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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
四処に雷霆の落つ
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水上工業魔都

雷の剣の主として、雷様の指示によりナノマシン技師となったクリスを仲間に加え、剣の仲間たちは次の世界を目指す。

クリスの世界を出発して、二十二回目の朝。だが、未だに次の世界に着かない。

「…じーちゃん。道間違えてないでしょうね?」

『いいや、次は水の剣の世界じゃ。水の都、ミズウミノカミコトノヌシが護る世界。じゃからこの川を(さかのぼ)っていけば見つかる筈なんじゃ』

「ん?誰だって?湖…ヌシ…?」

湖守(ミズウミノカミ)琴乃主(コトノヌシ)、じゃ。湖守(みずうみのかみ)、あるいは水産みの神。雷様と違い、正真正銘の神様じゃな』

「神様かー。人の身体を持たないってことかなー?」

『コトノ主は超常の力を持つ人外の存在。その()り方は生物というよりは現象に近い。とはいえ、人に接する時は人の姿をとることはある。美しい女性の姿じゃよ』

「流れ変わったな」

「それは是非お会いしたいですね」

セルシアとクリスのテンションが目に見えて上がる。サンリアは呆れていたが、レオンだって美しい女性と聞けば見てみたいな、くらいには思うものだ。しかし、はしゃぐとサンリアに色ボケ二人組の同類扱いされかねないので黙っていた。


「おや、滝が見えてきましたよ」

「サンリアの出番か?」

「ええー、人数増えてきたから嫌だなぁ…。そんなに急じゃないから、先に行ってロープ張ってくれる人がいたら、それ伝って登れないかしら」

「じゃー俺の出番だな!」

クリスがずずいと前に出る。プラズマイドは両剣の形をしており、(つか)の部分が使い手の意思で自在に伸びる。腰にロープを(くく)り付け、片刃を地面に突き刺すと、クリスはずんずん昇っていった。

「バランス悪そう、気をつけろよ!」

レオンが見上げながら声を掛ける。

「大丈夫大丈夫ー、よっと!」

崖の上に到着したらしく、クリスは軽くプラズマイドを蹴って着地した。

「うわっ馬鹿馬鹿馬鹿!」

「こっちに倒れてきますよ!」

「もう、仕方ないわね…」

サンリアが風でプラズマイドを崖側に押し戻す。

「いやーごめんごめん、そりゃそうだよな!次から気をつけるよー」

ロープを辿(たど)って後から登ってきた三人に、プラズマイドを元の長さに戻したクリスはヘラヘラと謝った。

「軽く言うけど私がいなかったら…、わ、これってもしかして湖?」

サンリアが注意しようとして、目の前の光景に息を()む。

森が開けて、美しく銀色に輝く湖が広がっていた。

「そうみたいだねー!これが水の剣の世界かなー?」

『ううむ…?場所はワシの記憶とは違うが…分からん。コトノ主の名前を出してみるのが早いやもしれぬな』

「それじゃ、ちょっと人を探してみましょうか」


水の都は湖の(ほとり)を埋め立てた様に人工的な形状をしていた。最奥、湖に一番せり出した所には、大きな工場の様な建物が見える。黒煙が濛々(もうもう)と上がり、神様の都どころか、かなり人間臭い都だ。

「何だか、ちょっと怖い所ね」

「水の都という呼び方から想起できる美しい街並みではないかもしれませんね。でも僕は想像を裏切られる方が好きです」

「あれ何の煙かなー?化学工場でもあるんだろうか」

「製鉄所かもよ、俺社会見学で見た事ある」

「なるほど、水の都に必要な物…ステンレスか」

クリスはやっぱり意外と地頭が良いのかもしれないな、とレオンは感心して隣の大男を見上げた。

「左様ですわ、ようこそ皆様鋼色(はがねいろ)の街ギレへ。コトノ主様がお待ちでいらっしゃいます」

何気なく近付いてきた女性が突然一行に声を掛けてきたので、皆は顔を見合わせた。女性は気にせず続ける。

「私、この度案内役を(たまわ)りましたユットと申します。水獣(すいじゅう)ランザーにて街をご覧頂きつつ参りますので、まずは船着場までご同行下さいませ」


船着場で待機している水獣ランザーは、トカゲのような顔に犬の耳、エラなのか(ひげ)なのか分からない豊かな横髪、魚の胴体を持つ巨大な生物だった。カバの様に顔と背中が水上に出ている。

「顔がちょっと怖いわね…」

「そうか?サンリアは爬虫類(はちゅうるい)苦手なのか?これがカッコいいんだぞ」

「面白い生き物ですねぇ、何を食べてこんなに大きくなるんだろう」

「そうだな、あんなに美人だったら彼氏くらいいるかもな」

「「「は?」」」

クリスが全く頓珍漢(とんちんかん)なことを言い出したので、他の三人は思わずシンクロした。

「え?あ、ああごめん、考えてたこと喋っちゃった」

「ユットさんのことです?」

「そうそう、ボブカットバリキャリ系美女、良いよね」

「はぇー…ああいうのはそう表現するのか…」

レオンは素直にクリスに感心した。レオンのボキャブラリーでは、カッコいい、かわいい、美人、賢そう、優しそう、いっぱい食べそう、くらいしか女性に対する形容詞が無いのだった。最後のは()め言葉じゃないな?

クリスは先行するユットに近寄った。

「ねぇねぇユットさん、ぶっちゃけ彼氏とかいるのー?」

「えっ…?えと、はい、学者志望の方とお付き合いしております」

「そっかー!いいねー、俺もユットさんみたいな素敵な女性に早く出会いたいなー」

「ええと…ありがとう、ございます」

「ううん!お邪魔してごめんね!ランザーに乗るにはあっちから?」

「あ…はい、そちらから階段を昇って頂いて、桟橋(さんばし)から背中にお移りください」

クリスは階段の手前で立ち止まり、レオン達が追い付くのを待った。

「残念でしたね、クリス君」

「ほら、俺って優しいから、他人のを奪ったりはしないんだよ」

「案外口説き下手だったりして?」

「そりゃセルには叶わないけどね?老若男女(ろうにゃくなんにょ)からモテるから、俺」

(ろう)(なん)も口説くのか?」

「レオンくーん。()(あし)取りはモテないぞー」


ユットは全員乗ったことを確認すると、ランザーの頭に乗って右耳に触れた。すると、ランザーは水の上を(すべ)る様に進んだ。中々のスピードだ。

「ランザーはコトノ主様が水から造られた魔法生命体です。ですので、何も食べることはありませんし、運搬(うんぱん)の加護により決して乗員や貨物を振り落とすことはありません。スピードが出ているように感じられると思いますが、安全ですのでごゆっくりお(くつろ)ぎ下さい」

「へー、ランザー生き物じゃないのか」

「水で出来てるのに濡れない。不思議ですね」

「ユットさん、ランザーっていっぱいいるのー?」

「いえ、この子は普段は一頭だけの特別な存在です。ですが、動きを同期した自身を複製することはできるようです。私達宮勤(みやづと)めは毎朝、乗合(のりあい)ランザーで宮殿まで出勤してるんですよ」

「魔法生命体っていうのがもう初めて聞く存在だから、全然想像がつかないわ…」

「水は生命にとても近い物質です。空気や土から作るよりも簡単ですよ」

「そう言うってことは、ユットさんも作れるのかしら?」

「魔力次第、ですね。私は作れて子犬サイズなんです…」

「ええっ可愛いじゃない、子犬!良いなー(うらや)ましいな…」

珍しくサンリアが年相応の少女のようにはしゃいでいるので、レオンは微笑(ほほえ)ましく眺めていた。


「間もなく到着です」

ユットが言うと、いきなり水路が開け、広大な湖の中に出た。中央にはあの大きな工場が建っている。鋼色のそれは、太陽からの光を受け、無骨(ぶこつ)な光沢を出していた。とても神様が住んでいそうな場所には見えなかったが、大小様々な穴から滝の様に水が落ちていく様は、何故か美しかった。

と、いきなり水中から二本の巨大な(とげ)がせり上がってきた。

レオンとサンリアは思わず声を上げた。セルシアとクリスも目を丸くしている。

「大丈夫ですよ、コトノ主様の歓迎のおしるしです」

ユットはさらりと言った。確かに、棘は次々と出てくるが、どれもランザーには当たらない。むしろ一行を誘導するかの様に列を成している。ランザーはその間を(おく)することなく進んだ。

建物まであと十数メートル、というところで、水門が開いたのか、壁の一部が取り払われた。その向こうもやはり水が溜まっていたが、中から明るい光が(あふ)れてくる。ランザーは速度を落とし、ゆっくりと中に入ってゆく。ランザーの尾の先まで中に入り切ると、入口は何も無かったかの様にまた壁になった。

中は水路が幾重(いくえ)にも連なり、工場、或いは子供の遊び場の様な感がある。ランザーは水路の端、昇降所と(おぼ)しき桟橋に寄り添う様に停まった。

「お疲れ様でした、お降り下さいませ。再度私に付いていらして下さい」

ユットがそう言って最初に降りる。サンリア、クリスと続く。殿(しんがり)のレオンとセルシアは、ランザーが沈みながらするりと水に(ほど)けるように還ったのを目撃し、目を丸くした。

ユットが案内したのは、一見何もないスペースだった。黄色と黒の(しま)テープで床が四角に囲われている。

「昇降板が上から参ります、ご注意下さい」

声をかけられて見上げると、頭上からゴンゴンゴンと音を立てて、分厚い鋼鉄板がゆっくり降りてきた。レオンの住んでいたアパートの自室くらいの広さがあるが、その板を吊り降ろすロープも支柱も無い。どうやって動いているのか、レオンには皆目見当もつかなかった。

「お乗り下さい。上でコトノ主様がお迎え致します」

言われて何も気にせずスッと足を出したのはハイテク慣れしているクリス。次にサンリアが緊張した面持ちで昇降板に乗ると、レオンとセルシアも意を決して乗り込んだ。

「武器は預けなくてもいいのですか?」

「その必要はございません。主は、()れませんので」

そう言うとユットは、自分は乗らずに角のスイッチを踏んだ。またゴン…と音を立てて、昇降板は動き始めた。





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