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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
三全音
29/105

外つ国の刺客

未来都市トニトルスで開催される武闘会。遊び過ぎてピンチに陥っていたセルシアもなんとか無事に帰ってきて、いよいよ大会の当日を迎える!

シミュレーションで見ていた通り、闘技フィールドはぐるりと外壁に取り囲まれた、(さえぎ)るものの無い広い円形の砂地だった。歓声が聞こえるので観客は壁の外側にいるのだろうが、姿は中からは見えない。(ある)いは生身の人間など一人も集まっておらず、声だけが会場に届けられているのかもしれない。

唯一、壁が切れている様に見える所が、雷様の玉座の様だった。初戦からずっと身じろぎもせず衣ひとつ揺らさず座し続けるその様は、なるほどお世辞にも人間らしいとは言えなかった。


レオンは序盤(じょばん)、光の剣の力を使って無双した。知覚妨害が無いと(あなど)っている者の視力を奪うと、いとも容易(たやす)(すき)だらけになった。

敵にどう打ち込むか、シミュレーションはこの一週間色々と試しておいたが、相手はそもそも目が見えなくなった時点で降参(こうさん)を選んだ。

これじゃ練習にならないと気付いたので、途中から、危なくなったら視力を奪う戦法に切り替えた。追い込まれた時に剣の力を引き出せるかどうかも大切だったし、これは良い訓練になった。実際の試合を訓練気分でこなすのは、本気で参戦している相手に申し訳無いなとは思ったが、まあセルシア並に耳を(きた)えていない奴が悪いんだしな、とズルい結論に至った。


「中々どうして、善戦(ぜんせん)してますね」

レオンが第六試合を勝利して、瑪瑙(めのう)宮からパージされた特別控室に戻ると、セルシアがニコニコしていた。

「まあな、視力を奪ってるのがバレて完全にヒールになっちゃったけど」

「観客なんてどうでもいいですよ。対策してこない人が悪いんです」

「セルシアと決勝まで当たらない組み合わせで本当に良かったよ!」

「ま、実際決勝まで来たらね。お望み通りボコボコにして差し上げます」

そう言うセルシアは、今のところ妨害などせずに真っ当な斬り合いで勝利し続けていた。急所を的確に狙うため(はげ)しい返り血を()び続け、(くれない)貴公子(きこうし)などという通り名を付けられ、既に大人気になっている。

「次勝ったらもう準決勝か。相手は…あー、多分クリスかな」

「クリス君、ヤバいですよ。めちゃくちゃ(はや)いです。リノちゃんも同じくらい。勝ちたいならなりふり構わず、最初から切り札を全て使っていくことです」

「あれ、なんの仕掛けであんなに早く動けるんだ?」

二人は控室のモニタで他の試合の中継を眺めていた。

「僕には見当もつきません…リノちゃんと僕が準決勝で当たるんですよね。先にクリス君とレオン君の試合になるだろうから、種明かしは頼みました」

「うわー、嫌だな…まあでもまずは、次の試合に勝ってからだな」

「そうですね、お互い頑張りましょう」



準々決勝、第一試合。

近衛(このえ)騎士の(ゆう)ワーグ・ナユグ対、()(くに)刺客(しかく)レオン。

「雷様の権能を上回る驚異の術使いレオンよ。其方の術はしかし、私には通用せぬ。心してかかるがよい!」

ワーグは試合開始早々、大音声でレオンを牽制(けんせい)した。観客は待ってましたとばかりにうおおおお、と盛り上がる。

「そうか、もう対策されたかー。無駄なことをお疲れ様」

レオンはわざと小声で反応した。視力を奪うやり方を続けていると、そのうち対策されるだろうことはさすがに予測できていた。

対策方法は二つ。他者の視力を借りるか、視力以外の方法で知覚するか、だ。

セルシアなどは後者のプロで、決定的に相性が悪い。ただ、前者ならば…

レオンは相手の反応を見た。レオンの小声は聞こえていないらしい。つまり、前者だ。観客の中に、彼の視覚を手助けする〈目〉が他にもあるのだろう。


それならば、勝てる。


レオンはグラードシャインに魔力を通し、〈それ〉をいつでも発動出来るように構えておいた。

筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)のワーグが大斧を振り回す。空気が音を立てて切り裂かれる。あんな質量兵器にかすりでもしたら、頭など吹っ飛んでしまいそうだ。レオンは医療モジュールの限界に挑戦するつもりは無かった。

視野を奪う。相手は動じない。レオンが右に動くと、相手の髭面(ひげづら)追従(ついじゅう)してくる。やはり、〈見て〉いる。

(なるほどね)

レオンは剣を構え、駆け出した。ワーグはしっかりと彼を見据(みす)え、斧を振り下ろさんと右肩に振り上げる。と、にわかに少年が跳躍(ちょうやく)した。

「なぬぅ!?」

彼の背丈(せたけ)を越えて跳び上がった少年から、剣が振り下ろされる。ワーグは冷静に斧を上段に構え直しそれを受ける構えを見せた。


ワーグの(のど)が突然裂けた。


「ガッ…!!?」


跳び上がったはずの少年は掻き消え、ワーグはそのまま仰向(あおむ)けにどうと倒れる。

彼の喉に、白く輝く剣が突き刺さっている。

少年は、ゆっくりとその剣を抜いた。動脈も気道も切れていたのか、血と共に泡がボコボコと噴き出る。そしてすぐに傷口が閉じていく様を、少年はまじまじと見つめていた。

勝者、レオン!のファンファーレと共に会場が湧き上がる。視野を奪うなんて姑息(こそく)な戦術ではない、文字通りの(はな)(わざ)を目撃したのだ。

「ぐ、ゴボッ……ひー、い、今のは…魔法、か?…」

喉が修復され、ワーグが仰向けのままレオンに問い掛ける。


「今のは俺の国の秘術(ひじゅつ)でね。影分身(かげぶんしん)って言うのさ」





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