。


彼がパチン と指を鳴らすと、生活感を通り越して(おとこ)(くさ)さのあった2DKが、一瞬(いっしゅん)にして何もないがらんどうの空間に変化していた。

更に深く息を吸い、長い呪文を呟く。

呼応(こおう)銀鎖(ぎんさ)(じゃ)(はら)(よる)(かがや)く。連結(れんけつ)。ひとつ足らざればふたつ、ふたつ足らざればみっつ。(かさ)ねて(たば)ねて(あみ)()す。収斂(しゅうれん)。守るは(ひと)、守るは人為(じんい)()の生命の(いとな)み。(つら)ねて(しめ)す。呼応。銀鎖は邪を祓い…」

彼の右手から沢山の銀色に輝く文字が現れて、付近の森や林、山を()ける様にざっと十キロメートル四方(しほう)(かこ)んだ。


「こんなとこか…一年は持つだろ。子供が生まれたら、こんな次元おさらばだ」


茶髪の男は溜め息混じりにそう言うと、停めてあったバイクに(また)がった。




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